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Disease Atlas · 神経 · 病態

心因性非てんかん性発作

Psychogenic nonepileptic seizures

別名
心因性非てんかん発作機能性発作解離性発作PNES
臓器系
神経精神
科目
NeurologyPsychiatry
トピック
神経内科 G2-29:てんかん発作とてんかん(鑑別診断・分類・原因)精神医学 A-13:身体症状症・変換症・病気不安症の病因・診断・治療
上位概念
身体症状症・変換症・病気不安症
鑑別疾患
てんかん内側側頭葉てんかん
関連疾患
解離症群
症状
痙攣
検査値
脳波検査

🧠 全体像:は、に似た発作性のエピソードでありながら、⭐ 大脳皮質のを伴わないという一点で定義される。⚠️ 「ではない」ことがこの疾患の出発点である——エピソードは定義上けっしてではなく、・とは別物である1(外的利益を目的とする、を目的とするとの線引きはの項)。⭐ 確定診断はで典型発作を捉えることで、単独で決め手になる徴候は存在しない12。⚠️ 診断がつくまでの平均は7.2年で3、その間にの漫然投与と救急での過剰治療という医原性の害が積み上がる。診断名をどう伝えるかが、そのまま治療の第一歩になる。

呼称——名前が動いている

この病態には複数の呼称が並立しており、コーパス内でも「」「」「」が使い分けられている。指しているものは同一である。

呼称 出どころ・使われ方
(PNES) てんかん学で最も広く使われる。-TRでは()に位置づけられる1
の枠組みから見た呼び方。他の機能性神経症状(・)と並べて扱える
ICD-11ではに分類される1。英国の(CODES)もこの呼称を用いている4

⚠️ 「」という語は使わない。 患者にも医療者にも「演技している」とされやすく、このそのものが診療を壊す。⚠️ 同資料は hysterical seizures・functional seizures・stress seizures も過去の語として避けるべきとしている1。ただし「」はの枠組みからの呼称としてコーパスでも定着しているため、本ノートは別名として併用する。

疫学と併存

指標 値
米国の 10万人あたり3.11
米国の 10万人あたり108.51
外来てんかん専門クリニック受診者 5〜10%1
入院てんかんモニタリングユニットの入院患者 20〜40%1
ベンゾジアゼピン抵抗性と考えられた 10%が見直しでPNES1

⚠️ てんかんとの併存がある1。⭐ これが「どちらか一方」という思考を禁じる最大の理由である——てんかんの診断が確定していることは本症を否定せず、逆に本症の診断が確定してもてんかんの併存を否定しない。併存例では、の中止という判断が最も難しくなる。

危険因子として、女性、精神科的併存症(抑うつ・不安・)、小児期のの既往、外傷・脳損傷・手術の既往、が挙げられている1。⚠️ ただし心理的が確認できないことは、診断を否定する根拠にならない(のがすでにの存在を必須要件から外している)。

臨床像——手がかりはあるが、決め手はない

⚠️ PNESとを単独で確実に分ける病的徴候・症状は存在しない1。情報から得られるのは確率の移動であって、確定ではない。・失神・本症の三者を並べた病歴上の対比は発作の項に譲り、ここでは手がかりの強さと、その裏返しを扱う。

所見 意味
の ⭐ 本症のに中等度〜大きな影響を与える1
四肢運動の 同上1
骨盤の突き上げ・自転車漕ぎ様の運動 ⚠️ 本症に特異的ではない。 でも生じ、そちらは夜間発症が多い1
見かけ上の中の 覚醒していることを示す1

⚠️ 誤りは両方向に起こる。 「奇妙な運動・短時間・なし」というの典型像は本症と誤られやすいが、⭐ 逆に、本症をと読んでを積み増す誤りも起こる(の項)。どちらの向きの誤りも、所見だけで決めたことから生じる。

💡 のには2つの型がある。 律動的な運動を伴ってに似るのが本症で、目立った運動を伴わず失神に似るのがである。同じ機序の2つの表現型として並べて理解すると、とという検査の選び分けが自然に決まる。

