組織病理学

組織病理学 · H2-108B

横紋筋肉腫(脳への進展例)

Rhabdomyosarcoma – BRAIN

描出疾患
横紋筋肉腫

🧠 全体像:(rhabdomyosarcoma:RMS)は骨格筋分化を示す由来の悪性腫瘍で、小児期で最も頻度の高い軟部肉腫である。そのものには骨格筋組織が存在しないため、脳に生じたRMSは通常、頭頸部の部位(、副鼻腔、中耳・など)に発生したが頭蓋底・髄膜を介して直接進展したものであり、遠隔として単純に説明できるとは限らない。

好発部位と傍髄膜性進展

頭頸部、尿路生殖器、後腹膜、四肢に好発し、20歳未満での発症が大部分を占める。頭頸部の中でも・副鼻腔・中耳・などの部位に生じた腫瘍は、周囲の骨・軟部組織的な障壁が乏しく頭蓋底を介して頭蓋内へ直接進展しやすいという臨床上重要な特徴を持つ。

💡 「しやすい」は例外ではなく多数派。 頭頸部28例にを行った報告では、21例が原発で、そのうち71%にを認めた。例の3年は65%で、3年非再発率は局所95%・所属リンパ節90%・中枢神経系88%・遠隔80%だった1。脳の病変を「遠隔転移」と即断せず、まず頭頸部からのを疑う根拠がここにある。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parameningeal'>傍髄膜</span>部位(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasopharynx'>鼻咽頭</span>・副鼻腔・中耳・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='infratemporal fossa'>側頭下窩</span>)の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary tumor'>原発巣</span>"] --> B["頭蓋底の骨・硬膜を介して直接進展"]
    B --> C["頭蓋内・髄膜への浸潤"]
    A --> D["血行性・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lymphatic'>リンパ行性</span>の遠隔転移(肺・骨・骨髄など)"]
    C -.->|"臨床的に脳病変として認識"| E["脳に病変を認める"]
    D -.->|"まれに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brain parenchyma'>脳実質</span>への転移として"| E

組織学的亜型と分子病理

亜型 特徴 分子背景
小児に最多。胞巣状ではなく密な細胞集団。ぶどう状(botryoid)型は独立した亜型として分けられず、の中に含まれる2 特定の融合遺伝子を欠くことが多く、11p15領域の異常(IGF2経路)が関与
青年期・若年成人に多く、で仕切られた胞巣状構築を示す。予後不良 PAX3-FOXO1(t(2;13))またはPAX7-FOXO1(t(1;13))融合遺伝子が特徴的(FOXO1は旧称FKHRと同一遺伝子)
型・(spindle cell/sclerosing) 独立した組織型として認識される(2013年の分類でがから切り離され型の一型となった)2。乳幼児に多いVGLL2融合遺伝子群は予後良好、年長児・成人に多いMYOD1変異群は予後不良と、背景遺伝子で予後が大きく異なる VGLL2融合(乳幼児型)またはMYOD1変異(年長児・成人型)
主に成人に発生し、横紋を伴う分化像が乏しいことが多い 特定の融合遺伝子を持たない

⚠️ 融合遺伝子はすべてのRMSに一様に見られるわけではない。で特徴的なPAX3/7-FOXO1融合は主にに関連する所見であり、最も頻度の高いの多くは融合遺伝子陰性である。

⚠️ 現在は組織型よりも融合遺伝子の有無がを決める。 の(COG D9803)で分類できた434例の5年は、PAX3-FOXO1陽性54%、PAX7-FOXO1陽性65%に対し77%だった。そして組織学的にはでも融合遺伝子が検出されない例(融合陰性)の転帰はと同等で、融合陽性よりが良好だった。この結果を根拠に、PAX-FOXO1融合の有無がとに組み込まれている3。したがって「=予後不良」という組織型だけの理解では層別化を説明できない。

💡 旧分類との対応。 1995年以来の国際分類(ICR)はぶどう状型・型を予後良好群、を群、を予後不良群としていた。COGの9試験をに検討すると、原発部位で層別化した場合ぶどう状型と通常のに有意差はなく、小児の型・も通常のと有意差がなかった。ただし例外として、領域の型は28%と予後不良である2。実習・試験では旧分類の名称(など)でなお問われるため、分類の4亜型と対応づけて覚える。

診断

は好酸性の細胞質を持ち、を示すことがあるが、必発ではない。確定診断には、またはMyoD1などの骨格筋のが用いられ、特に・MyoD1のは骨格筋系分化の特異性が高い。・MyoD1は・筋特異的アクチンより特異的で、より感度が高い4。

⚠️ の「特異性が高い」には但し書きがある。 32例・非107例を比較した検討では、は全例陽性(は沿い・血管周囲でとくに強く、より強く染まる)だった一方、非107例中7例——2例、乳児筋線維腫症2例、1例、乳児2例——でのがみられた。さらに非腫瘍性の骨格筋線維の核も陽性になる(腫瘍随伴検体40例中25例、良性骨格筋11例中5例)ため、腫瘍内に巻き込まれた萎縮・再生筋線維を腫瘍細胞と取り違えないよう、陽性核の分布と形態を合わせて判定する。MyoD1は全例陽性となるものの、細胞質性・非特異的な背景染色のため標本での実用性は劣った4。

治療と予後

化学療法、手術、放射線療法を組み合わせたが基本である。小児例は治療反応性が高く治癒可能な例が多いのに対し、成人例は一般に予後不良である。頭蓋内・浸潤例では、局所制御に放射線療法が特に重要な役割を持つ。

