症状ノート一覧へ

Symptoms · Published

夜間多尿

Nocturnal polyuria

臓器系
腎・泌尿器循環器
科目
Translational Medicine and PathophysiologyOtorhinolaryngology
トピック
病態生理学 I-3:心不全の原因と症状耳鼻咽喉科 37:睡眠時無呼吸の症状・原因・診断
関連疾患
ネフロン癆

🧠 全体像:はを起こす3機序のうちの1つで、膀胱ではなく尿の産生量の問題である。1日の尿量は正常なのに、その配分が夜に偏る。だから膀胱を治療しても効かず、夜に尿が作られる理由——体液が日中どこにたまり、夜どこへ戻るか——を探すことが治療になる。

定義

は尿量の絶対値ではなく、夜間の尿量が1日尿量に占める割合で定義するのが最も一般的である。この割合を指数(÷24時間尿量)という。閾値は年齢とともに上がり、(ICS)の2019年の用語報告は、年齢区分そのものが明確に定義されていないと断ったうえで、高齢者(65歳超など)で33%、若年者で20%超、中年ではその中間(20〜33%)という線を挙げている1。

⚠️ ただしICS自身はこの数字を定義として採らなかった。 同報告は、20%・33%という値がに基づかず検証もされていないこと、体重70 kg・睡眠8時間の人を暗黙に前提していることを理由に、2018年の定義を「主睡眠期における過剰な尿産生」とだけ述べ、「過剰」をどう量的に決めたかを臨床でも研究でも明示することを求めている1。だから割合そのものより「1日尿量は正常なのに夜に偏っている」という形を確認し、どの指標で判定したかを記録する。

同報告が並べている指標は次の4つである1。

指標 計算 目安
指数 ÷24時間尿量 高齢者33%、若年者20%超、中年20〜33%。最もよく使われる
体重あたりの ÷体重 10 mL/kg超
夜間尿産生速度 ÷主睡眠期の長さ 90 mL/時超(8時間で約450 mL)。⚠️ 男性でのみ示された値で、女性の検討は無い
指数 ÷最大1回排尿量 1.5超なら、を超える夜間の尿産生が原因

⭐ 判定にはが要る。は就寝前の最後の排尿の後から数え始め、起床しようと決めたあとの第1排尿(起床時第1尿)を含めて数える1。⚠️ 一方、夜間排尿「回数」のは起床時第1尿の手前で終わる1。同じ1回が量には入り回数には入らないので、日誌を読むときに取り違えやすい。24時間尿量そのものが多ければ、それはではなく多尿である。

原因

機序 代表
日中に下肢へたまった水分が、臥位でへ戻る 心不全、下肢の、、
夜間のと
分泌のの消失 加齢、一部の腎疾患
夜間に流入する水分・利尿の増加 夕方以降の飲水・飲酒・、利尿薬の内服時刻

💡 下肢浮腫によるは、日中の立位で貯留した水分を夜間の臥位で「排泄している」だけという理解が要点になる。夕方のやで、夜ではなく夕方に排泄させる方向へ動かせる。

⚠️ を全般の説明として使い切らない。の低下や睡眠障害が主因なら、飲水制限も利尿薬の時刻変更も効かない。

治療——原因の治療と行動療法が先で、薬は最後

まず原因(心不全・睡眠時無呼吸・糖尿病・腎不全・肝胆道疾患・高血圧など)を精査して治療し、夕方以降の飲水・飲酒・を減らし、利尿薬の内服時刻を見直し、夕方のやで日中の貯留そのものを減らす。日本のの電子添文は、この順序を効能又は効果に関連する注意として明文化しており、膀胱障害(・)との原因疾患の精査・治療と・行動療法を行ったうえで、指数が33%以上かつ夜間排尿回数が2回以上の場合にのみ投与を考慮するとしている2。

はを介して夜間の尿産生そのものを減らす。⚠️ 適応の範囲も用量の決め方も国によって違うので、「には」と一括りにしない。

日本(ミニリンメルトOD錠)2 3
効能・効果 男性におけるによる 成人の特発性によるの対症療法(性別を限らない)
用量 成人男性に1日1回就寝前50µg。を来しやすい場合・高齢者では25µgからの開始を考慮 女性25µg・男性50µgを就寝1時間前に。65歳以上では増量せず、この用量を超えない
開始の条件 指数33%以上かつ夜間排尿回数2回以上 投与前の臨床評価とを求めるが、指数の閾値は示していない
血清ナトリウム測定 投与前、開始・増量から1週以内(3〜7日)、1ヵ月後、以降定期的 65歳以上で投与前、第1週(開始後4〜8日)、1ヵ月後
中止の線 135 mEq/L未満、または急激な低下 (135 mmol/L)未満
効果判定 8〜12週を目安に改善がなければ中止を考慮 3ヵ月を超えて利益が見られないでは継続を慎重に再考

⚠️ 最大の危険は()である。 日本の電子添文は欄の筆頭にこれを置き、重大な副作用として0.8%に挙げる2。禁忌は両国でほぼ共通で、またはその既往、利尿薬による治療を要する心不全・、、中等度以上の(50 mL/分未満)、習・症(尿生成量が40 mL/kg/24時間超)が並ぶ23。日本ではさらに、利尿剤・類似剤・ループ利尿剤の投与中と、副腎皮質ステロイド剤の投与中がである2。

💡 女性の用量が低いのは体格の話ではない。英国のSmPCは、50µgでは女性のほうがのリスクが高い可能性があるとして、性別ごとの用量推奨を守るよう4.4で明記している3。飲水も、投与1時間前から投与8時間後まで最小限に制限する必要がある。

