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Disease Atlas · 腫瘍 · 腫瘍

胞巣状軟部肉腫

Alveolar soft part sarcoma

別名
ASPS
臓器系
腫瘍運動器
科目
Pathology
トピック
病理学 C/99:由来不明の軟部腫瘍
上位概念
軟部肉腫
鑑別疾患
横紋筋肉腫滑膜肉腫
治療薬
アテゾリズマブパゾパニブセジラニブ
症状
腫脹
スコア
TNM分類

🧠 全体像:は、局所は驚くほどゆっくり育つのに、早期から遠隔転移するという予後の非対称性が核心である。無痛性の深部として何年もかけて増大する一方、診断時にすでに7割以上が転移期という報告があり、脳転移の頻度が他の軟部肉腫より高い(ただし多くは肺など他部位の転移に伴って見つかる)。診断はASPSCR1::TFE3融合遺伝子の証明で確定するが、このが作る豊富な腫瘍血管網こそが「緩徐増殖・早期転移」という一見矛盾する性質の鍵であり、同じ血管新生の機序が、なぜ通常のが効かず・へ治療の主軸が移ったかを説明する。

病態:ASPSCR1::TFE3融合が作る「緩徐増殖・早期転移」の逆説

(ASPS)は、全軟部肉腫の0.2〜0.9%を占める超希少肉腫で、は人口1000万人あたり年1例とされる1。15〜39歳のに好発し、SEERデータベースでは診断時年齢中央値25歳(1〜78歳)、72%が30歳未満、58%が女性であった1。原発部位は四肢61%・体幹20%・頭頸部9%・内臓8%で、いずれもに生じる1。骨・脳・眼窩・舌・肺・縦隔・膀胱・前立腺・子宮・腟といった稀な部位の報告もある1。1952年に「」として初めて記載された際、が肺胞に似た配列を示すことから現在の名がついたが、由来組織は今も不明である。

der(17)t(X;17)(p11.2;q25)により、X染色体上の転写因子TFE3遺伝子と17番染色体上のASPSCR1遺伝子が融合し、ASPSCR1::TFE3を生じる。この異常な転写因子がMETを恒常的に活性化し、血管新生と細胞増殖を促すと考えられている1。()・(MET/HGFR)などの血管新生促進因子のが、この腫瘍の際立った血管網の背景にある。

flowchart TD
    A["der(17)t(X;17)(p11.2;q25)転座"] --> B["ASPSCR1::TFE3<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fusion protein'>融合蛋白</span>の形成"]
    B --> C["MET経路の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='constitutive activation'>恒常的活性化</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular endothelial growth factor'>VEGF</span>・HGF/METなど血管新生促進因子の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='induction of gene expression'>発現誘導</span>"]
    D --> E["豊富な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinusoidal vessel'>洞様血管</span>を伴う腫瘍血管網"]
    E --> F["局所は緩徐増殖だが早期から遠隔転移しやすい"]

⭐ 豊富な腫瘍内血管こそが「化学療法が効かない」ことと「緩徐に見えて転移する」ことの共通の説明になる。 密なに富む組織像は、腫瘍細胞が緩徐な局所増殖でも血流に乗って早期に播種することを助け、同時に低の細胞が主体であるための標的になりにくい。

病理

腫瘍はの隔壁で区切られた胞巣状()構造を示し、胞巣中心部の細胞が結合を失って脱落することで肺胞様のパターンが際立つ。腫瘍細胞は大型で境界明瞭、豊富な好酸性の細胞質と円形の核小体明瞭な核を持つ。では、細胞質内にグリコーゲン(多寡はさまざま)と、それとは別に桿状・菱形のを認めることが特徴的である。⚠️ この結晶はであり、ジアスターゼで消化されるグリコーゲンとは組成が異なる別個の所見として区別する。免疫染色では核のTFE3陽性が診断の中心となる(多くの症例で陽性になる)1。

⚠️ ASPSはと組織学的に紛らわしい。では・・MyoD1といったマーカーで分化を証明するのに対し、ASPSはこれらを発現しないため、この染め分けが鑑別に有用である。最終確定にはASPSCR1::TFE3融合の証明(または)を用いる1。

⚠️ ASPSCR1::TFE3融合は「ASPSに極めて特異的」だが「ASPSにしか出ない」わけではない。 同じ融合遺伝子はの一部の亜群にもみられる1。またASPSの側にもHNRNPH3::TFE3・DVL2::TFE3・PRCC::TFE3といった別の再構成が報告されており、遺伝学的にも一枚岩ではない1。臨床像・部位と併せて読む。

臨床像:早期からの転移、とくに脳への転移

無症候性の腫脹として何年もかけて増大するため、症状で受診する頃にはすでに転移していることが多い。骨軟部腫瘍登録データベースの解析では、診断時に72%が転移期(対する局所限局例は28%)であった。局所限局例として発見された34例のうち後に遠隔転移を来した症例は肺12例・脳2例だった。⚠️ この割合は出典の中で二通りに書かれている——ある段落は「限局例の45%(13/34)が肺(12例、92%)・脳(2例、15%)へ転移した」と書き、別の段落は同じ数を「34例中、肺12例(35%)・脳2例(6%)」と書いている。前者は12例・2例を13で、後者は34で割っており、しかも13/34は38%であって45%にならない。したがってここでは実数で示す。転移期として診断された86例の転移部位は肺99%・骨14%・脳11%であった1。

