外科学

外科学 · A/01

創傷の分類と創傷治癒

Wounds and their classification. Wound healing

前提:病態
急性炎症の特徴
前提:正常
止血と血小板の役割表皮真皮と皮下組織
疾患
ケロイド熱傷
症状
エスカー

ポッドキャスト

🧠 創傷とは、解剖学的なが破綻した状態。 分類の軸は「深さ・重症度・汚染度・・」の5つだけ。治癒は必ず 止血→炎症→増殖→リモデリング の4段階を踏み、閉じ方(一次・二次・)が違うだけで中身の生物学は同じ。合併症は「早期=血腫・・感染」「後期=・」の2群に整理すると覚えやすい。

1. 創傷の定義とカルテ記載

創傷の定義:

  • 正常な解剖学的関係の破綻により生じた損傷
  • 機械的・化学的・熱的・電気的・放射線による、表皮および/または深部組織への構造・機能的損傷
  • な創() と 非な創(外傷創) に大別される

⭐ カルテ記載の10項目(試験で「創傷の評価に含めるべき項目は?」と問われたら以下を思い出す):

  1. 創の種類と部位
  2. 厚さ・治癒段階・サイズ(長さ×幅×深さ)
  3. ・(tunnelling)・ の有無 — 患者の頭側を12時とする時計表記で位置を記録
    • : の健常皮膚の下にが広がること
    • : 創からどの方向にも伸びうる通路。を作る
    • : 深部の急性感染巣から、組織や骨を貫いて体表の開口部まで続く経路
  4. と滲出液
  5. に存在する組織の種類
  6. の性状(epibolic〔巻き込み〕・macerated〔〕・fibrotic〔線維化〕・callused〔化〕など)
  7. 周囲組織の性状(色調、浮腫、蒼白、皮疹など)
  8. 疼痛
  9. 治癒を促す介入と、治癒を妨げる因子(例: 糖尿病)
  10. 現在の外用治療

2. 創傷の分類

2.1 深さによる分類

分類 到達する層
表在性 表皮のみ
真皮まで
組織まで
組織を超えて筋・骨などに達する

2.2 重症度・汚染度・時間経過による分類

軸 分類 内容
重症度 皮膚・皮下組織のみ
複雑 血管・神経・臓器損傷を伴う
、、など
汚染度 無菌 下で作成、合併症なく治癒しやすい
汚染 偶発損傷による病原体・異物の混入
定着 慢性創で多数の微生物が定着、難治性
感染 病原体が増殖し臨床的感染徴候あり(黄色・排膿・疼痛・発赤)
急性 突然発生し、正常な治癒過程でな速度で治る
慢性 治癒せず遷延する(例: — 神経障害と血流低下により感覚が失われ、感染リスクが高い難治性潰瘍となる)

💡 自体も「clean / clean-contaminated / contaminated / dirty-infected」という別の汚染度分類があるが、これは A/02: 創感染 で扱うの枠組み。ここでの 無菌/汚染/定着/感染 は創一般の状態を表す軸なので混同しないこと。

2.3 機械的創傷

flowchart TD
  W["創傷"] --> Mec["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mechanical wound'>機械的創傷</span><br>外傷 or 手術"]
  W --> Non["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Non-mechanical wound'>非機械的創傷</span><br>熱・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chemical substance'>化学物質</span>・電流・放射線"]
  Mec --> Open["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='open wounds'>開放創</span><br>皮膚の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='continuous'>連続性</span>が破綻"]
  Mec --> Closed["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='closed wounds'>閉鎖創</span><br>皮膚は健常、深部組織のみ損傷"]

— ラテン語名も臨床でよく使われる:

名称 ラテン語 機序
vulnus scissum で滑らかな刃物による
vulnus caseum による、線状にみえることがある
vulnus abrasum 粗い面への性転倒で表皮が擦り取られる
() vulnus contusum et lacerum 身体の構造物が付着部から強制的に引き剥がされる(一種の切断)
vulnus punctum 物体が皮膚を穿刺する
— ナイフなどが皮膚に入り、反対側に貫通せず留まる
vulnus sclopetarium が体内を貫く。入口・出口の2創がある場合はと呼ぶ
vulnus morsum 部分的に閉鎖した創で、複数の微生物が混入する

— 皮膚は健常で、深部組織が外界に直接露出しない:

