組織病理学

組織病理学 · H2-110B

滑膜肉腫(皮下組織、二相型)

Synovialis sarcoma – SUBCUTANEOUS TISSUE

描出疾患
滑膜肉腫
疾患
滑膜肉腫

🧠 全体像:は名称に反して滑膜由来ではない、由来不明ので、付近や四肢に好発する。診断は組織形態だけでなく特徴的なの証明に基づく点が要点である。

名称の誤解を避ける

「滑膜」という名前から関節滑膜由来と誤解されやすいが、実際には真の滑膜組織との系統的な関連は証明されておらず、由来不明のとして扱われる。

💡 「滑膜由来ではない」の直接の根拠。 正常滑膜・絨毛結節性・を並べて免疫染色と結合で比較した古典的研究では、正常滑膜と絨毛結節性の被覆細胞は陽性でにもにも陰性だったのに対し、の裂隙被覆細胞は陽性かつ陽性で、結合パターンも明確に異なった。この差から、は真の上皮分化をもつ様の腫瘍であり、「」という語は誤称であるとされた1。名称は現在も慣用として残るため、名前と組織発生を切り離して覚える。付近に好発するため周囲の関節炎・と臨床的に紛らわしく、しばしば診断が遅れる原因になる。

発生機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chromosomal translocation'>染色体転座</span> t(X;18)"] --> B["18番染色体SS18遺伝子とX染色体SSX1・SSX2遺伝子の融合"]
    B --> C["SS18-SSX融合タンパクによる異常な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transcriptional regulation'>転写制御</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesenchymal tumor'>間葉系腫瘍</span>細胞の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neoplastic proliferation'>腫瘍性増殖</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Monophasic'>単相型</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Biphasic'>二相型</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='undifferentiated type'>未分化型</span>のいずれかの構築で発育"]

SS18(旧称SYT)とSSX1またはSSX2の融合遺伝子が診断の分子的な裏付けとなり、法や法で検出する。90%超の症例でSS18とSSX1・SSX2・まれにSSX4との融合遺伝子を認め、これが上の決め手(pathognomonic)となる2。

組織像と免疫組織化学

病型 特徴
束状に配列する(成分)のみからなる。最も頻度が高い
(本標本) に加え、腺様の上皮構造を伴うが混在する
高度に細胞密度の高い円形細胞からなる
所見 解釈
高度細胞密度の短い束状構造 ()成分の
成分 からなる主体部分
で腺様構造を形成する細胞群
腺様構造 が管腔を伴って配列する部分
肥満細胞 腫瘍間質にしばしば混在してみられる特徴的だが非特異的な所見

では・EMA(上皮成分の証明)とTLE1(比較的高感度だが特異度は限定的)が診断の補助になるが、確定診断は・融合遺伝子の証明による。

⚠️ TLE1の「特異度は限定的」を数字で押さえる。 13研究を統合したでは、TLE1の平均感度94%(95%CI 91〜97%)に対し平均特異度は81%(95%CI 72〜91%)、は75%(95%CI 62〜87%)にとどまる一方、は96%(95%CI 93〜98%)だった3。つまりTLE1陰性はを除外する方向に強く効くが、TLE1陽性だけではと言えない。骨・軟部腫瘍163例の全標本を用いた検討でも、20例中18例(90%)が陽性だった一方、非143例中53例(37%)も陽性で、とくに鑑別に挙がる(100%、33%、30%)が高率に染まった4。TLE1が確定診断にならず融合遺伝子の証明を要するのは、この重なりのためである。

臨床像と治療

⚠️ 若年成人に好発し(30歳未満に多い2)、付近では初期に関節炎様の症状として現れることがあるため、単純なやとされやすい。多くは無症候性の緩徐増大する腫瘤として気づかれ、肺・骨への転移をきたしうる。治療は外科的広範切除に放射線療法を組み合わせ、必要に応じて化学療法を追加する。

由来不明の軟部腫瘍としての類縁疾患(胞巣状軟部肉腫との比較を含む)は由来不明の軟部腫瘍、軟部腫瘍全般の疫学・・治療は軟部腫瘍の疫学・病因・組織型・病期・症状・診断と軟部腫瘍の治療を参照する。