⭐ ASPSは他の軟部肉腫より脳転移率が高いことで知られる1。ただし単施設74例の解析では、病期IV(M1)で診断された症例の19%に脳転移を認めたが、いずれも他部位への転移を伴う播種性病態の一部として生じており、脳が単独の転移標的というわけではない2。

⚠️ 画像評価に頭部を含めるべきかは一枚岩ではない。 現行の診療ガイドラインは病期評価の一環としてをルーチンに含めることを推奨している1が、Portera 2001の単施設74例の解析(追跡9年)では、限局例の臨床経過は比較的緩やかで局所・遠隔転移率も低く、この観察結果はルーチンの検査を支持せず、むしろ選択的な使用を示唆するとしている2。ガイドラインと個々の観察研究のが食い違う点として押さえておく。

予後は限局例と転移例で大きく異なる。局所限局例の5年生存率は60〜88%と比較的良好だが、転移例では20〜62%にとどまる1。単施設研究では、転移例(M1)の生存期間中央値40か月・5年生存率20%、限局例の5年局所88%・遠隔84%と報告されている2。

診断

局所評価には(腫瘍内外に多数の・流出血管を示す著明なが特徴的)、全身病期評価には胸部CTを用いる。⭐ ASPSは脳転移率が高いため、通常の軟部肉腫では省略されがちな頭部画像評価を病期評価に含めることを現行の診療ガイドラインは推奨している点が、他の軟部肉腫のと異なる1(ただし上述のとおり、この推奨が観察研究のと一致しているわけではない)。確定診断はで組織形態・TFE3免疫染色・ASPSCR1::TFE3融合の証明により行う。

flowchart TD
    A["若年成人の緩徐増大する<br>無痛性深部<span class='jp-term jp-term-diagram' title='soft-tissue mass'>軟部腫瘤</span>"] --> B["局所<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>+胸部CT"]
    B --> C["頭部画像評価を追加<br>(脳転移率が高いため)"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='image-guided biopsy'>画像ガイド下生検</span>"]
    D --> E["胞巣状パターン+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='PAS-positive'>PAS陽性</span>結晶+TFE3核陽性"]
    E --> F["ASPSCR1::TFE3融合を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fluorescence in situ hybridization'>FISH</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reverse transcription polymerase chain reaction'>RT-PCR</span>で確認"]
    F --> G["肉腫専門チームで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]

治療:化学療法抵抗性から分子標的薬・免疫療法へ

限局例の標準治療は完全切除で、断端不十分・例には放射線療法を追加する。

⚠️ ASPSは従来のにほぼ反応しない。 などを中心とした一次化学療法のは10%未満(4%、3%にとどまるとの報告)で、標準的なとしての有用性は確立していない1。この抵抗性は、腫瘍細胞のが低く血管新生依存性が強いというASPSの生物学的特徴を反映している。

このを受けて、治療の主軸は血管新生を標的とする分子標的薬、続いてへ移ってきた。総説は「これまでASPSに対してはとが優先レジメンとして推奨されてきた」と記している1。

⚠️ ただし、これらの根拠は少数例の第2相試験とであり、ではない。 総説の表2がまとめている主な成績は次のとおりである1。

薬剤 試験デザイン 主な成績
第2相(6例) 1例・安定5例、中央値5.5か月
(30例) 1例・7例・安定17例、中央値13.6か月
(14例/15例) 中央値41か月(14例の報告)・19か月(15例の報告)
セジラニブ 第2相(32例対16例) 腫瘍径の変化率中央値 −8.3%対13.4%(p=0.0010)、中央値10.1か月対4.9か月(有意差なし、p=0.28)

⚠️ の軟部肉腫に対する承認根拠となったPALETTE試験は非脂肪性軟部肉腫全体を対象としたもので、ASPSに限った試験ではない(同試験の中央値は4.6か月対1.6か月)1。または、日本では軟部肉腫に対して承認されていないと総説は記している1。

⭐ さらに近年、ので、進行ASPS成人・小児52例中19例(37%、1例・18例)にを認め、中央値24.7か月、中央値20.8か月という長期にわたる持続的なが示された3。この結果を受けて、米国は2022年12月、を2歳以上のまたは転移性ASPSに対して承認した1。「化学療法が効かない肉腫」から「免疫療法が効く肉腫」への転換が、ASPSの治療史における最大の変化である。

⭐ 日本でもはこの適応をもつ。 PMDAが公開する患者向医薬品ガイド(2026年8月更新)は、テセントリク840 mg/1200 mgの効能に「な」を挙げている4。⚠️ 日米で違うのは効能の文言だけで、年齢の扱いは違わない——米国が「または転移性」と書くのに対し、日本の効能は「な」である。一方小児への適用は日本側にもある:同じ患者向医薬品ガイドの用法・用量は、成人が1回1200 mgを3週間隔、2歳以上の小児が1回15 mg/kg(体重、最大1200 mg)を3週間隔で、いずれも他の抗悪性腫瘍剤との併用は有効性・安全性が確立していないとしている4。⭐ 小児用量は Chen 2023 の試験用法と一致する。 詳細はのノートを参照。

