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Disease Atlas · 運動器 · 症候群

多発翼状片症候群

Multiple pterygium syndrome

別名
Escobar症候群Escobar syndrome致死性多発翼状片症候群
臓器系
運動器小児
科目
Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
発生学 8.1:先天異常と出生前診断:異常の種類
鑑別疾患
遠位関節拘縮症
症状
多発性関節拘縮拘縮脊柱側弯症

🧠 全体像:(MPS)は、頸部・腋窩・・などにと多発性のを来す先天性である。⭐ 臨床で最初に覚える軸は「致死型」か「Escobar型(非致死型)」かの2分——致死型はされ・早期死亡に至るのに対し、Escobar型はなどの生存・機能予後が見込める。原因の多くは骨格筋の(CHRNGなど)の機能異常で、の減少がとを生む。⚠️ ただし**常染色体優性の別系統(MYH3変異、のDA8)**も存在し、こちらは受容体ではなくそのものの異常による、機序の異なるである。

病態:胎動減少という共通経路、しかし原因は2系統

MPSの主要なは2番染色体(2q37)のCHRNGで、骨格筋のγ()サブユニットをコードする1。この変異がでの信号伝達を障害してを減少させ、関節周囲の癒着()とを生じさせる1。CHRND・CHRNA1など、同じ受容体の他のサブユニットの変異も同様の機序でのMPSを来す2。

flowchart TD
    A["CHRNG・CHRND・CHRNA1<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fetal type'>胎児型</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='acetylcholine receptor'>アセチルコリン受容体</span>サブユニット)の変異"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuromuscular junction (NMJ)'>神経筋接合部</span>の信号伝達障害"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fetal movement'>胎動</span>の減少"]
    C --> D["関節周囲の癒着(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pterygium'>翼状片</span>)と<br>多発性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='joint contracture'>関節拘縮</span>"]
    E["MYH3(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='embryonic myosin heavy chain'>胎生期ミオシン重鎖</span>)の変異<br>(常染色体優性・DA8)"] -.->|"別の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='molecular mechanism'>分子機序</span>"| D

⚠️ 「=の病気」と単純化しない。 により、を示す家系でMYH3()の変異が同定されており、これはのDA8に相当する2。他のMYH3関連疾患(DA1・DA2A・DA2B)の原因変異がすべてモーター・ネック領域にあるのに対し、常染色体優性MPS(DA8)の変異はテイル領域にあり、優性型MPSの・は機能異常による劣性型MPSとはおそらく異なるによる2。

分類:致死型とEscobar型

⭐ 最も重要な分岐は生命予後である。

型 遺伝形式 特徴1
致死型(LMPS) 主に 。胎児の頸部ヒグローマ・減少・・。または早期に死亡
Escobar型(非致死型) が主、優性・X連鎖性の報告もあり 全身の(頸部・腋窩・・・・間)、、、骨格変形、出生時の。など生存・機能予後が見込める
常染色体優性型(MYH3、DA8) 常染色体優性 のDA8に相当。・を呈するが機序は受容体と異なる2

💡 同じCHRNGでも、変異の性質が型を分ける。 γサブユニットの産生を完全に絶つ変異は致死型に、一部の産生を許す変異はEscobar型につながりやすいと考えられている。

臨床像

脊柱側弯症——高頻度で乳児期から進行しうる

⭐ はMPSにほぼ必発と考えてよいほど高頻度である。 既存文献での報告頻度は32〜93%と幅があるが、12例の症例集積では92%(11/12例)に発症し、多くは乳児期、一部はすでにに検出された3。

の重症度は次の4段階に分類される3。

分類 定義
軽度 25度以下
中等度 25度超50度以下
重度 4歳以降に50度超
悪性型 4歳未満で50度以上

⚠️ 遺伝子型だけで重症度を予測できない。 MYH3変異を有する例はいずれも悪性型を呈したが、CHRNG変異を有する例にも悪性型がみられ、が示されている3。「劣性型は軽症、優性型は重症」のような単純な図式は成り立たない。

管理

⭐ は無く、多職種による管理が中心となる(遺伝カウンセリング・整形外科・呼吸器科・)1。

に対しては、療法・連続キャスト矯正が一時的なカーブ制御にある程度有効である3。重度カーブには、成長に応じて拡張可能な非固定型で対応する。⚠️ 非固定分節でも術後に自然がしばしば生じるため、成長温存を意図した器具でも経過中にさらなる介入判断を要することがある3。

