Biochemistry

Biochemistry · 14/1

細胞外マトリックス

Extracellular matrix — S II

疾患
ムコ多糖症

🧠 は「作っては壊す、動的な」として読む。 に、可溶性のが結合した構造体が、MMP(分解、degradation)とTIMP(阻害、inhibition)のバランスで絶えずリモデリングされる。この同じ仕組みが、正常な創傷治癒では秩序立って働き、腫瘍の浸潤・転移・血管新生では乗っ取られる(hijacked)、という共通言語で理解する。

ECMの2つの構造

構造 特徴
基底膜 上皮細胞・・筋細胞・などに隣接する凝縮した(condensed)マトリックス層。主に
結合組織の主要な性質を決める、空間充填的な(space-filling)多様な構造

両者ともに、可溶性のが結合した構造。細胞との相互作用は主になどの細胞-を介する。

コラーゲン

大半が右巻き三重らせん(right-handed triple helix)で、3本の左巻きαヘリックスから構成される。各αヘリックスは3残基ごとにグリシン(側鎖が小さく三重らせん中心に収まる)を含む(Gly-X-Y)反復

  • Pro(proline)・Hyp(hydroxyproline)が約20%を占めが水素結合で三重らせんを安定化する(01-04-quaternary-structure-and-posttranslational-modifications-structure-of参照)。
  • Lys(lysine)・Hyl(hydroxylysine)はに関与し、、glycation)部位にもなりうる(比率・程度は組織型・加齢で変化)。
  • 合成はに沿って進み、+小胞体での三重らせん形成の後、として分泌されてから超分子構造を形成する。

コラーゲンの分類(>20の遺伝的に異なる型)

分類 特徴
I, II, III, V, XI 分泌後にし線維を形成
IV, VIII, X IV型=基底膜の
IT(三重らせん中断を伴う線維会合性、fibril-associated collagens with interrupted triple helices) IX, XII, XIV 線維表面に結合し超分子構造を組織特異的に修飾
その他 VI(構造、beaded structure)、VIII(角膜の六角、hexagonal lattice)

線維形成コラーゲンの自己組織化

はN・C両末端に、と呼ばれる非らせん領域をもつ。分泌後、特異的なN・Cを切断し、露出したが軸方向の配列を導く。

67 nmのは「ずらして積む」ことで生まれる。 コラーゲン(collagen monomer;長さ300 nm、直径1.4 nm)は自発的に、隣接分子と234アミノ酸分ずらして(staggered)配列し、静電・疎水相互作用を最適化しながら67 nm周期のを作る。が非らせん領域のε-NH₂基を酸化してを生成、これが隣接分子のらせん領域のLys/Hyl側鎖とSchiff塩基を形成——この2点架橋がさらに近傍のLys/Hyl/Hisとし3点架橋になる(01-04-quaternary-structure-and-posttranslational-modifications-structure-of反応と同じ機構)。コラーゲンはせん断・張力・圧力に抵抗する組織(腱 tendon・骨 bone・軟骨・皮膚)に typical。

プロテオグリカン

鎖がされた構造。GAG鎖はからなる。

GAG 反復 特徴
(chondroitin sulfate;A, C) -N- C4(A型)またはC6(C型)
(dermatan sulfate;B) を1つ以上含む(産物)
-N- 、両糖ともされうる

マトリックスメタロプロテアーゼ

21種以上のヒトMMPからなる依存性ファミリー。により8クラス(うち3クラスは)に分類され、集合的にコラーゲン()・変性コラーゲン(denatured collagen;)・を分解する——にも直接影響する

活性化のカスケード

flowchart TD
  A["proMMP(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inactive form'>不活性型</span>)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='propeptide'>プロペプチド</span>のCys残基が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='catalytic center'>触媒中心</span>のZn²⁺と結合し不活性化"]
  A --> B["①部分的活性化<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='conformational change'>コンフォメーション変化</span>(APMA等)または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='serine protease'>セリンプロテアーゼ</span>(フリン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasmin'>プラスミン</span>)による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='limited proteolysis'>限定分解</span>"]
  B --> C["②完全活性化<br>自己触媒的切断または他のMMPによる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='propeptide'>プロペプチド</span>完全除去"]
  C --> D["活性型MMP"]

MMP活性化は凝固・に酷似する。 Cys-Zn²⁺相互作用の破壊→除去という2段階活性化のは、→トロンビンやの活性化様式(12-01-general-overview-of-blood-clot-formation-and-elimination-fibrinogen-and12-02-fibrinolysis-activation-of-plasminogen-inhibitors-of-plasmin-inhibitors参照)と構造的に類似している——生体はを「安全装置付きの前駆体」として設計する、という共通戦略を随所で使う。

