Cardiology

Cardiology · A-02

収縮期心雑音と心音

Systolic heart murmurs and heart sounds

前提:病態
弁膜症とその結果
前提:正常
心周期と心音心臓・心膜

🧠 全体像は、を前向きに通過する血流の障害なら漸増型(crescendo–decrescendo)、を逆向きに漏れる血流なら全収縮期を通じて強度が一定のとなる。AS/PSとMR/TRをこの二群に分けるのが診断の幹である。

心音

S1とS2は、弁閉鎖に伴う、隣接構造、血流の振動によって生じる。

発生機序・ 音の性質 意義
S1 ;収縮期開始 長く柔らかい低音 閉鎖
S2 大動脈弁・閉鎖;拡張期開始 短く鋭い高音 閉鎖
S3 S2直後、急速心室流入の 小児・若年者では生理的。HFや(MR)のでは病的
S4 、心房が硬い・肥大した心室へ収縮 アスリートでは生理的。LVのHFや/拘束型心筋症などでは病的

心雑音の系統的評価

は弁を通るによるザーザー音・シュー音様の付加音で、弁膜症を示唆する。

意味 代表例
全収縮期 その全体 TR/MR
早期 の初め AR
中期 の中央 AS、MS
後期 の終わり MS
収縮期から拡張期まで連続

は収縮期・拡張期の複数成分をもち得るが、血流によるとは区別する。

波形 特徴 代表例
全体を通じて強度一定 MR
次第に減弱 拡張期早期のAR
漸増 増強してから減弱 AS
漸増型 次第に増強 拡張期後期のMS
  • 大動脈弁雑音はで最強となり頸動脈へ、雑音はで最強となりへ放散しやすい。
  • 雑音と雑音に分ける。
  • または大動脈弁/で生じる。
  • 全体で聴取される。

収縮期心雑音の分類

はS1以降に始まり、S2以前またはS2で終わる。

機序 病変 雑音形状
収縮期中期 を通る血流の障害 AS、PS 漸増
全収縮期 収縮期全体に持続する逆流 MR、TR 強度一定の

大動脈弁狭窄症(AS)

病態機序

ASは最も一般的な弁膜症の一つで、高齢者に多く、へ進行し得る。正常大動脈はおおむね2.6±0.7 cm²だがが大きく、AVAの数値だけで正常とASを判別しきれない。重症ASはAVA <1.0 cm²に加え、最高 ≥4 m/sや平均 ≥40 mmHgなどを総合して評価する1。狭窄によるLVの血行動態的負荷からが生じ、が増す一方、は不足する。

初期は1回拍出量と心拍出量が保たれ、数十年無症候のこともある。しかしLV、LVEDP上昇、充満障害、心房細動上昇を経てSV/COが低下し、最終的にLV収縮不全へ進む。

flowchart TD
    A["大動脈弁口狭小化"] --> B["LV<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pressure overload'>圧負荷</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='concentric LV hypertrophy'>求心性LV肥大</span>"]
    C --> D["O2需要増加・供給低下"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='reduced vascular compliance'>コンプライアンス低下</span>・LVEDP上昇"]
    E --> F["AF・PAP上昇・SV/CO低下"]
    F --> G["呼吸困難・狭心症・失神"]
    G --> H["LV収縮不全・心不全"]

原因・症状・診断

  • 後天性:高齢者の変性石灰化が最多、AS。
  • 先天性:または
  • 三主徴:呼吸困難、狭心症、失神。
  • 脈:弱く遅い、脈小。
  • :収縮期中期の漸増型雑音。完全呼気時に聴きやすく、頸動脈へ放散する。大動脈弁領域の、S2の減弱・消失、S3/S4、を伴い得る。
  • ECG:LV肥大、LBBB。
  • :肥厚・石灰化した弁と高速の大動脈弁通過血流を示す。正常1–1.5 m/sに対し、重症ASでは約4 m/s。ドプラでを評価する。

予後と治療

症候性重症ASを無治療で経過観察した場合の予後は不良である。古典的には狭心症・失神・心不全の順に生存期間が短くなるとされてきたが、現代のデータでは心不全症状や失神が特に不良な予後と関連し、症状の種類よりも症状の有無自体が重要なリスク所見である23。無症候重症ASでも症状発現までの中央値は約1.1年と短く、5年で約80%が症状を呈し、約49%がを経験する4