名称 機序・特徴
傷() スポーツ外傷に多い。小血管・筋・深部組織への直達性の。有痛性のとして現れる
体の一部が2面の間で高圧により圧迫される
血腫 小血管損傷による限局性の血液貯留。有痛性で・弾性のある腫瘤として触れる

2.4 非機械的創傷 — 熱傷

熱、、電気、摩擦、放射線による損傷(熱傷、vulnus thermicum)。深度は5段階で記述し、手術を要するかどうかは「2度浅達性か深達性か」の線で決まる。

深度 到達する層 所見 手術
1度(表在性) 表皮のみ 発赤のみ。疼痛は強いがが短い 不要。瘢痕を残さず治癒する
2度浅達性(旧2A) 表皮〜浅い真皮 水疱、湿潤、強い疼痛。発赤は均一で、圧迫するとする 不要。被覆と創処置で上皮化するが瘢痕を残しうる
2度深達性(旧2B) 深い真皮 痛覚受容器が部分的に破壊されるため痛みはかえって軽い。乾燥し、発赤が網状になることがあり、圧迫してもしない 必要。瘢痕を残す
3度(全層) 真皮全層を越える 乾燥して革様。色調は白色から褐色・黒色まで多様。神経終末が損傷され典型的には無痛 ごく小範囲を除き必要。感染予防を要する
4度 筋・骨などの深部組織 しばしば黒色化する 必要。受傷部位の喪失(切断)に至ることが多い

深度の段階と、浅達性・深達性の鑑別点(の有無、疼痛、湿潤か乾燥か、手術の要否)は現代の総説の記載による1。

⚠️ 「痛みが強い=重症」ではない。 2度深達性以深では痛覚受容器・神経終末が壊れるため疼痛はむしろ弱くなる。疼痛の強さで深度を判定すると、手術が要る創を「軽い」と読む方向に誤る。

⭐ 広さの目安: 軽症熱傷は通常、(TBSA)の10%未満で表在性熱傷が主体。の線引きは確立していないが、高齢者では10%超、成人では20%超、小児では30%超が目安として挙げられる1。

3. 創傷治癒の過程

創傷治癒 とは、損傷部の解剖学的なと機能を回復させようとする過程で、上皮の再生と結合組織性瘢痕の形成の両方を含む。

flowchart TD
  A["受傷"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hemostasis/coagulation'>止血期</span><br>一過性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vasospasm'>血管攣縮</span>→血管作動性物質<br>(セロトニンなど)→持続性血管拡張<br>→凝固因子・血小板・フィブリン→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombus formation'>血栓形成</span>"]
  B --> C["①<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory phase'>炎症期</span><br>lag/exudative phaseとも呼ぶ<br>PMN・血小板・マクロファージが主役<br>血栓・壊死組織・細菌を除去<br>4-6日持続、創は浮腫性・発赤性"]
  C --> D["②<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proliferative phase'>増殖期</span><br>血管新生・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='granulation tissue formation'>肉芽組織形成</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Re-epithelization'>再上皮化</span><br>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extracellular matrix'>細胞外基質</span>沈着"]
  D --> E["③<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Remodeling phase'>リモデリング期</span><br>細胞成分↓・血管新生↓<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='myofibroblast'>筋線維芽細胞</span>が創を収縮<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='collagen cross-linking'>コラーゲン架橋</span>→瘢痕が平坦・淡色化"]

⚠️ 3相は順番に「切り替わる」のではなく、大きく重なりながら進む。 講義の図(対数目盛)が示す目安は次のとおりで、リモデリングだけ桁が違う。

相 おおよその時間帯 その時間帯に起きていること
受傷直後(0.1日)〜約10日 出血・凝固・・ → 顆粒球による貪食 → マクロファージとサイトカイン
約1日目〜30日 線維芽細胞増殖、血管新生、、の合成
数日目〜約300日(1年近く) の合成と分解のバランス、↑、細胞密度↓、血管密度↓

💡 「傷はふさがったのに、赤く硬いまま」は異常ではない。 上皮化()が終わっても、瘢痕が平坦化・するリモデリングはその後数か月から1年続く。瘢痕の最終評価を早い時期に下さないのはこのためで、との鑑別も経過を追って行う。

