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TRH刺激試験

TRH stimulation test

別名
TRH負荷試験甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン負荷試験
臓器系
内分泌・代謝
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 E-02:甲状腺疾患の症状・診断・治療内科学 E-01:下垂体・視床下部疾患
関連疾患
TSH産生下垂体腺腫甲状腺ホルモン抵抗性

🧠 全体像:刺激試験は、を外から投与し、の()がどれだけ反応できるかを直接見るである。基礎値のだけでは分からない「下垂体・視床下部軸の」を映すため、では反応が誇張され、がある病態では反応が鈍る。臨床上の主な使い道は、遊離T4が高いのにが抑制されない「」を示す2つの病態——産生との鑑別である。産生では自律的にを分泌する腫瘍細胞が刺激に反応しにくく、では下垂体の受容性そのものは保たれているため、この一点で反応が大きく分かれる。

検査の原理と実施方法

はヒトの受容体を直接刺激し、放出を促す。から短時間でが立ち上がるため、基礎値と刺激後の複数時点でを測定し、その変化量(デルタ=ピーク値マイナス基礎値)を評価する。

プロトコルは目的によって異なる。産生との鑑別という本ノートの主用途では、ETA(欧州甲状腺学会)2013ガイドラインが 200 µg静注、投与直前と投与後20・60・90・120分の測定というプロトコルを用いている1。一方、を対象とした2024年の研究プロトコルでは 400 µgを静注し、投与直前(基礎値)と投与後30・45・60・90・120分にを測定している2。⚠️ 用量・採血時点は目的別に異なり、どちらかを一律の「標準」として覚えない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inappropriate TSH secretion'>不適切TSH分泌</span>パターンを確認"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyrotropin-releasing hormone'>TRH</span>を静注"]
    B --> C["投与前と複数時点(例:30・45・60・90・120分)で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>を測定"]
    C --> D["デルタ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>(ピーク値-基礎値)を計算"]
    D --> E{"反応は保たれているか"}
    E -->|"明瞭な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>上昇"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid hormone resistance'>甲状腺ホルモン抵抗性</span>を支持"]
    E -->|"反応が鈍い・消失"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>産生<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pituitary adenoma'>下垂体腺腫</span>を支持"]

判読の指標と基準

指標 定義・ 出典での位置づけ
デルタ(鈍化の基準) 男性3 mU/L未満・女性5 mU/L未満 この基準で産生の87%が鈍化反応3
デルタ(過剰反応の基準・の評価で使用) 25.00 mIU/L超 952例の66%が該当2

⚠️ 2つのは目的が異なる。 鈍化の基準は産生を検出するためのもの、過剰反応の基準はの評価で使われたものであり、同じ物差しとして併用しない。

異常パターンの意味

パターン 代表的な病態 機序
反応が鈍い・消失する 産生(87〜90%)31、 腫瘍細胞・過剰な甲状腺ホルモンによる負のフィードバックでが自律的・抑制的に振る舞い、外からの刺激に反応しにくくなる
反応が保たれる(明瞭な上昇) (RTHβで鈍化はわずか2%)3 の受容性は正常に保たれており、末梢の側にのみ異常がある
反応が誇張される 甲状腺ホルモンによる負のフィードバックが弱く、の感受性が代償性に高まっている

💡 の反応と併せて読むと精度が上がる。 の反応よりの反応が大きいという解離は、他のを共分泌する産生腺腫に特徴的とされる3。

⚠️ 実施上・判読上の注意

  • 単独では確定しない。 診断は刺激試験だけでなく、・/・を束ねて行う。可能な限り刺激試験との両方を組み合わせることで感度・特異度が高まるとされる3。
  • はプロトコルに紐づく。 「鈍化」を示すデルタのと「過剰反応」を示すはも定義も異なるため、数値だけを切り離して覚えない。
  • グルココルチコイド・ドパミン作動性の薬剤など、分泌そのものに影響する薬剤の使用歴は、反応を実際より鈍く見せうるになる。判読前に確認する。
  • でも反応は鈍化するため、「反応が鈍い=産生」と短絡しない。甲状腺機能の背景(かどうか)を踏まえて解釈する。

次に進むべき検査 / 使い分け

検査 何を追加で確定できるか
産生でが完全抑制されないことを確認する、鑑別の主軸を成すもう一つの
SHBG で正常、産生で甲状腺まで上昇するという非侵襲的な補助指標
産生の大多数で腺腫が描出される。ただしとの鑑別が必要

まとめ

  • 刺激試験は、を静注しての反応性を直接見るで、代表的プロトコルは 400 µg静注・複数時点での測定である。
  • ⭐ 産生では反応が鈍化・消失する(87〜90%)のに対し、では反応が保たれる(鈍化はわずか2%)。を示す2病態の鑑別の中心になる。
  • ではむしろ反応が誇張される。「鈍い」「保たれる」「誇張される」の3方向を区別する。
  • 単独では確定できず、・比・SHBG・と組み合わせて判断する。

出典

  1. 1.2013 European Thyroid Association Guidelines for the Diagnosis and Treatment of Thyrotropin-Secreting Pituitary Tumors(European Thyroid Association(Beck-Peccoz et al., European Thyroid Journal)・2013)TRH刺激試験のプロトコルとしてTRH 200 µg静注、投与直前と投与後20・60・90・120分のTSH測定を用いていること、TRH刺激でTSH反応が減弱するのはTSH産生下垂体腺腫の90%でみられ甲状腺ホルモン抵抗性では通常保たれるという鑑別点を、原文の診断・鑑別診断の節で確認した。閲覧 2026-08-28
  2. 2.Role of Thyrotropin-Releasing Hormone Stimulation Test and Autoantibody in 952 Subjects with Subclinical Hypothyroidism(Journal of the Endocrine Society(Yoo MH, Kim HJ, Park S, et al.)・2024)TRH刺激試験のプロトコルとしてTRH 400 µgを静注し、投与直前および投与後30・45・60・90・120分にTSHを測定したこと、TSHのピーク値から基礎値を引いたデルタTSHが25.00 mIU/L超を「過剰反応」と定義したこと、潜在性甲状腺機能低下症952例中66%が過剰反応を示したことを確認した。閲覧 2026-08-28
  3. 3.Thyrotropin-Secreting Pituitary Adenomas(Endotext(Persani L, Lania A, Beck-Peccoz P / MDText.com)・2025)TRH刺激試験でTSH・αサブユニットの反応が鈍いことがTSH産生下垂体腺腫の大多数にみられ、デルタTSH(刺激後ピーク値マイナス基礎値)を男性3 mU/L未満・女性5 mU/L未満とするカットオフで87%が鈍化反応を示す一方、RTHβ患者はこの基準で鈍化を示すのはわずか2%にとどまり大半で明瞭なTSH上昇が保たれること、αサブユニットの反応がTSHの反応より大きいという解離は他の下垂体ホルモンを共分泌するTSH産生腺腫に特徴的であること、T3抑制試験がリオチロニン1日80〜100 µgを8〜10日間投与するプロトコルであること、TSH産生下垂体腺腫でTSH分泌の完全抑制が記録された報告は無いこと、RTHβ患者47例中45例は定性的には正常なTSH抑制パターンを示すこと、高齢者や心疾患患者ではT3抑制試験が禁忌であること、可能な限りT3抑制試験とTRH刺激試験の両方を組み合わせることで感度・特異度が高まるため両者の併用を推奨することを確認した。閲覧 2026-08-28