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Disease Atlas · 運動器 · 先天性疾患

Weyers顔面末端異骨症

Weyers acrofacial dysostosis

別名
Weyers症候群
臓器系
運動器小児
科目
PathologyMedical Genetics and Immunology (Genetics)
トピック
病理学 C/90:骨の先天性疾患遺伝学 4.4:常染色体優性遺伝(AD I)
上位概念
線毛病
鑑別疾患
Ellis-van Creveld症候群
症状
爪異形成多指症

🧠 全体像:は、と同じ遺伝子(EVC・EVC2)の異常が、遺伝形式だけ変わって現れた軽症の鏡像である。EVC/EVC2の両アレルが機能を失えば()、片アレルだけに切断型変異が入れば()——・・胸郭異形成という重症の柱を欠き、爪と歯の異常・軽度のだけが残る。

位置づけと遺伝学

2023年改訂のでは、と同じ「線毛または線毛シグナルの異常による」(Group 10)に置かれ、骨格を主戦場とするの一員である1。EVC2はの基部でEVCと複合体を形成し、Hedgehogシグナル経路の正の調節因子として働く1308アミノ酸のタンパク質である2。

⭐ 本症はEVC2の一方のアレルだけに生じた切断型変異()で発症する疾患である。 既報告例の原因バリアントは、これまですべて最終エクソン(エクソン22)内に位置する切断型変異であった。2026年の報告では、エクソン22外のバリアント(c.451-1G>T)がミニ遺伝子スプライシングアッセイでエクソン4の完全な(インフレーム欠失p.Tyr151_Leu173del)を起こすことが確認され、変異の存在範囲が広がった2。

💡 なぜ片アレルの変異だけで発症するのか。 エクソン22末端の切断型変異は、分解されずに安定な異常タンパク質を作り、Hedgehogシグナル伝達を乱す効果を持つと考えられている。単純な量的不足()ではなく、異常タンパク質が正常アレルの産物の働きも妨げるために、片アレルの変異だけでの表現型が出る、という理屈である。一方、単一アレルのEVC/EVC2バリアントはと比べて・が低いとも報告されており、症例間で重症度に幅が出ることと整合する2。

flowchart TD
    A["EVC/EVC2遺伝子"] --> B{"両アレルが機能喪失<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autosomal recessive'>常染色体潜性</span>)"}
    A --> C{"片アレルに切断型変異<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='dominant-negative'>ドミナントネガティブ</span>効果<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autosomal dominant'>常染色体顕性</span>)"}
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Ellis-van Creveld syndrome'>Ellis-van Creveld症候群</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='polydactyly'>多指症</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='limb shortening'>四肢短縮</span>+爪と歯の異常+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='congenital heart disease (CHD)'>先天性心疾患</span>"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Weyers acrofacial dysostosis'>Weyers顔面末端異骨症</span><br>爪と歯の異常+軽度<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polydactyly'>多指症</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='short stature'>低身長</span>・心疾患・胸郭異形成を欠く"]

⚠️ が確定した報告は世界で10例余りにとどまる、きわめてまれな疾患である2。

臨床像——Ellis-van Creveld症候群との対比で覚える

爪と歯の異常が本症の核であり、と共有する部分でもある3。

所見
遺伝形式 (片アレルの切断型変異) (両アレルの機能喪失)
爪の異栄養 あり あり(78%)
歯の異常 あり あり(59%)
一部にあり、軽度 高頻度(手98%)
不均衡な 軽度、または無し 高頻度(73%)
欠く 高頻度(66%、大半が)
胸郭異形成 欠く 高頻度(66%)
知能 正常が原則 正常が原則(発達遅滞は9%)

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⚠️ 爪の異栄養・歯の異常・という表の重なりだけを見てと誤認しないこと。 見分けの決め手は、・心疾患・胸郭異形成という生命予後に関わる重症の柱の有無であり、これらを欠けば本症を疑う3。知能は両疾患とも正常が原則という共通点も、鑑別には使えない。

診断

のコンセンサスは確立していない。(爪と歯の異常、正常またはごく軽度の、・胸郭異形成の欠如)から疑い、EVC2(まれにEVC)ので確定する。既報告例の大半がエクソン22内の切断型変異であるため、まずこの領域を優先して調べたうえで陰性であればエクソン全体・まで検索を広げる必要がある2。⚠️ バリアントのように臨床的意義が不確実な変異が見つかった場合は、の報告だけで判断せず、ミニ遺伝子スプライシングアッセイのような機能的検証が診断確定に有用である2。

