法医学

法医学 · 21

交通外傷

Road traffic injuries

前提:正常
背部・脊柱:骨と関節

🧠 全体像:は先進国における主要な死因のひとつであり、被害者の立場(・車の・・)によってと損傷パターンが大きく異なる。それぞれの典型的な損傷パターンを知ることは、事故の再構成や、轢き逃げ(hit and run)事件の車両特定に直結する。

は大きく4つのグループに分けられ、以下は本資料が示す被害者割合の目安である(母集団・年代により変動しうる)。

被害者の立場 割合の目安
22%
車の 31%
23%
5%

⚠️ この割合を普遍的な数値として覚えない。 道路利用者群の分布は地域・所得水準・集計対象(死亡例か重症例か全受傷者か)で大きく変わる。の割合は小地域でアフリカAfrEの55%から米州・欧州の15%以下まで開きがあり、所得水準別では低所得国45%・中所得国29%・高所得国18%である。1 韓国の交通事故死3,694例では43.3%・自動車乗員27.0%・二輪車18.9%・自転車6.6%で、脆弱な道路利用者の死亡の54.9%が60歳超だった。2

歩行者外傷

のほとんどは乗用車またはトラックに衝突される。衝突時の力学はを加速させる過程であり、車種によって衝突のダイナミクスが異なる。

  • 車の前部がを跳ね上げる「」は、特に成人でみられる
  • 小児は身長・重心の位置と車両前面形状の影響で、成人とは異なる衝突パターンを呈する

💡 小児は年齢で重症部位が変わる。 死亡25例の剖検データでは、68%が(うち56%は低速)で、32%が跳ね飛ばされだった。多くの車両でボンネット前縁が高かった。最も重症なのは頭部で、重症損傷の組み合わせは5歳以下で頭部+胸部、6〜10歳で頭部+頸部+胸部、11歳以上ではこれに腹部が加わる形へ変化する。膝・大腿/骨盤・頭部からなる古典的なWaddellの三徴は、これらの死亡例には当てはまらなかった。3

損傷は受傷の順序により、(最初の車体接触)・(ボンネットやフロントガラスへの再接触)・損傷(地面との衝突)に分けられる。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pedestrian'>歩行者</span>が車両に衝突される"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary'>一次損傷</span>:車体による直接衝撃"]
    B --> C["跳ね上げ・転倒"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary'>二次損傷</span>:ボンネット・フロントガラスへの再接触"]
    D --> D2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tertiary'>三次</span>損傷:地面への落下・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stroke/scratch (stimulus)'>擦過</span>"]
    D2 --> E{"車体の下に巻き込まれるか"}
    E -->|"はい"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='run over'>轢過</span>による広範な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stroke/scratch (stimulus)'>擦過</span>・内臓破裂"]
    E -->|"いいえ"| G["転倒による限局的な損傷"]
区分 部位・損傷
(車体との衝突) 頭部:頭皮、頭蓋骨骨折、・裂傷、
頸部:重症例ではのなど損傷(小児死亡例では頸部損傷の56.3%)3
脊椎: →
、内臓損傷(肺・肝・脾)
骨盤損傷
下肢:脛骨・、損傷(いわゆるバンパー骨折)。バンパー高が上がると損傷は脛骨・膝からへ移る。衝突速度20〜30 km/hでは膝靱帯損傷が、40 km/h付近では骨折が主体4
:車体形状を反映した・皮下出血・
(地面との衝突) 体幹・四肢片側の広範な(土砂などで汚染、を示唆)
内臓破裂、(・痕)
「」:下肢・上肢・頭皮の皮膚・皮下組織が広範囲に剥離し、筋膜に限局された血液貯留のポケットを形成する

車の同乗者外傷

  • :車体または車内の人体が急すると、・に屈曲成分が加わる
  • 加速:追突などで急加速すると、に伸展成分が加わる
  • 加速とが組み合わさると、頸部の−度損傷(いわゆる「」)が生じる

⚠️ 「」「」という単純な図式は現行のに合わない。 を用いた再現実験では、第1相でが屈曲しがするS字状変形が起こり、この時点ですでにに損傷が生じる。第2相で全が伸展して頭部が最大伸展に達する。つまり損傷は頸部が最大伸展位に達する前に起きている。5

