病態生理学

病態生理学 · 1-16

凝固系の過剰活性化に関連する病態

Conditions with excessive activation of the coagulation system

応用トピック
深部静脈血栓症の症状・診断・治療と早期・晩期合併症致死的凝固異常:肺塞栓症と播種性血管内凝固肺塞栓症の病態・診断・治療血栓症の評価後天性血栓性素因抗リン脂質抗体症候群先天性・後天性血栓性素因内科における血栓症の一次・二次予防
症状
血栓塞栓症

🧠 血栓は Virchow三徴(・血流異常・)の掛け算。 中でもが最強で単独でも血栓を起こす。の代表は(APC抵抗性)。

遺伝性血栓性素因

疑う特徴: 若年・再発性・異常部位・予防下でも・軽微な刺激での血栓症。

(括弧内の%は講義資料の頻度。)先天性・後天性の素因の全体像はを参照。

💡 上記の「疑う特徴」は検査を考慮する入口にすぎず、当てはまれば全例に検査を行うという意味ではない。 検査は結果が抗凝固期間などの管理を実際に変える場合に限って選択的に行う。大手術など明確な一過性誘因による()では、をルーチンに検査しない。1

APC抵抗性

💡 APC は凝固の“ブレーキ役”(活性化第V/VIII因子を切って止める)。は V の形を変えて APC に切られにくくする → ブレーキが効かず。

  • APC の産生: 内皮上でトロンビンがに結合し、内皮受容体に乗ったを活性化する。
  • 最も多い。 診断:正常な血漿では APC を加えると凝固時間()が延長する(活性化第V・VIII因子が切られて凝固が遅れる)。APC 抵抗性ではこの延長が乏しい2。
  • 原因の大半は(の点変異 → が変わり APC で不活化されにくい)。後天性の APC 抵抗性はによる。

抗リン脂質抗体症候群

⚠️ 血栓性APSの抗凝固は(ワルファリン)が標準で、()を安易に代用しない。 指針は、初発の静脈血栓を来したAPS()に目標 2〜3のVKA()を長期投与すること、初発の動脈血栓では 2〜3または3〜4のVKAを出血/に応じて用いることを推奨し、トリプル陽性(++がすべて陽性)のAPS患者にはを使用すべきでないとしている3。根拠は試験で、トリプル陽性の高リスク血栓性APSにおいてはワルファリンより動脈血栓イベントを増やし、試験は早期中止となった4。

💡 「禁止」の根拠が最も強いのはトリプル陽性と動脈血栓の患者であり、単独・で静脈血栓のみのAPSについては証拠が限られる。抗体プロファイルと血栓部位を確認せずに「APSだからは全部だめ」「トリプル陽性でなければでよい」のどちらにも単純化しない。

Virchow三徴

flowchart TD
  T["血栓症 = 3要素の掛け算"] --> E["① <span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮傷害</span>(最強・単独でも血栓)"]
  E --> E1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dysfunctional endothelium'>機能障害内皮</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue factor'>組織因子</span>↑・PAI↑・炎症性表現型(inflammatory phenotype)<br>→ NETs → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='platelet activation'>血小板活性化</span>/凝固"]
  T --> F["② <span class='jp-term jp-term-diagram' title='abnormal flow'>異常血流</span>"]
  F --> F1["うっ滞(停滞)+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='turbulent flow'>乱流</span>→ 血小板が内皮に接触・活性化因子が希釈されない"]
  T --> H["③ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypercoagulable state'>凝固亢進状態</span>"]
  H --> H1["凝固促進蛋白↑ または 抗凝固蛋白↓"]
  • ① (最優位): 健常内皮は(、+、、+NO)。機能障害で血栓促進(↑、PAI↑、P-/E-selectin・VCAM-1・ICAM-1)→ 白血球活性化 → TF発現+NETs。内皮が剥がれての結合組織が露出すると、それ自体が血小板を活性化し、がを始動させる。
  • ② : は血小板を中心に保ち、内皮とのあいだを血漿が隔てる。内皮から出た凝固因子も流れで洗い流される。うっ滞(流れが遅くなる)と(流れが速く乱れて血小板が内皮に近づき、内皮も傷つく)は、いずれもこのを崩して血栓を作る。
  • ③ : 凝固促進蛋白↑ または 抗凝固蛋白↓。
  • (一次性/白色/ vs 二次性/赤色/の血栓。)

血栓症の危険因子

リスク 因子
高(10–100倍) 外傷/手術、、
中(2–10倍) 遺伝性(ライデン変異、、変異)、後天性(肥満→症、喫煙、長時間フライト)
低(2倍未満) その他の

