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Disease Atlas · 運動器 · 疾患

腱板断裂性関節症

Rotator cuff tear arthropathy

臓器系
運動器
科目
Traumatology and OrthopedicsMacroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)
トピック
外傷学 15:肩甲帯の軟部組織・骨・関節損傷解剖学 5.2:上肢:肩と腋窩
鑑別疾患
変形性関節症
症状
肩痛夜間痛筋力低下
元疾患
腱板断裂

🧠 全体像:は、修復不能な広範囲腱板断裂から始まる一本の連鎖のである——腱板が骨頭をに引きつけられなくなる → の上向きの力に抗えず骨頭が上方化する → 骨頭が・にぶつかってし、下面が受け皿のように凹む → 関節そのものにも変性が及び、最後は骨頭がする。臨床像の頂点が(では挙上できるのに自動では挙上できない)である。⭐ これは腱板断裂の一亜型ではなく、腱板断裂の帰結として別に名前が与えられた病態であり、はまさにこの病態のために設計された。支点を作り直してに仕事をさせるという発想が、この疾患の治療をそれ以前と分けている。

腱板断裂そのものとは何が違うか

腱板断裂は高頻度な所見で、無症候の人にも珍しくない。そのすべてがへ進むわけではなく、修復不能な広範囲(典型的にはに、しばしばも加わる)を長期間放置した一部だけが、骨頭上方化を経てこの状態に至る。したがっては、腱板断裂の分類ではなく、腱板断裂を元疾患とする合併症として位置づけられる。

💡 区別が効くのは治療である。 腱板断裂の段階では「腱を治す」ことが選択肢になるが、まで進むと修復すべき腱が残っておらず、関節面も壊れている。ここで必要なのは腱の修復ではなく支点の作り直しになる。

病態:上方化がすべての起点

腱板はをへ押しつけて()、が腕を持ち上げるための支点を作っている。この力が失われると、の収縮は骨頭をへ押しつける代わりに上へ滑らせるだけになる。

flowchart TD
    A["修復不能な広範囲腱板断裂"] --> B["骨頭を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glenoid fossa'>関節窩</span>へ引きつける力の消失"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deltoid muscle'>三角筋</span>の収縮で骨頭が上方へ移動"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='active elevation'>自動挙上</span>ができない(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudoparalysis'>偽性麻痺</span>)"]
    C --> E["骨頭が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acromion'>肩峰</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coracoacromial arch'>烏口肩峰アーチ</span>と接触"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acromion'>肩峰</span>下面が凹面化<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='greater tubercle'>大結節</span>が丸くなる"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acromion'>肩峰</span>下での機械的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='wear-and-tear'>摩耗</span>"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cartilage degeneration'>軟骨変性</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='synovitis'>滑膜炎</span>"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subchondral bone'>軟骨下骨</span>の吸収優位のリモデリング"]
    I --> J["骨頭の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='retraction'>陥没</span>"]

この連鎖はで段階的に再現されている。で肩の安定化構造を順に切除した実験では、・の切除だけで約500 μmの骨頭上方化が起こり、これは完全モデルで観察された総変位(約1,100 μm)の半分弱にあたった。さらにの切除は腱の切除より大きな上方化をもたらし、両者を同時に切除して初めて完全な表現型が再現された1。スコアと・の発現は構造の破綻が積み重なるほど段階的に増え、骨頭上方化の程度と強く相関した。では破骨細胞数とRANKL/比が上がり骨量比が下がる——吸収優位のリモデリングが骨頭の下地になる1。

💡 とが効く、という所見は臨床の2か所につながる。 ひとつはで、2型以降にが併記されていること。もうひとつは、修復不能に対するという術式が存在すること。骨頭の上方移動を抑える構造が何段階あるかを意識すると、両方が同じ話に見えてくる。

