病理学

病理学 · C/99

由来不明の軟部腫瘍

Soft tissue tumors of uncertain origin

疾患
滑膜肉腫胞巣状軟部肉腫

🧠 全体像:とはいずれも分類で「分化方向不明の腫瘍」の悪性群に置かれる腫瘍で1、特徴的な(それぞれSS18::SSX、ASPSCR1::TFE3)で診断が確定する点、そして転移パターン(は診断時にすでに肺などへ転移していることが多く、肉腫としては脳転移が目立つ)が試験で問われやすい。

滑膜肉腫

概要

  • 由来不明の悪性腫瘍(名称に反し滑膜由来ではない)。
  • 体のどこにでも発生しうる、通常は付近や四肢(膝、大腿)。
  • 若年成人(20〜40歳)。

発生機序

  • t(X;18) → 18番染色体のSS18(旧名SYT)遺伝子とX染色体のSSX1・SSX2(まれにSSX4)遺伝子の融合(SS18::SSX)2。
  • が疑われた131例の検討では、で126例(96%)にが検出され(SS18::SSX1が74例、SS18::SSX2が52例)、分子検査の組み合わせは感度96%以上・特異度100%の診断補助となった2。
  • → 異常な転写因子活性。

組織像

  • 3つのパターン:
    • :束状に配列した()— 最多。
    • :+腺様上皮構造。
    • :高度に細胞性の円形細胞。
  • 肥満細胞がよくみられる。
  • IHC:陽性、EMA陽性、TLE1陽性。

臨床像

  • 通常は無症状 — 緩徐増大するしこり、または関節付近では関節炎様症状で発症しうる。
  • しばしばやとされる。
  • 肺+骨へ転移。
  • 治療:外科的切除+放射線±化学療法。

胞巣状軟部肉腫

概要

  • 稀な悪性腫瘍、通常は成人。
  • (大腿、、小児では頭頸部)の緩徐増大腫瘤。

発生機序

  • t(X;17)転座 → ASPSCR1::TFE3融合遺伝子。

臨床像

  • 診断時にすでに転移していることが多い——単施設74例の解析では、初診時の65%が病期IV(遠隔転移あり)であった3。転移先は肺が主で、骨・脳にも転移する。
  • 脳転移は肉腫としては目立つ特徴で、「脳への早期転移が初発症状になる」と説明されることもある。ただし同じ解析では、病期IVの48例中9例(19%)に脳転移を認めたものの、いずれも他部位への転移を伴う播種の一部であり、著者らは全例ではなく選択的な検査を提案している3。
  • 局所は緩徐増殖で、限局例(22例)のは87%と比較的良好だが、病期IV症例の生存期間中央値は40か月・5年生存率は20%であった3。
  • 治療:手術+放射線が基本だが。・転移例ではに加え、がで52例中19例(37%)に(中央値24.7か月)を示し、この試験をもとに米国が2022年12月に成人と2歳以上の小児の・転移性ASPSに承認した4。日本でも「な」が効能に掲げられている(成人と2歳以上の小児。他の抗悪性腫瘍剤との併用は有効性・安全性が確立していない)5。一方、の製品情報ではASPSは適応に含まれていない6。

形態

  • 薄いで分けられた細胞の特徴的な胞巣パターン。
  • +明瞭な核小体。
  • 明るい・の質。
  • 細胞質内の(桿状・菱形)。
  • IHC:TFE3陽性(核)。

比較表

特徴
由来 不明(滑膜ではない) 不明
年齢 20〜40歳 若年成人
部位 付近+四肢(膝/大腿) (大腿、小児の頭頸部)
遺伝 t(X;18) SS18::SSX t(X;17) ASPSCR1::TFE3
組織像 単相/二相の紡錘±腺、肥満細胞 胞巣状巣、明るい細胞質、結晶
転移 肺+骨 診断時に転移していることが多い:肺(主)、骨、脳(他部位転移に伴う)
治療 手術+放射線 手術、、・(:米国・日本で承認、は適応外)

💡 軟部腫瘍の診断はに加え、免疫染色・(融合遺伝子検出)を統合して行われる。 現行の分類はこの3者を統合しており、免疫染色マーカーは感度が高い一方で特異度は限られるため形態との併せた解釈が必要である7。

💡 ポイント: = 由来不明(滑膜ではない!)、若年成人(20〜40歳)、+四肢付近、t(X;18) → SS18::SSX融合、(紡錘)と(紡錘+腺)パターン、陽性+TLE1陽性、肥満細胞が多い、肺/。 = 稀、、t(X;17) → ASPSCR1::TFE3融合、明るい細胞質+結晶を伴う胞巣状パターン、診断時に転移(肺が主)していることが多く、肉腫としては脳転移が目立つ(ただし脳転移は他部位転移に伴う)、TFE3陽性、でなどが新たな肢。

