生理学

生理学 · 5.4

ヒトの血液型システム。

The human blood group systems.

応用トピック
輸血の適応と原則自然流産・早期妊娠喪失新生児適応期の血液疾患(多血症・胎児新生児溶血性疾患)

🧠 ABO式は「に酵素を1つ足すごとに抗原が変わる」化学の物語、Rh式は「初回感作がないと抗体ができない」の物語として区別する。この2つの物語の違い(IgM vs IgG、常時産生 vs 感作後産生)が、ABOは輸血で・Rhは妊娠でそれぞれ最も問題になる理由をそのまま説明する。

血液型の基本

赤血球表面のの有無による分類。300種類以上の抗原が知られるが、大半は弱く輸血上の意義は乏しい。臨床上最重要なのは強い免疫反応を誘発するABO式とRh式。

⭐ 「血液型はABOとRhの2つ」は臨床上の重要度による簡略化であり、血液型系そのものはこの2つだけではない。 国際輸血学会(ISBT)は2022年の報告時点で43の血液型系・378抗原(うち345抗原が43系に整理され、33抗原は遺伝的基盤が未同定)をに認定しており、新しい系・抗原は現在も追加され続けている1。ABO・Rh以外の系(Kell・Duffy・Kidd・MNSなど)はが弱いか頻度が低いため輸血で問題になりにくいだけで、「存在しない」わけではない。

ABO式血液型

ABO式の抗原は、一連の(グリコシルトランスフェラーゼ)が作るそのもの。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='H antigen'>H抗原</span>:フコース転移酵素(全員が発現)"]
  A -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='N-acetylgalactosamine'>N-アセチルガラクトサミン</span>転移酵素も発現"| B["A抗原→血液型A"]
  A -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='galactose'>ガラクトース</span>転移酵素も発現"| C["B抗原→血液型B"]
  A -->|"両方発現"| D["A抗原+B抗原→血液型AB"]
  A -->|"どちらも発現しない"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='H antigen'>H抗原</span>のみ→血液型O"]
  • : 全員が活性を持ち、を持つ抗原を発現する。これのみなら血液型O。

⚠️ ごくまれにそのものを作れない人がいる(Bombay型、hh表現型)。 を作るフコース転移酵素の遺伝子(FUT1)の機能喪失により、A・B抗原の有無以前に自体が欠如する。血液型検査ではA・B抗原陰性のためO型のように見えるが、通常のO型血球にもはあるため、Bombay型の血清中の抗Hはこれと反応してしまい、通常のO型血を輸血できない(適合するのはBombay型同士の血液のみ)2。

  • A抗原: 追加で転移酵素活性を持つとにが付加されA抗原になる。
  • B抗原: 追加で転移酵素活性を持つとにが付加されB抗原になる。

遺伝: A・B対立遺伝子は、O対立遺伝子は劣性。

抗体と輸血適合性

⭐ 自分が発現していない抗原に対しては、常時それに対する抗体を産生している。 A抗原を持つ人(血液型A)は抗B抗体を、B型は抗A抗体を産生する。AB型はどちらの抗体も持たず(万能受血者, universal recipient)、O型は抗原を持たない(万能, universal donor)ため、この非対称性がABO適合性のルールをそのまま決める。

血液型 供血できる相手 受血できる相手
A+ A+, AB+ A+, A-, O+, O-
O+ O+, A+, B+, AB+ O+, O-
B+ B+, AB+ B+, B-, O+, O-
AB+ AB+ 全員
A- A+, A-, AB+, AB- A-, O-
O- 全員 O-
B- B+, B-, AB+, AB- B-, O-
AB- AB+, AB- AB-, A-, B-, O-

では、非に抗体が結合し貪食・・(本来病原体防御の機序)が起こる。

💡 抗A・抗B抗体はIgM型で、胎盤を通過できない。 そのため ABO式は輸血では極めて重要だが、妊娠における母児不適合の主役にはなりにくい——これがRh式との決定的な違いを生む。

