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Disease Atlas · 循環器 · 先天性疾患

心膜嚢胞

Pericardial cyst

別名
心膜性嚢胞
臓器系
循環器呼吸器
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)Microscopic Anatomy and Embryology (Embryology)
トピック
解剖学 2.5:胸部:縦隔発生学 11.1:体腔:胚内体腔
鑑別疾患
気管支原性嚢胞
合併症
心房細動
症状
胸痛呼吸困難咳

🧠 全体像:は、(多くは右)に生じる良性ので、の形成過程でのに由来する。⚠️ 大多数(約75%)は無症候のであり、胸部X線でのとして見つかることが多い。同じ縦隔の嚢胞性病変であると混同しやすいが、発生の由来と好発部位(=、=周辺の)が異なるという一点で整理すれば取り違えない。心膜に接するため理論上は心タンポナーデ・不整脈を来しうるが、実際にはきわめてまれである。

発生:心膜腔の形成過程における癒合不全

は、が・・に分割される過程で生じる性の先天性嚢胞である。は当初、原始心臓の前方(後の)で左右が連続するの単一腔であり、折りたたみを経て正中で癒合したのち、を介して・のがつながった状態を経て、により3つの体腔に分離する(体腔:)。この過程での一部にが生じると、から憩室状に外へ突出した部分が残り、体腔との交通が閉塞されることで嚢胞として遺残する1。まれに心後・後・外傷後・慢性患者など後天性に生じる例も報告されている1。

組織学的には、特殊な上皮や平滑筋を欠く線維性の壁が、単純ので覆われた構造を取る1。内容液は透明で、嚢胞のは約5.4 cmとされる1。

好発部位:心横隔膜角、なかでも右側

⭐ の頻度は縦隔嚢胞性病変の約33%、全体の約7%を占め、と並ぶ代表的な縦隔嚢胞である1。好発部位は次のとおりで、いずれも心膜と連続する前〜前下方の位置に集中する12。

部位 頻度
右 51〜70%
左 22〜38%
非横隔膜性の縦隔(前など) 8〜11%

気管支原性嚢胞との役割分担

ノートの「紛らわしい嚢胞性病変との鑑別」表でも触れたとおり、両者はともに境界明瞭なとして・に描出され、所見だけでは区別しづらい。決め手は発生の由来と部位である。

病変 由来 典型的な部位 壁の組織像
形成時の(性) (多くは右側) 単純立方、特殊な上皮・平滑筋を欠く
の異常分岐(前腸性) 周辺() ・軟骨・を含みうる

「で心膜に接する嚢胞は、でに接する嚢胞は」という部位の対比を軸に覚えると、画像だけで迷ったときの出発点になる。

臨床像

⚠️ 約75%は無症候で、他の目的で行われた胸部画像検査で発見される1。症候性となる場合も症状は非特異的で、以下のような漠然とした訴えにとどまることが多い。

これらは嚢胞そのものによる隣接構造の圧迫で生じると考えられている12。血液検査・心電図はいずれも非特異的で、診断的価値に乏しい1。

画像所見

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiophrenic angle'>心横隔膜角</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rounded opacity'>類円形陰影</span><br>胸部X線で偶発的に発見"] --> B["造影CTで評価"]
    B --> C{"境界明瞭・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='unenhanced imaging'>非造影</span>増強の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='water attenuation'>水濃度</span>病変か"}
    C -->|"はい"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>でT2信号を確認"]
    C -->|"いいえ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='solid component'>充実性成分</span>あり"| E["他の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mediastinal mass'>縦隔腫瘤</span>との鑑別を再検討"]
    D --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='T2 hyperintensity'>T2高信号</span>で造影増強を欠くか"}
    F -->|"はい"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericardial cyst'>心膜嚢胞</span>として矛盾なし"]
    F -->|"いいえ・出血/蛋白含有で信号が変化"| H["出血・高蛋白内容液の関与を考慮したうえで嚢胞性病変を支持"]
  • 胸部X線:に接する境界明瞭なとして見つかることが多い1。
  • (第一選択):隔壁を欠く、境界明瞭・増強の病変として描出される12。
  • MRI:で高信号を示し、の増強を欠く。ただし出血や蛋白成分を多く含む内容液では、値の上昇やT2信号の変化を来しうる点に注意する12。