管理と予後

診療ガイドラインは存在しない。のような・胸郭低形成に伴うの管理は原則不要だが、心疾患を欠くと決めてかかって評価を省略しない——初回評価では骨格・歯科・爪・心臓の系統的な診察を行うのが妥当である3。歯の異常には歯科的な経過観察と治療が中心になり、がある場合は希望に応じて切除する。

・・胸郭異形成という、で生命予後を左右する重症の柱を欠くため、本症の予後はより良好と考えられる3。

まとめ

  • は、EVC/EVC2の片アレルに生じた切断型変異によるの骨系統で、によるのと対をなす。
  • 片アレルの変異だけで発症するのは、切断型タンパク質が正常アレルの働きも妨げる効果によると考えられている。
  • 爪の異栄養・歯の異常・軽度のをと共有するが、・・胸郭異形成という重症の柱を欠くのが最大の見分け方。
  • 原因バリアントは従来EVC2エクソン22内の切断型変異に限られていたが、エクソン22外のも報告され、変異の存在範囲は広がりつつある。
  • が確定した報告は世界で10例余りにとどまるまれな疾患で、診療ガイドラインは無く対症療法が基本。知能は正常が原則で、重症の柱を欠くため予後はより良好と考えられる。

出典

  1. 1.Ellis-van Creveld Syndrome(GeneReviews (NCBI Bookshelf)・2023)Europe PMC経由でNBK596643の全文XMLを自分で取得して確認した(2023年10月26日初版掲載)。手の軸後性多指症・不均衡な四肢短縮型低身長・爪の異栄養/低形成・歯と口腔の異常・先天性心疾患・特徴的なX線所見(狭い胸郭と短い肋骨、短く太い管状骨、尺骨近位端と橈骨遠位端の球状肥大、手根骨・中手骨の癒合、指骨の円錐状骨端、小さい腸骨稜、寛骨臼の棘状突出=三叉状腸骨、脛骨プラトーの外側傾斜)を特徴とすること、Table 2に掲げる頻度(5報の集計)が手の軸後性多指症98%〈95%超で両側〉・四肢短縮83%〈出生前からの短縮36%〉・爪の異栄養/低形成78%・低身長73%・先天性心疾患66%〈80%超が心房中隔欠損〉・胸郭狭小66%・歯の異常59%・短指症35%・足の軸後性多指症34%〈90%超で両側〉・上口唇の欠損28%・発達遅滞9%であること、ほぼ全例が両手6本指で一部は7本指であること、成人身長が両親中間身長を下回ることが多く109〜152 cmの範囲であること、心疾患があるときはほぼ必ず心房中隔欠損を含み(単独のことも他の奇形と併存することもある)心室中隔欠損・単心房・左上大静脈も比較的多く概要の一覧には房室中隔欠損も挙がること、逆に左心室低形成・肺動脈弁狭窄/閉鎖・大動脈縮窄はHillsら2011に基づきまれとされること、Hillsら2011の報告として心疾患をもつ例の半数弱が何らかの程度の心不全を来すと記していること、知的障害は本症候群に典型的ではなく通常は正常知能で、発達遅滞/知的障害を示すのは一部かつ多くは軽度〜中等度であること、外反膝が脛骨外側骨幹端の骨化遅延によること、頭蓋と脊椎は通常正常で筋力も正常であること、5%未満のまれな所見として泌尿生殖器奇形・中枢神経奇形(Dandy-Walker奇形・脳梁低形成・小脳低形成)・感音難聴があること、原因遺伝子の内訳がEVC 49%・EVC2 38%・DYNC2LI1 3%・DYNC2H1 2%などで大半が常染色体潜性、PRKACAとPRKACBによる2%は常染色体顕性であること、2023年改訂のGenetic Skeletal Disordersの分類では「線毛または線毛シグナルの異常による骨系統疾患」(Group 10)に置かれ「chondroectodermal dysplasia (Ellis-van Creveld)」と呼ばれること、分子診断が確定した報告例は約250例でPennsylvania州Lancaster郡のAmishに創始者バリアントEVC c.1886+5G>Tがあること、鑑別として短肋骨胸郭異形成症(Jeune)・短肋骨多指症候群・Weyers顔面末端異骨症・頭蓋外胚葉異形成症・Mainzer-Saldino症候群という骨系統の線毛病が並ぶこと、診療ガイドラインは存在せず初回評価として骨格X線全身検索・心エコー・歯科診察・呼吸評価・腎骨盤超音波・聴力評価・発達評価を行い、余剰指の切除は希望に応じて、外反膝は必要に応じて手術し、新生児期や高度拘束性肺障害では人工呼吸を要しうること、経過観察として小児期は少なくとも年1回の成長計測と年1回の歯科評価、発達は成人まで各受診時に確認すること、骨盤・股関節の異常をもつ妊婦には帝王切開が勧められることを確認した閲覧 2026-09-03