まとめ

  • は名称に反して真の滑膜由来ではなく、由来不明のである。
  • 診断の中心はt(X;18) SS18-SSX融合遺伝子の証明であり、・・のいずれの構築でもが要となる。
  • はと腺様上皮構造の混在が特徴で、肥満細胞の混在も特徴的だが非特異的な所見である。
  • 付近の好発により関節炎様症状で発症し、とされやすい点に注意する。

出典

  1. 1.Synovial sarcoma--a misnomer(The American Journal of Pathology(Miettinen M, Virtanen I.)・1984)正常滑膜・絨毛結節性滑膜炎・滑膜肉腫について、中間径フィラメント(ケラチン型・ビメンチン型)と上皮膜抗原の発現パターン、レクチン結合部位を比較した検討。正常滑膜と絨毛結節性滑膜炎の被覆細胞は抗ビメンチン抗体に反応するが各種ケラチンにも上皮膜抗原にも反応しなかった一方、滑膜肉腫の裂隙被覆細胞はケラチンのみ陽性で上皮膜抗原も検出されたこと。レクチン結合パターンも両者で明確に異なったこと。これらの差は滑膜肉腫に滑膜細胞としての性質があることに反しており、滑膜肉腫は真の上皮分化をもつ癌肉腫様腫瘍であって「滑膜肉腫」という語は誤称であり放棄されるべきと結論されたこと閲覧 2026-08-24
  2. 2.Synovial Cell Sarcoma(StatPearls (NCBI Bookshelf)(Mangla A, Gasalberti DP)・2023)米国での年間新規診断数が800〜1000例であり若年成人(30歳未満)に好発すること、90%超の症例でSS18とSSX1・SSX2・まれにSSX4との融合遺伝子を認めこれが病理診断上pathognomonicであること、単相型(紡錘形細胞型が最多)・二相型・低分化型(円形細胞型)という組織亜型、FNCLCC分類(壊死・分化度・核分裂数を点数化しグレード1〜3へ分類)による評価、標準的な外科治療が1〜2cm以上のmarginを狙ったR0切除であること、切除不能・転移例の一次治療がアントラサイクリン系±イホスファミドで奏効率25〜60%であること、パゾパニブが軟部肉腫に対して唯一FDA承認された分子標的薬であり無増悪生存期間中央値がプラセボの1か月に対し4.1か月であったことを確認した閲覧 2026-08-24
  3. 3.Diagnostic Value of TLE1 in Synovial Sarcoma: A Systematic Review and Meta-Analysis(Sarcoma(El Beaino M, Jupiter DC, Assi T, Rassy E, Lazar AJ, Araujo DM, Lin PP.)・2020)適格基準を満たした13研究を統合したメタ解析で、滑膜肉腫検出におけるTLE1免疫染色の平均感度は94%(95%CI 91〜97%)、平均特異度は81%(95%CI 72〜91%)であったこと。陽性的中率は75%(95%CI 62〜87%)、陰性的中率は96%(95%CI 93〜98%)であったこと。TLE1は診断の補助になる感度・特異度をもつマーカーであるが、陽性的中率が75%にとどまること閲覧 2026-08-24
  4. 4.TLE1 expression is not specific for synovial sarcoma: a whole section study of 163 soft tissue and bone neoplasms(Modern Pathology(Kosemehmetoglu K, Vrana JA, Folpe AL.)・2009)骨・軟部腫瘍163例の全割面標本でTLE1免疫染色を検討した結果、滑膜肉腫は20例中18例(90%)が陽性で16例(89%)が2〜3+の強陽性であった一方、非滑膜肉腫143例中53例(37%)も陽性で、うち36例(25%)は2〜3+の強陽性であったこと。TLE1陽性は末梢神経鞘腫瘍に多く、神経線維腫の33%、シュワン細胞腫の100%、悪性末梢神経鞘腫瘍の30%が陽性であったこと。非腫瘍性組織でも基底層角化細胞・脂肪細胞・神経周膜細胞・内皮細胞・中皮細胞に核内発現がみられたこと。TLE1の滑膜肉腫に対する感度は優れるが特異的とは到底いえず、特に鑑別に挙がる末梢神経鞘腫瘍で陽性となること閲覧 2026-08-24