病態生理学

病態生理学 · P-2-31

神経血管カップリングと機能的脳画像(fNIRS)

Neurovascular coupling & fNIRS in brain imaging

前提:正常
脳循環と血液脳関門

🧠 全体像: 神経活動が高まると、その領域へ酸素と栄養を届けるため局所が増える。このを、ヘモグロビンの酸素化変化として頭皮上から連続測定する方法がfNIRSである。

神経血管カップリング

とは、神経活動によって局所血流が増加する現象である。

  • 神経血管ユニットは、次の要素が一つの機能単位を形成する。
    • ニューロン
    • :アストロサイト、、
    • 血管周囲のと
  • イオン、、神経伝達物質、NO、プロスタグランジンなどの血管作動性メディエーターが血管応答を担う。
  • ニューロンやアストロサイトからメディエーターが放出されると、血管拡張と局所が起こる。
flowchart TD
    A["神経活動が増加する"] --> B["グルタミン酸が放出される"]
    B --> C["ニューロンのNMDA受容体を刺激する"]
    C --> D["Ca²⁺が流入する"]
    D --> E["NO・プロスタグランジンが産生される"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='smooth muscle cells'>平滑筋細胞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pericyte'>ペリサイト</span>が弛緩する"]
    F --> G["血管が拡張し、局所<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cerebral blood flow, CBF'>脳血流</span>が増加する"]

別経路では、グルタミン酸がアストロサイトのを刺激し、血管作動性メディエーターの放出を介して血管拡張とを起こす。

💡 近年の総説は、を「ニューロンとアストロサイトが近傍の血管へ信号を送る一次元的な過程」ではなく、複数種類の細胞が放出するメディエーターが、脳血管網全体にわたって別々のシグナル経路とエフェクター系を協調的に動員する多次元的な過程として捉え直している1。上図の一本道は理解の足がかりであって、実際は毛細血管のから上流の細動脈まで、複数の階層が同時に応答している。

高血圧、、虚血性脳卒中などでが障害されると、栄養素・O₂の供給と代謝最終産物の除去が低下し、脳内微小環境が不安定になる。

機能的近赤外分光法

  • 神経活動に伴う局所血流変化は、、、fMRI、fNIRSで画像化できる。
  • (fNIRS)は、神経活動に伴う血液酸素化と血液量の変化を連続的に測定する。⚠️ fNIRSが直接とらえているのは神経活動そのものではなく、を介した局所のヘモグロビン変化であるという間接指標である点に注意する。
  • 光源から700〜900 nmの近赤外光を照射する(総説では650〜950 nmの範囲とされる2)。この波長帯は生体組織を比較的よく透過するため、頭皮上から大脳皮質まで光が届く。
  • 光源と検出器の組をチャネルと呼び、チャネルが測っているのは両者の中点の、光源–検出器間距離のおよそ半分の深さの組織である。距離を長くするほど深くまで届く2。
  • 近赤外光は組織を通過する際に一部が吸収・散乱され、検出器が光強度の低下を測定する。
  • 測定した光強度から、の濃度変化を推定する。
  • 主なは、と(Hb)であり、吸収が最大になる波長が異なる。
  • 光強度から濃度変化への換算には、修正Beer–Lambert則(mBLL)を用いる3。から血液量変化を、両者の差から基準時点に対する酸素化変化を推定する。

💡 通常のBeer–Lambert則をそのまま使えないのは、生体組織では光が強く散乱し、光が実際に進む距離が光源–検出器間の直線距離よりずっと長くなるためである。mBLLはこれを微分係数(DPF)と散乱項で補正する。DPFは年齢・部位・波長で変わるので、この値の置き方が濃度変化の推定値を左右する。

長所と短所

短所
非侵襲的 が低く(約2〜3 cm)、fMRIやに劣る
を用いない 深部ほど光が減衰するため、測定深度は約1.5〜2 cmで大脳皮質に限られ、大脳基底核・視床・脳幹などの皮質下構造は測定できない
がfMRIより高い(EEG・MEGには劣る) 頭皮・頭蓋の血流など全身性のを受けやすい
可搬性があり、体動に比較的強い。低コストで長時間の連続測定に向く 構造画像(解剖学的情報)は得られない

表の・測定深度・の比較は、fNIRSのと短所を整理した総説による2。

⚠️ 頭皮・頭蓋の血流変化という全身性のが信号に混入する。 近赤外光は皮膚・頭蓋骨・脳脊髄液を通過してから大脳皮質に達するため、検出器がとらえる光強度の変化には、目的とする皮質のヘモグロビン変化だけでなく、頭皮の血流・血圧・心拍・呼吸に由来する変動が重なる。とくにとMayer波(血圧の緩徐な自律神経性振動)は、目的の血行動態応答と同じ周波数帯に入るため、単純なバンドパスフィルタでは除去できない3。

💡 このへの対処として、fNIRSの標準的な報告指針は3つの方策を挙げ、その第一に短距離チャネルの併用を置いている3。短距離チャネルとは光源–検出器間距離が15 mm未満(成人では約8 mm、乳児では約4〜5 mmが最適とされる)のチャネルで、頭蓋外組織の灌流・酸素化変化に主に感受性を持つ。これを通常の長距離チャネルと並行して配置し、短距離チャネルがとらえた頭皮由来成分を長距離チャネルの信号から回帰で差し引くことで、大脳皮質への感度を高める。短距離チャネルが無い機器では、チャネル数を増やす、あるいは血圧・心拍などの全身性生理指標を別途記録して信号処理に取り込む、という代替の方策が挙げられている。