  • 有効な根治的薬物療法はなく、利尿薬は心不全症状の緩和に用いる。
  • は標準治療で、またはを用いる。
  • SAVRとは、のみで単純に決めず、年齢、予測余命、の可否、弁・の解剖、手術の必要性、、患者希望をで統合して選ぶ。・低リスク患者でもTAVIのがRCTで示されており、リスクスコアだけでは適応を決めきれない5。TAVIの主なアクセスにはのほか、選択例で、頸動脈、下/腋窩、総腸骨アプローチがある。
  • 選択肢である。

TAVIではカテーテルで折りたたんだを自己大動脈弁まで運び、狭窄弁を外側へ押し広げるように展開する。詳しい手技とSAVR/TAVIの選択因子はの診断・治療で扱う。

肺動脈弁狭窄症(PS)

PSは弁性または弁上性に生じる。原因は先天性病変()、疾患、外部からの圧迫である。

  • 症状・所見:呼吸困難、狭心症、失神、の上昇、RV肥大。
  • :左上胸骨縁で吸気時に最も聴く収縮期中期の漸増雑音。閉鎖遅延によるS2の高度分裂を伴う。
  • ECG:RV肥大、RA異常、RBBB
  • CXR:肺動脈の拡大、弁石灰化を伴う場合がある。
  • 心エコー:閉塞レベルとを評価する。
  • 較差 >50 mmHgまたは症状があればを推奨する。
  • RV不全には利尿薬、塩分・水分制限による支持療法を行う。第一選択はで、外科的弁切開術または置換術も選択肢となる。

僧帽弁逆流(MR)

機序と病態

MRは自体の解剖学的異常によるMR(organic MR)と、以外の構造・心室形態に起因する機能性MR(functional MR)に分ける。

  • 急性MR:適応時間がなくLA/LVが代償できないため、を来す。
  • 慢性MR:LVのと前負荷増加に対し、とLV拡大で代償する。初期はLA圧とCOが保たれるが、LVによるLVEDP/LAP上昇は低下によるCO低下はを起こす。未治療では上昇からRV不全へ進む。

急性MRでは拡張していない低コンプライアンスのLAへ急に逆流するためLA圧がし、肺水腫やショックを来す。慢性MRではLA/LV拡大とコンプライアンス増加で一時代償するが、やがてLV機能不全と肺高血圧へ進む。詳細な比較はの項で扱う。

原因

障害部位 原因
心内膜炎、疾患、症、
/虚血性)、急性MI後の
LV/LA/ 一次性/二次性(DCM)、心房細動
その他 ASなど血行動態的原因

主要原因は症、心筋症である。

症状と診断

  • 急性:肺水腫。
  • 慢性:感、呼吸困難、、肺高血圧/RV不全症状。
  • で最も聴く全収縮期雑音で、左腋窩へ放散する。症では収縮期中期を伴い得る。
  • ECG:、心房細動。
  • CXR:LA/LV拡大、肺水腫。
  • 心エコー:でMRを検出・定量し、LVのサイズ・機能(EF、径)を評価する。で逆流速度とを測る。

治療

重症の一次性MR(primary MR)では、症候性ならLV機能にかかわらず介入を検討し、無症候でもLV収縮不全(LVEF ≤60%またはLV径[LVESD]≥40 mm)があれば手術適応となる。新規心房細動や安静時肺高血圧(肺動脈 >50 mmHg)もを支持する所見である。耐久性のあるが可能なら置換術より形成術を優先し、が高い症例では解剖学的適合性を評価して経カテーテル・ツー形成術(TEER、MitraClipなど)を検討する。

💡 上記の閾値(LVEF 60%・LVESD 40mm)を下回っていても、術後LV機能低下と関連する例が複数のコホートで報告されている。日本人322例のコホートでは至適閾値がLVESD 36mm・LVEF 61%であり6、別の473例のコホートでもLVESD 39mm未満・LVEF 63%以下が長期の術後LV機能維持と関連した7。女性は男性よりLVESDの影響が強く出やすく、死亡リスクはLVESD 3.6cmから上昇し始める(男性では明確ななし)8。ガイドラインの閾値は依然として正本だが、これを下回る段階でも個別にを検討する余地がある。

三尖弁逆流(TR)

