病理学

病理学 · C/100

水疱性皮膚疾患(天疱瘡・水疱性類天疱瘡・疱疹状皮膚炎)

Blistering skin disorders (pemphigus, bullous pemphigoid, dermatitis herpetiformis)

応用トピック
自己免疫性水疱症
疾患
自己免疫性水疱症(天疱瘡・水疱性類天疱瘡)疱疹状皮膚炎
症状
小水疱水疱痂皮
検査値
ツァンク試験直接蛍光抗体法

🧠 全体像:3つの水疱性疾患は「自己抗体が何を壊すか」で水疱のできる層が決まる——を壊すは表皮内(浅く破れやすい)、を壊すは表皮下(深く破れにくい)、にIgAが沈着するも表皮下だがセリアック病が背景にある12。

用語

  • 水疱 = 小水疱・の総称。
  • 小水疱:5 mm以下の液体で満たされた隆起。
  • :5 mm超の液体で満たされた隆起(大きな小水疱)。

天疱瘡(水疱性パターン)

定義

  • 自己免疫疾患:表皮+の細胞間の結合の喪失。
  • の自己免疫的破壊による。
  • 中高年、通常は女性。

3つの主要亜型

  • (最多)。
  • 。
  • 傍腫瘍性(と関連)。

発生機序

  • (尋常性+落葉状)。
  • +3()に対する。
  • 抗体がを攻撃 → 接着の喪失 → 皮膚・粘膜が「ジッパーが開く」 → 液体が集まる → 水疱。

尋常性天疱瘡

  • 最も多い亜型。
  • 粘膜+皮膚(頭皮、顔、腋窩、鼠径)を侵す。
  • 水疱 → 表在性で有痛性のが容易に破裂 → 痂皮に覆われたびらん。
  • 陽性(側方圧 → 皮膚が滑り落ちる)。
  • (±1)。

落葉状天疱瘡

  • より稀、良性型、皮膚のみ(粘膜なし)。
  • 水疱は非常に表在性()→ びらん・痂皮のみ見える。
  • 。

直接蛍光抗体法

  • 間の「」・鶏金網状のIgG沈着1。

💡 代償説:のは抗抗体のみで、皮膚では抗がの脱落を代償するため皮膚に水疱を来さず口腔粘膜のびらんにとどまる。皮膚は抗+抗の両方をもち皮膚・粘膜の両方が侵される。は抗抗体のみで、口腔粘膜の発現が乏しいため粘膜病変を来さない1。

治療

  • 中等症・重症の(尋常性・落葉状)では、欧州学会(EADV)の2020年指針がリツキシマブ(1 gを2週間隔で2回)+全身性ステロイド(1 mg/kg/日)を第一選択とし、ステロイドは6か月で中止できるようする3。
  • 💡 で自己抗体を産生するB細胞系列を除くため、ステロイドの総量を減らせる。

水疱性類天疱瘡(水疱性パターン)

定義

  • 高齢者に多い(欧州の診断時平均年齢は約80歳)4。男性に多いとする記述もあるが、欧州の指針は性差ではなく高齢と、認知症・との関連を強調している。
  • 自己免疫:IgG+補体が基底膜に。
  • の自己免疫的破壊による(–基底膜の接着)。
  • 抗原:BP180()+BP2302。
  • 動員された好中球+好酸球による。

形態

  • → 「屋根」= 無傷の表皮 → の水疱より破裂しにくい()。

臨床像

  • 正常・紅斑性皮膚上の透明な液体で満たされた。
  • 感染で合併しなければ → 瘢痕なく治癒。
  • 部位:、前腕、腋窩、鼠径、下腹部。
  • 陰性。
  • はまれ4。
  • 阻害薬(とくに・)やが発症に関与しうるため、を確認する4。

DIF

  • 基底膜の線状IgG+C32。

治療

  • 強力なが主軸。ではプロピオン酸エステル10 g/日を病変部に、重症型では30〜40 g/日の全身外用(顔面・を除く)または経口0.5 mg/kg/日のいずれかを第一選択とする4。
  • ⚠️ 1 mg/kg/日のような高用量は、全身外用より死亡率・副作用が高いため、初期治療として推奨されない4。

疱疹状皮膚炎

定義

  • 激しく痒い、漿液性水疱の稀な疾患。
  • 教科書的には20〜30歳代(第3〜4の10年代)の男性に多いとされる。

⚠️ 年齢・性別の内訳は資料により幅がある。 症例集積では診断時平均年齢は40〜50歳(男性がやや高齢の傾向)で小児例は稀、近年の研究2件では男女比はほぼ1対1(女性が明らかに多いセリアック病とは対照的)と報告されている5。欧州の指針は男女比を全体で3:2(20歳未満では女性優位)とし、セリアック病が女性に多いのに対しは男性に多いとする6。

