病態生理学

病態生理学 · 1-15

凝固系の機能低下に関連する病態

Conditions associated with coagulation system dysfunction

応用トピック
遺伝性血友病A・Bフォン・ヴィレブランド病血小板減少患者の診断アプローチ免疫性血小板減少症血友病

🧠 止血は3段リレー。 ①(血小板の=速いが脆い)→ ②(でフィブリン、=安定)→ ③(線溶で血流を正常化)。カスケード障害は“大きな出血”、血小板障害は“小さな出血”と覚える。

止血— 段階

flowchart TD
  P1["① <span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary hemostasis'>一次止血</span><br>血管収縮→ 血小板が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='von Willebrand factor'>vWF</span>/GP-Ibでコラーゲンに接着<br>→ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='GP-IIb/IIIa'>活性化</span>→ フィブリノゲンで凝集 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='white thrombus'>白色血栓</span>(脆い)"] --> P2["② <span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary hemostasis'>二次止血</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='extrinsic pathway'>外因系</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tissue factor'>組織因子</span>)/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrinsic pathway'>内因系</span>→ トロンビン→ フィブリン → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='red thrombus'>赤色血栓</span>(安定)"]
  P2 --> P3["③ <span class='jp-term jp-term-diagram' title='tertiary hemostasis'>三次止血</span><br>線溶・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recanalization'>再疎通</span>で血流正常化"]
  • : 血管収縮()→ 血小板が vWF+GP-Ib でコラーゲンに接着 → 活性化(顆粒分泌、GP-IIb/IIIa 活性化)→ フィブリノゲン で凝集 → 。
  • : ()/()→ トロンビン に収束 → フィブリン → 。
    • 💡 トロンビンは二面性: (・フィブリノゲン→フィブリン)かつ抗凝固性(結合 → 活性化 → カスケードを制限)。
  • :
    • 線溶

凝固障害(出血性疾患)

  • カスケード障害 → 大きな出血。血小板障害 → 小さな出血。
種類 例
遺伝性 血友病A・B、、
後天性 /、(吸収不良、医原性)、肝疾患、
  • 💡 ビタミンKは第II・VII・IX・X因子などの合成に要るため、吸収不良(脂肪の)や医原性(ワルファリンなど)で欠乏すると複数の凝固因子が同時に低下する。

検査の読み方(PT・APTT・混合試験)

💡 まずどちらの検査が延びるかで障害された経路を絞り、延長がで補正されるかで「因子が足りない」のか「因子の働きを妨げる物質がある」のかを区別する。

血友病A・B

  • 血友病A・Bは、A = 第VIII因子、B = の欠乏。遺伝で患者はほぼ男性に限られるが、女性保因者もなどにより因子活性が低下し出血症状を呈しうる(保因者の約30%は因子活性が40 IU/dL未満)1。「血友病=男性のみの病気」と言い切らない。A/B はだけでは区別できず、因子活性測定で確定する。
  • 💡 第VIII・IX因子はいずれもカスケードの構子で、これが欠けても()は保たれる。そのため出血はいったん止まったようにみえてから再出血する遅発性の深部出血(、血腫)が特徴になる。
  • 特徴:
  • 検査: 正常・延長が典型(軽症ではも正常のことがある)。で補正されれば因子欠乏として因子活性で重症度を層別化し、補正されなければインヒビター(で力価定量)を疑う。
  • 治療:
    • (血友病Aは第VIII因子製剤 、血友病Bは製剤 )による出血時補充・。予防投与の目標は、従来1 IU/dL(1%)が十分とされてきたが、1%では出血リスクが残るため、WFHの第3版は「大半の臨床医がより高い(3〜5%超、またはそれ以上)を目標にしたいと考えている」と付記し、投与量・回数との兼ね合いで個々に決めるとしている1。
    • :の機能を模倣し、活性化とを橋渡しする皮下注射の。血友病Aのに用い、第VIII因子インヒビターの有無を問わず使用できる2。
    • 遺伝子治療:血友病Bではを発現させる遺伝子治療()が承認されている3。血友病A用の遺伝子治療も承認されたが、継続の有無は変動しているため最新の状況は血友病A・Bのノートを参照する。
    • :反応を事前確認した軽症血友病Aの小出血・小手術に使用可(を放出しないため血友病Bには無効)。
    • ⚠️ 因子製剤への(インヒビター)は、未治療の血友病A患者ので約30%に生じ1、期待した因子回収が得られない・出血が増えるなどの形で顕在化する。
    • ⚠️ の予防投与中にを平均で100 U/kg/24時間を超えて24時間以上投与した例で、と血栓性イベントが報告されている(米国添付文書の)2。

