組織病理学

組織病理学 · H1-097

感染性心内膜炎(僧帽弁)

Infective endocarditis – MITRAL VALVE

描出疾患
感染性心内膜炎
微生物
Viridans group streptococci

🧠 全体像:(infective endocarditis)は、弁膜または心内膜に微生物が定着し、フィブリン・血小板・炎症細胞・壊死物・微生物からなる疣贅を形成する感染症である。、周囲膿瘍、敗血症性塞栓、免疫複合体性腎炎を起こしうるため、病理像だけでなく血液培養と心エコーを統合して診断する。

疣贅の形成

flowchart TD
    A["菌血症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fungemia'>真菌血症</span>"] --> B["障害内膜または<span class='jp-term jp-term-diagram' title='prosthesis'>人工物</span>へ微生物が付着"]
    B --> C["微生物が増殖"]
    C --> D["血小板とフィブリンが沈着"]
    D --> E["感染性疣贅"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cusp destruction'>弁尖破壊</span>・逆流"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='annulus'>弁輪</span>周囲へ進展"]
    G --> H["膿瘍・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conduction disturbance'>伝導障害</span>"]
    E --> I["疣贅片が遊離"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='septic embolism'>敗血症性塞栓</span>・梗塞・膿瘍"]

疣贅は単なる「免疫反応による」ではない。微生物を含む血栓性物質が増大し、感染と炎症がを破壊する。

標本の読み方

所見 病理学的意味
不整で脆い疣贅 フィブリン、血小板、壊死物、微生物、炎症細胞の混合
好塩基性 細菌集落を示唆するが、・培養・分子検査で確認する
と組織破壊
弁変性・石灰化 感染前からの基礎弁膜病変または治癒後変化
弁と心筋の境界の炎症 周囲への感染進展を疑う
線維化・石灰化 治癒過程で残る弁変形

病変部位はに合致しうるが、標本形態だけで弁種や原因菌を確定しない。国際前向きコホート(ICE-PCS、2000–2005年、2,781例)でも罹患弁は41.1%・大動脈弁37.6%と拮抗しており、罹患頻度は弁種同定の根拠にならない1。

急性と亜急性

項目 急性の典型 亜急性の典型
経過 急速 比較的緩徐
代表菌 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) 口腔内(viridans group streptococci)など
弁 正常弁にも起こる 既存障害弁に起こりやすい
組織破壊 強い 比較的緩徐

このは典型像を示す便宜的分類であり、菌種・弁の状態・経過は重なりうる。組織像だけで「亜急性だから抗菌薬で確実に治癒する」と判断しない。

💡 起因菌の重心はレンサ球菌から黄色ブドウ球菌へ移った。 古典的な像は「亜急性・・既存障害弁」だったが、ICE-PCSでは最多起因菌がS. aureusの31.2%となり、77.0%が発症30日以内に受診して古典的徴候を欠いていた。医療曝露歴が4分の1にあり、17.7%、14.4%である1。旧来の急性・亜急性のは実習・試験で問われ続けるが、現在の疫学の重心は急性側に寄っている。

原因微生物と背景

状況 主な考慮
ブドウ球菌、レンサ球菌、腸球菌など
・心内デバイス ブドウ球菌を含むデバイス関連感染
S. aureus、病変
発育の遅い菌 群など
培養陰性 抗菌薬先行、Coxiella burnetii、Bartonella属、真菌など
既存心疾患 変性弁、、など
免疫不全、糖尿病、悪性腫瘍など

臨床像

所見 読み方
発熱・倦怠感 頻度は高いが非特異的
新規または変化した ・逆流を示唆するが、欠如しても除外できない
脾腫 亜急性経過でみられうる
点状出血・皮膚所見 または免疫現象
血尿・蛋白尿 または糸球体腎炎を考える
神経症状 、出血、膿瘍などを緊急評価する

診断

  1. が許せば、抗菌薬開始前に複数組の血液培養を採取する。
  2. で疣贅、、逆流を評価する。
  3. 疑いが高い、・デバイスがある、合併症が疑われる場合はを検討する。
  4. 血液培養、画像、素因、塞栓・免疫現象をに沿って統合する(1994年初版、2000年修正版を経て、現行は2023年Duke-ISCVID版)2。
  5. 培養陰性例では血清学的・分子学的検査を原因に応じて追加する。

⚠️ や循環不全では培養採取のために治療を危険に遅らせない。一方、安定例で抗菌薬を先に投与すると原因菌同定と感受性評価が難しくなる。

💡 2023年Duke-ISCVID版で変わった点。 心臓手術中の直視所見が新たな(臨床)に加わり、/とが画像の基準に組み込まれ、Bartonella属の酵素免疫測定・・/メタ・in situが微生物学的基準に入った。「典型菌」の一覧は拡張され、一部の菌は心内がある場合にのみ典型として扱う。血液培養の採血タイミングと別の要件は基準上は削除された(臨床上、抗菌薬前に複数組を採ること自体は変わらない)。素因には経カテーテル弁・心血管植込み型電子デバイス・の既往が明記された2。

