Medical Microbiology

Medical Microbiology · 3/19

ポックスウイルス

Poxviruses

微生物
Buffalopox virusCamelpox virusCowpox virusMolluscum contagiosum virusMpox virusVaccinia virusVariola virus

🧠 は「DNAウイルスなのにRNAウイルスのように振る舞う」変わり者として読む。 通常、DNAウイルスは核内で宿主の転写装置を借りて増殖するが、は自前のに内蔵しており、核に入らず細胞質だけで完結する——DNAウイルスの中で唯一の例外である。この「自己完結性」こそが、最大級のDNAウイルスというサイズ、になりうるという凶悪さ、そして一方で皮膚に留まる良性腫瘤にすぎないという真逆の臨床像を同じ科の中に共存させている理由である。

構造・分類

項目 内容
ゲノム 線状二本鎖DNA(dsDNA)——DNAウイルスの中で最大
エンベロープあり(宿主膜由来ではなく自前で合成
形態 ではなく
増殖部位 細胞質のみ(DNAウイルスで唯一)
特殊酵素 内に保有——核の転写装置に依存しないため細胞質増殖が可能
リザーバー ヒト
その他 となりうる病原体に指定されている

💡 なぜ細胞質だけで増殖できるのか。 通常DNAウイルスは宿主の核内を利用するため核内増殖が必須になる。は自分専用のに積んでいるため、核に入らず細胞質だけで転写を完結できる——ゆえに最大級のゲノムサイズを持ちながら宿主に依存しない自己完結的な増殖環が可能になる。

伝播・病原性

ウイルス 伝播経路
感染
直接接触・性的接触・

ウイルスは上気道から侵入し、リンパ系を介して播種して第1次ウイルス血症を起こす。その後、第2次ウイルス血症を経て全身の皮膚・内臓に達し、古典的な「pocks(痘疹)」を形成する。

flowchart TD
  A["Variola virus吸入<br>(上気道)"] --> B["リンパ系で増殖・播種"]
  B --> C["第1次ウイルス血症"]
  C --> D["全身の皮膚・内臓に感染"]
  D --> E["第2次ウイルス血症"]
  E --> F["全身の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pocks'>痘疹</span>形成"]

⚠️ としてのリスクを持つ。 1980年にWHOにより宣言がなされているが、実験室株の存在や再興リスクから、依然として生物学的テロのとして警戒される疾患である。

臨床像

天然痘

  • 潜伏期5〜7日 → 2〜4日間のインフルエンザ様(プロドローム)
  • 皮膚・粘膜表面に隆起した水疱が出現
  • 発疹は口腔内から始まり顔面・四肢へ拡大し、24時間以内に全身に及ぶ
  • すべての水疱が同一の発育段階にある(synchronous rash=——これが最大の鑑別点

水痘との鑑別が頻出。 は全ての病変が同じ段階で四肢優位・深く硬い病変・非なのに対し、水痘は病変の段階が混在()し体幹優位・表在性でした病変を呈する。

項目 水痘
病変の深さ 表在性 深く硬い
なし 中心陥凹()あり
病変の段階 混在( 全て同一段階(
好発部位 体幹 四肢

伝染性軟属腫

  • 皮膚に単発〜多発(20個未満)の腫瘤(良性)を形成
  • 肌色・状で(かたつむりの殻のような形状)
  • 小児では体幹に好発
  • 成人でびまん性感染がみられる場合は感染を疑う

診断

  • 細胞質内好酸性(type B——ウイルス複製の場そのものがとして観察される

治療・予防

  • 健常者: 対症療法のみ(自然治癒する)
  • 免疫不全者:の場合)基礎の免疫不全の是正が本体——HIV感染者ではARTによるで消退することが多い。難治例にを考慮する
  • 予防: ——由来株を用いたワクチンでに成功した。現在この株はVaccinia virusと呼ばれ、ワクチンの実体として使われ続けている

まとめ

  • は線状dsDNAを持つ最大のDNAウイルスで、自前のにより細胞質のみで増殖する——DNAウイルスで唯一の例外。
  • Variola virus)は感染し、上気道→リンパ系→第1次ウイルス血症→全身臓器→第2次ウイルス血症→全身性のという経過をたどる。水痘との鑑別( vs 、四肢優位 vs 体幹優位、深く硬い vs 表在性)が頻出。
  • Molluscum contagiosum virusは直接接触・性行為・で伝播し、肌色・した良性腫瘤を形成する——成人でのびまん性病変はHIV感染を示唆する。
  • 診断は細胞質内好酸性=ウイルス複製巣)の証明。
  • 治療は基本的に対症療法。免疫不全者のではが本体で、難治例にを考慮する。
  • 予防はCowpox virus由来の(現Vaccinia virus)——を実現した歴史的成功例。