危険因子は重なるとリスクが大きく高まる。

💡 この高・中・低のリスク分類は、治療期間を決める「誘発性(一過性の危険因子あり)」か「(明確な誘因なし)」かの区別に直結する。 米国血液学会(ASH)2020年ガイドラインは、()の初期治療を誘因の種類を問わず3〜6か月とし、その後は、一過性の危険因子によるなら通常はを続けず、慢性の危険因子によるとでは無期限のを提案している(どちらも出血リスクの高い患者を除く。いずれも条件付き推奨)。薬剤は()をより優先することを提案しているが、これも条件付き推奨(中等度の確実性)で、(30 mL/分未満)・中等度〜重度の肝疾患・APSなどには当てはまらない可能性があると注記されている。5

COVID-19と血栓症

💡 ウイルスが ACE-2 を奪う → NO(守りの分子)が作れず ANGII(攻めの分子)が暴れ、内皮が血栓に反転する。

  • 正常: ANGII → ACE-2 → ANG 1-7 → 受容体を介して NO 産生(血管拡張、↓、ANGIIの過剰産生への負のフィードバック)。
  • COVID-19: ウイルスが ACE-2 に結合してその働きを遮断 → ANGII↑・NO不足 → 血管収縮+、↑、活性化の抑制 → 血栓内皮。

まとめ

項目 要点
若年・再発・異常部位・予防下・軽微な刺激での血栓で疑う。(APC抵抗性)、、・・S欠乏。検査は管理を変える場合に選択的に行う
APC抵抗性 最も多い。APCを加えても凝固時間()の延長が乏しい。後天性はによる
静脈・動脈血栓と妊娠合併症。血栓性APSの抗凝固はVKAが標準で、トリプル陽性ではを使わない
Virchow三徴 (最強・単独でも血栓)・(うっ滞・)・
危険因子 高(10–100倍)・中(2–10倍)・低(2倍未満)。重なるとリスクが大きく高まり、誘発性かかが抗凝固期間の判断軸になる
ACE-2 遮断 → ANGII↑・NO↓ → 血栓内皮

出典

  1. 1.American Society of Hematology 2023 guidelines for management of venous thromboembolism: thrombophilia testing(American Society of Hematology / Blood Advances・2023)血栓性素因検査は結果が抗凝固期間などの管理を実際に変える場合に限って行い、疑わしい臨床像があるだけで一律に検査しないことを確認した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.Familial thrombophilia due to a previously unrecognized mechanism characterized by poor anticoagulant response to activated protein C: prediction of a cofactor to activated protein C(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America・1993)抄録で、APC抵抗性を初めて報告した研究が、血漿へAPCを加えたときの抗凝固反応を活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の凝固時間の延長で測り、血栓症を繰り返す家系ではAPCを加えても正常な延長が得られなかった(抗凝固反応が乏しい)ことを確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 3.EULAR recommendations for the management of antiphospholipid syndrome in adults(Annals of the Rheumatic Diseases(EULAR推奨)・2019)血栓性APSでは初発の非誘発性静脈血栓に目標INR 2〜3のVKAを長期投与し、初発の動脈血栓ではINR 2〜3または3〜4のVKAを出血/血栓リスクに応じて用いること、およびリバーロキサバンをトリプルポジティブのAPS患者に使用すべきでないとしていることを確認した(DOAC回避の推奨はトリプルポジティブに対して明示されており、APS全般への一律の禁止としては書かれていない)。閲覧 2026-08-14
  4. 4.Rivaroxaban vs warfarin in high-risk patients with antiphospholipid syndrome(Blood(米国血液学会)・2018)トリプルポジティブの高リスク血栓性APSでリバーロキサバンがワルファリンより動脈血栓イベントを増やし、試験が中止となったことを確認した。閲覧 2026-08-14
  5. 5.American Society of Hematology 2020 Guidelines for Management of Venous Thromboembolism: Treatment of Deep Vein Thrombosis and Pulmonary Embolism(American Society of Hematology / Blood Advances・2020)全文(PMC7556153)で確認した。推奨3はDVT・PEにDOACをVKAより優先することを条件付き推奨(中等度の確実性)として示唆し、腎機能障害(クレアチニンクリアランス30 mL/分未満)・中等度〜重度の肝疾患・抗リン脂質抗体症候群などの部分集団には当てはまらない可能性があると注記している。推奨12〜14は誘因の種類(一過性・慢性の危険因子、非誘発性)を問わず初期治療を3〜6か月の短期とすることを条件付き推奨とし、推奨18・19は慢性の危険因子による誘発性VTEと非誘発性VTEで初期治療後の無期限の抗血栓療法を条件付き推奨とする(推奨18・19のいずれも、出血リスクの高い患者には当てはまらないと注記)。一過性の危険因子による誘発性VTEは通常、初期治療後の抗血栓療法を要しないと注記している。閲覧 2026-08-14