組織病理学

組織病理学 · H2-123B

脂肪肉腫(後腹膜:組織学的grading・外科的境界編)

Liposarcoma – RETROPERITONEUM

描出疾患
軟部肉腫

🧠 全体像:の分子亜型分類(/WDLPS〜DDLPS、粘液型、)と診断の中心的マーカーはH2-109B:(後腹膜)で扱った。本項目では、亜型を横断して悪性度を数値化する組織学的grading(FNCLCC分類)と、後腹膜という部位に固有の外科的な難しさを補足する。

軟部肉腫の組織学的grading(FNCLCC分類)

FNCLCC(フランス癌センター)分類は、を含む軟部肉腫全般に用いられる標準的な組織学的grading体系で、3項目のスコアを合算してgradeを決める。成人軟部肉腫ではgradingが最も重要な予後因子かつ転移リスクの最良の指標とされ、FNCLCC式もNCI式もともに3段階で、組織型・亜型、、に基づく1。

評価項目 スコア1 スコア2 スコア3
正常成熟脂肪組織に近い(など) 組織型が確定できる中間的分化 未分化・組織型が不確かな低分化腫瘍
核分裂数(10 HPFあたり) 少数 中等度 多数
なし 50%未満 50%以上

3項目の合計スコアによりgrade 1(低悪性度)〜grade 3()に分類され、grade上昇は局所再発・遠隔転移リスクの上昇と関連する。肉腫144例にFNCLCCを適用した検討では、が高分化型/G1で93%、型G2で57%、型G3で21%と段階的に低下した2。

⚠️ gradingには使ってよい場面と使ってはいけない場面がある。 gradingの総説は、(1)gradingの前に組織型を明確に決めておくこと、(2)異型のような腫瘍や型などの一部の肉腫にはgradingを用いるべきでないこと、(3)現行のgradingは検体には適さないことを明記している(それでも成人軟部肉腫の90%超では有用)1。実務ではDDLPSにもFNCLCCが当てられ、上記のように予後を層別化できている2が、「生検の一片だけでgradeを断定しない」「gradeが付いていても組織型の情報を捨てない」という但し書きつきで扱う。では、はスコアが低くgrade 1にとどまることが多いのに対し、型(DDLPS)や円形細胞成分の増えた粘液型、は・核分裂数・壊死のいずれかが上昇しgrade 2〜3になりやすい。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retroperitoneal fat'>後腹膜脂肪</span>肉腫の生検・切除検体"] --> B["組織学的亜型を同定"]
    B --> C["FNCLCC 3項目(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='differentiation'>分化度</span>・核分裂数・壊死)を評価"]
    C --> D["grade 1〜3を判定"]
    D --> E["画像で周囲構造への浸潤範囲を評価"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='resectability'>切除可能性</span>を多職種で検討"]
    F --> G["広範切除(必要に応じ隣接臓器合併切除)"]
    G --> H["高gradeでは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='adjuvant therapy'>補助療法</span>を検討"]

後腹膜という部位に固有の外科的課題

肉腫は、周囲の骨格筋(腰筋など)・腎・尿管・大血管・腸管に近接しながら発育するため、H2-109Bで述べた「発見の遅れ」に加え、切除そのものが技術的に難しいという課題がある。

課題 内容
周囲構造への浸潤 骨格筋・腎・大血管など複数の構造に接し、単純な腫瘤摘出ではになりやすい
完全切除のための合併切除 陰性を得るために、患側腎・結腸の一部など隣接臓器を含めた(compartmental resection)が検討される
局所再発の管理 とくにDDLPSは断端陰性でもが高く、繰り返す再切除が必要になることがある。初回局所再発を切除した421例では、6年時点の二度目の局所再発が組織型の組み合わせによらず63〜77%と高かった3
放射線療法の位置づけ 四肢の軟部肉腫と異なり、後腹膜では放射線療法の意義は確立していない。第3相試験(STRASS)で術前照射のは腹部を改善しなかった4が、試験外コホートを統合した解析ではに限れば有益の可能性が示されており5、症例ごとに検討を要する

⚠️ 「断端陰性を得られれば根治」と単純化しない。肉腫、とくにDDLPSは組織学的に断端陰性であっても局所再発をきたしうるため、術後も長期の画像経過観察が必要になる。原発性肉腫177例の解析でも、組織亜型とがともに生存の予後因子であり、型であることと(を除く)隣接臓器合併切除を要したことが局所再発・遠隔再発リスクの上昇と関連した(型は高分化型に比べ死亡リスク6倍)6。

💡 術前放射線療法の位置づけは、この10年で「否定」から「亜型を選べば有望」へ揺れている。 原発性後腹膜肉腫266例を術前照射(50.4 Gy/28分割)+手術と手術単独にしたSTRASS試験では、腹部の中央値が4.5年対5.0年(1.01、95%CI 0.71〜1.44、p=0.95)で差が無く、一方でgrade 3〜4のが照射群の77%に生じた4。ところがSTRASSに試験外コホート(STREXIT)を統合した解析では、321例に限ると術前照射は腹部の改善と関連し(0.61、95%CI 0.42〜0.89)、とくに高分化型とG1〜2型で有意だった(G3型とでは認められず、の改善も現時点では示されていない)5。「後腹膜では放射線は効かない」と丸暗記せず、「無作為化試験は陰性、亜型別の探索的解析では高分化型〜低gradeの型で有望」という二段構えで覚える。