⚠️ 同じSmPCの成績にも「33%」という数字が出てくるが、あれは夜間排尿回数が33%超減った患者を反応例と定義した試験の指標であって、指数ではない3。同じ数字が別の意味で並ぶ領域なので、どちらの33%かを確かめて読む。

まとめ

  • は膀胱ではなく尿の産生配分の問題で、の1日尿量に対する割合(指数)で定義するのが一般的である。
  • 閾値は年齢で変わる(高齢者33%・若年者20%超)が、ICSはこの数字をが検証されていないとして定義には採らず、「どの指標で過剰と判定したか」を明示するよう求めている。
  • 判定にはが必要。には起床時第1尿を含めるが、夜間排尿回数には含めない。 24時間尿量が多ければ多尿として扱う。
  • 主な原因は心不全・下肢浮腫の夜間再吸収、睡眠時無呼吸、のの消失、夕方の飲水・利尿薬。
  • 治療は原因の治療と行動療法が先。は最後で、の監視が要り、適応の性別・用量・開始条件は国によって違う。
  • の3機序の1つにすぎず、他の2つを除外してからを決める。

出典

  1. 1.International Continence Society (ICS) report on the terminology for nocturia and nocturnal lower urinary tract function(International Continence Society (ICS)/Neurourology and Urodynamics・2019)2018年の夜間多尿(sign)の定義が「主睡眠期における過剰な尿産生」であり、「過剰」の量的な決め方は臨床・研究のいずれでも明示する必要があるとしていること、従来の20%・33%という夜間多尿指数の値について「正規分布に基づかず妥当性検証もされていない」「体重70 kg・睡眠8時間を前提している」と述べていること、それでも最もよく使われる定義として夜間多尿指数(夜間尿量÷24時間尿量)を挙げ、年齢区分は明確に定義されていないと断ったうえで高齢者(65歳超など)33%・若年者20%超・中年20〜33%を示していること、ほかに体重あたり10 mL/kg超、夜間尿産生速度90 mL/時超(男性でのみ検討された値で女性のデータは無い)、夜間頻尿指数(夜間尿量÷最大1回排尿量)1.5超を挙げていること、夜間尿量は就寝前の最後の排尿の後から起床時第1尿までを含める一方、夜間排尿回数の計測は起床時第1尿の前で終わることを本文と図3の計算例で確認した。ブリストル大学リポジトリの査読後著者最終稿(AAM)で読んでおり、Wileyの誌上版(version of record)は取得していない。閲覧 2026-09-17
  2. 2.ミニリンメルトOD錠25µg/ミニリンメルトOD錠50µg 電子添文(医薬品医療機器総合機構(PMDA)/キッセイ薬品工業・2025)2025年6月改訂(第8版)の電子添文で、効能又は効果が「男性における夜間多尿による夜間頻尿」であること、5. 効能又は効果に関連する注意が投与の考慮を「夜間多尿指数(24時間の尿排出量に対する夜間の尿排出量の割合)が33%以上、且つ夜間排尿回数が2回以上の場合にのみ」と限っていること、前立腺肥大症・過活動膀胱などの膀胱蓄尿障害と、夜間多尿の原因疾患(高血圧症・糖尿病・心不全・腎不全・肝胆道疾患・睡眠時無呼吸症候群など)の精査と治療、飲水制限などの生活指導・行動療法を先に行うよう求めていること、用法及び用量が成人男性に1日1回就寝前50µgで、低ナトリウム血症を発現しやすい場合と高齢者では25µgからの開始を考慮すること、8〜12週を目安に改善がなければ中止を考慮すること、投与前に血清ナトリウム値を測定し、投与開始または増量から1週以内(3〜7日)・1ヵ月後・以降定期的に測定して135mEq/L未満なら投与を中止すること、禁忌が低ナトリウム血症またはその既往・習慣性または心因性多飲症(尿生成量が40mL/kg/24時間を超える)・心不全またはその既往あるいは疑い・利尿薬による治療を要する体液貯留またはその既往・抗利尿ホルモン不適合分泌症候群・中等度以上の腎機能障害(クレアチニンクリアランス50mL/分未満)・過敏症の既往・チアジド系利尿剤やチアジド系類似剤やループ利尿剤の投与中・副腎皮質ステロイド剤の投与中であること、重大な副作用として低ナトリウム血症が0.8%に挙がることを確認した。閲覧 2026-09-17
  3. 3.Noqdirna 25 microgram oral lyophilisate — Summary of Product Characteristics(Ferring Pharmaceuticals Ltd(英国 electronic medicines compendium)・2021)2021年4月29日改訂の英国SmPCで、適応が「成人の特発性夜間多尿による夜間頻尿の対症療法」であり性別を限っていないこと、用量が女性25µg・男性50µgを就寝1時間前に舌下投与と性別で分かれること、50µgでは女性のほうが男性より低ナトリウム血症のリスクが高い可能性があるため性別ごとの用量推奨を守る必要があると4.4に明記されていること、65歳以上では増量を推奨せず、女性25µg・男性50µgを超える1日用量を用いるべきでないこと、65歳以上では投与開始前・第1週(開始後4〜8日)・1ヵ月後に血清ナトリウムを測定し、正常下限(135 mmol/L)を下回れば中止すること、3ヵ月を超えて治療上の利益が見られない高齢患者では継続を慎重に再考すること、投与1時間前から投与8時間後まで飲水を最小限に制限する必要があること、禁忌が過敏症・習慣性または心因性多飲症(尿生成量が40mL/kg/24時間を超える)・利尿薬を要する心不全や体液貯留(既往を含む)・中等度以上の腎機能障害(クレアチニンクリアランス50mL/分未満)・低ナトリウム血症の既往・抗利尿ホルモン不適合分泌症候群であることを確認した。閲覧 2026-09-17