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Disease Atlas · 循環器 · 先天性疾患

左心低形成症候群

Hypoplastic left heart syndrome

別名
HLHS
臓器系
循環器小児
科目
PathologyPediatrics
トピック
病理学 B/27:先天性心疾患小児科 3-55:チアノーゼ性先天性心疾患
関連疾患
ターナー症候群三尖弁閉鎖先天性心疾患
治療薬
アルプロスタジル
症状
チアノーゼ

🧠 全体像:は「左室が体循環を担うポンプとして機能しない」という一点に尽きる。・左室・大動脈弁・・が連続的に低形成となり、体循環は出生後も動脈管を介して右室(本来は用のポンプ)が担うしかない。だからの生死は動脈管の開存に完全に依存し、の投与が唯一の橋渡しになる。は存在せず、単心室(右室)で体循環との両方を賄うという生理を作り上げるNorwood→グレン→タンの3段階手術が治療の全体像である。

疫学と遺伝性

は出生約5,000人に1人に生じ、全体の約3%を占める。頻度としては稀だが、生後1週間以内の心臓関連死亡の23%を占めるという重症度の高さが特徴である。男女比は約1.5対1で男児に多い1。

症例の最大20%が染色体異常・症候群と関連し、・・が代表である。遺伝子レベルではNOTCH1・HAND1の変異が同定され、可変的を伴うを示唆する家族内集積例も報告されている1。

病態:低形成のスペクトラムと胎生学

は単一の奇形ではなく、・左室・大動脈弁・・が連続的に低形成となるスペクトラムである。主たる機序は・閉鎖と、の制限的シャントまたはの左方偏位による・閉鎖であり、在胎4〜8週の異常発生に由来する1。

生理:体循環そのものが動脈管に依存する

出生直後、体循環とは動脈管を介したとなり、新生児は体循環・の両方をに全面的に依存する。が高い間は体循環が優先的に保たれるが、出生後に生理的にが低下するとが増えて体循環がむしろ損なわれる。動脈管が閉鎖すれば重度の体循環低灌流と急速なに至る1。

flowchart TD
    A["左室・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mitral valve'>僧帽弁</span>・大動脈弁・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='ascending aorta'>上行大動脈</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aortic arch'>弓部</span>の低形成"] --> B["左室は体循環のポンプとして機能しない"]
    B --> C["右室が体循環・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary circulation'>肺循環</span>の両方を<br>動脈管経由で担う(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parallel circulation'>並列循環</span>)"]
    C --> D{"動脈管は開存しているか"}
    D -->|"開存(PGE1投与下)"| E["体循環が保たれる"]
    D -->|"閉鎖"| F["体循環低灌流・代謝性アシドーシス<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiogenic shock, CS'>心原性ショック</span>"]
    C --> G["出生後に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary vascular resistance'>肺血管抵抗</span>が低下"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary blood flow'>肺血流</span>が優位になり体循環を圧迫<br>(Qp/Qs比の管理が要点)"]

⚠️ の投与は「治療」ではなく「橋渡し」である。 動脈管を人工的に開存させている間に、で体循環路そのものを再建する必要がある。

臨床像

出生後早期はチアノーゼ・頻呼吸・95%未満を呈する。が進むと循環不良・頻脈・低血圧・蒼白・末梢動脈拍動減弱が顕在化し、さらに進行すると代謝性アシドーシス・傾眠・乏尿・多臓器障害を伴うに至る1。

診断

による率は39〜75%である。出生後はが確定診断となり、小さい左室・・大動脈弁・・と、代償性に拡大した右室・右房を特徴とする1。

治療:動脈管維持から3段階手術へ

⭐ 出生後ただちに(アルプロスタジル)を開始し、を維持する。 初期投与量は0.05〜0.1 μg/kg/分で、反応があれば0.02〜0.01 μg/kg/分までできる。の調整には、挿管・鎮静・筋弛緩・による低換気戦略(pCO2 45〜50 mmHg)または15〜19%の低酸素戦略を用いる1。