診断——長時間ビデオ脳波と、4段階の確実性

⭐ 典型的なエピソードをで記録し、病歴と合わせて判定することがgold standardである12。エピソード中に上のてんかん性変化を伴わないことが、非てんかん性であることの根拠になる1。

⚠️ ビデオは世界のどこでも使えるわけではない。 ILAEの非タスクフォースはこれを踏まえ、病歴・情報・通常・ビデオの組み合わせによって、「疑い」「ほぼ確実」「臨床的確定」「記録による確定」の4段階で診断確実性を段階づける枠組みを提案した2。「確定していないから何もしない」ではなく、今いる段階を明示して次に進むための枠組みである。

flowchart TD
    A["反復する発作性エピソード<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-seizure medication'>抗発作薬</span>に反応しない"] --> B["病歴・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='witnessed'>目撃</span>情報・動画を集める"]
    B --> C{"典型発作を記録できるか"}
    C -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='long-term video EEG'>長時間ビデオ脳波</span>で典型発作を記録"| D["記録による確定<br>てんかん性変化を伴わない"]
    C -->|"記録できない・設備がない"| E["病歴と通常<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electroencephalography, EEG'>脳波</span>の組み合わせで<br>疑い〜臨床的確定に段階づける"]
    D --> F["てんかんの併存を別途評価する"]
    E --> F
    F --> G["診断を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empathy'>共感</span>的に告知する"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-seizure medication'>抗発作薬</span>の適応を見直す<br>併存てんかんがなければ監督下に減量・中止"]
    G --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive behavioral therapy, CBT'>認知行動療法</span>へつなぐ<br>併存する精神疾患は独立に治療する"]

⚠️ が正常でも本症を確定できず、があっても本症を否定できない。 実際、でのの存在は診断の遅れと関連する因子として報告されている3。

⚠️ 害は「治療されないこと」ではなく「誤って治療されること」から出る

⭐ 診断確定までの平均は7.2年(9.3年)である3。⚠️ この年月は、単に無治療で放置される期間ではない。てんかんとして扱われ続ける期間である。

医原性の害 中身
の漫然投与 ⚠️ は無益であるうえ有害でありうる。 診断確定後も継続することは不良な転帰と関連する1
に基づく 小児例の集積では、初期のを理由とするの中止が約25%で必要になった1
救急での過剰治療 ⚠️ 重積状態と誤られた症例では、意識障害または呼吸不全に至るまで大量のが投与された1
⚠️ 不要なと、それによる医原性合併症の報告がある1

⭐ だから「本症を疑うこと」は救急の場でも意味を持つ。 ベンゾジアゼピン抵抗性のと考えられた患者の10%が、見直しでPNESと判明している1。⚠️ 「効かないからもっと投与する」という反射が、この10%に対しては害そのものになる。

診断の伝え方が治療の一部である

⭐ 告知の失敗は、混乱・怒り・恨みを招くリスクが小さくない1。⚠️ 「すべて気のせい」という言い方をしない。 症状は実在し、本人の意図によるものではない、という2点を先に置く1。

  • 症状が実在すること、援助が可能であることを明示する1。
  • ではないことを、・との違いとして具体的に説明する1。
  • ⭐ 診断した神経内科医がその後の診療に関与し続ける——精神科へ送って終わりにすると、患者は見捨てられたと受け取る1。
  • 診断の受け入れそのものが転帰を改善すると考えられている1。

💡 家族・支援者への教育も同時に始める。 の安全確保と、救急要請を含む過剰な介入を減らす計画をあらかじめ作っておく(の項)。

治療

⭐ が最も有効な治療であるというコンセンサスがある1。ただし、⚠️ その効果の形を数字で見ると、直感とはずれる。

CODES試験は、成人の368例を、本症に特化した+標準的医療(186例)と標準的医療単独(182例)にした多施設である4。

評価項目 結果
:12か月時点の月あたり発作回数 ⚠️ 有意差なし。 中央値4回(0〜20)対7回(1〜35)、比0.78(95%信頼区間0.56〜1.09)、p=0.1444
直近6か月の最長無間 群で有意に長い(p=0.001)4
発作の煩わしさ 有意に軽い(p=0.020)4
(EQ-5D-5L) 有意に良好(p=0.010)4
有意に良好(p<0.001)4
心理的苦痛(CORE-10)・身体症状数(修正PHQ-15) 有意に良好(p=0.013・p=0.008)4
患者・臨床医による全般的改善、治療満足度 有意に良好(p=0.001・p<0.001・p<0.001)4

