Microbe Atlas · 細菌
Mycobacterium africanum
- 分類
- 抗酸菌 / Acid-fastMycobacterium
- 性状
- 抗酸菌 Acid-fast桿菌 Bacilli
- 科目
- Medical Microbiology
- トピック
- 2/34: Causative agents of human tuberculosis, Mycobacterium leprae
- 原因となる疾患
- 結核
🧠 全体像:M. africanumは西アフリカのヒト結核の主要な原因菌で、結核菌Mycobacterium tuberculosis結核菌(Mycobacterium tuberculosis)Mycobacterium tuberculosis(結核菌)・M. bovisと同じMycobacterium tuberculosis complex(MTBC)に属す。ヒトに適応したMTBCの系統のうち系統5・系統6・系統9がこの菌にあたり(2022年時点で記載されているヒト適応系統は9つ)、M. tuberculosis var. africanum とも呼ばれる。西アフリカの結核症例の最大50%を占めると推定されている1。臨床像・診断・治療はヒト型結核とほぼ同一なので、押さえるべきは「どこで・誰に見られるか」という疫学の位置づけと、発育が遅く病勢 disease activity (course) 病勢(disease activity (course)) disease activity (course)(病勢) の進みが緩やかという表現型の差である。
微生物学的な特徴
形態・染色性(抗酸菌、Ziehl-Neelsen陽性)はMTBCの他種と共通する。遺伝学的な区別はゲノムの欠失領域で行う——M. tuberculosisとの区別はRD9の欠失で付き、M. africanumのうち系統5はさらにRD711を、系統6はRD702を欠く1。
系統5・系統6はかつて Maf1・Maf2 と呼ばれていた区分で、現在はMTBCの系統番号で呼ぶのが標準である。培養上の性状もM. tuberculosisとは体系的に違う1。
| 項目 | 系統5 | 系統6 | M. tuberculosis |
|---|---|---|---|
| 好む炭素源 | グリセロールとピルビン酸 | ピルビン酸 | グリセロール |
| 発育速度 | 遅い | 最も遅い | 最も速い |
| 発育する酸素条件 | 微好気性microaerophilic微好気性(microaerophilic)microaerophilic(微好気性) | 微好気性microaerophilic微好気性(microaerophilic)microaerophilic(微好気性) | 好気性 |
| 集落の性状 | 小さく貧弱 | 小さく貧弱 | 大きく良好 |
| 硝酸nitric acid 硝酸(nitric acid)nitric acid(硝酸) 還元酵素 | 陰性〜弱陽性 | 陰性〜弱陽性 | 陽性 |
| ウレアーゼ | 陽性(平均活性は弱い) | 陽性(平均活性は強い) | 陽性(平均活性は強い) |
| 主な分布 | 西アフリカの東側 | 西アフリカの西側 | 世界中 |
💡 「中間的な性状」という覚え方より、代謝と酸素要求の違いで捉えるほうが正確である。 M. tuberculosisはグリセロールを炭素源として好気的 aerobic 好気的(aerobic) aerobic(好気的) に速く育つのに対し、M. africanumはピルビン酸を好み、酸素の少ない層で小さく貧弱な集落をつくる。この発育の遅さは系統6でとくに際立つ。⚠️ 系統9については表現型のデータがまだ無く、この比較に含めることができない1。
感染経路と疫学
- 西アフリカの結核症例の最大50%がM. africanumに帰属されると推定されている1
- 系統ごとに偏りがある。系統5は西アフリカの東側(ベナン・ガーナ)、系統6は西側(ギニアビサウ・シエラレオネ・ガンビア)に多く、系統9はこれまでソマリアからのみ分離されている1
- 2024年にはM. tuberculosis complex ゲノム10万件超の解析から、中部アフリカに系統10が提案された。M. africanumの進化史・移動史の「失われた環」にあたりうるとされ、「西アフリカだけ」という枠は更新されつつある2
- 伝播経路はヒト型結核と同じ空気感染airborne transmission空気感染(airborne transmission)airborne transmission(空気感染)(ヒト-ヒト間)
- 西アフリカ出身者の結核でも検出されうる
- 患者背景に偏りが報告されている。ガンビアではM. africanum感染がHIVHIV(human immunodeficiency virus)共感染 coinfection 共感染(coinfection) coinfection(共感染) 者・高齢者・重度の栄養不良者に多かった(ただしHIV共感染 coinfection 共感染(coinfection) coinfection(共感染) との関連については報告が一致していない)1