発生機序

  • セリアック病との強い関連、フリー食に反応。
  • のある個体が()に対するIgA抗体を産生。
  • 古典的には、この抗体が基底膜を真皮に結ぶの成分とされたとすると説明されてきた。現在では「抗体」は肝・脾組織上で(TG2)に結合する抗体の染色パターンの呼び名と理解されている6。
  • に沈着するIgAが実際に結合するは組織型ではなく表皮型(3型)トランス(TG3)であることが同定されている7。
  • 傷害+炎症 → 。

形態

  • 。
  • は+の真皮表皮分離。
  • の先端に好中球が集積()。

臨床像

  • 病変は極めて痒く、両側性、対称性。
  • 部位:伸側面(肘、膝)、、。
  • HLA-DQ2 / DQ8。

DIF

  • 先端のIgA沈着(病理特徴的)7。

治療

  • 生涯にわたる厳格なが唯一ので、全例に必要である(診断のための検査をすべて終えてから開始する)6。
  • は対症療法ので、除去食が効くまでの皮疹・痒みを抑える。除去食下でも皮疹の消退には平均2年を要する6。

比較表

特徴
年齢/性 中年、女性 高齢(欧州で平均約80歳) 20〜30歳代の男性とされる(資料により幅)
抗体 IgG 対 +3 IgG 対 BP180/BP230 IgA 対 /トランス
標的 (は表皮型トランスTG3)
水疱の位置 (表皮内) 表皮下 表皮下
型 弛緩性、破裂しやすい 、無傷 小さく痒い小水疱
粘膜 あり(口腔粘膜など) まれ なし
Nikolsky 陽性 陰性 陰性
DIF 状IgG(細胞間) 基底膜の線状IgG+C3 のIgA
関連 — 高齢、、阻害薬など セリアック病
治療の軸 リツキシマブ+全身性ステロイド(中等症・重症) 強力な(または経口0.5 mg/kg/日) +

💡 ポイント: = IgG 対 /3()、/表皮内の、粘膜あり、Nikolsky陽性、DIFで状IgG。 = 高齢者、IgG 対 BP180/BP230()、表皮下の、粘膜病変はまれ、DIFで線状IgG+C3、治療の主軸は強力な。 = IgA 対 /トランス、セリアック病との関連、伸側面の極めて痒い表皮下小水疱、のIgA(病理特徴的)、治療はフリー食+。

まとめ

  • はIgG抗/3によるで、(表皮内)のを来し、陽性、DIFで状IgG沈着を示す。
  • はIgG抗BP180/BP230による破壊で、表皮下のを来し、DIFで基底膜の線状IgG+C3沈着を示す。
  • はセリアック病と強く関連し、IgA抗/トランス抗体が先端にに沈着する。
  • は粘膜病変を伴うが、では粘膜病変はまれで、は通常伴わない。
  • 治療は、中等症・重症のではリツキシマブ+全身性ステロイド、では強力な(高用量のは初期治療として推奨されない)、では生涯の+が中心となる。