合併症と治療

問題 内容
心不全 ・急性逆流
制御不良 、瘻孔、
塞栓 脳、脾、腎などの梗塞・膿瘍
免疫現象
周囲感染の進展を示唆する

治療は原因微生物に合わせた十分な期間の抗菌薬が基本である。、制御不能感染、周囲膿瘍、大きな疣贅による塞栓高リスクなどではを検討し、感染症・循環器・心臓外科などのチームで判断する3。

💡 「大きな疣贅なら」の根拠。 ・重症弁膜症・大きな疣贅を伴う76例の無作為化試験(EASE)で、48時間以内に手術した群は+6週以内の塞栓症のが3%(1例)、通常治療群は23%(9例)だった(0.10、95%CI 0.01–0.82、P=0.03)。差は塞栓の減少によるもので、6か月は3%対5%と有意差がない4。76例と小規模な試験であり、「手術で死亡が減る」までは示していない点に注意する。

まとめ

  • 感染性疣贅は微生物を含むフィブリン・血小板性病変である。
  • 、、細菌集落、周囲進展を確認する。
  • 急性・亜急性の区分は典型像であり、菌種や治療反応を固定しない。
  • 診断は複数血液培養と心エコーを中心に行い、治療は標的抗菌薬と必要時の手術を組み合わせる。

出典

  1. 1.Clinical presentation, etiology, and outcome of infective endocarditis in the 21st century: the International Collaboration on Endocarditis-Prospective Cohort Study(Archives of Internal Medicine・2009)25か国58施設の確定感染性心内膜炎2,781例(2000-2005年)で、最多起因菌は黄色ブドウ球菌31.2%。罹患弁は僧帽弁41.1%・大動脈弁37.6%。77.0%が発症30日以内に受診し古典的徴候を欠いた。医療曝露歴が4分の1。合併症は心不全32.3%・脳卒中16.9%・脳卒中以外の塞栓22.6%・心内膿瘍14.4%、手術48.2%、院内死亡17.7%。閲覧 2026-08-24
  2. 2.The 2023 Duke-International Society for Cardiovascular Infectious Diseases Criteria for Infective Endocarditis: Updating the Modified Duke Criteria(Duke University / International Society for Cardiovascular Infectious Diseases (ISCVID)・2023)Duke基準は1994年初版・2000年修正版を経て2023年Duke-ISCVID版へ改訂。心臓手術中の直視所見を新たな大基準(臨床)に追加、18F-FDG PET/CTと心臓CTを画像基準に組み込み、Bartonella属の酵素免疫測定・PCR・アンプリコン/メタゲノム解析・in situハイブリダイゼーションを微生物学的基準に追加。典型菌の一覧を拡張し一部は心内人工物がある場合のみ典型と扱う。血液培養の採血タイミングと別穿刺部位の要件は削除。素因に経カテーテル弁・心血管植込み型電子デバイス・感染性心内膜炎の既往を明記。閲覧 2026-08-24
  3. 3.2023 ESC Guidelines for the management of endocarditis(European Society of Cardiology (ESC)・2023)感染性心内膜炎の治療は起因菌に合わせた抗菌薬が基本で、手術適応は心不全・感染制御不良(弁輪周囲膿瘍・瘻孔・持続菌血症)・塞栓予防の3群、タイミングは emergency(24時間以内)・urgent(3〜5日以内)・non-urgent に区分される。⚠️ 第3の区分は non-urgent であって elective ではなく、「抗菌薬を先行させた待機的手術」という定義は本ガイドラインからは確認できない。手術時期の区分はESC公式のEssential Messages("…usually performed on an urgent basis (i.e. the patient undergoes surgery within 3–5 days), some cases require emergency surgery (i.e. within 24 h)…")と公式スライドセットで照合した。誌上版は403で取得できていない。閲覧 2026-08-24
  4. 4.Early surgery versus conventional treatment for infective endocarditis(The New England Journal of Medicine・2012)左心系感染性心内膜炎・重症弁膜症・大きな疣贅を伴う76例の無作為化試験(EASE)。48時間以内の早期手術群では院内死亡+6週以内の塞栓症の複合エンドポイントが3%(1例)、通常治療群23%(9例)、ハザード比0.10(95%CI 0.01-0.82、P=0.03)。6か月全死亡は3%対5%で有意差なし。閲覧 2026-08-24