Medical Microbiology

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感染の病態機序:分子擬態とマスキング・抗原シフト・免疫抑制。微生物の免疫調節・免疫抑制作用(例)

Pathomechanism of infection: molecular mimicry and masking; antigen-shift; immunosuppression. Immunomodulant and immunosuppressive effects of microbes

応用トピック
小児神経免疫疾患:ADEM・多発性硬化症・Guillain-Barré症候群

🧠 の最終段階は「宿主にどう見つからずに生き延びるか」である。 は「宿主に似せて紛れる」、は「隠れる・覆う」、は「変装を着替える」——3つとも目的は同じ「に認識されないこと」だが、手段が違う。さらに免疫抑制は「見つからない」を通り越して「免疫系そのものを機能不全にする」という、もう一段階踏み込んだ回避戦略である。

感染の病態機序:全体の復習

(付着・侵入・侵襲・播種)で扱った7段階を簡潔に振り返る。

段階 内容
① 侵入 病原体が宿主に侵入し、一次防御機構を回避する。莢膜を持つ細菌はこの防御を突破しやすい
② 組織への付着 多くの細菌は感染を成立させるためにまず粘膜表面へ付着する必要がある。線毛()・細胞表面を介する付着や、疎水性の細胞壁による付着(洗い流されにくくを形成できる)がある
③ 定着 侵入部位またはその近傍での不可逆的な増殖
④ 侵襲性と増殖 宿主細胞内に侵入する、または粘膜表面を貫いて初感染部位から拡がることができる細菌は侵襲性とされる
⑤ 傷害 または宿主の炎症反応による宿主細胞の傷害。侵入後には化膿性(膿を伴う)または腫性(結節性病変を伴う)の炎症が続く。内毒素(LPS、グラム陰性菌の細胞壁成分)外毒素(グラム陽性・陰性菌いずれもが分泌するタンパク質)が産生されうる
⑥ 播種 感染がを越えて拡がること。血流に乗って全身の他部位へ「播種」する。血中の状態は菌血症(bacteraemia、血中に細菌が存在)(血中に毒素が存在)に分けられる
二次的な宿主防御機構からの回避——本項のテーマ

⚠️ 抗菌薬投与が大量の内毒素放出を招くことがある()。 抗菌薬によって大量の細菌が急速に死滅すると、グラム陰性菌細胞壁由来の内毒素が一気に血中へ放出され、発熱・悪寒などの反応を起こすことがある。

宿主からの回避:分子擬態とマスキング

分子擬態

宿主の分子と病原体の分子が構造的に似ていることをいう。

  • 免疫応答が低下する=病原体の生存に有利に働く
  • 一方で、免疫系がその共通エピトープを発現する宿主自身の細胞・組織を攻撃してしまい、を引き起こすことがある
機序
Streptococcus pyogenesのM蛋白 心筋ミオシンとする自己抗体を誘導し、における心臓の傷害につながる
Neisseria meningitidis血清型Bの莢膜 宿主分子を擬態する→病原体の認識が低下する→この血清型に対して多糖ワクチンが使えない理由であり、組換えタンパクワクチンが代わりに用いられる

マスキング

病原体を免疫系から隠すことをいう。

  • S. aureusは免疫グロブリンのに結合し、抗体の向きを外側へ反転させる→細菌の認識が低下する
  • 、Pseudomonasなど):細菌がの下に隠れる→免疫認識の低下、抗菌薬の浸透低下
  • 細菌の莢膜は通常多糖からなり弱い抗原である→より強いを持つ細胞壁抗原を覆い隠す→免疫認識が低下する(非毒素性病原因子としての莢膜も参照)

抗原シフト

病原体表面のが変化し、以前のに対するでは新しい型を認識できなくなることをいう。

Borrelia recurrentisによる回帰熱

Borrelia recurrentis(による、および類似の機序を持つTrypanosoma bruceiで見られる。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bloodstream infection'>血流感染</span>+発熱"] --> B["免疫応答が増殖を抑制<br>発熱は一旦軽快、菌は組織に潜伏"]
  B --> C["複数回の増殖サイクルの後、<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='antigenicity'>抗原性</span>が変化"]
  C --> D["変化した抗原型が血流に再出現"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary exposure'>免疫記憶</span>が新しい型を認識できず<br>再び発熱(=回帰)"]
  E --> B

インフルエンザウイルスの抗原変異

いずれも、既存の免疫がまったく働かない新しい型を生み出しうる→流行につながる→これがが毎年必要な理由である。

微生物による免疫調節・免疫抑制作用

免疫抑制

一部の病原体(主にウイルス、まれに細菌)は感染した宿主に免疫抑制を引き起こす。すなわち、宿主は病原体自身の抗原を含む抗原全般に対して、抑制された免疫応答しか示せなくなる。抑制された免疫応答は結核・のような慢性細菌感染の際にもみられることがある。

病原体 免疫抑制・免疫調節の機序
S. aureus Panton-Valentineが白血球に対して毒性を持つ
Mycobacterium tuberculosis マクロファージに貪食されるが、ファゴソームとリソソームの融合を妨げることで、リソソーム内容物によるから自身を守る(Listeria monocytogenesも同様の機序を持つ)
細菌 免疫系をする→。例:TSST(, toxic shock syndrome toxin)、S. aureusの

ウイルスによる免疫調節

ウイルス 機序
ウイルスがコードするIL-10(10, interleukin-10)類似物質がT細胞の活性化を阻害する
感染後、への作用を介して数か月間T細胞・B細胞機能が低下する
HIV(human immunodeficiency virus) CD4陽性Tリンパ球に感染し破壊する——に至る

まとめ

  • の最終段階()には、・免疫抑制という4つの異なる戦略がある。
  • は宿主分子に似せて認識を逃れる戦略で、S. pyogenesのM蛋白による自己免疫()や、N. meningitidis血清型Bの莢膜(多糖ワクチンが無効な理由)が代表例。
  • は病原体を物理的・化学的に隠す戦略で、S. aureusの、莢膜による細胞壁抗原の被覆が該当する。
  • そのものを変える戦略で、Borrelia recurrentisのサイクルや、インフルエンザの(毎年のワクチン接種が必要な理由)が代表例。
  • 免疫抑制は病原体(S. aureusのPVL、M. tuberculosisのファゴソーム・リソソーム融合阻害、)やウイルス(EBV、、HIV)が系そのものを機能不全にする、より踏み込んだ回避戦略である。