出典

  1. 1.Pemphigus(Nature Reviews Disease Primers・2017)尋常性天疱瘡は粘膜優位型では抗デスモグレイン3抗体のみをもち皮膚では抗デスモグレイン1がデスモグレイン3脱落を代償するため皮膚に水疱を来さず口腔粘膜のびらんにとどまるが、皮膚粘膜型では抗デスモグレイン3+抗デスモグレイン1抗体の両方をもち皮膚・粘膜の両方に広範な水疱・びらんを来すという「デスモグレイン代償説」、落葉状天疱瘡は抗デスモグレイン1抗体のみで皮膚表層(顆粒層近く)にのみ水疱を来し口腔粘膜は侵さないこと、直接蛍光抗体法でケラチノサイト細胞表面に網目状(honeycomb-like)のIgG沈着を認めることを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.Mechanisms of Disease: Pemphigus and Bullous Pemphigoid(Annual Review of Pathology・2016)天疱瘡は表皮内のケラチノサイト間接着の喪失(デスモグレインに対する自己抗体)が、水疱性類天疱瘡は基底細胞と基底膜の接着の喪失(ヘミデスモソーム抗原BP180/BP230に対する自己抗体)がそれぞれ病態であり、水疱性類天疱瘡の直接蛍光抗体法は基底膜帯にC3・多くの症例でIgGの線状沈着を示し組織学的には表皮下水疱が特徴であること、細胞外に露出するBP180への自己抗体アクセスが発症に必須である一方で細胞内にあるBP230は必須ではないことを確認した閲覧 2026-08-27
  3. 3.Updated S2K guidelines on the management of pemphigus vulgaris and foliaceus initiated by the european academy of dermatology and venereology (EADV)(Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology(Joly P, Horvath B, Patsatsi A, et al.)・2020)全文(Internet Archive に保存された誌上版HTML)で、中等症・重症の天疱瘡(尋常性・落葉状)の第一選択として、リツキシマブ(1 gを2週間隔で2回)と全身性ステロイド(プレドニゾン1 mg/kg/日)を併用し、ステロイドは6か月で中止できるよう漸減することが推奨されていること、抄録がリツキシマブは欧州と米国で中等症・重症の尋常性天疱瘡の第一選択治療として承認されたと述べていること、天疱瘡の発生率が中欧で年間人口100万人あたり約2人と推定されていることを確認した閲覧 2026-09-24
  4. 4.Updated S2K guidelines for the management of bullous pemphigoid initiated by the European Academy of Dermatology and Venereology (EADV)(European Academy of Dermatology and Venereology・2022)全文(Internet Archive に保存された誌上版HTML)で、欧州の水疱性類天疱瘡患者の診断時平均年齢が約80歳であること、古典型では水疱が四肢屈側・大腿内側・体幹(腹部)に対称性に分布し口腔粘膜病変はまれでNikolsky徴候を欠くこと、治療は強力な外用ステロイドを主軸とし、限局型ではクロベタゾールプロピオン酸エステル10 g/日を病変部へ、重症型では「two first-line options」として30〜40 g/日の全身外用(顔面・肛門性器部を除く)または経口プレドニゾン0.5 mg/kg/日が推奨されること、プレドニゾン1 mg/kg/日のような高用量は全身外用クロベタゾールより死亡率・副作用が高く初期治療として推奨されないこと、DPP-4阻害薬(とくにビルダグリプチン・リナグリプチン)と免疫チェックポイント阻害薬が発症に関与しうることを確認した閲覧 2026-09-24
  5. 5.Dermatitis Herpetiformis: An Update on Diagnosis and Management(American Journal of Clinical Dermatology・2021)大規模症例集積による疱疹状皮膚炎の診断時平均年齢は40〜50歳(男性がやや高齢の傾向)で最高齢の診断例は80歳超、小児例は稀(フィンランドの症例集積で4%)であること、近年の大規模2研究では男女比がほぼ1対1でありセリアック病で女性が明らかに多いのとは対照的であることを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.S2k guidelines (consensus statement) for diagnosis and therapy of dermatitis herpetiformis initiated by the European Academy of Dermatology and Venereology (EADV)(European Academy of Dermatology and Venereology・2021)誌上版PDF(JEADV 2021;35:1251-1277、Görög A ら)の全文で、疱疹状皮膚炎の男女比が全体で3:2(20歳未満では女性優位の2:3)であり、セリアック病は女性に多いのに疱疹状皮膚炎は男性に多いこと、主要自己抗原が表皮型トランスグルタミナーゼ(TG3)であること、「レティキュリン抗体」は肝・脾を基質とした間接蛍光抗体法で組織トランスグルタミナーゼ(TG2)に結合する抗体の染色パターンの呼び名であること、生涯にわたる厳格なグルテン除去食が唯一の原因療法で全例に必要(診断検査の完了後に開始)であり、ダプソンは対症療法の第一選択薬であること、除去食下でも皮疹の消退には平均2年を要することを確認した閲覧 2026-09-24
  7. 7.Epidermal transglutaminase (TGase 3) is the autoantigen of dermatitis herpetiformis(The Journal of Experimental Medicine・2002)疱疹状皮膚炎患者の血清は組織トランスグルタミナーゼと表皮型(3型)トランスグルタミナーゼ(TGase3)の両方に反応するが表皮型への親和性が有意に高く、疱疹状皮膚炎に特徴的な真皮乳頭のIgA沈着物には表皮型トランスグルタミナーゼが含まれ組織トランスグルタミナーゼやケラチノサイト型トランスグルタミナーゼは含まれないことを確認し、表皮型トランスグルタミナーゼが疱疹状皮膚炎の主要自己抗原であると結論した閲覧 2026-08-27