Forensic Medicine

Forensic Medicine · 16

脊椎・胸部・腹部損傷

Spinal, chest and abdominal injuries

前提:正常
背部・脊柱:骨と関節胸部:骨と関節腹部:泌尿器と後腹膜

🧠 全体像:脊椎損傷は「どの方向にどの角度で力が加わったか」によって障害される構造物(・椎体・神経弓・)が変わり、胸部損傷は胸郭の可動性・筋機能・壁のが保たれるかどうかが呼吸機能を左右する。腹部損傷は脊柱という後方の強固なに臓器が圧迫されるか、鋭的・による穿通かで臨床像が大きく異なる。

脊椎損傷

  • 脊柱は、互いに連結しつつも可動性を持つ複雑な構造である
  • 屈曲には大きく可動できるよう設計されている一方、側方運動と伸展はより制限されている
  • 交通事故や高所からのなどの大外傷で脊椎損傷は非常に頻繁にみられる
  • 脊髄は内に収まっており、が損傷される前に脊髄が損傷されるまでの余地はほとんどない → 外傷にとって、脊椎損傷最も重大な長期的をもたらし得る損傷の一つである
  • 脊椎損傷の帰結は、正確な解剖学的部位とに依存する
  • 脊椎に加わる力の程度と角度によって、損傷の種類が決まる

力の方向別にみる脊椎損傷のパターン

力の種類 機序・特徴
屈曲 力の伝達様式を変化させ、脊椎をより損傷されやすくする。または椎体の損傷を来し得る。脊椎軸と力の方向が一致しない場合は、神経弓やが損傷されやすい
むち打ち(whiplash) 死に伴って多くみられ、頸部のによって生じる(による損傷はより起こりにくい)
しゃがんだ姿勢の人の背中に重量物が落下した場合に生じ得る。ラグビーのスクラムや飛び込みなどスポーツでもみられ、致死的またはのような重篤なを来し得る
に伴う頸部損傷でみられる。落下距離が長く、急激な制止と頸部のが生じる
椎体前方の「」やを来しやすい
側方への 骨折を来し、ある椎体が隣接椎体上をすることで、が著しく損なわれる
損傷 単独病変として、あるいはより複雑な脊椎損傷の一部として生じ得る

胸部損傷

  • 胸部はあらゆる種類の損傷を受け得るが、特に・穿損傷の両方に対して脆弱である
  • 十分な呼吸には、胸郭の自由な運動、筋機能、胸壁のが必要であり、これらのいずれかを障害する損傷は呼吸能力の低下、ひいては窒息につながり得る
  • 胸部への外部からの圧迫は、運動を制限することでを来し得る(交通事故、坑道や地震での建造物崩壊など)
  • に、あるいは結果的に胸郭の自由な運動が妨げられる姿勢に置かれた場合も、同様の圧迫が生じ得る

鈍的損傷

  • を来すことがある
  • 健常な成人では、少数のは疼痛以外に大きな影響を及ぼさないことが多い
  • 呼吸器疾患(COPDなど)を有する場合、呼吸機能悪化や感染のリスクが高まる
  • 多数の、特に隣接する肋骨での骨折が重なると、健常な人でも胸壁の機能的が損なわれ、呼吸能力が制限され得る
  • 多発は「」を来し、骨折周囲の胸壁が吸気時に内方へ陥凹する(:paradoxical respiration)
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rib fracture'>肋骨骨折</span>"] --> B["少数の骨折:疼痛のみのことが多い"]
    A --> C["多発・隣接肋骨の骨折"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='flail chest'>動揺胸郭</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paradoxical breathing'>奇異呼吸</span>"]
    A --> E["骨折端が内方へ変位"]
    E --> F["胸膜・肺実質を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='perforation (penetration)'>穿破</span>"]
    F --> G["気胸"]
    F --> H["肋間・肺血管の合併損傷"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemopneumothorax'>血気胸</span>"]
    A --> J["骨折端が外方へ変位し皮膚を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='perforation (penetration)'>穿破</span>"]
    J --> G
  • 左第10・11・12肋骨の骨折は、直下の脾臓損傷を来すほど強い外力であることを示唆する
  • 骨折端が肺実質まですると気胸を、肋間・肺血管も損傷するとを来す
  • 成人では、や心マッサージ後の剖検で肋骨・胸骨骨折がしばしば認められる(蘇生処置による医原性所見として解釈する)

腹部損傷

  • 腹腔の解剖学的構造が、生じる損傷の種類を大きく規定する
  • 脊柱は後方正中に強固な垂直構造を形成しており、特に前後方向のは、正中に位置する臓器を脊柱に押し付けるように圧迫する
  • この圧迫性損傷により、十二指腸・空腸の(時に)、膵臓破裂、肝臓破裂、・腸間膜の損傷など、重度の鈍的臓器損傷を来し得る
  • 成人でこれらの損傷を生じさせるには相当に強い外力が必要であり、交通事故で頻繁にみられる
  • 腎臓と脾臓はのみで固定されており、直達外傷や回転力によってからのを来しやすい

鈍的外傷

  • 脾臓の遅発性破裂を伴うことがあり、受傷から数時間〜数日後に出血・死亡に至ることがある
  • 膵損傷はの形成につながり得る
  • 診断確定後の治療は、保存的治療またはのいずれかとなる

穿通性損傷

  • 腹部の穿損傷は、または鋭的外力のいずれによっても生じ得る
  • 損傷の影響は、が及ぶ臓器・血管にほぼ完全に依存する
  • 大動脈やIVC(下大静脈)への穿損傷は、高度の出血を来し急速な死につながり得る
  • 腸管や胃の破裂による腹膜炎は、手遅れになるまで認識されないことがあり、その間に圧倒的な敗血症に進行し得る
  • 剖検時の腹膜炎や血栓の所見は、いずれも腹腔内外傷から死亡までのを推定する手掛かりとなる

まとめ

  • 脊椎損傷は加わる力の方向(屈曲・むち打ち・・側方力)によって、損傷される構造物(、椎体、神経弓、)と重症度が異なる。
  • 胸部損傷はの数・部位によって呼吸機能への影響が変わり、・気胸・に進展し得る。左は脾損傷を、CPR後の骨折は蘇生に伴う所見として解釈する。
  • 腹部損傷は、脊柱への圧迫による鈍的臓器損傷(十二指腸・膵・肝など)と、が及ぶ範囲に依存する穿損傷(大動脈・IVC損傷での急速死、による遅発性腹膜炎など)に大別して評価する。