  2. 2.A novel EVC2 splice-site variant expands the mutational and phenotypic spectrum of Weyers acrofacial dysostosis(BMC Medical Genomics(Chen A, Zhang W, Long P, et al.)・2026)PMC13126891として公開されている全文を確認した。Weyers顔面末端異骨症(WAD)が常染色体優性の線毛病でEVC2遺伝子の異常により生じ、既報告の原因バリアントがすべて最終エクソン(エクソン22)内の切断型変異であったこと、本論文が報告する新規スプライス部位バリアントc.451-1G>Tはミニ遺伝子スプライシングアッセイでエクソン4の完全なスキッピング(インフレーム欠失p.Tyr151_Leu173del)を引き起こすと確認され、エクソン22外に生じた初めての報告例であること、分子診断が確定した世界の報告例が10例余りにとどまるまれな疾患であること、基本表現型が低身長・歯の異常・爪異形成・多指症であること、EVC2遺伝子産物が1308アミノ酸のタンパク質で一次線毛基部でEVCとヘテロ二量体複合体を形成しHedgehogシグナル経路の正の調節因子として働くこと、エクソン22末端の切断型変異は安定だが異常なタンパク質を産生しHedgehogシグナル伝達を乱すドミナントネガティブ効果を持つと考えられている一方、単一アレルのEVC/EVC2バリアントは両アレル変異と比べて浸透率・表現度が低いと報告されていること、Weyers顔面末端異骨症(ヘテロ接合の単一アレル変異)がEllis-van Creveld症候群(常染色体潜性の両アレル変異)よりも軽症とされることを確認した。本症例児は痙攣・重度発達遅滞を伴う非典型例で、これらの神経学的合併症は本論文でもWADに典型的な所見とは位置づけられていないため、本ノートの一般像には含めていない。閲覧 2026-09-07
  3. 3.Ellis-van Creveld syndrome(Orphanet Journal of Rare Diseases・2007)PMC1891277の全文を自分で取得して確認した。四肢短縮が近位から遠位へ向かうほど強くなること、先天性心疾患が約50〜60%にみられ単心房・僧帽弁/三尖弁の異常・動脈管開存・心室中隔欠損・心房中隔欠損・左心低形成症候群を含み、心疾患の存在が寿命の主たる決定因子とされること、認知発達は正常であること、Weyers顔面末端異骨症がEVC/EVC2バリアントのヘテロ接合での表現であり均衡を欠く低身長・心疾患・胸郭異形成を欠く常染色体顕性疾患であること、出生前診断が妊娠18週以降の超音波で狭い胸郭・長管骨の著明な短縮・手足の6本指・心奇形として捉えられうること、妊娠第1三半期後半に狭い胸郭・短く彎曲した長管骨・丸い骨幹端・軸後性多指症・心奇形の組み合わせから疑われうることと妊娠13週の項部透明帯肥厚を契機とした報告があること、歯科処置は心奇形の頻度が高いことを踏まえ予防的抗菌薬のもとで行うべきだとしていること、鑑別が出生前は短肋骨多指症候群(とくにIII型Verma-Naumoff症候群)、出生後はJeune異形成症・McKusick-Kaufman症候群・Weyers症候群であること、新生児期の管理が狭い胸郭と心不全による呼吸障害への対症療法であり出生時に生えている歯は哺乳を妨げるため抜去すること、低身長に対する成長ホルモン治療は無効と考えられており成長ホルモン分泌不全を合併した1例でのみ有効であったこと、外反膝と膝蓋骨脱臼に対する整形外科的経過観察を要すること、成人期にまれな脊柱管狭窄が生じうること、予後が生後数か月の呼吸障害に左右されること、成人例の最終身長の報告が119 cmから161 cmまで幅広いこと、Amishでは1家系に30同胞群52例という大家系が記載されていることを確認した閲覧 2026-09-03