⭐ 「発作の回数は有意に減らなかったが、生活のほぼすべての指標が良くなった」——これがこの試験の読み方である。⚠️ 発作回数を唯一のに置くと、効いている治療を「無効」と判定してしまう。

薬物療法について。 ⚠️ 本症そのものに対して・ベンゾジアゼピンを処方しない——併存するてんかんや別の適応がある場合を除く。すでに服用している場合は、併存てんかんを慎重に除外したうえで監督下に段階的に中止する(の項)。併存する抑うつ・不安・は、それ自体の適応として独立に治療する1。

予後

⚠️ 「命に関わらない病気」ではない。 本症の患者の死亡リスクは一般人口の2倍を超え、と同程度であり、⚠️ 死亡の最大20%が自殺による1。生活の質の低下、失業、能力障害も高頻度である1。

⭐ この予後の重さが、「てんかんではなかった」で診療を終わらせてはならない理由である。

まとめ

  • ⭐ は、に似ながら皮質のを伴わない発作性エピソードである。呼称は・とも呼ばれ、指すものは同一である。
  • ⚠️ ではない。 定義上けっしてではなく、(外的利益)・()と区別する。「」という語を使わない。
  • ⭐ 確定診断はで典型発作を捉えること。 単独で決め手になる徴候は無く、ILAEは病歴・通常・ビデオの組み合わせで4段階に確実性を段階づける枠組みを示している。
  • ⚠️ てんかんとの併存がある。 どちらかの診断が確定しても、もう一方を否定しない。
  • ⚠️ 誤りは両方向に起こる。 が本症と誤られ、本症がと誤られる。骨盤の突き上げは本症に特異的ではない。
  • ⚠️ 診断確定までの平均は7.2年で、その間のの漫然投与・救急での過剰治療(挿管に至る例)が実害を生む。重積と考えられた症例の10%が本症である。
  • ⭐ 診断の伝え方が治療の一部。 症状の実在と非意図性を先に伝え、「気のせい」と言わず、診断した神経内科医が診療に関わり続ける。
  • ⭐ 治療は。 CODES試験では発作回数()に有意差は出なかったが、無間・・心理社会的機能などほぼすべてので有意に良好だった。⚠️ 発作回数だけを目標にしない。
  • ⚠️ 予後は軽くない。 死亡リスクは一般人口の2倍超でと同程度、死亡の最大20%が自殺による。