フォン・ヴィレブランド病

病型 異常の性質 特徴
1型 の部分的な量的低下 最多(全の大半)、軽症〜中等症
2A型 の選択的減少 血小板依存性の活性が低下
2B型 血小板GP-Ibへの親和性が異常に亢進 が消費され血小板減少を伴い得る
2M型 構造は保たれるが血小板結合能が低下 活性/抗原比が低い
2N型 第VIII因子との結合能が低下 第VIII因子が低下し血友病Aに類似する
3型 がほぼ完全に欠如 最重症、深部出血も起こり得る
  • ⚠️ 2B型(および3型)にはを用いない。 2B型では血小板への親和性が異常に高い異常が放出を促されるとさらに消費が進み、血小板減少を悪化させる。3型はの内因性貯蔵がなく無効。使用前に病型を確認し、事前に反応が確認できた1型・一部の2型に限って用いる。国際ガイドライン(2021年)は、が選択肢となる主に1型の患者で基礎の値が0.30 IU/mL未満ならを行い、その結果で治療を決めることを条件付きで推奨し(エビデンスの確実性は非常に低い)、このほか活動性の心血管疾患・痙攣性疾患・2歳未満、手術時の1C型でも概して禁忌としている4。
  • 症状:
  • 検査: は正常。は正常のことが多く、第VIII因子が低下した病型(3型、2N型など)でのみ延長する(正常はを除外しない)。抗原・血小板依存性活性(GP-Ib結合能)・第VIII因子活性を組み合わせて評価する。はストレス・感染・妊娠などで変動するのため、疑いが強ければ安定時に再検する。

血小板減少症

免疫性血小板減少性紫斑病

()の機序:

💡 自己抗体(抗 GP-IIb/IIIa または抗 GP-Ib)が 3つの経路で血小板を減らす。

  1. に結合 → 産生↓。
  2. 血小板に結合 → 脾で除去↑。
  3. 早期で肝取込み亢進(肝が若い血小板を古いと誤認)。
  • 自己抗体ができるきっかけ: の破綻(自己免疫、)と、血小板抗原の露出(、炎症、感染)。

まとめ

論点 要点
止血の3段階 (血小板の)→ (のフィブリン、)→ (線溶・)
出血の型 障害は大きな出血、血小板障害は小さな出血
検査 のみ延長は、・ともに延長は・・肝疾患・。で補正されれば因子欠乏、されなければインヒビター。・正常でもやは否定できない
血友病A・B 第VIII・欠乏、X連鎖。・。女性保因者も出血しうる
血友病の治療 因子製剤の補充・(は1%より高く個別化)、(血友病A、インヒビターの有無を問わない)、血友病Bの遺伝子治療。インヒビターは未治療の血友病Aの約30%
最も多い遺伝性。の量的低下(1型・3型)と質的異常(2型)。2B型・3型には使わない
産生低下(・・)と(・HIT・・)。HIT・・は出血と血栓の両方
抗GP-IIb/IIIa・抗GP-Ib自己抗体が産生↓・脾での除去↑・肝での取込み↑の3経路で血小板を減らす

出典

  1. 1.WFH Guidelines for the Management of Hemophilia, 3rd edition(World Federation of Hemophilia・2020)Wayback保存のWFH公式PDF(www1.wfh.org、184頁)で、従来は予防療法のトラフ値1 IU/dL(1%)が十分な目標とされたが、1%では出血リスクが残るため大半の臨床医がより高いトラフ値(3〜5%超、またはそれ以上)を目標にしたいと考えていると推奨の付記(REMARK)で述べ、個々の活動や生活に合わせて個別化するとしていること、第VIII因子インヒビターは未治療の血友病A患者で累積約30%に生じること、保因者の約30%は因子活性が40 IU/dL未満で出血症状を呈しうることを確認した。閲覧 2026-08-14
  2. 2.HEMLIBRA (emicizumab-kxwh) — Highlights of Prescribing Information(Genentech・2025)添付文書PDF(Revised 07/2025)で、エミシズマブが第IXa因子と第X因子を橋渡しする皮下注射の二重特異性抗体で、新生児以上の血友病Aに第VIII因子インヒビターの有無を問わず定期予防として用いること、枠組み警告として、本剤の予防投与中に活性型プロトロンビン複合体製剤を平均で累積100 U/kg/24時間を超えて24時間以上投与した例で血栓性微小血管症と血栓性イベントが報告されていることを確認した。閲覧 2026-08-14
  3. 3.HEMGENIX (etranacogene dezaparvovec-drlb) — FDA Approval Letter(U.S. Food and Drug Administration・2022)承認書のPDF本文で、エトラナコゲン デザパルボベク(BL 125772/0)が2022年11月22日付でFDAに承認されたことを確認した。閲覧 2026-08-14
  4. 4.ASH ISTH NHF WFH 2021 guidelines on the management of von Willebrand disease(ASH/ISTH/NHF/WFH・2021)本文(PMC7805326)で、デスモプレシンは有効性が期待できないため3型VWDで、血小板結合亢進により血小板減少を来し得るため2B型VWDで、それぞれ禁忌とされること、活動性の心血管疾患・痙攣性疾患・2歳未満・手術時の1C型でも概して禁忌とされること(good practice statement)、デスモプレシンが妥当な選択肢となる主に1型の患者で基礎のVWF値が0.30 IU/mL未満なら試験投与を行い結果に基づいて治療すること(推奨2a、条件付き・エビデンスの確実性は非常に低い)、試験結果なしに投与しないこと(推奨2b)を確認した。閲覧 2026-08-14