⭐ 歴史的な区分に注意する。 M. africanumはかつて産地により「亜型I=西アフリカ/亜型II=東アフリカ」と分けられていたが、東アフリカ由来とされた亜型II、いわゆる Uganda genotype は、遺伝学的解析で系統4の亜系統 sublineage亜系統(sublineage) sublineage(亜系統)、すなわちM. tuberculosis sensu stricto に属すと判明した。この整理を経てM. africanumは西アフリカ中心の菌という位置づけになった1。古い教科書の「東アフリカ型」という記述はこの旧分類に由来する。
起こす疾患・診断・治療
臨床像(一次結核Primary TB一次結核(Primary TB)Primary TB(一次結核)・二次結核Post-primary TB二次結核(Post-primary TB)Post-primary TB(二次結核)・肺外結核extrapulmonary tuberculosis肺外結核(extrapulmonary tuberculosis)extrapulmonary tuberculosis(肺外結核))、診断法(WHOWHO(World Health Organization)推奨迅速分子検査 rapid molecular test迅速分子検査(rapid molecular test) rapid molecular test(迅速分子検査)・抗酸菌塗抹acid-fast smear抗酸菌塗抹(acid-fast smear)acid-fast smear(抗酸菌塗抹)・培養)、標準治療(2HRZE/4HRを含む多剤併用 combination therapy / polypharmacy多剤併用(combination therapy / polypharmacy) combination therapy / polypharmacy(多剤併用))はいずれも結核菌Mycobacterium tuberculosis結核菌(Mycobacterium tuberculosis)Mycobacterium tuberculosis(結核菌)のノートに準ずる。胸部X線像にもM. tuberculosisとの差は認められていない1。
標準の第一選択4剤への反応はM. tuberculosisと同様と報告されており1、ピラジナミドpyrazinamide, Z ピラジナミド(pyrazinamide, Z)pyrazinamide, Z(ピラジナミド) に通常耐性を示すM. bovis3とは異なり、標準4剤レジメンをそのまま用いる。
⚠️ ただし「同じ薬が効く」=「同じ速さで治る」ではない。 M. tuberculosis系統4の感染例に比べM. africanum系統6の感染例は治療反応(喀痰の陰性化)が遅く、その背景として診断時の喀痰中に薬剤が効きにくい持続生存菌が多いことが指摘されている1。
💡 一方で、感染してから発病するまでは緩やかである。 ガンビアの研究では伝播率が同等でも、M. tuberculosisに曝露した者のほうが活動性結核 active tuberculosis 活動性結核(active tuberculosis) active tuberculosis(活動性結核) へ進展しやすかった。総説はM. africanumの感染を全体として弱毒性と位置づけている1。
まとめ
- MTBCのヒト適応系統のうち系統5・系統6・系統9がM. africanumにあたり、西アフリカの結核症例の最大50%を占めると推定される1。
- 系統5は西アフリカの東側、系統6は西側に多く、系統9はソマリアのみ。2024年には中部アフリカで系統10が提案された12。
- 旧来の「亜型II=東アフリカ」は系統4の亜系統 sublineage 亜系統(sublineage) sublineage(亜系統) と判明しており、現在は使わない区分である1。
- 培養ではピルビン酸を好み、微好気性microaerophilic 微好気性(microaerophilic)microaerophilic(微好気性) で小さく貧弱な集落をつくる。硝酸nitric acid 硝酸(nitric acid)nitric acid(硝酸) 還元酵素は陰性〜弱陽性で、発育は系統6が最も遅い1。
- 臨床像・診断・治療は結核菌 Mycobacterium tuberculosis 結核菌(Mycobacterium tuberculosis) Mycobacterium tuberculosis(結核菌) とほぼ同一。標準4剤への反応は同等だが系統6では喀痰の陰性化が遅く、一方で活動性結核 active tuberculosis 活動性結核(active tuberculosis) active tuberculosis(活動性結核) への進展は緩やかである1。ピラジナミドpyrazinamide, Z ピラジナミド(pyrazinamide, Z)pyrazinamide, Z(ピラジナミド) に通常耐性のM. bovisとは異なり標準4剤をそのまま使える点は変わらない3。
