微生物学

微生物学 · 1/27

内毒素:性状と作用機序

Endotoxin: characterisation, mode of action

応用トピック
外科感染症と抗菌薬の役割
微生物
Porphyromonas gingivalis

🧠 内毒素は「分泌される毒」ではなく「菌体そのものの一部」であり、少量なら免疫を目覚めさせる警報装置だが、大量なら免疫系を暴走させて宿主を殺す。 を介してほぼすべての免疫経路と凝固系を同時に起動してしまう点が、内毒素を「最強の免疫刺激物質の1つ」たらしめている。

内毒素とは

内毒素は外毒素と異なり、細胞から分泌される蛋白質ではなく、生きた細菌の外膜から常に脱落している、あるいは時に放出される、外膜の正常な構成成分である。

内毒素は常にグラム陰性菌に付随し、細胞壁外膜の構成成分として存在する。は、細菌の増殖・生存に必須な外膜機能の多くを担っており、特に宿主-病原体相互作用の文脈で重要な役割を果たす。

LPSの構造——共有結合した3つの構成要素

構成要素 内容
外側の(O特異的側鎖, O-specific side chain) 単位からなる。として働く()
O特異的側鎖と脂質Aをつなぐ分
リピドA(lipid A) 複数の脂肪酸鎖を持つ。ヒトに対して毒性を持ち、これ自体が「グラム陰性菌の内毒素」と呼ばれる本体である

⚠️ 「グラム陰性菌なら内毒素の強さは同じ」ではない。毒性はリピドAの構造で桁違いに変わる。 ヒトのTLR4-MD-2が最も強く反応するのは6本の脂肪酸鎖(ヘキサアシル)と2個のを持つE. coli型のリピドAで、アシル鎖の数・長さ・の修飾が変わると刺激活性は大きく落ちる1。グラム陰性菌はこのリピドAをすることで免疫の監視をかいくぐる2。

菌 リピドAの特徴 意味
Escherichia coli・Salmonella ヘキサアシル型 TLR4刺激活性が最も強い「標準」
Helicobacter pylori・Porphyromonas gingivalis 低アシル化・された弱い活性のリピドA 粘膜に長期定着するのに、強い炎症を起こしにくい
Yersinia pestis 温度依存的に変化する——媒介するノミの体温(26℃前後)ではヘキサアシル型だが、の体温(37℃)では刺激活性の弱い型を作る ヒト体内では警報が鳴らないまま増殖できる

💡 Yersinia pestisのリピドA変化は、が病原性そのものであることの実験的証明になっている。 37℃でも強いTLR4刺激性LPSを作るよう改変したは、高用量を皮下接種してもまったく病原性を示さなくなった——他の機構(V抗原・など)を残したままでもである3。この抵抗にはTLR4・MD-2・MyD88が必要だった。「毒素が強いから病気になる」のではなく「警報を鳴らさせないから病気になる」という、内毒素の直感に反する側面である。

作用機序

LPSに含まれる分子パターン(PAMP, pathogen-associated molecular pattern、)はをはじめとする分子に結合し、サイトカイン(IL-1、IL-8、)の産生を刺激する。

  • 少量では正常な免疫刺激として働き、炎症を引き起こして細菌を隔離・排除する
  • しかし、宿主の反応が過剰になると、全身に強力な作用を及ぼし、生命を脅かすこともある

内毒素であるLPSは、ほぼすべての免疫機構に加えて凝固経路まで活性化するため、最も強力な免疫刺激物質の1つとされる。

💡 LPSを受け取るのはTLR4単独ではなく、TLR4とMD-2の複合体である。 リピドAの6本の脂質鎖のうち5本がMD-2の疎水性ポケットに深く埋まり、残る1本が表面に露出してTLR4とを作る。これによって2組のTLR4-MD-2-LPS複合体がm字型にし、このそのものが細胞内へのシグナル開始になる1。アシル鎖が4本しかないリピドA類似体はポケットには入るがを起こせず、拮抗薬として働く——リピドAの構造差が毒性差になる分子的な理由がここにある。血中ではLBP(LPS)とCD14がLPSをMD-2まで運ぶ。