Rh式血液型

Rh式で問題になるのは最もの強い。を持てばRh陽性、持たなければRh陰性(D対立遺伝子は優性、DD・Dd genotypeともに陽性)。

💡 Rh式は「の有無」だけの系ではない。 ISBTのRh系(RH)にはD以外にもC/c・E/eなど多数の抗原が含まれ、本ノートで扱う「の有無」はそのうち臨床的に最も重要な1点を取り出した簡略化である1。さらに血清学的にが弱陽性・不定となる弱D(weak D)、D蛋白の一部エピトープを欠きを産生しうる部分D(partial D)という表現型があり、ルーチン検査の約0.2〜1%で弱D表現型が生じる。大半(白人では弱D1・2・3型)はRHDによりRh陽性として安全に扱えるが、部分D保有者は輸血・妊娠でRh陰性としての管理が必要になりうる3。

⚠️ Rh陰性者はを常時産生しない——初回曝露があって初めて産生が始まる。 さらにはIgG型であるため胎盤を通過できる。この2点の組み合わせが母児不適合の機序そのもの。

Rh不適合妊娠の機序

flowchart TD
  A["Rh陰性の母 × Rh陽性の父"] --> B["第1子(Rh陽性)妊娠"]
  B --> C["分娩時に胎児血が母体血に混入"]
  C --> D["母体が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D antigen'>D抗原</span>に初回感作→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-D antibody'>抗D抗体</span>(IgG)産生開始"]
  D --> E["第2子(Rh陽性)妊娠"]
  E --> F["母体の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-D antibody'>抗D抗体</span>が胎盤を通過→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fetal red blood cell'>胎児赤血球</span>に結合"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fetal red blood cell'>胎児赤血球</span>の免疫学的破壊(溶血)"]

予防策

  1. 分娩時の母児血混合を防ぐ(帝王切開などによる)。
  2. 先制的な中和: 分娩前に母体へを注射する。外因性抗体が胎児血中のを中和し、母体免疫系による認識と抗D産生の開始を防ぐ。

輸血手順

  • ・受血者双方の血液を両方向で検査し、互いの血液に対する抗体の有無を確認する(two-sided test、, crossmatch)。
  • 実際の輸血前に、で両者の血液を混合し凝集の有無を確認する。
  • 輸血前に血液を体温まで加温し、低温抗原への非特異的反応を防ぐ。
  • により免疫反応が生じた場合:抗ヒスタミン薬を投与。重篤・生命を脅かす反応の場合:副腎皮質ステロイド+エピネフリンを投与。

まとめ

  • ABO式抗原はの組み合わせで決まる(H→A/B/AB/O)。自分にない抗原へのIgM抗体を常時産生するため、O型は万能、AB型は万能受血者になる。
  • Rh式はの有無で決まり、Rh陰性者は初回曝露後にIgG型のを産生する——のため妊娠時の母児不適合(第2子以降でのリスク)が問題になる。
  • 予防は分娩時の血液混合回避と、分娩前の投与による先制的な抗原中和。輸血前は両方向のと凝集試験、加温が必須手順。

出典

  1. 1.International Society of Blood Transfusion Working Party on Red Cell Immunogenetics and Blood Group Terminology Report of Basel and three virtual business meetings: Update on blood group systems(Vox Sanguinis・2022)ISBT(国際輸血学会)Working Partyの報告で、2019〜2021年の会議を経てKANNO・SID・CTL2・PEL・MAM・EMM・ABCC1の7つの新しい血液型系が承認され、ISBTが公式に認定する血液型系が合計43系(378抗原のうち345抗原が43系に整理され、33抗原は遺伝的基盤が未同定)に達したこと、Rh(RH, 004)系にも新規抗原が追加され続けていることを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.FUT1 variants responsible for Bombay or para-Bombay phenotypes in a database(Scientific Reports・2023)FUT1機能の欠如または著減により赤血球表面のABO(H)抗原が欠如または弱発現となり、Bombayまたはpara-Bombay表現型を生じることを、本ノート(ABO式のH抗原欠損例)用に確認した閲覧 2026-08-26
  3. 3.Serological weak D phenotypes: a review and guidance for interpreting the RhD blood type using the RHD genotype(British Journal of Haematology・2017)ヒトのRhD血液型判定において、ルーチン検査の約0.2〜1%で血清学的「弱D表現型」が生じること、大半(白人では弱D1・2・3型)はRhD陽性として安全に扱えるが、正確な区別にはRHD遺伝子型判定が必要であることを確認した閲覧 2026-08-26