内因性阻害因子

阻害因子 機序
TIMP(組織メタロ、tissue inhibitor of metalloproteinases) MMPZn²⁺と可逆的1:1複合体。TIMPのN末端5残基が基質様にに結合。C末端ドメインがを付与(TIMP-1はMMP-9に、TIMP-2はMMP-2に
MMPと結合、で不可逆的に除去
RECK( membrane-anchored) reversion-inducing cysteine-rich protein with kazal motifs

💡 TIMP-2はMMP-2活性化の補因子でもある——なのに活性化を助ける二面性。 TIMPは単なる因子ではなく、proMMP-2ので補因子として働く場合がある(膜型MT1-MMPによるproMMP-2切断を)——阻害と活性化促進という一見矛盾する役割を状況依存的に使い分ける。

MMPと腫瘍浸潤・転移

MMPは浸潤する癌細胞ので働き、ECMバリアを浸潤方向に分解する。MT1-MMPとも相互作用し腫瘍細胞浸潤を促進する。IV型(間質の線維芽細胞〈stromal fibroblast〉由来の可溶性酵素だが、腫瘍細胞表面に会合して活性が検出される)がに関わる複数の型で報告されている。

血管新生

からので、に必要なを確保する。

flowchart TD
  A["低酸素などのシグナル"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial tip cell'>内皮先端細胞</span>の選択"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='filopodium'>糸状仮足</span>を伸ばし新規毛細血管枝(new capillary sprout)を形成"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased vascular permeability'>血管透過性亢進</span>・血管拡張(vasodilation)(NO介在)"]
  D --> E["新生枝周囲に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='provisional matrix'>暫定マトリックス</span>形成"]
  E --> F["内皮細胞の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detachment'>脱接着</span>・浸潤・増殖"]

von Hippel-Lindau症候群は「常時オンの血管新生シグナル」の VHL遺伝子のが1つ失われるとHIF-1(低酸素誘導因子)が恒常的に安定化し、VEGF()の発現・血管新生が常時刺激される(HIF-1の分解調節については15-03-tumor-metabolism-s-ii参照)。腫瘍でも同様に低酸素・がVEGF発現を誘導し、血管新生を促進する。ただし腫瘍血管は壁の厚さが不均一・内皮がという異常な構造をもつ。)はを抑制しうる。など)も血管新生を制限する。

創傷治癒と組織修復

の修復は、①による再生相と、②による修復相の2段階からなる。制御を外れると永続的な形成に至る(のように実質が結合組織に置換される場合もある)。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue injury'>組織損傷</span>"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet aggregation'>血小板凝集</span>・フィブリン沈着(fibrin deposition)<br>PDGF・TGFβ放出"]
  B --> C["好中球(neutrophil、最速で到達)・マクロファージ(macrophage、1-2日後)の遊走・活性化"]
  C --> D["IL-13・TGFβなど線維化促進(profibrotic)サイトカイン分泌"]
  D --> E["線維芽細胞 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='myofibroblast'>筋線維芽細胞</span>への転換<br>(α-SMC actin陽性、収縮能+ECM産生能)"]
  E --> F["ECM沈着・創収縮(wound contraction)"]

TGF-βの二面性

TGF-βは12 kDaポリペプチドの二量体で、に属する。に不可欠だが、過剰作用は・臓器障害につながる。血小板に高濃度で含まれ時に放出、白血球への、血管新生誘導、多数のサイトカイン産生制御を担う。

⚠️ TGF-βの2つの特性が「制御不能な治癒」を招きうる。におけるTGF-β産生の(持続的活性化のループ)、②TGF-βによるECM主要成分合成促進同時の(TIMP増加・MMP発現低下)。抗TGF-β抗体(を阻害)が線維化の一部の病態で治療応用されている。

瘢痕の転帰

正常な治癒では組織のが回復した後、は消失する。アポトーシスの異常でが瘢痕内に留まるとが形成される(を含む病的瘢痕の一因)。血管・神経の長さは通常組織で下にあることが示されており、この張力の存在が創傷治癒のを理解する背景になる。

まとめ

  • ECMは基底膜との2構造で、+可溶性糖タンパク・からなる。
  • コラーゲンは(Gly-X-Y)三重らせんがし、による架橋で安定化(67 nm周期)。20以上の型に分類される。
  • MMP(依存性)は凝固・に似た2段階カスケードで活性化し、TIMP(+一部で活性化補因子)で制御される。
  • 腫瘍ではMMPが浸潤で基底膜を分解し転移を促進、VEGF介在の血管新生(VHL/HIF-1軸)がを支える。
  • 創傷治癒は血小板→白血球→の順で進み、TGF-βが修復に不可欠だがループと分解阻害により線維化・のリスクも生む。