Medical Microbiology

Medical Microbiology · 2/25

ガス壊疽クロストリジウム

Gas-gangrene clostridia

応用トピック
軟部組織感染症と陰圧閉鎖療法

🧠 菌は「酸素を締め出す壊死組織を自分で作り出す」菌として読む。 芽胞はでしか発芽できないが、いったん発芽するとが細胞膜を破壊して血球・血管内皮を壊死させる——これがさらに酸素の乏しい壊死組織を広げ、菌にとって好都合なを自己増幅させる悪循環を生む。「毒素産生→組織破壊→さらに→さらに増殖」という正のフィードバックこそがが急速に進行する理由であり、が治療の要となる根拠でもある。

Clostridium属の共通性状

Clostridium属(破傷風菌菌を含む)に共通する性質は以下の3点であり、本ノート以降の破傷風菌・C. difficileでも繰り返し前提となる。

  • ——酸素存在下では発育できない
  • ——土壌・環境中で長期生存する芽胞を作り、(創傷内の壊死組織など)で発芽して毒素を産生する
  • 病原性の中心は外毒素による——菌体そのものの侵襲性よりも、産生する毒素の種類が臨床像を決定する

💡 なぜ嫌気性菌が「創傷感染」を起こすのか。 Clostridium属の芽胞は皮膚常在菌ではなく土壌・埃に由来する。外傷(創、汚染創)で組織の血流が途絶えが下がると、芽胞が発芽できるな微小環境が生まれる——だからこそ「深い創」「壊死組織の残存」がClostridium感染の共通リスク因子になる。

Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 (短く太い形態)
生息地 土壌——ヒトのの一員でもある
発育条件
芽胞 卵形の芽胞が菌体中央よりやや端寄り(subterminal)に位置
莢膜 あり
ガス産生 CO₂、H₂S、CH₄を産生(の「ガス」の由来)
侵襲酵素 DNA分解酵素、リパーゼ、プロテアーゼ——組織への侵入を助ける

病原性因子:毒素

毒素 機序 効果
(α-toxin、 細胞膜のを分解 赤血球・血小板・白血球・を傷害→大量溶血・組織破壊・肝毒性
壊死誘導活性 摂食された場合、腸管に作用(の原因)
(ε-toxin、 腸管内で産生 消化管のを亢進
(ι-toxin) 壊死誘導活性 消化管の+壊死
flowchart TD
  A["創傷(土壌・便で汚染)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic'>嫌気条件</span>下で芽胞が発芽<br>(潜伏1〜3日)"]
  B --> C["栄養型菌が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alpha toxin'>アルファ毒素</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lecithinase'>レシチナーゼ</span>)を産生"]
  C --> D["細胞<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membrane phospholipid'>膜リン脂質</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='bilayer'>二重層</span>を破壊"]
  D --> E["赤血球・血小板・白血球・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial cell'>血管内皮細胞</span>の傷害"]
  E --> F["大量溶血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue necrosis'>組織壊死</span>・肝毒性"]
  F --> G["壊死組織が広がりさらに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anaerobic'>嫌気的</span>環境に<br>(正のフィードバック)"]

臨床像

筋壊死)

  • 土壌または糞便で汚染された創傷から発症
  • 急性・増悪する創部痛、(ガスによる浮腫で)した組織、壊死
  • 全身症状:発熱、頻脈、発汗過多、蒼白(急速に進行)

(A型菌による

C. perfringensは食肉・鶏肉の代表的な汚染菌である。により調理時の加熱に耐えて生存し、食品の冷却過程で発芽、16〜52℃で保存されると栄養型が増殖する。十分な再加熱なしに供されると生きた栄養型菌が摂食され、腸管内でを産生する。

  • 再加熱不十分な肉料理から、芽胞が摂食され高濃度に増殖
  • 潜伏期は8〜24時間とやや長い(芽胞が発芽するまでの時間)
  • 腸管内での産生により自然軽快する非炎症性の水様性下痢(発症後約24時間で軽快)
  • 診断:糞便検体からの検出/原因食品1gあたり10⁵個以上の、または発症者便から10⁶個/g以上の培養

(Necrotizing enteritis、C型菌による

  • 潜伏期8〜12時間、主に豚肉が汚染源
  • 空腸の壊死性病変、血性下痢、腹膜炎、ショック——致死率が高い
  • 診断:糞便検体からの

診断

検査 所見
血液寒天培地 α・β溶血のが特徴的
検体 膿、壊死組織、血液
血清を含む——活性の有無で判定

治療・予防

  • 迅速な(壊死組織の除去)
  • (静注、高用量)
  • 切断術または
  • 予防:創傷の適切な外科的管理によりの形成を防ぐ

その他のガス壊疽関連クロストリジウム属

菌種 特徴 毒素・臨床像
Clostridium novyi を持ち運動性あり。A・B(病原性)・C()の3型に分類 α・β・δ・ε毒素(溶血性・壊死性)、・リパーゼ産生。を起こす
Clostridium septicum を持ち運動性あり。との関連が知られる α毒素(壊死性・溶血性)。血液培養で診断。を起こす
Clostridium histolyticum 他の細菌とのとしてに関与することが多い
Clostridium sordellii 婦人科感染症との関連が最多 菌血症、敗血症、重症のを起こしうる

まとめ

  • Clostridium属はグラム陽性・の総称で、病原性は菌体そのものより産生する外毒素の種類で決まる——この3性質は破傷風菌・・C. difficileにも共通する。
  • C. perfringensは)により細胞膜を破壊し、(急速進行する筋壊死+ガス産生)を起こす。診断は血液寒天培地のでの活性。
  • C. perfringensは(A型、短い潜伏期、自然軽快する水様性下痢)と(C型、、高致死率)というが異なる2つの消化管疾患も起こす。
  • 治療の要は迅速な高用量——を除去しない限り薬物療法だけでは制御できない。
  • 他の関連クロストリジウム(C. novyi、C. septicum、C. histolyticum、C. sordellii)はそれぞれ・婦人科感染という特徴的な臨床像を持つ。