まとめ

  • はASPSCR1::TFE3融合遺伝子による超希少肉腫で、局所は緩徐増殖なのに早期から遠隔転移するという予後の非対称性が特徴。
  • がMET経路を活性化し豊富な腫瘍血管網を作ることが、と早期転移性の両方を説明する。
  • 診断時にすでに7割以上が転移期という報告があり、脳転移率が他の軟部肉腫より高いため、病期評価に頭部画像を含めることが推奨されてきた(脳転移は他部位の転移に伴って見つかるとして、選択的な頭部画像を支持する単施設研究もある)。
  • 病理は胞巣状パターン・・TFE3核陽性が特徴で、マーカー(・・MyoD1)が陰性であることがとの鑑別点になる。ただしASPSCR1::TFE3融合はの一部にもみられ、ASPS側にも別のTFE3再構成がある。
  • 従来のはほぼ無効で、治療の主軸は・などの分子標的薬を経て、などに移った。分子標的薬の根拠は少数例の第2相・にとどまる。
  • は米国で2歳以上の・転移性ASPSに、日本でも「な」に対して効能をもつ。。2026-09-05にPDF全文を再取得し、【この薬の使い方は?】の〔な〕が、成人で1回1200 mgを3週間隔、2歳以上の小児で1回15 mg/kg(体重、最大1200 mg)を3週間隔と定め、いずれについても他の抗悪性腫瘍剤との併用の有効性・安全性は確立していないと記載していることを確認した

出典

  1. 1.Advances in treatment of alveolar soft part sarcoma: an updated review(Japanese Journal of Clinical Oncology・2023)胞巣状軟部肉腫が全軟部肉腫の0.2〜0.9%を占める超希少肉腫で、15〜39歳の思春期・若年成人に好発し女性にやや多いこと、無症候性で緩徐に増大するため診断時に72%(骨軟部腫瘍登録データベース)が転移期であったこと、限局例からも34例中12〜13例(原著の記述箇所により35〜45%と一致しない)が肺(12例)・脳(2例)へ遠隔転移を来したこと、転移期86例の転移部位は肺99%・骨14%・脳11%で他の軟部肉腫より脳転移率が高いこと、局所限局例の5年生存率60〜88%に対し転移例は20〜62%と幅があること、従来のアントラサイクリン±イホスファミドを中心とする化学療法は奏効率10%未満と無効に近く、パゾパニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬・免疫チェックポイント阻害薬が新たな治療選択肢として登場したことを確認した閲覧 2026-09-02
  2. 2.Alveolar soft part sarcoma: clinical course and patterns of metastasis in 70 patients treated at a single institution(Cancer・2001)胞巣状軟部肉腫74例(題名は70例)の単施設後方視的解析で、病期IV(M1)で診断された48例中9例(19%)に脳転移を認めたがいずれも他部位への転移を伴う播種性病態の一部として生じたこと、M1症例の生存期間中央値が40か月・5年生存率が20%であったこと、限局例(22例)の5年局所無再発生存率88%・遠隔無再発生存率84%(無病生存率71%・全生存率87%)であったこと、および結論が「本研究の観察は現行のASPSの病期診断に関する診療指針を支持せず、頭蓋内画像はルーチンではなく選択的に用いるべきことを示唆する」であることをPubMed抄録(Europe PMC経由)で確認した閲覧 2026-09-02
  3. 3.Atezolizumab for Advanced Alveolar Soft Part Sarcoma(The New England Journal of Medicine・2023)進行胞巣状軟部肉腫の成人・小児52例を対象にした単群第2相試験で、抗PD-L1抗体アテゾリズマブ単剤により19例(37%)に奏効(完全奏効1例・部分奏効18例)を認め、奏効までの期間中央値3.6か月、奏効持続期間中央値24.7か月、無増悪生存期間中央値20.8か月であったこと、治療関連のGrade4/5有害事象は認めなかったことを確認した閲覧 2026-09-02
  4. 4.患者向医薬品ガイド テセントリク点滴静注840mg/テセントリク点滴静注1200mg(医薬品医療機器総合機構(PMDA)・2026)2026年8月更新の患者向医薬品ガイドが、テセントリク点滴静注840mg・1200mgの製剤共通の効能として「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」「PD-L1陽性の非小細胞肺癌における術後補助療法」「進展型小細胞肺癌」「切除不能な胞巣状軟部肉腫」「再発又は難治性の節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型」を挙げていることを確認した。日本の効能の記載は「切除不能な胞巣状軟部肉腫」であり、米国添付文書の「切除不能または転移性」という書き方とは一致しない。電子添文本体(info.pmda.go.jp/go/pack/…)は今回どのURL形式でも取得できず、PMDAが公開する本ガイドのみを閲覧した閲覧 2026-09-05