微生物学

微生物学 · 1/3

細菌細胞の必須構造

Essential structures of the bacterial cells

🧠 「」とは、それを失えば細胞として生きていけない部品のことだと考える。 細胞壁・細胞膜・リボソーム・は全細菌に共通するだが、外膜とはグラム陰性菌だけのであり、プラスミドは(多くのグラム陰性菌に見られるものの)本来は「あれば有利」な非必須の付属因子である。この「共通の必須 vs グラム型限定の必須 vs 実は非必須」という3層構造を意識すると、1/4 細胞壁の構造・1/5 付属構造とのが整理できる。

必須構造とは

とは、が生存するために不可欠な構成要素を指す。具体的には、細胞壁・細胞膜・リボソーム/・・外膜・・プラスミド の7つが挙げられる。

💡 このうちと外膜はグラム陰性菌のみに存在し、プラスミドも全菌種が保持するわけではない非必須の染色体外因子である。講義上は「」としてまとめて扱われるが、実際には菌種・グラム型によって有無が異なる点に注意する。

細胞壁(O抗原)

細胞膜を取り囲む細菌に特有の構造。全ての菌種に存在するわけではないが、存在する場合は極めて重要な役割を担う。

  • 形の保持:リン脂質膜の柔軟性を補い、細胞が球形になるのを防ぎ、菌に特徴的な形を与える。

  • 浸透圧からの保護:細胞内浸透圧が細胞外よりはるかに高くても、細胞壁の強度が破裂を防ぐ。

  • の結合部位:壁の外表面に結合した が、細菌に感染するウイルス()の「着陸パッド」として働く。

  • 表面付属構造の土台:鞭毛・線毛・はすべて細胞壁から生じ、壁を越えて外部に伸びる。

細胞壁の詳しい層構造とグラム陽性・陰性での違い(ペプチドグリカン・LPSなど)は1/4 細胞壁の構造にまとめる。

細胞質

細胞質は継続的な生化学反応の場であり、この反応の連続こそが生きた細胞の秩序を維持している。含まれる成分は次の通り。

  • 核物質()
  • プラスミド、
  • 酵素を含むタンパク質
  • ビタミン、イオン
  • 核酸とその前駆体
  • アミノ酸とその前駆体
  • 糖・炭水化物とその誘導体
  • 脂肪酸とその誘導体

細胞膜

  • 細胞質と細胞壁の間に位置する膜。

  • 真核生物と同様の 構造を持つが、ステロールを含まない点が異なる。

  • 機能:、、を介した代謝物の取り込み、酵素産生、膜自体の維持。

リボソーム

  • 細胞質内小器官。

  • 細菌のリボソームは70S(50Sサブユニットと30Sサブユニットからなる)。

  • 主な機能はmRNAの翻訳(タンパク質合成、アミノ酸をポリペプチド鎖に組み立てる過程)の場となること。大小2つのサブユニットがmRNAを介して結合すると、リボソームはmRNAを特定の=ポリペプチド鎖へ翻訳する。

  • アミノグリコシド系・・テトラサイクリン系・ はこの70Sリボソームを標的とする(詳細は1/18・1/19)。

核様体

  • 1本の長い二本鎖・・超らせん化された分子(ゲノムとみなせる)。

  • dsDNAの両端は共有結合でつながり、物理的にも遺伝的にも1つの環を形成する。

  • 染色体の長さは約1000 μmに達し、最大で約3500個の遺伝子を含みうる。

  • 例えば E. coli の菌体長は2〜3 μmだが、染色体長は約1400 μmにもなる。

💡 わずか数μmの菌体に、その数百倍の長さのが折りたたまれて収納されている——これがスーパー(超らせん化)の意義であり、が「のない裸の塊」ではなく高度に凝縮された構造体であることを示す。

💡 遺伝子数の実測値は、講義で挙がる「最大約3500個」より多い。 E. coli K-12 MG1655の全ゲノム配列(1997年)は4,639,221 bp・タンパク質コード遺伝子4,288個であり1、3500個は控えめな見積もりにあたる。あたり0.34 nmで換算すると4.6 Mbpは約1.6 mm(1600 μm)となり、菌体長2〜3 μmの500倍以上という桁は本文の記述と一致する。

ペリプラズム空間——グラム陰性菌のみ

  • グラム陰性菌において内膜(細胞膜)と外膜の間に存在する空間。

  • ここには大きな基質の代謝に必要な酵素()、細胞内にあると有害な酵素、細胞外に分泌される毒素などの分子が存在する。

  • 細胞内で作用する多くの物質・薬剤にとって、の通過は必須の関門となる。

  • (ペニシリン類) の活性は細胞壁への到達性に依存する——つまり薬剤がまで到達する必要がある(詳細は1/16・1/17)。

プラスミド

  • 細胞内の染色体外因子で、小型の。

  • 主にグラム陰性菌に見られる。

  • 遺伝子をコードすることがあり、菌から菌へ伝達される耐性の運び手となる(伝達機構は1/9、は1/23を参照)。

メソソーム

細胞膜が細胞質側へ陥入した構造。と分泌に関与する。

⚠️ は化学固定に伴うアーティファクトであることが確定している。 固定・染色・脱水を経ない凍結切片の観察では、生きた菌体には認められず、オスミウム固定を加えると多数出現することが1983年に示された2。その後の高圧凍結+クライオ(分解能約2 nm)でも、細胞質はリボソームとのびまん性の分散として見えるだけで、膜の陥入構造は描出されない3。試験では「=細胞膜の陥入、分裂・分泌に関与」という古典的記述が問われうるので覚えておくが、実在するではない点を併せて押さえる。

まとめ

  • として細胞壁・細胞膜・リボソーム/・・外膜・・プラスミドの7つが挙げられるが、と外膜はグラム陰性菌限定、プラスミドは非必須の染色体外因子である。
  • 細胞壁は形の保持・浸透圧保護・ファージ結合部位・表面付属構造の土台という4機能を持つ(層構造の詳細は1/4)。
  • 細胞膜はだがステロールを含まず、・・物質輸送を担う。
  • リボソームは70S(50S+30S)で、タンパク質合成阻害薬(アミノグリコシド・マクロライド・テトラサイクリン・)の標的である。
  • は環状の超らせんで菌体よりはるかに長く、はβラクタム薬が到達すべき関門、プラスミドは耐性遺伝子の運び手となる。
  • は古典的教科書ではに数えられるが、凍結切片・クライオでは描出されず、化学固定によるアーティファクトとづけられている。

出典

  1. 1.The complete genome sequence of Escherichia coli K-12(Science・1997)E. coli K-12 MG1655 のゲノムは4,639,221 bp、タンパク質をコードする遺伝子は4,288個である閲覧 2026-08-26
  2. 2.Electron microscopy of frozen-hydrated bacteria(Journal of Bacteriology・1983)凍結水和切片では生きた菌にメソソームは見えず、オスミウム固定を行うと多数出現する。メソソームは固定によるアーティファクトである閲覧 2026-08-26
  3. 3.Cryo-transmission electron microscopy of frozen-hydrated sections of Escherichia coli and Pseudomonas aeruginosa(Journal of Bacteriology・2003)高圧凍結・クライオ電顕(分解能約2 nm)では細胞質はリボソームと遺伝物質のびまん性分散として見え、ペリプラズム空間は圧縮可能なゲルで満たされている閲覧 2026-08-26