段階 時期 内容
Stage 1() 生後1週間以内 単一の新大動脈を再建し、修正Blalock-Taussigシャントまたは右室-肺動脈Sano導管でを確保
Stage 2(両方向性グレン手術) 生後4〜6か月 -肺動脈吻合で右室のを軽減
Stage 3(タン手術) 生後2〜4歳 心外導管または心房内トンネルで下大静脈-肺動脈接続を完成させる

児・には、を伴うの代わりに手術(両側肺動脈絞扼術・動脈管・介入の組み合わせ)を第1段階として用いることがある。間死亡率は5〜15%と報告される1。

⚠️ 手術はの一方的な劣位版ではなく、して選ぶ選択肢である。 2000〜2023年の文献を対象としたでは、は全体では緩和術21%・20.8%で差が無かったが、間死亡率(23.7%対14.06%、RR 1.61)と1年時点死亡率(43.99%対30.72%、RR 1.22)はいずれも群で有意に高く、への到達率も群31%・Norwood群45%と群で有意に低かった。ただし3年・5年時点の死亡率とには両群間で有意差が無かった2。

一方、(2.0 kg未満)・・脳損傷・制限的・無孔などの高リスク患者に限ると、の死亡・移植の複合転帰は緩和術のほうが有意に低い(RR 0.48、95%信頼区間0.27〜0.87、p=0.01)2。この早期優位は間以降には持続しないが、欧州心臓胸部外科学会(EACTS)と欧州小児・先天性心臓病学会(AEPC)のHLHSガイドラインは、こうした高リスク患者に対して緩和術を推奨している2。低リスクの新生児では依然としてが標準治療である。

予後

手術に至る前に死亡する新生児が約3分の1に上る一方、後のは最大90%に達する。それでも5歳まで生存する患児は3分の2にとどまる。2019年の外科データベースでは、Stage 1・グレン手術・タン手術の死亡率がそれぞれ15%・1.8%・1.0%であった1。

⭐ タン術後の長期合併症は、単心室循環を生涯背負う帰結として現れる。 が1%、気管支炎が3〜10%にみられ、タン術後患者のほぼ全例が思春期までに臨床的に無症候性のを来す。タン不全は思春期以降に年1〜3%の低下として緩徐に進行しうる1。

鑑別

  • :と対照的に右室系()が低形成となる単心室疾患。でにプロスタグランジンを要する点は共通するが、体循環そのものが動脈管に依存するのはに特徴的である。
  • 重症:左室は保たれるが高度のを負う点で異なり、左室機能次第では2心室修復が可能である。
  • 閉鎖:単独ではのスペクトラムに含まれるが、左室・大動脈系が保たれていれば別の病態として扱う。

まとめ

  • は出生約5,000人に1人で、・左室・大動脈弁・・が連続的に低形成となるスペクトラム疾患。症例の最大20%が染色体異常と関連する。
  • 出生後は体循環そのものが動脈管に依存するとなり、は急速なを招く。による維持が生死を分ける。
  • は無く、→両方向性グレン手術→タン手術の3段階で単心室(右室)が体循環・の両方を担う生理を作り上げる。
  • 手術は低リスク児のの代替として万能ではなく、間死亡率・1年死亡率・タン到達率でに劣る。
  • 後のは最大90%だが5歳生存は3分の2にとどまり、タン術後は・気管支炎・などの長期合併症を残す。