早期の診断と介入が転帰を最適化しうるが、予後は症状の重症度に依存する1。

まとめ

  • (MPS)は、全身各所のとを特徴とする先天性である。
  • ⭐ 致死型(LMPS)と非致死型のEscobar型に大別される。致死型はされ・早期死亡に至り、Escobar型はなど生存・機能予後が見込める。
  • 主要な機序はCHRNGなどの異常による減少だが、⚠️ 常染色体優性のMYH3(DA8)はが異なる。
  • はきわめて高頻度(症例集積で92%)で乳児期から進行しうる。⚠️ 遺伝子型だけで重症度を予測できない。
  • は無く、・連続キャストから成長対応型のまでを含む管理を要する。

出典

  1. 1.Pterygium Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)NCBI Bookshelfで確認した。多発翼状片症候群(MPS)が全身各所の翼状片(webbing)を特徴とするまれな先天性疾患群であり、出生前診断され死産または新生児期早期の死亡に至る致死型(LMPS)と、独歩などの生存・機能予後が見込めるEscobar型(非致死型)の2型に分かれること、主要な原因遺伝子が2番染色体長腕(2q37)の`CHRNG`であり、胎児期骨格筋ニコチン性アセチルコリン受容体のγ(胎児型)サブユニットをコードし、この変異が神経筋接合部での信号伝達を障害して胎動を減少させ特徴的な翼状片を生じさせること、遺伝形式は常染色体劣性が最も多く報告されているが常染色体優性・X連鎖性の報告もあること、致死型では胎児の頸部囊胞状ヒグローマ・胎動減少・肺低形成・関節拘縮がみられること、Escobar型では全身の翼状片(頸部・腋窩・肘窩・膝窩・指間・鼠径部間)、関節拘縮、顔貌異常、骨格変形、出生時の呼吸障害がみられること、根治的治療は無く遺伝カウンセリング・整形外科・呼吸器科・理学療法を含む集学的管理を要すること、早期の診断と介入が転帰を最適化しうるが予後は症状の重症度に依存することを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Autosomal-Dominant Multiple Pterygium Syndrome Is Caused by Mutations in MYH3(The American Journal of Human Genetics・2015)Europe PMC経由で抄録全文を確認した。多発翼状片症候群(MPS)が多発翼状片・脊柱側弯症・四肢の先天性拘縮を特徴とする表現型・遺伝子型ともに異質な希少疾患群であること、大多数は常染色体劣性遺伝でその原因が骨格筋ニコチン性アセチルコリン受容体サブユニットをコードする`CHRNG`・`CHRND`・`CHRNA1`であるのに対し、本研究がエクソーム解析により常染色体優性遺伝を示す4家系を同定し、うち3家系で胎生期ミオシン重鎖遺伝子`MYH3`のタンパク質変化を予測させる変異を見出したこと、他のMYH3関連疾患(DA1・DA2A・DA2B)の原因変異がすべてモーター・ネック領域にあるのに対し常染色体優性MPS(DA8)の原因となる2つの変異はテイル領域にある点で異なること、優性型MPSでみられる脊柱側弯症・翼状片は`CHRNG`等によるアセチルコリン受容体機能異常を原因とする劣性型MPSとはおそらく異なる分子機序によることを確認した。閲覧 2026-09-06
  3. 3.The Clinical and Genotypic Spectrum of Scoliosis in Multiple Pterygium Syndrome: A Case Series on 12 Children(Genes (MDPI)・2021)PMC8391526の全文を確認した。多発翼状片症候群における脊柱側弯症の報告頻度が既存文献で32〜93%と幅があること、12例の症例集積で11例(92%)に側弯症が発症し多くは乳児期、一部は新生児期にすでに検出されたこと、側弯の重症度を軽度(25度以下)・中等度(25度超50度以下)・重度(4歳以降に50度超)・悪性型(4歳未満で50度以上)の4段階に分類したこと、4例が骨盤傾斜がほぼまたは20度以上に達する非代償性の悪性型カーブを呈したこと、`MYH3`変異を有する2例はいずれも悪性型側弯を呈した一方で`CHRNG`変異を有する2例も悪性型側弯を呈しており遺伝子型だけで重症度を予測できないこと(遺伝的異質性)、装具療法・連続キャスト矯正が一時的なカーブ制御にある程度有効であったこと、重度カーブには成長に応じて拡張可能な非固定型脊椎インストゥルメンテーションで対応したこと、非固定分節でも術後に自然椎体癒合がしばしば生じたことを確認した。閲覧 2026-09-06