⚠️ 心膜に接するがゆえの、きわめてまれな合併症

は心膜に接しているため、理論上は心タンポナーデ・不整脈を来しうるが、実際にはきわめてまれである。 StatPearlsは心タンポナーデを「極めてまれだが致死的になりうる」合併症と明記している1。報告されている稀な合併症には、心房細動を含む不整脈、反復性の失神、、、圧迫、によるが含まれる12。

治療

⭐ 無症候・安定した病変は経過観察でよい。 定期的なで大きさの変化を追跡し、拡大や新規症状がなければ介入は不要である1。

症候性、あるいは増大傾向にある病変では介入を検討する。

選択肢 位置づけ
経過観察+ 無症候・安定病変の第一選択
が推奨する。再発率は約33%とされる1
外科的切除(・・VATS・) 症候性・増大病変、確定診断を要する病変に対して行う1

まとめ

  • は形成時のに由来する性の良性嚢胞で、好発部位は(多くは右側)。
  • 約75%は無症候ので、症候性でも症状は非特異的(咳・胸痛・呼吸困難)にとどまる。
  • とは所見だけでは区別しづらいが、部位( vs 周辺)と組織像( vs 気管支上皮)で鑑別する。
  • で・増強、で・非増強という所見が嚢胞性病変を支持する。
  • 心膜に接するため理論上は心タンポナーデ・不整脈を来しうるが、実際の頻度はきわめてまれ。
  • 無症候・安定病変は経過観察、症候性・増大病変ではまたは外科的切除を検討する。

出典

  1. 1.Pericardial Cyst(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)心膜嚢胞の頻度が縦隔嚢胞の約33%・縦隔腫瘤の約7%を占めること、約75%が無症候の偶発発見であること、好発部位が右心横隔膜角(51〜70%)・左心横隔膜角(22〜38%)・非横隔膜性の縦隔(8〜11%)であること、発生機序が心膜嚢の形成過程における癒合不全(憩室として遺残し交通が閉塞して嚢胞化する)であること、組織学的に単純立方状の中皮細胞に覆われた線維性壁で特殊な上皮・平滑筋を欠くこと、CTで境界明瞭な非造影増強・非中隔性の水濃度腫瘤として描出されること、MRIでのT2高信号がタンパク含有量により変化しうること、症候性の場合の症状(慢性咳嗽・胸痛・呼吸困難・胸骨後圧迫感)と稀な合併症(不整脈・心房細動、失神、右室流出路狭窄、僧帽弁逸脱、心タンポナーデ、上大静脈圧迫、嚢胞破裂によるpleuropericarditis)を確認した。心タンポナーデは「極めてまれだが致死的」と明記されている。治療は無症候・安定病変には経過観察(定期的な経胸壁心エコー)、症候性・増大病変には経皮的吸引(欧州心臓病学会が推奨、再発率約33%)または外科的切除(開胸・胸骨正中切開・VATS・縦隔鏡)を行うことを確認した。閲覧 2026-08-19
  2. 2.Pericardial Cyst at an Unusual Location: The Role of CT Imaging(Cureus・2023)心膜嚢胞が右前心横隔膜角に最も好発し左前心横隔膜角がこれに次ぐこと、CTで隔壁を欠く境界明瞭な水濃度病変として描出され造影後増強を認めないこと、出血や蛋白成分を含む場合はCT値が上昇しMRI T2信号が変化しうること、心タンポナーデ・不整脈・右室流出路狭窄・肺動脈狭窄・突然死といった圧迫による稀な重篤合併症が起こりうることを確認した。閲覧 2026-08-19