偽性麻痺 — 神経麻痺ではない

は保たれているのに、ができない状態をという。もも生きているが、支点が失われているために収縮が挙上に変換されない。

⚠️ ・と混同しない。 鑑別の軸は3つ——①で挙上できるか(ではできる)、②の収縮を触知できるか(ではできる)、③肩外側の感覚が保たれているか(では保たれる)。

⚠️ 一方で、があるというだけではの禁忌にならない(腱板断裂の治療節を参照)。禁忌を決めるのは腱が修復可能かどうかと、性変化がどこまで進んでいるかである。

Hamada分類 — 単純X線正面像だけで段階が決まる

は、1976〜1983年の腱板断裂手術前の65組と、非手術で経過をみた広範囲22例のX線追跡から作られた2。見るのは・下面の形・・骨頭の形の4点だけである。

型 X線所見 併記される腱の状態
1型 6 mm超、正常 広範囲だがは温存
2型 5 mm未満、正常
3型 下面の(凹面化)、正常
4型 に加えて裂隙の狭小化(4Aは下のを伴わない狭小化、4Bは伴うもの)
5型 に加えて骨頭の

⭐ 狭義の「」は5型を指すとされる2。臨床的には、1〜2型ではが考慮されうるのに対し、4〜5型ではが考慮される2。

💡 は「下面が受け皿になる」変化で、これに対応して側が丸く削られる変化をと呼ぶ。骨頭とが新しい関節を作ってしまった、と読むと分かりやすい。

一次性の変形性肩関節症との違い

⚠️ この2つを同じ「肩の」として扱うと、治療の選択を誤る。

一次性の(肩)
腱板 修復不能な広範囲 原則として保たれている
狭小化し、骨頭が上方化する 保たれる
の 上方へ偏る 後方へ偏ることが多い
骨棘 目立たないことがある 下方の骨棘が目立つ
に至りうる 疼痛とによる制限が主体
人工関節 リバース型 解剖学的が選択肢になる

診断は単純X線正面像が主体で、・下面の・・骨頭を読む。は残存腱板の大きさ・退縮・筋の脂肪変性を評価し、再建可能性と術式選択に使う。・・外転の筋力低下という症状自体は腱板断裂と共通で、症状だけでは段階を決められない。

治療

保存治療

、、を使う運動療法(残った筋で挙上のを作り直す)が基本になる。関節内・下へのステロイド注射は短期的な鎮痛に用いうるが、進行そのものを止めるものではない。

⚠️ 解剖学的人工肩関節を選ばない

腱板が破綻した肩に非拘束型(解剖学的)のを入れると、コンポーネントがを受け続けて早期に緩む。Grammont型を論じた原著も、腱板と関節の複合的破壊による肩ではの機能的成績は限られ、禁忌にすらなりうると述べている3。

リバース型人工肩関節はこの病態のために設計された

Grammont以前の拘束型・逆型人工関節は、がの外側に残っていたために可動域が制限され、コンポーネントに過大ながかかって早期に緩み、失敗していた3。Grammontの設計は2つの革新でこれを解いた3。

  1. 頸部をもたない大きな半球
  2. 155度という非解剖学的な傾斜をもち、球の半分未満を覆う、ほぼ水平に向いた小さい上腕カップ

この形によりが内方化して安定し、コンポーネントへのが最小化され、前部・後部の線維がより多くとして動員される。同時に上腕がに対して下方化されての張力が回復・増大する3。

⭐ 「腱板の代わりにに仕事をさせる」ための、支点そのものの付け替えである。 実際にこの人工関節は、腱板が破綻した肩で90度を超えるを回復させる3。

⚠️ ただし万能ではない3。

限界・合併症 内容
の制限 しばしば残る。とくにが欠損またはしている例で顕著
回復することはまれである
人工関節の不安定性 の張力を十分に回復できなかったときに生じる
の 上腕カップがに衝突して切れ込みを作り、を伴う

性変化がまだ乏しい修復不能(Hamada 1〜2型)では、関節を温存する手術が先に検討される2。との使い分けは腱板断裂の治療節にまとめてある。

まとめ

  • は、修復不能な広範囲腱板断裂 → 骨頭上方化 → 下のと性変化 → 骨頭という一本の連鎖のであり、腱板断裂の分類ではなくその帰結である。
  • モデルでは腱板切除だけで約500 μmの上方化が生じ、と腱の喪失が加わって初めて完全な病態が再現された。上方化の程度は・・の吸収と相関する。
  • は挙上が保たれ、収縮も肩外側の感覚も保たれる点で神経麻痺と区別する。支点の喪失であって麻痺ではない。
  • は単純X線正面像で1〜5型に分け、5型が狭義のである。1〜2型は、4〜5型はが考慮される。
  • 一次性のとは腱板の状態・・人工関節の選択が違う。腱板が破綻した肩に解剖学的を入れない。
  • はの内方化と上腕の下方化でを動員する設計で、90度超のを回復させる。制限・非回復・不安定性・のが限界として残る。