①炎症期

  • 目的は初期血栓・壊死組織・細菌の除去。ただし細菌量が多いと臨床的感染に至る
  • (PMN)、血小板、マクロファージが主役
  • マクロファージが (形質転換β) を産生 → IL-1(-1) と線維芽細胞増殖を刺激 → IL-1 は発熱を誘発し、とT細胞活性化を促進
  • 活性化した () が白血球と共同して壊死組織のマトリックス蛋白を分解

②増殖期 — 創傷の種類によらず共通

  • a) 血管新生: および内皮前駆細胞の動員から生じる。() と FGF-2(2) が主な調節因子
  • b) : 線維芽細胞がコラーゲン網を、が弾性線維を合成 → (の土台になる)
  • c) : がを越えて上を移動し、上皮層を
  • d) 沈着・: 線維芽細胞がコラーゲンを合成し、に結合組織性マトリックスが蓄積 → 最終的に瘢痕を形成

③リモデリング期 — 創傷の種類によらず共通

  • 炎症細胞・線維芽細胞が消退 = 細胞密度↓、血管密度↓
  • が創を収縮させ、を与える
  • コラーゲンが架橋され、瘢痕は徐々に平坦化・する
  • 損傷組織はに置換される

4. 治癒様式の分類

様式 機序 典型例 特徴
感染なく完全治癒、解剖学的構造・機能が回復 縫合・ステープル・接着剤などでを近接させた急性創 整容的結果が良好。・・異物を伴う深いはしない
壊死や → → 慢性創 壊死組織の除去と感染管理を行い、適切な湿潤環境を保つ被覆材で治癒を促す。による創収縮が治癒の主体。⚠️ 感染リスクの評価は文脈で逆になる——開放したままの急性創は細菌を閉じ込めないのでより感染しにくい(講義はこの意味で「感染リスクは低い」とする)が、典型例である慢性創は感染との影響を受けやすい2
数日間はとして開放管理し、創が清浄化したところでを寄せて閉じる() 汚染創 までの期間はおおむね3〜5日、または感染が消退するまで。その間は・の湿布で被覆し、毎日交換して洗浄する3

💡 なぜ汚染創をしないか: 汚染創をすぐ縫合すると細菌ごと閉じ込めてしまう。はその折衷案で、いったんという「血流豊富で感染に強いバリア」を作ってからする。実測でも、を受けた創は組織・血流・とリモデリング活性がいずれも高く、これが機械的強度の高さを説明する3。

⭐ の適応がはっきりしているのは、汚染を伴う腹部手術(虫垂炎、複雑な腹壁再建など)と心臓手術後の胸骨で、これらでは率の低下が報告されている3。逆に、は定義・適応・について明確な合意が無い手技でもある。

5. 創傷治癒に影響する因子

  • : 種類・大きさ・部位・血流(酸素化)、感染、異物
  • : 性別、年齢、肥満、糖尿病(大血管・)、、
  • 薬剤:
    • (副腎皮質ステロイド)→ 線維芽細胞・蛋白活性・免疫応答を抑制
    • 抗菌薬 → 講義は「を抑制する」と一括りにするが、薬剤種・濃度・投与様式で向きが変わる。は低濃度で線維芽細胞のをむしろ促進し、高濃度で有害になる4
    • → 血流を低下させる
    • アルコール・喫煙 → 血管収縮

6. 創傷治癒の合併症

時期 合併症 内容
早期 ・血腫 創内に漿液・・血液が貯留。感染すると腫脹・発赤・圧痛・。治療は無菌的穿刺+圧迫、吸引ドレーン
早期 手術手技の問題、、創感染が原因。U字縫合で対応
早期 表在性/深部/ —
後期 熱傷・外傷後、切開部にと線維芽細胞が過剰形成・蓄積する。創の範囲内にとどまり、しうる
後期 の過形成によりと分解のバランスが崩れる。を越えて進展し、掻痒・疼痛を伴いしにくい
後期 壊死、炎症性浸潤、膿瘍 —
後期 敗血症性合併症 瘻孔、潰瘍、慢性創

⚠️ との違いは試験で狙われやすい: は創の範囲内にとどまりしうるが、はを越えて拡大ししない。

ケロイドの治療

2010〜2020年の前向き研究108編を集めた系統的レビューは、肢を次のように整理している5。

位置づけ 内容
一次治療 ゲルまたはシート +
補助 ()、、の。ただし結果は一定しない
併用 を、または密封下のと組み合わせると薬剤の浸透が高まる
難治例 切除し、切除直後に放射線療法を加える
再発予防 シートと