軟部腫瘍全般の疫学・は軟部腫瘍の疫学・病因・組織型・病期・症状・診断、治療のは軟部腫瘍の治療を参照する。

まとめ

  • FNCLCC分類は・核分裂数・壊死の3項目からgrade 1〜3を判定する、軟部肉腫横断的な組織学的grading体系である。
  • は低gradeにとどまりやすく、型・円形細胞優位の粘液型・は高gradeになりやすい。
  • 後腹膜という部位は周囲臓器への浸潤・完全切除の困難さ・断端陰性でも局所再発しうる点が外科的な課題である6。術前放射線療法は無作為化試験では有効性を示せなかったが、の亜型別解析では有望とされ、は定まっていない45。
  • 分子亜型分類・診断マーカーの詳細はH2-109B:(後腹膜)を参照する。

出典

  1. 1.Grading of soft tissue sarcomas: review and update(Archives of Pathology & Laboratory Medicine(Coindre JM.)・2006)抄録で、成人軟部肉腫では組織学的gradingが最も重要な予後因子かつ転移リスクの最良の指標であること、広く用いられるフランス式(FNCLCC)とNCI式はいずれも3段階で、組織型・亜型、腫瘍壊死、核分裂活性に基づくこと、gradingの前に組織型を明確に決めておくべきこと、異型線維黄色腫のような中間悪性度腫瘍や脱分化型脂肪肉腫などの一部の肉腫にはgradingを用いるべきでないこと、成人軟部肉腫の90%超では有用であること、現行のgradingは針生検検体には適さないことを確認した閲覧 2026-08-24
  2. 2.Myogenic differentiation and histologic grading are major prognostic determinants in retroperitoneal liposarcoma(The American Journal of Surgical Pathology(Gronchi A, Collini P, Miceli R, et al.)・2015)抄録で、2002〜2011年に手術された原発性の高分化型/脱分化型後腹膜脂肪肉腫144例(高分化型/G1が52例、脱分化型が92例:G2 60例・G3 32例)にFNCLCC gradingを適用した検討で、5年全生存率が高分化型/G1で93%、脱分化型G2で57%、脱分化型G3で21%であったこと、筋原性分化の有無でも75%対42%、横紋筋芽細胞分化例では29%であったこと、FNCLCC gradeと筋原性分化がいずれも独立して予後を予測したことを確認した閲覧 2026-08-24
  3. 3.Analysis of Differentiation Changes and Outcomes at Time of First Recurrence of Retroperitoneal Liposarcoma by Transatlantic Australasian Retroperitoneal Sarcoma Working Group (TARPSWG)(Annals of Surgical Oncology(Nessim C, Raut CP, Callegaro D, et al., TARPSWG)・2021)22の肉腫センターから、2002〜2011年に初回局所再発後腹膜脂肪肉腫の切除を受けた421例を集めた後方視的研究。原発が脱分化型だった230例のうち34例(15%)は再発時に高分化型を示し、原発が高分化型だった191例のうち54例(28%)は再発時に脱分化型を示したこと。6年全生存率は脱分化型→脱分化型40%、脱分化型→高分化型73%、高分化型→高分化型76%、高分化型→脱分化型56%(p<0.001)であったこと。6年時点の二度目の局所再発発生率は各群63〜77%と高かったこと閲覧 2026-08-24
  4. 4.Preoperative radiotherapy plus surgery versus surgery alone for patients with primary retroperitoneal sarcoma (EORTC-62092: STRASS): a multicentre, open-label, randomised, phase 3 trial(The Lancet Oncology(EORTC Soft Tissue and Bone Sarcoma Group)・2020)抄録で、四肢肉腫と違って後腹膜肉腫では放射線療法の有効性が確立していないと明記されていること、原発性後腹膜肉腫266例を術前放射線療法(50.4 Gy/28分割)+手術と手術単独に1対1で無作為化した第3相試験で、腹部無再発生存期間の中央値が4.5年対5.0年(ハザード比1.01、95%CI 0.71〜1.44、p=0.95)と差が無かったこと、grade 3〜4のリンパ球減少が放射線併用群の77%に生じ、重篤有害事象が24%対10%であったことを確認した閲覧 2026-08-24
  5. 5.Preoperative Radiotherapy in Patients With Primary Retroperitoneal Sarcoma: EORTC-62092 Trial (STRASS) Versus Off-trial (STREXIT) Results(Annals of Surgery(Callegaro D, Raut CP, Ajayi T, et al.)・2023)抄録で、STRASS試験266例と試験外コホートSTREXIT 831例(傾向スコア1対1マッチ202例)を統合した解析で、脂肪肉腫321例では術前放射線療法が腹部無再発生存の改善と関連したこと(ハザード比0.61、95%CI 0.42〜0.89)、とくに高分化型脂肪肉腫とG1〜2脱分化型脂肪肉腫266例で有意(ハザード比0.63、95%CI 0.40〜0.97)であった一方、G3脱分化型脂肪肉腫と平滑筋肉腫では認められなかったこと、現時点の追跡では全生存・遠隔転移無再発生存との関連は無かったことを確認した閲覧 2026-08-24
  6. 6.Histologic subtype and margin of resection predict pattern of recurrence and survival for retroperitoneal liposarcoma(Annals of Surgery(Singer S, Antonescu CR, Riedel E, Brennan MF.)・2003)1982〜2002年に根治目的で手術された原発性後腹膜脂肪肉腫177例のうち、99例(56%)が高分化型、65例(37%)が脱分化型、9例(5%)が粘液型、4例(2%)が円形細胞型であったこと。多変量解析で脱分化型は高分化型に比べ死亡リスクが6倍であったこと。組織亜型と切除断端が生存の予後因子であり、脱分化型であることと(腎摘を除く)隣接臓器合併切除を要したことが局所再発・遠隔再発リスクの上昇と関連したこと閲覧 2026-08-24