微生物学

微生物学 · 5/33

微生物学で用いられる分子生物学的検査法

Molecular examination methods used in microbiology

検査値
核酸増幅検査

🧠 法の強みは「病原体そのものではなく遺伝情報を検出する」ことに尽きる。 抗原検出や培養に頼らない分、感度・特異度が高く、培養困難な病原体や数週間かかる培養でも数時間〜数日で結果が出る。ただし1/8・1/9で学んだ「細菌がどう変異し、遺伝子をどう伝達するか」という生物学的機序とは主題が異なる——本トピックの主役は、その遺伝子を検査室でどう検出するかという技術である。

分子生物学的検査の利点

  • 高い感度・特異度
  • 抗原ではなく病原体そのもの(の遺伝情報)を検出する
  • 高い輸送耐性——微量の検体でも検査可能
  • 培養より迅速に結果が得られる

いつ分子生物学的検査を使うか

  • 血清学的検査に適さない検体(便、水疱液など)
  • 頻度の高い感染症(インフルエンザ、腸管ウイルス感染症)
  • を避けたい場合
  • ウイルス株の同定、ウイルス変異、/ドリフトの検査
  • 治療モニタリング——ウイルスの測定(・・)
  • (・)
  • 検体保存:4°Cで24時間、または−20°Cで24時間超(至適は−70°C)

PCR:DNAの増幅

  • 菌種の同定に利用できる。
  • Chlamydiaのように培養が困難な細菌の診断に利用できる。
  • 耐性遺伝子の検出に利用できる。
  • 毒素そのものではなく、毒素産生遺伝子の検出に利用できる。

⚠️ 多重パネル(呼吸器・髄液・消化管など)は「検出=原因」ではない。 同時に多数の病原体遺伝子を数時間で検出できる利便性の一方、無症候性のや既に排除された病原体の残存核酸まで拾い上げるため、陽性所見がそのまま臨床的な原因病原体を意味するとは限らない——臨床像と照合して解釈する必要がある。

💡 核酸を検出できることと、生きた病原体がいることは別問題である。 は死菌由来の核酸や治療後に残存する断片も検出しうるため、治療効果判定(治癒判定)のとしては使えない——培養や抗原検査など、生菌・を反映する検査を代替できない。

  • プライマーはウイルスゲノムのに設計され、全ての遺伝子型を検出できるようにする。
  • ウイルス:(nested )——プライマーのを減らす目的で用いる。
  • ウイルス:逆転写(reverse transcription , )——を鋳型にcDNAを合成してから増幅する。
flowchart TD
    A["鋳型となる2本鎖<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>"] --> B["① 変性94〜96°C<br>2本鎖<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>が1本鎖に解離する"]
    B --> C["② <span class='jp-term jp-term-diagram' title='annealing'>アニーリング</span>約68°C<br>プライマーが1本鎖<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>に結合する"]
    C --> D["③ 伸長約72°C<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>ポリメラーゼがプライマーから新生鎖を合成する"]
    D --> E["2本鎖<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>が2倍に増幅される"]
    E -->|"サイクルを繰り返す"| B

定量PCR

  • (real-time , QPCR)とも呼ばれる。
  • 治療モニタリングに用いる。
  • 施設ごとにキャリブレーションが異なるため、異なる検査室間の結果は比較できない。
  • 反応終了時点ではなく、反応の途中で標的の増幅量を検出する点が通常のとの違い。
  • 検出は蛍光を利用する:
    • に非特異的に結合する
    • 相補配列とハイブリダイズした後にのみ検出可能となる、蛍光レポーターで標識された配列特異的プローブ

サザンブロット・ノーザンブロット

  • :断片の検出。
  • :断片の検出。

💡 は「分子」ではなく「蛋白質」を見る技術だが、の主役を交代させた。 はコロニーの蛋白質スペクトルをデータベースと照合して同定する手法で、核酸を検出するとは原理が異なる。前向き研究では細菌1,660株のうち95.4%が正しく同定され(84.1%が種レベル)、1株あたりの所要時間は平均6分・コストは従来法の22〜32%にとどまり、グラム染色・生化学的同定に取って代わりつつある1。

💡 全ゲノム(WGS)はの主役を法(PFGE)から奪いつつある。 1回の解析で菌種・血清型・・の情報をまとめて得られるため、従来の表現型に基づく型別を置き換えうる技術で、将来的には臨床検体から直接するメタへと発展し、臨床診断・をさらに変えうる2。

抗体検出:ELISA

酵素反応が基質を発色産物に変え、その色調変化から抗体量を算出する。

  • 抗ヒト抗体を用いて対象抗体を検出する。
  • 酵素-基質反応により発色させる。
  • 洗浄ステップが結果のを左右する重要な工程。
  • 発色が濃いほど、対象抗体の量が多いことを示す。

まとめ

  • は病原体の遺伝情報を直接検出するため、感度・特異度が高く、培養困難な病原体や微量検体にも対応できるが、多重パネルの陽性は・残存核酸も拾うため臨床像との照合が必要で、治癒判定には使えない。
  • はをに増幅する手法で、変性→→伸長のサイクルを繰り返す。ウイルスには、ウイルスには逆転写()を用いる。
  • (qPCR)は反応の途中で増幅量をし、治療モニタリングに用いるが、施設間の結果比較はできない。
  • は、はの検出に用いる。は蛋白質スペクトルによる同定でグラム染色・生化学的同定を置き換えつつあり、全ゲノム(WGS)はPFGEに代わるの手法として、将来的にはメタへと発展しうる。
  • は酵素-基質反応による発色を利用した法で、洗浄ステップの精度が結果のを左右する。
  • 本トピックが扱う「検査室での遺伝子」は、1/8・1/9で学んだ「細菌における遺伝子の変異・伝達の生物学的機序」とは別の主題である点に注意。

出典

  1. 1.Ongoing revolution in bacteriology: routine identification of bacteria by matrix-assisted laser desorption ionization time-of-flight mass spectrometry(Clinical Infectious Diseases・2009)日常検査としてMALDI-TOF質量分析法による細菌同定を従来の表現型同定と並行して前向きに評価したところ、分離株1,660株のうち95.4%が正しく同定され(84.1%が種レベル、11.3%が属レベル)、1株あたりの所要時間は平均6分、コストは従来法の22〜32%にとどまり、近い将来グラム染色・生化学的同定を置き換えうると結論した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Next-generation sequencing technologies and their application to the study and control of bacterial infections(Clinical Microbiology and Infection・2018)次世代シークエンス(NGS)技術は伝統的な微生物学的手法の多くを置き換えうる技術であり、公衆衛生分野では分離株の全ゲノムシークエンス(WGS)が疫学調査(従来のパルスフィールドゲル電気泳動法, PFGEに代わる分子疫学)に活用されていること、将来的には臨床検体から直接シークエンスを行うメタゲノム解析へと発展し、臨床診断・公衆衛生サーベイランスをさらに変えうる可能性があることを確認した。閲覧 2026-08-26