脳神経内科学

脳神経内科学 · G2-20

記憶障害の局在

G2-20: Localization of memory disturbances

前提:正常
大脳辺縁系(核と伝導路)脳波(EEG)・睡眠現象・学習と記憶

🧠 全体像:記憶は一か所に保存されるのではない。内側・は新しい、はと検索戦略、基底核・小脳は技能学習、は情動的重みづけを担う。

記憶過程を分ける

過程 内容 主なネットワーク
注意を向け、新しい情報を取り込む 、海馬・内側
固定 時間をかけて長期記憶を安定化する 海馬・内側から分散した大脳皮質へ
貯蔵 意味・エピソード・感覚情報を保持する 側頭・頭頂・後頭などの分散皮質
検索 必要な記憶を戦略的に取り出す と関連皮質

、、うつ、せん妄は「覚えられない」訴えをつくるため、純粋な記憶障害と区別する。

記憶系と局在

記憶の型 主な局在 障害像・原因例
エピソード・ 海馬、、、・内背側核 両側内側病変、、、Wernicke-Korsakoff症候群で
と頭頂ネットワーク 情報を短時間保持しながら操作できない。、せん妄など
意味記憶 外側・前部を中心とする分散皮質 語や概念の意味が失われる。意味性認知症など
線条体、小脳、 運動技能・習慣学習の障害。基底核・小脳疾患
情動記憶 と海馬・ 情動価による記憶強化、の変化
空間記憶 海馬、、頭頂・後頭ネットワーク ・場所・場面の。右側病変で目立つことがある

「空間記憶=」「視覚記憶=」と単一部位へ割り当てるのは過度な単純化である。は視覚入力、は、内側は経験の記憶形成にそれぞれ寄与する。

flowchart TD
    A["新しい経験"] --> B["注意・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='working memory'>作業記憶</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Prefrontal cortex'>前頭前野</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='encoding'>符号化</span>・固定<br>海馬・内側<span class='jp-term jp-term-diagram' title='temporal lobe'>側頭葉</span>"]
    C --> D["分散した大脳皮質に長期表象"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Prefrontal cortex'>前頭前野</span>が検索を組織化"]

健忘の型

  • :発症後の新しい記憶を形成できない。両側海馬、内側、性が重要。
  • :発症前の記憶を失う。ほど障害されやすい時間勾配を示すことがあるが、原因により異なる。
  • :記憶の空白を意図せず誤った内容で埋める。Wernicke-Korsakoff症候群や・病変でみられる。
  • :数時間規模でが急に生じ、通常24時間以内に消失するの健忘で、海馬CA1領域の一過性機能不全が想定される。年間発症率は人口10万人あたり5.2例(米国の一地域、平均追跡80か月の症例集積)、23.8%が再発するが、その後の増加とは関連しなかったとの報告がある1。分類・鑑別の詳細は記憶障害の分類を扱う別ノートに譲る。

💡 の局在を最初に確立したのはH.M.の症例である。 両側内側切除を受けた9例(精神疾患8例・てんかん1例、H.M.を含む)の検討では、切除が前方海馬・海馬回まで及んだ症例に限り持続的な障害が生じ、切除範囲が広いほど障害が重度だった一方、既存の遠隔記憶や技能学習能力は保たれ人格・全般的知能の低下はみられなかった(症例シリーズ)2。ただしH.M.自身の切除範囲は、術後40年以上を経て行われた研究で再検討されている——病変は側頭極皮質・の大部分・の大部分に及んでいたが、の吻尾方向の切除は約半分にとどまり、海馬体尾側約2cmは萎縮しつつも残存していたことが確認された(当初の記載より海馬の後方部分が多く温存されていたことになる)3。

⚠️ 視床性(性)健忘と性健忘は、は異なるが長期記憶の忘却速度という指標では区別できない。 の強さを揃えたうえで性健忘患者6例・内側性健忘患者5例・健常対照10例の記憶を比較した実験では、10分〜30時間超のいずれの遅延でも両健忘群の成績はほぼ同等で、忘却速度に有意差はみられなかった——「性健忘は忘却が正常で内側性健忘は忘却が異常に速い」というかつての仮説は、この指標では支持されなかった4。

診察の組み立て

即時再生、、、手掛かりによる改善、などを組み合わせる。海馬性障害では・手掛かりでも改善しにくく、性検索障害では手掛かりで改善することがある。日常生活への影響とからの病歴も不可欠である。

まとめ

  • 海馬・性回路は新しい、はと検索、基底核・小脳はに重要である。
  • 記憶障害を・固定・貯蔵・検索へ分けると局在しやすい。
  • 注意、言語、情動、視覚認知の障害を除外し、再生との差を評価する。

出典

  1. 1.Transient global amnesia: clinical characteristics and prognosis(Neurology・1987)一過性全健忘(TGA)患者277例(平均追跡80か月)の検討で、TGAの発症率は米国ロチェスター市で人口10万人あたり年間5.2例であったこと、23.8%の患者が再発を来したこと、これらの患者はその後の脳卒中リスク増加とは関連しなかったことを確認した閲覧 2026-08-27
  2. 2.Loss of recent memory after bilateral hippocampal lesions(Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry・1957)両側内側側頭葉切除(精神疾患8例・てんかん1例、計9例)を対象とした心理検査で、切除が前方海馬・海馬回まで及んだ症例に限り持続的な近時記憶障害が生じ、切除範囲が広いほど障害が重度だったこと、既存の遠隔記憶・技能学習能力は保たれ人格や全般的知能の低下はみられなかったことを確認した(ヒトの症例シリーズ、H.M.を含む)閲覧 2026-08-27
  3. 3.H. M.'s medial temporal lobe lesion: findings from magnetic resonance imaging(The Journal of Neuroscience・1997)H.M.の切除から40年以上を経て撮像したMRIにより切除範囲を再検証した研究で、病変は左右対称に側頭極皮質・扁桃体複合体の大部分・嗅内皮質の大部分または全部と、海馬形成体(歯状回・海馬・支脳複合体)の脳室内部分の吻尾方向のおよそ半分に及んでいたこと、海馬体の尾側およそ2cm(正常長约4cm)は萎縮していたが残存していたこと、傍海馬皮質(TF・TH野)はほぼ温存されていたことを確認し、H.M.の切除範囲は当初考えられていたより海馬の後方部分を多く残していたことを示した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Equivalent forgetting rates in long-term memory for diencephalic and medial temporal lobe amnesia(The Journal of Neuroscience・1992)間脳性健忘患者6例・内側側頭葉性健忘患者5例・健常対照10例を対象に、提示時間を変えて符号化の強さを揃えたうえで10分・2時間・30〜32時間後の再認記憶を比較した実験で、いずれの遅延時間でも間脳性健忘群・内側側頭葉性健忘群・対照群の成績はほぼ同等であったこと、両群の健忘で長期記憶の忘却速度に違いは見出されなかったことを確認した(ヒトの実験)閲覧 2026-08-27