⚠️ TLR4を介さない、もう1つのLPS認識経路がある——細胞質内LPSの直接認識と。 細菌が細胞内に入る、あるいは外膜小胞(OMV)に載ってLPSが細胞質に届くと、ヒトのカスパーゼ4・カスパーゼ5(マウスでは1)がCARDドメインでLPS・リピドAに直接結合する。結合したカスパーゼはして活性化し、ガスダーミンDを切断して細胞膜に孔を開ける(炎症性の細胞死)を起こす4。この経路は受容体を介さずカスパーゼ自身が受容体として働く点で異例であり、マウスでは内毒素ショックの成立に決定的だった。「LPSはTLR4に結合して炎症を起こす」だけでは説明が半分——膜表面のTLR4-MD-2と、細胞質のカスパーゼ4/5/11という2系統がある。

flowchart TD
    A["LPS (内毒素)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Toll-like receptor'>Toll様受容体</span> (TLR) に結合"]
    B --> C["マクロファージ活性化<br>サイトカイン放出 (<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tumor necrosis factor-alpha'>TNF-α</span>, IL-1, IL-8)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased vascular permeability'>血管透過性亢進</span>"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='complement activation'>補体活性化</span> (C3a, C5a)"]
    C --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coagulation cascade'>凝固カスケード</span>活性化"]
    D --> G["低血圧・ショック"]
    E --> G
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='disseminated intravascular coagulation'>DIC</span>・血栓症"]
    C --> I["発熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute-phase'>急性期蛋白</span>産生"]
    C --> J["低血糖 (肝臓を介して)"]
    G --> K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='septic shock'>敗血症性ショック</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='multiple organ failure (MOF)'>多臓器不全</span>・死"]
    H --> K

内毒素の影響

  • 発熱・ショック・低血圧・血栓症——これらをまとめて敗血症性ショックと呼ぶ
  • これらの作用は、マクロファージの活性化、サイトカインの放出、補体の活性化、の活性化を介して間接的に生じる
  • 死に至る場合、が原因となる

内毒素による毒性の一覧

⚠️ 抗菌薬治療により大量のグラム陰性菌が急速に死滅すると、大量のLPSが一気に血中に放出され、宿主のサイトカイン反応を一過性に悪化させうる。 ただしそのものはLPSを持たないスピロヘータ(梅毒・ライム病・)で典型的に起こる現象であり、機序はを中心とするサイトカイン放出である。LPS放出はこの「菌体成分の急激な放出に宿主が過剰反応する」枠組みの一例にすぎない(詳細はを参照)。

💡 内毒素は「熱で壊れない」ので、しても残る——だから注射薬・輸液・には内毒素の検出試験が要る。 オートクレーブでグラム陰性菌を殺してもLPSは分解されず、投与すれば発熱を起こす(=パイロジェン)。検出にはLAL試験(Limulus amoebocyte lysate、血球抽出成分がLPSに触れるとゲル化・発色する反応)が長く使われ、近年は動物資源に依存しない遺伝子組換えファクターC(rFC)法への置き換えが進んでいる。培養では分からないこと——LAL試験が見ているのはLPSの存在であって、生きた菌がいるかどうかではない。

内毒素と外毒素——比較のまとめ

特徴 内毒素 外毒素
化学的性質 。毒性本体はリピドA ポリペプチド(蛋白質)
産生菌 グラム陰性菌のみ(外膜構成成分) グラム陽性・陰性菌両方(分泌される)
放出様式 生菌からの脱落、または時に放出(ではない) 増殖中の生菌から能動的に分泌される
比較的が高い 一般に(熱・酸・で失活)
弱い 強い
毒性の強さ 比較的弱い(大量を要する) 非常に強い(極めて低濃度で活性を示す)
化 不可能 可能(ワクチンに応用できる)
作用の特異性 非特異的(発熱・ショック・など全身性) 高い特異性(特定の受容体・基質、/など)
代表例 大腸菌・髄膜炎菌・などグラム陰性菌のLPS 、、、、TSST-1 など