TRはRV梗塞、肺塞栓症、肺高血圧によるRV拡大のほか、心内膜炎、疾患、、エプスタイン奇形で起こる。肺高血圧を伴わなければ比較的よくされる。

  • 症状:右心不全に伴う浮腫、腹水、悪心、
  • 身体所見:、黄疸、浮腫、圧痛のある
  • :左胸骨縁で最強の全収縮期雑音。S3を伴うことが多い。
  • ECG:RA拡大、心房細動。
  • CXR:、肺水腫。
  • 心エコー:診断を確定する。
  • RV機能不全を防ぐため、症状または進行性RV拡大/機能不全が介入適応となる。重症TRは手術の適応で、を要する場合がある。

まとめ

  • 雑音は漸増型、雑音は全収縮期となる。
  • ASはから、MRはからを起こす。
  • のPS/TRは吸気で目立ちやすく、右心不全所見を伴う。
  • ASの症状発現、MR/TRの悪化は、弁介入を遅らせない重要な所見である。

出典

  1. 1.Valve area and the risk of overestimating aortic stenosis(Heart 105(12):911-919(González-Mansilla A, et al., 2019, DOI 10.1136/heartjnl-2018-314482)・2019)16,156件の心エコーの解析で、正常弁でのAVAが2.6±0.7 cm²であること、正常弁でもAVA ≤1.0 cm²が0.5%に見られAVA単独では正常とASを判別しきれないこと閲覧 2026-08-07
  2. 2.Clinical Impact of Preoperative Symptoms of Aortic Stenosis on Prognosis After Transcatheter Aortic Valve Replacement(Circulation Reports 6:223-229(Kemi Y, et al., 2024, DOI 10.1253/circrep.cr-24-0020)・2024)TAVR施行369例の後方視的検討で、術前症状が心不全または失神の群は狭心症群より5年生存が不良で、失神は術後心不全再入院・心臓死の独立予測因子であったこと閲覧 2026-08-07
  3. 3.Natural history of initially asymptomatic severe aortic stenosis: a one-stage meta-analysis(Clinical Research in Cardiology(Tan JTA, et al., 2025, DOI 10.1007/s00392-024-02465-8)・2025)保存的治療を受けた無症候重症AS患者9,545例の統合解析で、症状発現までの中央値が1.11年、5年で約80%が症状発現・約49%が主要心血管イベントを経験したこと閲覧 2026-08-07
  4. 4.The Association of Aortic Stenosis Severity and Symptom Status With Morbidity and Mortality(JACC: Advances(Solomon MD, et al., 2025, DOI 10.1016/j.jacadv.2025.101962)・2025)AS患者40,333例の後方視的コホートで、症状の有無がAS重症度と独立に予後不良のリスク因子であったこと閲覧 2026-08-07
  5. 5.Interdisciplinary consensus on indications for transfemoral transcatheter aortic valve implantation (TF-TAVI)(Clinical Research in Cardiology(Scheidt W, et al., 2019, DOI 10.1007/s00392-019-01528-5)・2019)中間リスク・低リスク患者でのTF-TAVIの非劣性・優越性がRCTで示されていること、リスクスコア単独ではTF-TAVI/SAVRの適応を決めきれず年齢・解剖・フレイル等を統合した意思決定マトリクスが必要なこと閲覧 2026-08-07
  6. 6.Echocardiographic Indices for Optimal Timing of Mitral Valve Repair in Degenerative Mitral Regurgitation in Japanese Patients(Circulation Reports 7:1279-1287(Sasaki H, et al., 2025, DOI 10.1253/circrep.cr-25-0191)・2025)日本人322例の変性性MRに対する僧帽弁修復術のコホートで、術後LV機能不全を予測する至適閾値がLVESD 36mm・LVEF 61%であったこと(ガイドラインの40mm・60%より厳格)閲覧 2026-08-07
  7. 7.Timing of valve repair for severe degenerative mitral regurgitation and long-term left ventricular function(The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery 148(5):1978-1982(Kitai T, et al., 2014, DOI 10.1016/j.jtcvs.2014.01.041)・2014)変性性MRに対する僧帽弁修復術473例のコホートで、術前LVEF 63%以下・LVESD 39mm未満が長期の術後LV機能維持と関連したこと閲覧 2026-08-07
  8. 8.Sex-Specific Prognosis of Left Ventricular Size and Function Following Repair of Degenerative Mitral Regurgitation(Journal of the American College of Cardiology 83(2):303-312(Abadie BQ, et al., 2024, DOI 10.1016/j.jacc.2023.10.033)・2024)僧帽弁修復術4,589例(女性1,825例)のコホートで、女性は男性よりLVESDの影響が強く、死亡リスクがLVESD 3.6cmから上昇し始めること(男性では明確な変曲点なし)閲覧 2026-08-07