まとめ

  • は名称に反し滑膜由来ではない由来不明の悪性腫瘍で、若年成人の付近・四肢に好発し、t(X;18) SS18::SSX融合が特徴。
  • の組織像は(、最多)・(+腺様上皮)・に分かれ、TLE1陽性が診断の手がかり。
  • はt(X;17) ASPSCR1::TFE3融合による稀な悪性腫瘍で、を伴う胞巣状パターンが特徴。
  • は局所増殖が緩徐でも診断時にすでに肺などへ転移していることが多く、脳転移も他の肉腫より目立つが、脳転移は通常ほかの部位の転移に伴って生じる。転移例の長期予後は不良である。
  • はのため、・転移例ではに加え、(米国で2022年12月承認、日本でも効能あり、では適応外)などのが治療の選択肢になる。

出典

  1. 1.The 2020 WHO Classification of Soft Tissue Tumours: news and perspectives(Pathologica・2021)全文(PMC8167394)で、2020年WHO軟部腫瘍分類の「分化方向不明の腫瘍」の表(Table XI)が悪性群に滑膜肉腫と胞巣状軟部肉腫を含めていることを確認した閲覧 2026-09-24
  2. 2.Detection of SS18-SSX fusion transcripts in formalin-fixed paraffin-embedded neoplasms: analysis of conventional RT-PCR, qRT-PCR and dual color FISH as diagnostic tools for synovial sarcoma(Modern Pathology・2007)滑膜肉腫が原発診断または鑑別上位であった134例(うち131例で解析可能)のうち126例(96%)でSS18-SSX融合転写産物(SS18-SSX1が74例、SS18-SSX2が52例)がRT-PCRで検出され、SS18再構成はFISHで101例中87例(86%)に確認されたこと、分子学的手法の組み合わせが少なくとも96%の感度・100%の特異度をもつ強力な診断補助となることを確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Alveolar soft part sarcoma: clinical course and patterns of metastasis in 70 patients treated at a single institution(Cancer・2001)抄録で、胞巣状軟部肉腫74例の単施設後方視的解析(1959〜1998年)で、初診時の病期はII/IIIが35%・IV(M1)が65%であったこと、病期IVで診断された48例中9例(19%)に脳転移を認めたがいずれも他部位への転移を伴う播種性病態の一部として生じ、著者らは全例ではなく選択的な頭蓋内画像検査を提案したこと、M1症例の生存期間中央値が40か月・5年生存率が20%であったこと、限局例(22例)の5年局所無再発生存率88%・遠隔無再発生存率84%・全生存率87%であったことを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Atezolizumab for Advanced Alveolar Soft Part Sarcoma(The New England Journal of Medicine・2023)進行胞巣状軟部肉腫の成人・小児52例を対象にした単群第2相試験で、抗PD-L1抗体アテゾリズマブ単剤により19例(37%)に奏効(完全奏効1例・部分奏効18例)を認め、奏効持続期間中央値24.7か月・無増悪生存期間中央値20.8か月であったこと、この結果を受け米国FDAが2022年12月に2歳以上の切除不能・転移性ASPSに対しアテゾリズマブを承認したことを確認した閲覧 2026-09-02
  5. 5.患者向医薬品ガイド テセントリク点滴静注840mg/テセントリク点滴静注1200mg(医薬品医療機器総合機構(PMDA)・2026)患者向医薬品ガイドのPDF全文で、製剤共通の効能に「切除不能な胞巣状軟部肉腫」が掲げられ、その用法・用量が成人1回1200 mg・2歳以上の小児1回15 mg/kg(最大1200 mg)をいずれも3週間隔とし、他の抗悪性腫瘍剤との併用について有効性および安全性は確立していないとされていることを確認した閲覧 2026-09-24
  6. 6.Tecentriq : EPAR - Product information(European Medicines Agency・2026)EMAの製品情報PDF(EPARページの表示で2026年7月21日更新)の全文で、4.1 Therapeutic indications に胞巣状軟部肉腫が挙げられていないこと(全文に「alveolar」「soft part」の語が0件)を確認した閲覧 2026-09-24
  7. 7.The pathology of soft tissue sarcomas(Radiologia Medica・2019)軟部肉腫の発生率が約5/100,000/年で、現行WHO分類が形態・免疫染色・分子遺伝学を統合していること、免疫染色マーカーは感度は高いが特異度が限られ形態と併せた解釈が必須であることを確認した閲覧 2026-08-27