小児に生じるRMSの一亜型()は膀胱・腟など粘膜に覆われた管腔臓器に生じ、尿路・の腫瘍で触れた小児の代表例でもある。軟部腫瘍全般の疫学・・治療は軟部腫瘍の疫学・病因・組織型・病期・症状・診断と軟部腫瘍の治療を参照する。

まとめ

  • 脳に生じたRMSの多くは、頭頸部部位のが頭蓋底を介して直接進展したものと考える。
  • 組織学的亜型(・・型/・)は背景の分子異常と予後が異なり、PAX3/7-FOXO1融合は主にに関連する所見である。
  • 確定診断にはと・MyoD1などの骨格筋のを用いる。
  • 治療は化学療法・手術・放射線療法ので、小児は成人より予後が良好である。

出典

  1. 1.Intensity-modulated radiotherapy for head-and-neck rhabdomyosarcoma(International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics(Wolden SL, Wexler LH, Kraus DH, et al.)・2005)頭頸部横紋筋肉腫28例に強度変調放射線治療を行った検討で、21例が傍髄膜原発、3例が眼窩、4例がその他の部位であったこと。傍髄膜腫瘍の71%に頭蓋内進展を認めたこと。89%がGroup III(肉眼的遺残あり)で、線量中央値50.4 Gyであったこと。傍髄膜腫瘍例の3年生存率は65%、3年非再発率は局所95%・所属リンパ節90%・中枢神経系88%・遠隔80%であったこと閲覧 2026-08-24
  2. 2.The World Health Organization Classification of Skeletal Muscle Tumors in Pediatric Rhabdomyosarcoma: A Report From the Children's Oncology Group(Archives of Pathology & Laboratory Medicine(Rudzinski ER, Anderson JR, Hawkins DS, Skapek SX, Parham DM, Teot LA.)・2015)現行のWHO骨格筋腫瘍分類は横紋筋肉腫を胎児型・胞巣型・紡錘細胞/硬化型・多形型の4亜型とし、ぶどう状(botryoid)型を独立した亜型として分けていないこと。2013年のWHO分類が硬化型横紋筋肉腫を胎児型から切り離し紡錘細胞型の一型としたこと。これに対し1995年以来の国際横紋筋肉腫分類(ICR)はぶどう状型・紡錘細胞型を予後良好群、胎児型を中間リスク群、胞巣型を予後不良群としていたこと。Children's Oncology Groupの9試験を後方視的に検討した結果、ぶどう状型の予後は原発部位で層別化すると通常の胎児型と有意差がなく、小児の紡錘細胞型・硬化型も通常の胎児型と有意差がなかったこと。ただし例外として傍髄膜領域の紡錘細胞型横紋筋肉腫は無イベント生存率28%と予後不良であったこと。組織診断が小児で成人と同じ予後情報を与えるとは限らないという但し書きつきで、小児にもWHO分類を用いることが支持されること閲覧 2026-08-24
  3. 3.PAX-FOXO1 fusion status drives unfavorable outcome for children with rhabdomyosarcoma: a children's oncology group report(Pediatric Blood & Cancer(Skapek SX, Anderson J, Barr FG, et al.)・2013)Children's Oncology GroupのD9803試験(中間リスク横紋筋肉腫)登録616例のうち、臨床・分子・病理データが揃った434例を胎児型(ERMS)、PAX3-FOXO1陽性胞巣型、PAX7-FOXO1陽性胞巣型、融合遺伝子が検出されない胞巣型(ARMSn)へ分類したこと。5年無イベント生存率はPAX3-FOXO1陽性胞巣型54%、PAX7-FOXO1陽性胞巣型65%に対し胎児型は77%であったこと。融合陰性の胞巣型(ARMSn)は胎児型と同等の転帰を示し、融合陽性の胞巣型より無イベント生存が良好であったこと。この前向き解析がPAX-FOXO1融合の有無をリスク層別化と治療選択に組み込むことを支持すること閲覧 2026-08-24
  4. 4.Are myogenin and myoD1 expression specific for rhabdomyosarcoma? A study of 150 cases, with emphasis on spindle cell mimics(The American Journal of Surgical Pathology(Cessna MH, Zhou H, Perkins SL, et al.)・2001)横紋筋肉腫32例・非横紋筋肉腫107例・良性骨格筋11検体を染色した検討で、ミオゲニン・MyoD1はデスミン・筋特異的アクチンより特異的でミオグロビンより感度が高いと位置づけられること。横紋筋肉腫は全例がミオゲニン陽性で、胞巣型は線維性隔壁沿いや血管周囲で特に強い核内染色を示し胎児型より強く染まること。結節性筋膜炎・悪性線維性組織球腫・悪性末梢神経鞘腫瘍・炎症性筋線維芽細胞腫瘍・平滑筋腫・平滑筋肉腫・胞巣状軟部肉腫はいずれもミオゲニン陰性であった一方、デスモイド(10例中2例)・乳児筋線維腫症(10例中2例)・滑膜肉腫(10例中1例)・乳児線維肉腫(10例中2例)で巣状の核内陽性がみられ、非横紋筋肉腫107例中7例が巣状陽性であったこと。非腫瘍性の骨格筋線維の核もミオゲニン陽性となり(腫瘍随伴検体40例中25例、良性骨格筋11例中5例)判定上の落とし穴となること。MyoD1は全横紋筋肉腫で陽性だが、細胞質性・非特異的な背景染色と非筋組織の反応のためパラフィン包埋標本での実用性が損なわれたこと閲覧 2026-08-24