Medical Microbiology

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ヒトの常在細菌叢とその意義

Normal microbial flora of humans and its significance

🧠 は「体にただ乗りしている邪魔者」ではなく、雇われた「用心棒」である。 ビタミン合成・定着阻止(競合排除)・抗菌物質産生・組織の発達促進・自然抗体産生の刺激という5つの働きで宿主を助けている。だからこそ、抗菌薬でこの用心棒を追い払うと、のような病原体が代わりに定着する余地が生まれる——これがdysbiosisとの起点でもある。

常在細菌叢とは

とは、ヒトに定着する正常な微生物の集団を指す。食品の代謝への関与、必須の供給、感染に対する防御、免疫応答の刺激という役割を担う。

ヒトのは非常に複雑で、200種を超える細菌種からなる。その構成は遺伝、年齢、性別、ストレス、など多くの因子に左右される。

常在細菌叢の有益な作用

  1. ビタミンの合成・放出:自らの必要量を超えて合成・分泌したビタミンが宿主の栄養として吸収される(例:腸内細菌によるビタミンKビタミンB12の分泌、によるB群ビタミンの産生)
  2. 病原体の定着阻止:付着部位や必須栄養素をめぐって病原体と競合することで、その定着を防ぐ
  3. 他の細菌への:非在来種を阻害・殺菌する物質を産生する(例:腸内細菌が産生するさまざまな抗菌物質)
  4. 組織の発達の促進:盲腸や消化管のリンパ組織など、特定の組織の発達を促す
  5. 自然抗体産生の刺激:免疫応答、特に応答を誘導しうる

の詳細な菌叢と、そこから生じる感染症については口腔消化管性器の各論で扱う。

部位別の常在細菌叢

皮膚

腋窩・など湿度の高い部位に多い。皮膚の微生物は表皮の最も表層に存在し、脂肪酸を産生して真菌・酵母の増殖から皮膚を保護する。例:Staphylococcus epidermidis、、Corynebacteria。

結膜

からの持続的な分泌によって湿潤・健常に保たれる。のたびに表面が機械的に洗浄され、異物(細菌を含む)が除去される。S. epidermidis、、グラム陰性桿菌。

呼吸器

  • 鼻腔:S. epidermidisとCorynebacteriaに高度に定着し、しばしばS. aureusも定着する——ここが同菌の主要な保菌部位となる
  • 咽頭:レンサ球菌とさまざまなグラム陰性球菌が定着する。時にS. pneumoniae、S. pyogenes、、Neisseria meningitidisといった病原体が定着することもある
  • 下気道(気管・気管支・肺組織):線毛上皮の清掃作用により無菌に保たれる。下気道へ到達した細菌は咳・くしゃみ・嚥下によって除去される

口腔

レンサ球菌・・ブドウ球菌・に加え、多数の嫌気性菌(特にBacteroides)が存在する。

  • 出生時、口腔は無菌だが急速に環境からの定着が進む。歯が生えるまではStreptococcus salivariusが優勢
  • 歯の萌出後はS. mutansとS. sanguisが定着する
  • 思春期頃にはBacteroidesとスピロヘータが加わり、口腔フローラはさらに複雑化する

消化管

  • 上部消化管(食道):唾液・食物とともに嚥下された細菌のみが存在する
  • :胃酸の酸性度のため培養できる細菌は非常に少ないが、Helicobacter pyloriが胃内に見られる(検出率は最大約50%)
  • 小腸近位部:比較的まばらなグラム陽性フローラで、主にとEnterococcus faecalisからなる
  • 小腸大腸菌群(E. coliとその近縁種)やBacteroidesを含む、より多様で豊富な菌種が加わる
  • 大腸(結腸):便のフローラとほぼ同じ。がより優勢になり、腸球菌・クロストリジウム・もみられるが、優勢な菌種は嫌気性のBacteroidesと嫌気性である
  • 出生時:消化管全体は無菌だが、初回の哺乳とともに細菌が侵入する。が腸内細菌全体の90%以上を占めるようになり、「腸の」として知られる。母乳栄養児の腸内で優勢な菌種であり、病原体の定着を防いでいると考えられている。ヨーグルトの製造やにもしばしば利用される

泌尿生殖器

腟は出生後まもなく・ブドウ球菌・レンサ球菌・E. coli、およびであるLactobacillus acidophilusによって定着する。

  • 性成熟期には腟上皮にグリコーゲンが含まれる→Lactobacillusがグリコーゲンを乳酸へ代謝する→乳酸などの産生物がLactobacillus属以外の細菌の定着を阻害する
  • その結果生じる腟上皮の低pHが他の細菌の定着を防ぐ(保護的作用)——この腟内叢は臨床上「桿菌(Döderlein’s bacilli)」とも呼ばれる

部位別の常在細菌叢:早見表

解剖学的部位 優勢な菌
皮膚 ブドウ球菌、
わずかな・グラム陰性桿菌
口腔(歯) レンサ球菌、
口腔(粘膜) レンサ球菌、
上気道(鼻腔) ブドウ球菌、
上気道(咽頭) レンサ球菌、、グラム陰性桿菌・球菌
下気道 なし(無菌)
消化管(胃) (最大50%)
消化管(小腸) 、腸内細菌、腸球菌、
消化管(大腸) Bacteroides、、腸内細菌、腸球菌、クロストリジウム、メタン産生菌
泌尿生殖器(前部尿道) わずかな、ブドウ球菌、、腸内細菌
泌尿生殖器(腟) 性成熟期はが優勢、それ以外は

主な常在菌属(詳細)

原典に付された模式図では、以下の菌属が部位ごとに列挙されている。

部位 主な菌属
皮膚 Staphylococcus epidermidis、他の、Propionibacterium acnes、など
口腔・咽頭 Viridans群レンサ球菌、Lactobacillus、Actinomyces、Veillonella、Porphyromonas、ナイセリア、など
Lactobacillus、Gardnerella、Streptococcus、カンジダなど
大腸(99%が Bacteroides fragilis、Porphyromonas、Fusobacterium、大腸菌、Klebsiella、Enterobacter、Serratia、Streptococcus、Bifidobacterium(乳児ので最初に定着する菌)、Lactobacillus、Veillonella、Prevotella、Proteus、カンジダ、Enterococcus、Ruminococcaceaeなど

💡 のフローラは、その場の環境(湿度・pH・・栄養)によって決まる。 下気道が無菌なのは線毛による物理的クリアランス、胃に細菌が少ないのは強酸性、腟が優位なのはによる低pH——「なぜその菌が優勢か」を環境要因から説明できるようにしておくと、丸暗記に頼らずに済む。

まとめ

  • は200種を超える細菌からなり、ビタミン合成・病原体定着阻止・拮抗物質産生・組織発達促進・自然抗体産生刺激という5つの機序で宿主を保護する。
  • 皮膚・・上気道はブドウ球菌・主体で比較的単純だが、下気道は線毛によるクリアランスのため無菌に保たれる。
  • 口腔・は年齢とともに複雑化し(無歯期のS. salivarius→萌出後のS. mutans/S. sanguis→思春期のBacteroides・スピロヘータ)、大腸では嫌気性のBacteroidesと嫌気性が優勢になる。
  • 出生時は無菌の消化管も初回哺乳後にが急速に優勢となり(母乳栄養児で特に顕著)、病原体の定着を防ぐ「」として働く。
  • 腟は性成熟期にLactobacillus acidophilusがグリコーゲンを乳酸に代謝し、低pHによって他の細菌の定着を防ぐ保護的な環境(桿菌叢)を作る。