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Symptoms · Published

心因性偽失神

Psychogenic pseudosyncope

別名
PPS
臓器系
精神循環器
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 S-04:失神の鑑別診断

🧠 全体像は「失神に見えて失神ではない」一過性の反応消失で、低下を伴わない心理的機序による現象である。臨床の場では失神と同じ土俵で疑われるが、機序としては別物で、転換性障害の身体表現として起こる1。診療の罠は両方向にある——を「だろう」と軽視して見逃すことと、PPSを「命に関わらない軽い病態」として片付けてしまうことの両方である。コホートでは、PPS患者は血管迷走神経性失神の患者よりむしろ外傷を伴う転倒が多いことが示されており2、「だから安全」という直感は当てにならない。

定義と用語の整理

患者の訴えは「気を失った」「倒れた」であり、失神と区別がつかない。一過性には2型あり、律動的な運動を伴いに似る(PNES)と、目立った運動を伴わず失神に似るPPSに分かれる3。PPSという呼称が定着しているが、「失神」という古い呼び方は病態を正しく表さない——失神はの障害で定義される用語であり、PPSには低下がないため、失神という語を当てはめること自体が誤りだからである。

に見えるあいだ、患者本人には健忘(意識が本当に途絶えたという記憶の欠落)がないことが多く、この点も真の失神・とは異なる。

病態生理

真の失神はという単一のをたどるのに対し、PPSにの破綻はない。で誘発された発作をした研究では、見かけ上のの前後で心拍数・血圧は低下するどころかむしろ上昇しており、血管迷走神経性失神の低下パターンと正反対だった4。つまりPPSは「循環が保たれたまま反応だけが消える」状態であり、解離という心理的とはに反応性を遮断していると理解される。

💡 このため診察時に的に眼を開けようとすると強く抵抗する、瞼が痙攣的に閉じ続けるといった所見が手がかりになる。真のではな抵抗という運動制御そのものが働かないため、抵抗の存在は解離性の反応が保たれている証拠になる。

落とし穴は両方向にある

  • ⚠️ らしい」で片付けての評価を省略しない。 PPSと真の失神は併存しうるし、な病歴だけで確定診断はできない。失神で扱うを示唆する所見(労作中・臥位での発症、なし、心疾患の既往、心電図異常)は、PPSを疑う場面でも同じ重みで確認する。
  • ⚠️ PPSをの低い「安全な」病態として扱わない。 集団ベースのコホートでは外傷を伴う転倒がPPS群で73.1%、血管迷走神経性失神群で50.2%と、むしろPPS群で多かった2。「だから受け身が取れて怪我をしにくい」という直感は裏付けを欠く。
  • ⚠️ 発作頻度の高さを「大げさ」と取らない。 同じコホートで発作回数の中央値はPPS群30回・血管迷走神経性失神群5回であり2、頻回の受診・救急搬送歴自体がPPSを示唆する所見になりうる。

鑑別の進め方

真の失神(反射性・ PPS
きっかけとなる 変化なし(心拍・血圧はむしろ上昇)4
数秒〜1分程度 数分〜数時間に及ぶことがあり、傾斜台上でも中央値44秒対20秒と有意に長い34
していることが多い 強くし、97%でが確認される(血管迷走神経性失神は7%)4
発生頻度 通常は 1日に複数回起こることがあり、年間発作回数も多い32
好発 年齢層は幅広い 若年女性に多い(平均34.8歳、女性85.9%)2
体位 立位が多い(は臥位でも) 臥位での発症が対照より多い(62.8%対18.1%)2

⭐ 病歴だけで確信が持てない場合、に血圧・心拍数・・ビデオ記録を同時併用することが確定診断の中心になる。低血圧・徐脈を伴わずに反応消失が誘発されればPPSと確定できる31

flowchart TD
    A["失神に見える一過性の反応消失"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiogenic'>心原性</span>を示唆する所見があるか"}
    B -->|"あり"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiogenic syncope'>心原性失神</span>の評価を優先<br>PPSの併存も除外しない"]
    B -->|"なし"| D{"持続が長い・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eye closure'>閉眼</span>が強い<br>高頻度・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-conventional'>非典型的</span>な誘因があるか"}
    D -->|"典型的な失神像"| E["反射性・起立性として評価"]
    D -->|"PPSを疑う"| F["血圧・心拍数・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroencephalography, EEG'>脳波</span>・ビデオを<br>同時記録する<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tilt table test'>傾斜台試験</span>"]
    F --> G{"反応消失時に<br>低血圧・徐脈を伴うか"}
    G -->|"伴う"| E
    G -->|"伴わない"| H["PPSと確定"]