出典

  1. 1.Psychogenic Nonepileptic Seizures(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)本文をNCBI Bookshelfで確認した(最終更新2024年2月25日、Lui F・Murr NI)。米国の発生率が10万人あたり3.1・有病率が10万人あたり108.5と報告されていること、外来てんかん専門クリニック受診者の5〜10%がてんかんではなくPNESであること、入院てんかんモニタリングユニットの入院患者の20〜40%がPNESであること、ベンゾジアゼピン抵抗性の全般痙攣性てんかん重積状態と考えられた患者の10%が見直しでPNESと判明したこと、PNESとてんかんが併存しうること、PNESとてんかん発作を単独で確実に区別できる病的徴候・症状は存在しないこと、発作時の閉眼と四肢運動の非同期性がPNESの検査後確率に中等度〜大きな影響を与えること、骨盤の突き上げや自転車漕ぎ様の運動は前頭葉てんかんでも生じ夜間発症が多いこと、典型的なエピソードを長時間ビデオ脳波で記録し病歴と合わせることが診断のgold standardであること、見かけ上の意識消失下でも脳波にアルファ律動が出ていれば覚醒していることを示すこと、短時間のビデオ脳波も診断に有用と報告されていること、危険因子が女性・精神科的併存症(抑うつ・不安・心的外傷後ストレス障害)・小児期の性的虐待の既往・外傷・脳損傷・手術・学習障害であること、PNESが定義上けっして意図的でなく詐病・作為症とは異なること、「pseudoseizure(偽発作)」という語が患者にも医療者にも「演技している」と誤読されやすいこと、抗発作薬は無益であるうえ有害でありうること・診断確定後も抗発作薬を続けることが不良な転帰と関連すること・小児例の集積では初期の誤診を理由とする抗発作薬中止が約25%で必要になったこと、不要な気管挿管とそれによる医原性合併症の報告があること・重積状態と誤られた症例では意識障害または呼吸不全に至るまで大量の抗発作薬が投与されたこと、診断の告知は共感的に行う必要があり誤ると混乱・怒り・恨みを招くリスクが小さくないこと・「すべて気のせい」という言い方を避けること・診断した神経内科医がその後の診療に関与し続けて見捨てられ感を減らすこと、認知行動療法が最も有効な治療であるというコンセンサスがあること、PNES患者の死亡リスクが一般人口の2倍を超え薬剤抵抗性てんかんと同程度であること・死亡の最大20%が自殺によることを確認した。⚠️ 本章は用語の節で functional seizures を hysterical seizures・stress seizures と並べて『避けるべき過去の語』に挙げているが、近年の文献ではこの語が推奨語として用いられているため、本ノートは呼称の推奨をこの資料に依拠していない閲覧 2026-09-03
  2. 2.Minimum requirements for the diagnosis of psychogenic nonepileptic seizures: a staged approach: a report from the International League Against Epilepsy Nonepileptic Seizures Task Force(Epilepsia(International League Against Epilepsy)・2013)既存ノート(神経内科 G2-29)が確認済みの出典を再利用した(本ノートの担当は原文を再取得していない)。ILAE非てんかん発作タスクフォースが、ビデオ脳波モニタリング(vEEG)を診断のgold standardとしつつ、世界的にvEEGが常に利用可能とは限らないことを踏まえ、病歴・目撃情報・通常脳波・vEEGなどの組み合わせにより「疑い」「ほぼ確実」「臨床的確定」「記録による確定」の4段階の診断確実性を提案したこと閲覧 2026-08-27
  3. 3.Diagnostic delay in psychogenic nonepileptic seizures(Neurology・2002)既存ノート(神経内科 G2-29)が確認済みの出典を再利用した(本ノートの担当は原文を再取得していない)。心因性非てんかん発作(PNES)患者313例の解析で、発症から診断確定までの平均期間が7.2年(標準偏差9.3年)であったこと。若年発症、脳波での発作間欠期てんかん性放電、抗てんかん薬投与歴がより長い遅延と関連していたこと閲覧 2026-08-27
  4. 4.Cognitive behavioural therapy for adults with dissociative seizures (CODES): a pragmatic, multicentre, randomised controlled trial(The Lancet Psychiatry・2020)成人の解離性発作368例を、解離性発作に特化した認知行動療法+標準的医療(186例)と標準的医療単独(182例)へ1対1で無作為割付した多施設実践的ランダム化比較試験。主要評価項目である12か月時点の月あたり発作回数に有意差が無かったこと(中央値4回[四分位範囲0〜20]対7回[1〜35]、発生率比0.78、95%信頼区間0.56〜1.09、p=0.144)、一方で副次評価項目のうち発作の煩わしさ(p=0.020)、直近6か月における最長無発作期間(p=0.001)、EQ-5D-5L視覚アナログ尺度による健康関連QOL(p=0.010)、Work and Social Adjustment Scaleによる心理社会的機能(p<0.001)、CORE-10による心理的苦痛(p=0.013)、修正PHQ-15による身体症状数(p=0.008)、患者・臨床医それぞれによる全般的改善(p=0.001・p<0.001)、治療満足度(p<0.001)で認知行動療法群が有意に良好であったことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得閲覧 2026-09-03