内科学

内科学 · L-66

内科における血栓症の一次・二次予防

Primary and secondary thrombosis prophylaxis in internal medicine

前提:病態
凝固系の過剰活性化に関連する病態血液凝固に作用する薬II:抗凝固薬

🧠 全体像:は「まだを起こしていない高リスク患者」の発症を防ぎ、は「既発症」の再発を防ぐ。どちらもと出血リスクを同時に評価し、適応と期間を定期的に見直す。

一次予防

入院した内科患者すべてに抗凝固薬を投与するのではなく、急性疾患、不動、既往、活動性癌、年齢などからリスクを、活動性出血、重度血小板減少、出血性病変などから出血リスクを評価する1。

💡 リスク評価を点数化したのがPaduaスコアである。 11項目・合計0〜20点で、活動性癌・既往・3日以上の可動性低下・既知のが各3点、1か月以内の外傷または手術が2点、70歳以上・心不全または呼吸不全・または・急性感染症または疾患・肥満( 30以上)・ホルモン治療中が各1点で、4点以上を高リスクとする2。原著の内科入院1180例では高リスクが39.7%を占め、予防を受けなかった高リスク群のは11.0%、予防を受けた高リスク群は2.2%( 0.13、95%CI 0.04〜0.40)、低リスク群は0.3%だった1。IMPROVEスコアも同じ目的で使われる。「内科入院患者は全員予防」ではなく、6割前後は予防の対象にならないというのが要点である。なお妊婦・癌患者ではPaduaのが確認されていない2。

flowchart TD
    A["入院時に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous thromboembolism'>VTE</span>リスクを評価"] --> B{"高リスクか"}
    B -->|"いいえ"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='early mobilization'>早期離床</span>・定期再評価"]
    B -->|"はい"| D{"出血リスクは許容可能か"}
    D -->|"はい"| E["LMWHなど薬物予防"]
    D -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intermittent pneumatic compression (IPC)'>間欠的空気圧迫法</span>を検討"]
    F --> G["出血リスク改善後に薬物予防を再評価"]

ヘパリンが標準的で、腎機能や体重に応じて調整する。既往ではヘパリンを避ける。薬物予防を行わない患者への機械的予防は条件付きで提案され、その方法はと段階的のどちらでもよいとされる(条件付き推奨)。内科入院患者への入院中のと退院後の延長予防は強い推奨で退けられている(他の理由でを服用中の患者には当てはまらない場合がある)3。

⚠️ ASH 2018で強い推奨なのは「重症患者の薬物予防」「入院中はより」「退院後の延長予防をしない」の3点である。 のは、出血リスクが許容できる急性期・重症内科入院患者への薬物予防と、出血リスクが許容できないときの機械的予防まで「強い推奨」に含めて要約しているが、推奨本文では強い推奨は重症患者への・(推奨4)だけで、急性期患者への(推奨1〜3)と機械的予防(推奨7・10)は条件付き推奨である。慢性期・施設入所患者と、不動などの軽微な誘因しかない外来患者には予防を行わないことを提案している(推奨15・16、条件付き)3。延長予防を検討する余地は残るが、それは推奨に反する例外的な判断であることを踏まえる。

💡 癌患者のはで対象を絞る。 化学療法を開始する外来癌患者では、腫瘍の部位・・ヘモグロビン・・の5項目から成るが、0点・1〜2点・3点以上の3群で発症率を段階的に分けた4。ASCO 2023は2点以上の外来癌患者に、出血リスクや薬物相互作用がなければ・・による予防を提案できるとしている5。入院癌患者と外来癌患者で判断軸が違う点に注意する。

二次予防

急性/PEでは、禁忌がなければ、LMWH、またはワルファリンなどで治療する。最低治療期間は通常3か月で、その後は再発リスク、出血リスク、患者の希望を再評価する6。

状況 治療期間の考え方
手術・外傷など大きな一過性誘因 通常3か月で終了を検討
活動性癌・持続性炎症など持続性誘因 誘因が続き出血リスクが許す間は継続を検討
出血リスクが許せば延長または無期限を検討6
再発 長期抗凝固を強く検討

延長療法中も腎機能、薬物相互作用、、転倒・出血、患者の価値観を定期的に見直す。抗凝固薬が適応可能なら、アスピリンは再発予防の同等な代替ではない。

病態を混同しない

心房細動の予防やの抗凝固は重要だが、のとは別の適応である。心房細動ではなど、では弁種・部位に基づく抗凝固管理を行う。には用いない。

💡 BRIDGE試験以降、心房細動での周術期ヘパリンは多くの場合不要になった。 のためにワルファリンを中断する心房細動患者で、によるを行わないことがの予防についてであり、大出血については行わないほうが優れる、という設計で検証された7。、直近の脳卒中・血栓塞栓症、極めて高いなどはこのの対象外で、個別に判断する。