対症療法の考え方

PPS自体を対象にした確立された治療法は少ないが、まず診断名を患者に明確かつ非難的でない形で説明することが治療の出発点になる1。「気のせい」「」という説明は治療関係を壊し受診行動を悪化させる。心理的機序による身体反応であることを伝えたうえで、精神科・心療内科へつなぎ、PNESの領域で有効性が示唆されているを選択肢として検討する1。不要な検査の繰り返しは、症状が身体疾患であるという誤った確信を強化しうるため、診断確定後は避ける。

まとめ

  • PPSは低下を伴わない心理的機序による一過性の反応消失で、真の失神とは機序が異なる転換性障害・の身体表現である。
  • 下では、心拍・血圧はむしろ上昇し、血管迷走神経性失神の低下パターンと正反対になる。
  • が長く、が強く、発作頻度が高く、若年女性に多いという特徴が鑑別の手がかりになる。
  • らしい」での評価を省略しない。両者は併存しうる。
  • 外傷を伴う転倒はPPSでもむしろ多く、「だから安全」という直感は裏付けを欠く。
  • 確定診断は血圧・心拍数・・ビデオを同時記録するで、低血圧・徐脈を伴わない反応消失を確認すること。
  • 治療の出発点は診断名の丁寧な説明で、精神科的評価とにつなげる。

出典

  1. 1.2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope(European Society of Cardiology (ESC)・2018)心因性一過性意識消失には運動を伴いてんかん発作に似るpsychogenic non-epileptic seizures(PNES)と、運動を伴わず失神に似るpsychogenic pseudosyncope(PPS)の2型があること("one resembles epileptic seizures...and one, without gross movements, resembles syncope [PPS]")、PPSの見かけ上の意識消失は数分〜数時間に及び1日に複数回起こりうること("Duration of apparent LOC lasting many minutes to hours; high frequency, up to several times a day")、傾斜台試験が失神とPPSの鑑別に有用でありビデオ記録の併用が血圧・心拍との対比を可能にすること("Tilt testing may be helpful in separating syncope from PPS")を確認した。閲覧 2026-08-10
  2. 2.The semiology of tilt-induced psychogenic pseudosyncope(Neurology (American Academy of Neurology)・2013)傾斜台試験800件中43件(5.4%)がPPSと判定され、傾斜台上での見かけ上の意識消失時間の中央値はPPSで44秒、血管迷走神経性失神で20秒と有意に長く、閉眼はPPSの97%・血管迷走神経性失神の7%に見られたこと、PPSでは意識消失の前後で心拍数・血圧がむしろ上昇し血管迷走神経性失神の低下パターンと対照的であったことを確認した。閲覧 2026-08-10
  3. 3.Clinical characteristics of psychogenic pseudosyncope in a population-based cohort(EP Europace (European Society of Cardiology)・2025)PPS群(78例)は血管迷走神経性失神群(1459例)と比べて有意に若年(平均34.8歳 対 46.9歳)・女性優位(85.9% 対 62.6%)で、発作回数の中央値が多く(30回 対 5回)、臥位での発症が多く(62.8% 対 18.1%、リスク比3.48で最も強い予測因子)、外傷を伴う転倒の頻度もPPS群で有意に高かった(73.1% 対 50.2%、リスク比1.45、P<0.001)ことを確認した。閲覧 2026-08-10
  4. 4.Managing psychogenic pseudosyncope: facts and experiences(Cardiology Journal・2014)PPSの大半は転換性障害に分類され内的ストレスの身体的表現と考えられていること、確定診断には血圧・心拍数・脳波ビデオ記録を同時に行う傾斜台試験で典型的な発作を記録することが有効であること、診断名を患者へ明確かつ理解しやすい形で説明することが治療の出発点であり、認知行動療法が有益との示唆はあるがPPS自体を対象にした正式な治療研究は限られることを確認した。閲覧 2026-08-10