⚠️ ・などは、この総説が「さらにで頑健な比較試験が必要」とした群に入る。一次治療と同列に並べない。

まとめ

  • 創傷は「深さ・重症度・汚染度・・機序」の5軸で分類する。機序による分類はさらに機械的(/)と非機械的(熱傷など)に分かれる。
  • のラテン語名(vulnus scissum=、vulnus morsum=など)は臨床用語として頻出。
  • 創傷治癒は必ず 止血→炎症→増殖→リモデリング の順で進む。はPMN・マクロファージ・・IL-1・が主役、は血管新生(・FGF-2)・・・沈着、はによる収縮と。
  • 熱傷の深度は1度・2度浅達性・2度深達性・3度・4度の5段階。手術の要否が変わる線は2度浅達性と深達性のあいだで、その鑑別点は圧迫によるの有無・疼痛の強さ・湿潤か乾燥かである。疼痛が弱いことは軽症の根拠にならない。
  • 治癒様式は(清潔創・即時縫合)、(慢性創・開放管理・)、(開放管理3〜5日または感染消退後の)の3種。
  • 副腎皮質ステロイド・・喫煙などは治癒を妨げる。「抗菌薬はを抑制する」という一括りは成り立たず、向きは薬剤種・濃度・投与様式で変わる。
  • 早期合併症は・血腫・・感染、後期合併症はと(の有無で鑑別)。の一次治療は製剤+、難治例は切除+直後の放射線療法。

出典

  1. 1.Burn injury(Nature Reviews Disease Primers・2020)全文(PMC7224101)で確認した。熱傷深度を表在性(1度)・浅達性部分層(旧2A)・深達性部分層(旧2B)・全層(3度)・4度の5段階に分け、浅達性は均一で圧迫により退色し手術を要さないのに対し、深達性は痛覚受容器が部分的に破壊されて疼痛が軽く乾燥し退色せず手術を要すること、4度は筋・骨に及びしばしば受傷部位の喪失に至ること、軽症熱傷は体表面積10%未満で表在性熱傷が主体であり重症の目安が高齢者10%超・成人20%超・小児30%超であることを逐語で確認した。閲覧 2026-09-21
  2. 2.Immunology of Acute and Chronic Wound Healing(Biomolecules・2021)慢性創の感染・バイオフィルムと創傷治癒過程閲覧 2026-08-09
  3. 3.Practical Review on Delayed Primary Closure: Basic Science and Clinical Applications(Plastic and Reconstructive Surgery Global Open・2023)抄録で確認した。比較研究23編を集めた実践的総説で、遅延一次閉鎖を受けた創は組織酸素分圧・血流・コラーゲン合成とリモデリング活性がいずれも高く機械的強度が優ること、著者らは生理食塩水またはポビドンヨードの湿布で被覆し毎日交換・洗浄したうえで閉創までを3〜5日または感染が消退するまでとするよう推奨していること、適応が最も明確なのは汚染を伴う腹部手術と心臓手術後の胸骨創離開であることを逐語で確認した。同総説は遅延一次閉鎖の定義・適応・アウトカムに明確な合意が無いとも述べている。閲覧 2026-09-21
  4. 4.Effects of Minocycline on Early Wound Healing after Implant Placement: An In Vitro and Randomized Clinical Study(Clinical Oral Implants Research・2025)抗菌薬の創傷治癒への影響が薬剤濃度により異なりうること閲覧 2026-08-09
  5. 5.Keloid treatments: an evidence-based systematic review of recent advances(Systematic Reviews・2023)抄録で確認した。2010〜2020年の前向き研究108編を集めた系統的レビューで、シリコーンゲルまたはシリコーンシートとステロイド局注の併用を一次治療として支持し、5-FU・ブレオマイシン・ベラパミルの病変内注射は結果が一定しない補助的選択肢、レーザーはステロイド局注または密封下外用ステロイドとの併用、難治例には切除と切除直後の放射線療法、再発予防にはシリコーンシートと圧迫療法を挙げていること、凍結療法・光線力学療法などはさらに大規模で頑健な比較試験が必要とされる群に含まれることを逐語で確認した。閲覧 2026-09-21