(詳細な各毒素の解説は外毒素を参照)

まとめ

  • 内毒素は分泌毒ではなく、グラム陰性菌外膜の構成成分そのものであり、O特異的側鎖・・リピドA(毒性本体)の3部構造を持つ。
  • PAMPとしてTLR4-MD-2複合体に結合し(LPSの結合が受容体をm字型にさせる)、サイトカイン放出・・凝固系活性化を同時に引き起こす。
  • 細胞質に入ったLPSは、カスパーゼ4/5/11がCARDドメインで直接結合して認識し、を起こす——TLR4を介さない第2の経路である。
  • 毒性の強さはリピドAの構造で決まる。H. pylori・P. gingivalisは弱い活性のリピドAを持ち、Y. pestisは37℃で刺激活性の弱い型に切り替えることでする(強い型を作らせると病原性を失う)。
  • 少量では防御的な炎症反応にとどまるが、過剰な反応は発熱・低血圧・・ショック・というに至る。
  • 抗菌薬による急激な菌死滅は大量の内毒素放出を招き、として症状を一過性に悪化させることがある。
  • 内毒素と外毒素は化学的性質・・・毒性の強さ・化の可否など、ほぼすべての点で対照的である。

出典

  1. 1.The structural basis of lipopolysaccharide recognition by the TLR4-MD-2 complex(Nature・2009)LPSを認識するのはTLR4単独ではなくTLR4とMD-2のヘテロ二量体であり、結晶構造ではLPSがMD-2の大きな疎水性ポケットに結合する。LPSの6本の脂質鎖のうち5本がポケット内部に埋もれ、残り1本がMD-2表面に露出してTLR4の保存フェニルアラニンと疎水性相互作用を作ることで、2組のTLR4-MD-2-LPS複合体がm字型の多量体を形成して受容体が活性化される。四アシル化拮抗体はこの多量体化を起こさない。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Fortifying the barrier: the impact of lipid A remodelling on bacterial pathogenesis(Nature Reviews Microbiology・2013)グラム陰性菌はLPS、とりわけ宿主の認識に決定的なリピドA部分を化学修飾することで免疫監視から身を隠し宿主防御に抵抗する。リピドA修飾の制御機構と、それが病原性・細菌生理・宿主免疫との相互作用に及ぼす影響を整理した総説。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Virulence factors of Yersinia pestis are overcome by a strong lipopolysaccharide response(Nature Immunology・2006)ペスト菌Yersinia pestisは哺乳類の体温ではTLR4刺激活性の弱いリピドAを合成する。TLR4を強く刺激するLPSを作るよう改変した株は、高用量の皮下接種でも完全に病原性を失い、この抵抗にはTLR4・MyD88・MD-2が必要であった。他の免疫回避機構を持っていてもLPS誘導性の炎症反応を逃れられなければ全身感染を起こせないことを示す。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Inflammatory caspases are innate immune receptors for intracellular LPS(Nature・2014)ヒトのカスパーゼ4・カスパーゼ5とマウスのカスパーゼ11がCARDドメインを介してLPSおよびリピドAに高い特異性と親和性で直接結合し、結合によって多量体化・活性化してパイロトーシスを起こす。細胞質のLPSを感知するこの経路はTLR4を介さない第2の認識様式であり、マウスでは内毒素ショックに決定的である。低アシル化リピドIVaやRhodobacter sphaeroidesのLPSは結合はするが多量体化・活性化を起こさない。閲覧 2026-08-26