出典

  1. 1.Stepwise loss of shoulder stabilizers induces humeral head migration and progression of cuff tear arthropathy in a rat model(Journal of Shoulder and Elbow Surgery・2026)腱板断裂性関節症が骨頭の上方化・軟骨変性・滑膜炎・軟骨下骨の陥没を特徴とする独特の肩の変形性関節症であること、成熟雄ラットで棘上筋腱・棘下筋腱のみを切除した群、これに長頭腱切除を加えた群、上関節包切除を加えた群、両者を加えた修飾CTAモデルの4群を比較したところ、腱板切除のみで約500 μmの骨頭上方化が生じ修飾CTAモデルの総変位(約1,100 μm)の半分弱を占めたこと、上関節包の切除が長頭腱の切除より大きな上方化をもたらし、両者を同時に切除して初めて完全な表現型が再現されたこと、軟骨変性スコアと炎症性サイトカイン・異化酵素の発現が構造の段階的破綻とともに増加し骨頭上方化の程度と強く相関したこと、軟骨下骨では破骨細胞数とRANKL/オステオプロテゲリン比が増加し骨量比が低下して吸収優位のリモデリングへ傾いたこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  2. 2.Classifications in Brief: Hamada Classification of Massive Rotator Cuff Tears(Clinical Orthopaedics and Related Research・2017)Hamada分類が1976〜1983年の腱板断裂手術前の関節造影65組と、非手術で経過をみた広範囲断裂22例のX線追跡から作られたこと、5段階の基準が1型「肩峰骨頭間距離6 mm超・関節裂隙正常・上腕二頭筋長頭腱は温存」、2型「肩峰骨頭間距離5 mm未満・関節裂隙正常・長頭腱断裂」、3型「肩峰下面のacetabulization・関節裂隙正常」、4型「acetabulizationに加えて肩甲上腕関節裂隙の狭小化」、5型「acetabulizationに加えて骨頭の陥没」であること、Walchらが4型を肩峰下acetabulizationを伴わない関節裂隙狭小化(4A)と伴うもの(4B)に細分したこと、acetabulizationが肩峰下面が凹面状に変形することを指すこと、5型がcuff tear arthropathyと呼ばれること、4〜5型ではリバース型人工肩関節が、1〜2型では関節温存手術が考慮されうるとされること閲覧 2026-09-02
  3. 3.Grammont reverse prosthesis: design, rationale, and biomechanics(Journal of Shoulder and Elbow Surgery・2005)腱板と肩甲上腕関節の複合的な破壊が疼痛性の偽性麻痺肩をもたらし、この状況では非拘束型人工肩関節の機能的成績が限られるか禁忌にすらなりうること、従来の拘束型・逆型人工関節が回転中心を肩甲骨の外側に残したため可動域が制限され関節窩コンポーネントに過大なトルクがかかり早期弛緩を招いて失敗したこと、Grammontの逆型人工関節が「頸部をもたない大きな関節窩半球」と「155度という非解剖学的な傾斜をもち関節窩球の半分未満を覆う、ほぼ水平に向いた小さい上腕カップ」という2つの革新によって回転中心を内方化・安定化しトルクを最小化して前部・後部三角筋のより多くの線維を外転筋として動員すること、上腕が肩峰に対して下方化されて三角筋の張力が回復ないし増大すること、臨床的に腱板が破綻した肩で90度を超える自動挙上を回復させる一方、外旋はしばしば制限が残り(とくに小円筋が欠損または脂肪浸潤している例)内旋が回復することはまれであること、三角筋の張力が不足すると人工関節が不安定になること、上腕カップが肩甲頸部に衝突することによるscapular notchingとポリエチレン摩耗が問題であること(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02