出典
- 1.Tuberculosis caused by Mycobacterium africanum: Knowns and unknowns(PLOS Pathogens・2022)PMC9135246 の全文を確認した。MTBCのヒト適応系統9つのうちL1・L2・L3・L4・L7・L8が*M. tuberculosis* sensu stricto、L5・L6と新たに記載されたL9が*M. africanum*(*M. tuberculosis* var. africanum)に分類される。L5・L6は以前 Maf1・Maf2 と呼ばれていた系統で、*M. tuberculosis*との区別はRD9の欠失、L5はさらにRD711の欠失、L6はRD702の欠失で識別される。旧来の「亜型I=西アフリカ/亜型II=東アフリカ」という区分のうち亜型II(Uganda genotype)は後にL4の亜系統と判明した。分布はL5が西アフリカの東側(ベナン・ガーナ)、L6が西側(ギニアビサウ・シエラレオネ・ガンビア)に偏り、L9はこれまでソマリアからのみ分離されている。西アフリカの結核症例の最大50%が*M. africanum*に帰属される。表1は炭素源(L5:グリセロールとピルビン酸、L6:ピルビン酸、*M. tuberculosis*:グリセロール)、発育速度(L6が最も遅く、L5がその次、*M. tuberculosis*が最も速い)、発育層(両系統は微好気性、*M. tuberculosis*は好気性)、集落(両系統はdysgonic、*M. tuberculosis*はeugonic)、硝酸還元酵素(両系統は陰性〜弱陽性、*M. tuberculosis*は陽性)、ウレアーゼ(いずれも陽性だが、平均活性は*M. tuberculosis* L4と系統6が系統5より強い)をまとめている。なおL9の表現型データは存在しないため比較に含められないと明記している。臨床面では胸部X線像に差はなく、標準の第一選択4剤への反応は両者で同様だが*M. tuberculosis* L4感染例のほうが治療反応が速く、*M. africanum*感染例では診断時の喀痰中に持続生存菌が多い。ガンビアでは*M. africanum*感染がHIV共感染者・高齢者・重度の栄養不良者に多いが、HIV共感染との関連はなお議論がある。ガンビアの研究では伝播率が同等でも*M. tuberculosis*に曝露した者のほうが活動性結核へ進展しやすく、総括でも*M. africanum*の感染は概して弱毒性であると述べている。閲覧 2026-09-27
- 2.Newly Identified Mycobacterium africanum Lineage 10, Central Africa(Emerging Infectious Diseases(Centers for Disease Control and Prevention)・2024)抄録で、*Mycobacterium tuberculosis* complex のゲノム10万件超をTB-Annotatorで解析した結果、中部アフリカに未知の系統(L10と提案)が見いだされ、*M. africanum*の進化史・地理的移動史の「失われた環」にあたりうると示唆されたことを確認した。抄録の範囲にとどまる。閲覧 2026-09-27
- 3.Mycobacterium bovis (Bovine Tuberculosis) in Humans(Centers for Disease Control and Prevention, Division of Tuberculosis Elimination・2011)2011年8月付のファクトシート本文で確認した(発行元は自動取得を拒否したため、Wayback Machine の2025年4月21日保存版を curl で取得し pypdf で本文を抽出した)。逐語は「M. bovis is usually resistant to one of the antibiotics, pyrazinamide, typically used to treat TB disease. However, resistance to just pyrazinamide does not usually cause problems with treatment, because TB disease is treated with a combination of several antibiotics. Latent infection without disease is not treated with pyrazinamide.」で、*M. bovis*は結核治療薬のうちピラジナミドに通常耐性だが、ピラジナミド単剤の耐性は併用療法のため通常は治療上の問題にならず、発病していない潜在性感染はピラジナミドで治療しない。*M. africanum*との対比に用いた。閲覧 2026-09-27