出典

  1. 1.Hypoplastic Left Heart Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)左心低形成症候群が出生約5,000人に1人(先天性心疾患の約3%)に生じ、生後1週間以内の心臓関連死亡の23%を占め男女比が約1.5対1で男児に多いこと、症例の最大20%が染色体異常・症候群(ターナー症候群、13トリソミー、18トリソミーなど)と関連しNOTCH1・HAND1の変異や可変的浸透率の常染色体優性遺伝を示す家族内集積例が報告されていること、僧帽弁・左室・大動脈弁・上行大動脈・大動脈弓の低形成という一連のスペクトラムであり主たる機序が大動脈弁狭窄または閉鎖と卵円孔の制限的シャントまたは第一中隔の左方偏位による僧帽弁狭窄・閉鎖であること、異常発生が在胎4〜8週に生じること、出生直後は体循環・肺循環の両方が動脈管開存に全面的に依存する並列循環であり肺血管抵抗が高い間は体循環が保たれるが出生後に肺血管抵抗が低下すると肺血流が増えて体循環が損なわれ動脈管が閉鎖すると重度の体循環低灌流と急速な心血管虚脱に至ること、出生後早期の症状がチアノーゼ・頻呼吸・酸素飽和度95%未満で動脈管閉鎖時には循環不良・頻脈・低血圧・蒼白・末梢動脈拍動減弱を呈し進行すると代謝性アシドーシス・傾眠・乏尿無尿・多臓器障害を伴う心原性ショックに至ること、胎児診断率が39〜75%で出生後は経胸壁心エコーが確定診断となり小さい左室・僧帽弁/大動脈弁・上行大動脈/大動脈弓と拡大した右室・右房を特徴とすること、プロスタグランジンE1の初期投与量が0.05〜0.1 μg/kg/分で反応があれば0.02〜0.01 μg/kg/分まで漸減できること、肺血管抵抗の調整に挿管・鎮静・筋弛緩・人工換気による低換気戦略(pCO2 45〜50 mmHg)または吸入酸素濃度15〜19%の低酸素戦略を用いること、3段階手術がStage 1(Norwood手術、生後1週間以内、修正Blalock-Taussigシャントまたは右室-肺動脈Sano導管を併用)・Stage 2(両方向性グレン手術、生後4〜6か月)・Stage 3(フォンタン手術、生後2〜4歳、心外導管または心房内トンネル)であること、低体重・高リスク児向けのハイブリッド手術(両側肺動脈絞扼術・動脈管ステント留置・心房中隔介入の組み合わせ)ではステージ間死亡率が5〜15%と報告されること、手術に至る前に死亡する新生児が約3分の1に上る一方でNorwood手術後の生存率は最大90%に達するが5歳まで生存する患児は3分の2にとどまること、2019年の外科データベースでStage 1・グレン手術・フォンタン手術の死亡率がそれぞれ15%・1.8%・1.0%であったこと、フォンタン術後合併症として蛋白漏出性腸症1%・プラスチック気管支炎3〜10%がありフォンタン術後患者のほぼ全例が思春期までに臨床的に無症候性の肝線維化を来すこと、フォンタン不全が思春期以降に年1〜3%の最大酸素摂取量低下として緩徐に進行しうることを確認した。閲覧 2026-09-05
  2. 2.Comparison of Morbidity and Mortality Outcomes between Hybrid Palliation and Norwood Palliation Procedures for Hypoplastic Left Heart Syndrome: Meta-Analysis and Systematic Review(Journal of Clinical Medicine・2024)2000〜2023年の文献を対象としたメタ解析で、新生児期院内死亡率はハイブリッド緩和術21%(333例中70例)・Norwood手術20.8%(527例中110例)で有意差が無かった(RR 0.88、95%信頼区間0.61〜1.28)一方、ステージ間死亡率はハイブリッド緩和術23.7%・Norwood手術14.06%でハイブリッド群が有意に高く(RR 1.61、95%信頼区間1.10〜2.33)、1年時点死亡率もハイブリッド緩和術43.99%・Norwood手術30.72%でハイブリッド群が有意に高かった(RR 1.22、95%信頼区間1.03〜1.43)こと、3年・5年時点の死亡率には有意差が無かったこと、Stage III(フォンタン手術)到達率はハイブリッド緩和術31%・Norwood手術45%でハイブリッド群が有意に低かった(RR 0.78、95%信頼区間0.69〜0.90)こと、神経発達予後は1・2・4年時点で両群間に有意差が無かったこと、低体重(2.0 kg未満)・壊死性腸炎・脳損傷・制限的卵円孔・心房中隔無孔などの高リスク患者に限った部分集団解析では新生児期の死亡・移植の複合転帰がハイブリッド緩和術のほうが有意に低かった(RR 0.48、95%信頼区間0.27〜0.87、p=0.01)こと、欧州心臓胸部外科学会(EACTS)と欧州小児・先天性心臓病学会(AEPC)のHLHSガイドラインがこうした高リスク患者へのハイブリッド緩和術を推奨していることを確認した。閲覧 2026-09-05