⚠️ 加齢やでは自体が障害されうる。 高血圧、、などでが障害されている患者では、fNIRSで観察されるヘモグロビン変化の低下を「その領域の神経活動が低下した」とそのまま解釈することはできない。神経活動自体は保たれていても、これを血流応答へ変換する機序(アストロサイト・・メディエーターなど)が障害されていれば、信号は小さくなりうるためである1。高齢者や患者にfNIRSを含む血流依存性の脳画像検査(fMRIのBOLD信号も同じ前提に立つ)を用いる際は、この解釈上の限界を踏まえる必要がある。

主な応用

  • 感覚野、運動野、、、、言語中枢の活動評価
  • 発達心理学研究
  • てんかん発作、、の研究・評価

💡 の研究にfNIRSが向く理由。 総説は先行研究(Masatakaら)の指摘を引いて理由を2つ挙げる。1つは技術的なもので、頭の前側は毛髪が少なく光を当てやすい。もう1つのより重要な理由は、の多くが自発的な行動や、答えの決まっていない状況への対処を担っていることで、環境・指示・反応の選択肢を厳しくした状況(スキャナー内の課題など)ではこの働きを測ろうとしても測りたいものから外れやすい。体動に強く持ち運べるfNIRSなら、歩行中など日常に近い状況で測定できる。では、言語課題中のの機能異常が多く研究されている2。

まとめ

項目 要点
神経活動の増加が局所の増加を引き起こす現象。担い手は内皮細胞・ニューロン・グリア・/平滑筋からなる神経血管ユニット
主な経路 グルタミン酸 → ニューロンのNMDA受容体 → Ca²⁺流入 → NO・プロスタグランジン → 血管拡張。アストロサイトのを介する経路もある
障害される病態 高血圧、、。信号の低下を神経活動の低下と読み替えない
fNIRSの原理 近赤外光の吸収・散乱から、修正Beer–Lambert則で酸素化・の濃度変化を求める。から血液量、差から酸素化の変化
非侵襲・非放射線・fMRIより高い・可搬性・体動への耐性
限界 約2〜3 cm、測定深度約1.5〜2 cm(皮質のみ)、頭皮血流・呼吸・Mayer波などの全身性。短距離チャネルで頭皮成分を差し引く
応用 感覚野・運動野・・・・言語中枢の活動評価、発達研究、てんかん・・の研究

出典

  1. 1.The Neurovascular Unit Coming of Age: A Journey through Neurovascular Coupling in Health and Disease(Neuron・2017)神経血管カップリングは、ニューロン–アストロサイトから局所血管への一次元的な過程ではなく、複数の細胞から放出されるメディエーターが脳血管網全体にわたって異なるシグナル経路とエフェクター系を協調的に動員する多次元的な過程として捉え直されている。神経変性疾患における神経血管ユニットの機能障害も近年認識されてきた。閲覧 2026-08-14
  2. 2.The present and future use of functional near-infrared spectroscopy (fNIRS) for cognitive neuroscience(Annals of the New York Academy of Sciences・2020)PMC6367070 の全文で確認(2018年8月オンライン公開、誌上は1464巻1号5〜29頁、2020年3月)。fNIRSは650〜950 nmの近赤外光を頭部に照射して酸素化・脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化を測ること、光源と検出器の組(チャネル)が測る組織は両者の中点の、光源–検出器間距離のおよそ半分の深さにあり、距離が長いほど深く届くこと、短所の表に測定深度1.5〜2 cm・fMRIより低い空間分解能・EEG/MEGより低い時間分解能・全身性の干渉・構造画像が得られないことを、長所の表にfMRIより高い時間分解能・体動への耐性・可搬性・低コスト・長時間連続測定への適性を挙げ、他の画像法との比較表で空間分解能を2〜3 cm、測定深度を大脳皮質としていることを確認した。前頭前野の研究にfNIRSが向く理由として、Masatakaらの指摘を引いて、前頭部は毛髪が少ないという技術的理由と、前頭前野の多くが自発的な行動や答えの決まっていない状況への対処を担い、厳しく制約された状況での測定は構成概念妥当性を損なうおそれがあるという、より重要な理由を挙げていること。統合失調症では言語流暢性課題中の前頭前野の機能異常が多く研究されていること。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Best practices for fNIRS publications(Society for Functional Near-Infrared Spectroscopy・2021)短距離チャネルは光源–検出器間距離15 mm未満(成人で最適は約8 mm、乳児で約4〜5 mm)と定義され、頭蓋外組織の灌流・酸素化変化に主に感受性を持つ。長距離チャネルと並行して使うことで大脳皮質への感度を最大化する、頭蓋外交絡への3つの対処方策のうちの第一の方策として挙げられている。また、呼吸性変動とMayer波は血行動態応答と同じ周波数帯に入るため単純なバンドパスフィルタでは除去できず、生の光強度から濃度変化への換算には修正Beer–Lambert則(mBLL)を用いると記載されている。閲覧 2026-08-14