  • 側面衝突・でも損傷が生じる

前部座席に典型的な損傷パターン:

  • フロントガラスの破片による顔面損傷
  • ハンドル方向への胸部圧迫
  • ・骨折
  • 運転者ではブレーキ・クラッチペダルによる下肢損傷

二輪車外傷

「飛翔・」機転により、頭部・脊椎(背部)・胸部・下肢に損傷が生じる。

自転車外傷

  • :自動車との衝突
  • :自転車から投げ出され、路面や周囲の構造物に衝突・転倒する

いずれの機転でも頭部損傷が中心となる。

轢き逃げ事件の法医学的検査

轢き逃げ(hit and run)事件では、被害者・車両双方から以下のを探索し、車両と事故を関連づける。

  • 衣類(車体との接触痕)
  • 破損したガラス片
  • 血痕
  • その他の異物(塗料片など)

まとめ

  • は・車の・・でが異なり、それぞれ特徴的な損傷パターンを示す。各群の占める割合は地域・所得水準・集計対象で大きく変わるため、固定値として覚えない。
  • は、最初の車体接触(一次)・ボンネットやフロントガラスへの再接触(二次)・地面への落下()に分けて評価する。小児では年齢によって重症部位が変わり、Waddellの三徴はそのままでは当てはまらない。
  • 車の外傷は加速・の組み合わせ()と座席・の有無によって特徴づけられる。は単純な・ではなく、初期のS字状変形を含む運動として理解する。
  • 轢き逃げ事件では、衣類・ガラス片・・血痕などのが車両特定の手掛かりとなる。

出典

  1. 1.Distribution of road traffic deaths by road user group: a global comparison(Injury Prevention・2009)交通事故死に占める道路利用者群の分布が地域・所得水準で大きく異なり、歩行者の割合がWHO小地域でアフリカAfrEの55%から米州AmrA・欧州EurAの15%以下まで幅があること。所得水準別では低所得国45%・中所得国29%・高所得国18%であること閲覧 2026-08-21
  2. 2.Comparison of epidemiology and injury profile between vulnerable road users and motor vehicle occupants in road traffic fatalities(Traffic Injury Prevention・2019)韓国の交通事故死3,694例で、歩行者43.3%・自動車乗員27.0%・二輪車運転者18.9%・自転車6.6%・農業用車両4.2%という内訳であったこと。60歳超の高齢者が脆弱な道路利用者の死亡の54.9%を占めたこと閲覧 2026-08-21
  3. 3.Injury patterns in motor vehicle collision-pediatric pedestrian deaths(Traffic Injury Prevention・2022)小児歩行者の死亡25例の剖検データで、68%が轢過(うち56%は低速)、32%が跳ね飛ばされであったこと。多くの車両でボンネット前縁が高かったこと。頭部が最も重症で、重症損傷の組み合わせが5歳以下では頭部+胸部、6〜10歳では頭部+頸部+胸部、11歳以上ではこれに腹部が加わる形へ変化したこと。頸部損傷16例のうち56.3%が環椎後頭関節または軸椎の脱臼だったこと。古典的なWaddellの三徴はこれらの死亡例に当てはまらなかったこと閲覧 2026-08-21
  4. 4.Effects of vehicle bumper height and impact velocity on type of lower extremity injury in vehicle-pedestrian accidents(Accident Analysis & Prevention・2005)米国の詳細事故データベースの解析で、バンパー高が上がるにつれて下肢損傷の型が脛骨・膝靱帯から大腿骨へ移ること。衝突速度20〜30 km/h付近では膝靱帯損傷が主体で、40 km/h付近では下肢の骨折が主体となること閲覧 2026-08-21
  5. 5.Mechanism of whiplash injury(Clinical Biomechanics・1998)ヒト屍体頸椎を用いたむち打ち再現実験で過伸展仮説は支持されず、第1相で上位が屈曲・下位が過伸展するS字状変形をとり、この時点で下位頸椎に損傷が生じること。損傷は頸部が最大伸展位に達する前の初期相で起こること閲覧 2026-08-21