組織病理学

組織病理学 · H2-042

潰瘍性大腸炎(切除)

Ulcerative colitis RESECTION

描出疾患
潰瘍性大腸炎

🧠 全体像:(ulcerative colitis:UC)は、直腸から近位へ連続して広がる、結腸粘膜主体の慢性性炎症性疾患である。切除大腸では、の分布、潰瘍、、陰窩構築異常、活動性炎症、異形成を系統的に評価する。

病変分布と深さ

UCは通常、直腸を起点として近位側へ連続的に進展し、全大腸炎となることもある。炎症は粘膜主体であり、重症例ではやさらに深部へ及ぶことがあるが、に典型的なとは区別する。で使える所見とで使える所見は別物として整理されており、UCと、および非性の腸炎の鑑別に何をどう使うかはと欧州病理学会の合同コンセンサスが標準を示している1。

評価項目 UCでの典型像 診断上の意味
分布 直腸からに近位へ進展 主体のと対比
潰瘍 で、主に 深い状潰瘍はを考慮
潰瘍間に残存・再生した浮腫性粘膜が隆起 腫瘍性ポリープとは異なる
陰窩 分岐、短縮、配列不整、萎縮 慢性を示す
活動性炎症 好中球性、、潰瘍 を示すがUCに特異的ではない
合併症がなければ比較的保たれる や瘻孔があれば他疾患も検討

組織傷害の流れ

flowchart TD
    A["慢性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucositis'>粘膜炎</span>症"] --> B["好中球の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crypt epithelium'>陰窩上皮</span>内浸潤"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cryptitis'>陰窩炎</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='crypt abscess'>陰窩膿瘍</span>"]
    C --> D["上皮傷害と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal ulcer'>粘膜潰瘍</span>"]
    D --> E["潰瘍間粘膜の再生・隆起"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Pseudopolyps'>偽ポリープ</span>"]
    A --> G["陰窩分岐・短縮・萎縮"]
    G --> H["長期炎症負荷に伴う異形成リスク"]

は、陰窩腔内に好中球がした所見である。などでもみられるため、慢性構築異常、病変分布、臨床経過と統合して診断する。単独の所見で決めるのではなく「いくつの所見がそろえば確からしいか」を問うのが、この分野のコンセンサスの立て方である1。が直接異形成へ変化するのではなく、長い、広い、持続する炎症負荷、などがリスクに関与する。

💡 「炎症負荷」で考える。 を駆動するのは慢性炎症そのもので、な組織学的炎症のが危険因子として重視される。異形成は field cancerization により大腸の複数箇所に同時に生じうるため、一点の生検が陰性でも安心材料にはならない。近年は異形成の存在が知られてきたが、が定まらず監視アルゴリズムにはまだ組み込まれていない2。

臨床像と腸管外病変

典型的には、血性・下痢、、、下腹部痛を反復する。ぶどう膜炎、、などを伴うことがあり、肝胆道病変も含めて全身性疾患として評価する。

診断と治療の安全な整理

flowchart TD
    A["血性下痢・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal urgency'>便意切迫</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stool examination'>便検査</span>で感染症を除外"]
    B --> C["内視鏡で範囲と重症度を評価"]
    C --> D["複数部位の生検で活動性・慢性変化・異形成を評価"]
    D --> E{"重症度"}
    E -->|"軽症から中等症"| F["5-ASAを中心に寛解導入・維持"]
    E -->|"中等症から重症"| G["生物学的製剤・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='small-molecule drug'>低分子薬</span>などを個別化"]
    E -->|"急性重症"| H["入院・静注ステロイド"]
    H --> I["不応なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rescue therapy'>救済療法</span>または適時手術"]

は、ステロイドに依存しないと内視鏡的改善である。国際的なのコンセンサス(STRIDE-II)でも長期目標はと内視鏡的治癒であり、症状改善と血清・便マーカーの正常化は短期目標にとどまる3。

⚠️ 組織学的治癒は正式なではない。 病理標本で炎症が消えることは望ましいが、STRIDE-IIはUCの組織学的治癒(およびの治癒)を正式な標的とはせず、「寛解の深さを測る指標」として評価するにとどめている3。生検で活動性炎症が残っていることを、そのままと読み替えない。

では、感染症を除外し、予防を行いながら静注ステロイドを開始する。反応不十分ならまたはなどのを検討し、、穿孔、制御不能な出血、治療抵抗性では手術時機を逸しない。へ切り替える判断は静注ステロイド開始後day 3を目安とし、入院後は72時間以内(可能なら24時間以内)にS状結腸内視鏡で重症度を確認する4。

まとめ

  • UCは直腸から連続する粘膜主体の炎症で、潰瘍とを形成する。
  • 陰窩構築異常は慢性、・は活動性を示す。
  • 切除病理では炎症範囲、深さ、合併症、異形成を評価する。
  • との対比は の病理 で確認する。

出典

  1. 1.European consensus on the histopathology of inflammatory bowel disease(European Crohn's and Colitis Organisation / European Society of Pathology・2013)炎症性腸疾患の組織診断の標準を定めたECCO・欧州病理学会の合同コンセンサス。内視鏡生検と切除標本で使える所見をそれぞれ分けて示し、潰瘍性大腸炎とクローン病、および非炎症性腸疾患性の腸炎との鑑別、確実な診断に必要な所見の数、異形成の検索における組織診の役割、活動性評価に使える所見を扱う。粘膜治癒をもたらす新しい治療が診断所見を変えうる点にも注意を促し、複数の領域で根拠の空白が残ると明記している閲覧 2026-08-24
  2. 2.Colorectal Cancer in Inflammatory Bowel Disease: Mechanisms and Management(Gastroenterology・2022)炎症性腸疾患関連大腸癌の総説。腫瘍化を駆動するのは慢性炎症そのもので、field cancerizationにより大腸の複数箇所に異形成前駆病変が生じうる。累積炎症負荷(cumulative inflammatory burden)という概念が、経時的な組織学的炎症の蓄積を大腸癌の重要な危険因子として位置づける。異形成は大腸癌発生の最も重要な危険因子であり、非通常型(nonconventional)異形成の認識が増えているが自然史が定まらず、監視アルゴリズムにはまだ組み込まれていない閲覧 2026-08-24
  3. 3.STRIDE-II: An Update on the Selecting Therapeutic Targets in Inflammatory Bowel Disease (STRIDE) Initiative of the International Organization for the Study of IBD (IOIBD): Determining Therapeutic Goals for Treat-to-Target strategies in IBD(Gastroenterology・2021)IOIBDによる目標達成型治療の国際コンセンサス改訂版。長期目標として臨床的寛解と内視鏡的治癒を再確認し、障害がないこと・生活の質の回復・小児の正常な成長を追加した。症状の改善と血清・便マーカーの正常化は短期目標に位置づけられる。クローン病の全層性治癒と潰瘍性大腸炎の組織学的治癒は正式な治療目標ではないが、寛解の深さの指標として評価すべきものとされた閲覧 2026-08-24
  4. 4.ACG Clinical Guideline Update: Ulcerative Colitis in Adults(American College of Gastroenterology・2025)急性重症潰瘍性大腸炎での入院72時間以内・可能なら24時間以内のS状結腸内視鏡、および静注ステロイド不応時day3でのインフリキシマブ・シクロスポリン救済療法閲覧 2026-08-24