まとめ

  • はリスクが高く出血リスクが許容できる内科入院患者に行う(Padua 4点以上などで対象を絞る)1。
  • 出血リスクが高ければ機械的予防を用い、毎日再評価する。
  • 後は最低3か月治療し、誘因が持続するかを軸に延長を判断する。

出典

  1. 1.A risk assessment model for the identification of hospitalized medical patients at risk for venous thromboembolism: the Padua Prediction Score(Journal of Thrombosis and Haemostasis・2010)内科病棟に連続入院した1180例を高リスクと低リスクに層別し、高リスクは39.7%を占めた。高リスクで予防を受けなかった群のVTE発症率は11.0%、予防を受けた群は2.2%(ハザード比 0.13、95%CI 0.04〜0.40)、低リスク群は0.3%であり、簡便なリスク評価モデルで予防の対象を絞り込めることを示した。閲覧 2026-08-25
  2. 2.A comprehensive review of venous thromboembolism risk assessment models for hospitalized medical patients: comparative evidence, implementation challenges, and future directions(Frontiers in Cardiovascular Medicine・2025)Paduaリスク評価モデルが11の危険因子から成り合計0〜20点で、4点以上を高リスク・4点未満を低リスクとすることを示した。配点は活動性癌・VTE既往・3日以上の可動性低下・既知の血栓性素因が各3点、1か月以内の外傷または手術が2点、70歳以上・心不全または呼吸不全・急性心筋梗塞または虚血性脳卒中・急性感染症またはリウマチ性疾患・肥満(BMI 30以上)・ホルモン治療中が各1点である。妊婦や癌患者では妥当性が確認されていないという限界も示した。閲覧 2026-08-25
  3. 3.American Society of Hematology 2018 guidelines for management of venous thromboembolism: prophylaxis for hospitalized and nonhospitalized medical patients(American Society of Hematology / Blood Advances・2018)推奨本文(pmc.ncbi.nlm.nih.gov の PMC6258910 HTML全文)で確認した。強い推奨は、重症内科患者への未分画ヘパリンまたは低分子量ヘパリンによる予防(推奨4)、急性期内科入院患者でDOACより低分子量ヘパリンを用いること(推奨11・12。他の理由でDOACを服用中の患者には当てはまらない場合がある)、急性期・重症内科患者で退院後の延長予防を行わないこと(推奨13・14)である。急性期内科患者への非経口抗凝固薬(推奨1〜3)、薬物予防を受けない患者への機械的予防(推奨7)、機械的予防での間欠的空気圧迫法と段階的弾性ストッキングのどちらを用いてもよいこと(推奨10)は条件付き推奨で、慢性期・施設入所患者(推奨15)と軽微な誘因しかない外来患者(推奨16)には予防を行わないことを提案する(条件付き)。抄録の結論は薬物予防と機械的予防も強い推奨に含めて要約しており、推奨本文と食い違う閲覧 2026-09-24
  4. 4.Development and validation of a predictive model for chemotherapy-associated thrombosis(Blood・2008)化学療法を開始する外来癌患者2701例の導出コホートで5項目のスコアを作成し、独立した1365例で検証した。0点・1〜2点・3点以上の3群でVTE発症率が段階的に上昇した。閲覧 2026-08-25
  5. 5.Venous Thromboembolism Prophylaxis and Treatment in Patients With Cancer: ASCO Guideline Update(Journal of Clinical Oncology・2023)Khoranaスコア2点以上の外来癌患者に、出血リスクや薬物相互作用がなければアピキサバン・リバロキサバン・低分子量ヘパリンによる血栓予防を提案できるとした。閲覧 2026-08-25
  6. 6.American Society of Hematology 2020 Guidelines for Management of Venous Thromboembolism: Treatment of Deep Vein Thrombosis and Pulmonary Embolism(American Society of Hematology / Blood Advances・2020)初期治療期間を3〜6か月とし、一過性の危険因子で誘発された例はその終了とともに抗凝固を中止する一方、持続性の危険因子による誘発例と非誘発例には出血リスクが高くなければ無期限の抗血栓療法を提案すること(推奨18・19、いずれも条件付き推奨。続ける場合は推奨20でアスピリンより抗凝固を提案)、DOACをビタミンK拮抗薬より優先することを提案すること(推奨3、条件付き推奨・確実性は中。重度腎障害・中等度〜重度の肝疾患・抗リン脂質抗体症候群などには当てはまらない可能性があるとの注記つき)を、PMC7556153のHTML全文で確認した。閲覧 2026-09-24
  7. 7.Perioperative Bridging Anticoagulation in Patients with Atrial Fibrillation(The New England Journal of Medicine(BRIDGE Investigators)・2015)待機的手術・侵襲的処置のためにワルファリンを中断する心房細動患者を、低分子量ヘパリンによるブリッジと偽薬に無作為に割り付け、動脈血栓塞栓症の予防についてブリッジを行わないことが非劣性であり、大出血についてはブリッジを行わないほうが優れることを検証する設計とした。閲覧 2026-08-25