Medical Microbiology

Medical Microbiology · 2/17

カンピロバクター属とヘリコバクター・ピロリ

Campylobacter genus and Helicobacter pylori

応用トピック
消化性潰瘍・Helicobacter pylori感染胃炎胃癌の疫学・病因・組織・病期・症状・診断胃の良性疾患・胃十二指腸の検査と外科的側面
微生物
Campylobacter fetusCampylobacter jejuniHelicobacter pylori
検査値
ヘリコバクター・ピロリ抗体

🧠 CampylobacterとHelicobacterは形態(湾曲したグラム陰性桿菌・)がそっくりな「兄弟菌」だが、生きる場所が違うために全く別の病気を起こす。 Campylobacter jejuniは腸管に侵入して炎症性の血性下痢を起こし、感染後に免疫系が暴走してのような自己免疫合併症を招く「侵襲+自己免疫」型。一方はウレアーゼで胃酸を中和して胃の中に住み着き、慢性炎症から潰瘍・胃癌・MALTリンパ腫へと進展する「定着+慢性炎症」型である。この2つを分ける決定的な生化学的差はウレアーゼ(H. pyloriは強陽性、Campylobacterは陰性)であり、増殖至適温度(Campylobacterは42℃の、H. pyloriは体温)も鑑別点になる。

湾曲したグラム陰性桿菌3兄弟

本講義では湾曲・のグラム陰性桿菌を3種類扱う。Vibrio choleraeとあわせて整理すると理解しやすい。

菌種 形態 鍵となる生化学的特徴 主な生息部位
Vibrio cholerae 水系
Campylobacter jejuni (42℃でよく増殖)、オキシダーゼ・ウレアーゼ陰性 動物の腸管(特に鶏)
ウレアーゼ強陽性(Campylobacterとの鑑別点)、オキシダーゼ・ ヒトの胃(幽門付近)

Campylobacter jejuni

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 グラム陰性の湾曲した()桿菌
運動性 (複数本)で運動性あり
温度特性 ——42℃でよく増殖する(Helicobacterとの鑑別に使う)
酸素要求性 ——大気中よりも低いO₂・高いCO₂濃度を好む
酸への抵抗性 が高く、少量の菌で感染が成立する
酵素

病原性因子

  • :動物(特に(鶏)、牛、犬)の腸管
  • 感染で伝播し、主に汚染された鶏肉を介する
  • 潜伏期は1〜2日
  • 結腸粘膜に侵入して表層を破壊し、炎症性の下痢を起こす

臨床像

胃腸炎:血性下痢、発熱、強い腹痛

合併症 内容
(Reiter症候群) 感染後に生じる無菌性関節炎
(Guillain-Barré syndrome) により末梢神経の脱髄が起こり、上行性の麻痺をきたす(とは逆の進行パターン)

💡 の機序は Campylobacterの菌体表面が末梢神経のと構造的に類似しているため、菌に対して作られた抗体が自己の末梢神経を誤って攻撃してしまう——感染におけるの代表例として頻出する。

診断

  • 検体:便、食品、血液、髄液
  • グラム染色または便検体の直接検鏡
  • (Campy培地)で培養:42℃、微好気環境、

治療

  • 自然治癒(3〜5日)することが多く、支持療法が中心
  • (胃腸炎)または(全身感染)——ペニシリンには耐性を示す
  • 予防:

ピロリ

形態・生化学的性状

項目 内容
形態 グラム陰性の桿菌
生息地 ヒトの胃(幽門付近)
運動性 で運動性あり
酵素 ウレアーゼ陽性(Campylobacterとの鑑別点)、
酸素要求性

病原性因子

  • 感染または口口感染で伝播する
  • ウレアーゼが尿素をアンモニアとに分解する(Urea + H₂O → NH₃ + CO₂)。生じたNH₃が胃酸を中和し(NH₃ + H⁺ → NH₄⁺)、局所の酸性度を下げることで強酸性の胃内で生存できる
  • に接着し、への浸透を助ける

臨床像

病態 内容
がソマトスタチン産生の低下または産生の増加を介して酸産生を増加させる
未治療の潰瘍は複数のと関連する。H. pyloriのをしても改善しない
MALTリンパ腫(mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma、リンパ腫) 胃のMALTリンパ腫とも関連するが、こちらはH. pyloriの除菌により退縮しうる

⚠️ とMALTリンパ腫は「除菌で治るか」が対照的。 同じH. pylori関連病変でも、をしても改善しないのに対し、MALTリンパ腫は除菌により退縮しうる——この対比は頻出のひっかけポイントである。

診断

検査 内容
患者に¹⁴Cで標識した尿素を服用させる。菌のウレアーゼ活性によりNH₃とCO₂が生成され、放射性炭素を含むCO₂が呼気中に排出されるのを検出する
内視鏡下生検 生検組織を用いた生化学的ウレアーゼ試験
尿または血液検体から測定。IgG陰性であれば感染は除外できる(確定にはを用いる)
直接検鏡 または
培養 、42℃、微好気環境

治療

まとめ

  • CampylobacterとH. pyloriはどちらも湾曲・グラム陰性桿菌だが、ウレアーゼの有無(H. pyloriは強陽性)と増殖至適温度(Campylobacterは42℃の)で鑑別する。
  • Campylobacter jejuniは鶏肉を介した感染で腸管に侵入し、血性下痢・発熱に加え、によるを合併しうる。
  • H. pyloriはウレアーゼで胃酸を中和し胃内に定着、・MALTリンパ腫と関連する。は除菌で改善しないがMALTリンパ腫は除菌で退縮しうる点が対照的。
  • 診断はCampylobacterがでの培養、H. pyloriが・内視鏡下生検・ELISAなど多岐にわたる。
  • 治療はCampylobacterが自然治癒+、H. pyloriがPPI+抗菌薬2剤の併用療法(アモキシシリン+など)を用いる。