生理学

生理学 · 2.8

静脈循環、静脈圧と静脈流を決定する因子。容量血管の調節。リンパ流。

Venous circulation, factors determining venous pressure and flow. Control of capacity vessels. Lymph flow.

応用トピック
慢性静脈不全の症状・身体診察・画像診断と治療静脈疾患に対する血管内治療下肢静脈疾患・血栓後症候群閉塞性ショック表在静脈血栓症と深部静脈血栓症妊娠の徴候と症状

🧠 静脈系は「」と「」という2本の独立したグラフの交点として理解する。 を横軸にとると、(↑→Frank-Starlingで心拍出量↑)は右上がり、(↑→静脈還流の↓→静脈還流↓)は右下がり。この2曲線の交点が「実際のCO=静脈還流」を決める——・TPR・血液量のどれが変化しても、この交点がどうシフトするかを追えば予測できる。

静脈循環の概観

静脈系は微小循環からの「出口」であり、組織からの血液を心臓へ戻す。・静脈に達する頃には圧は10mmHg未満に低下し、/下大静脈・右心房ではほぼ0mmHgに近づく——このをと呼ぶ。

  • 静脈は:高いコンプライアンス(C=ΔV/ΔPC=\Delta V/\Delta P)により、大量の血液を保持しても圧上昇が少ない。
  • 全血液量の約65%が静脈系に存在し、な「」として機能する。
  • この貯蔵機能が、心臓への、ひいては心拍出量(CO)そのものを調節する。

静脈圧と血流

部位 圧
約20mmHg
(大静脈, CVP) 約0〜5mmHg
  • CVP上昇:心不全、。
  • CVP低下:。
  • 静脈はが高く血流抵抗が低いが、コンプライアンスは部位により異なる(下肢の静脈は心臓の高さ以上の静脈よりが低い)。
  • 加齢により血管壁の弾性線維・含量が減少し、コンプライアンスが低下し壁が肥厚する。

CO・静脈還流・右房圧の関係

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right atrial pressure'>右房圧</span>"]
  A -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac function curve'>心機能曲線</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right atrial pressure'>右房圧</span>↑→EDV↑(Frank-Starling)→CO↑"| B["心拍出量 CO"]
  A -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular function curve'>血管機能曲線</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='right atrial pressure'>右房圧</span>↑→心房-静脈の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pressure gradient'>圧較差</span>↓→静脈還流↓"| C["静脈還流"]
  B <--> C
  • : (≈前負荷)が上がると機構によりEDVが増え、COが増加する(右上がり)。
  • : 血流は高圧から低圧へ流れるため、が上がると心房-静脈間のが縮小し静脈還流が減る(右下がり)。グラフの平坦部は、が陰圧になると静脈が虚脱するために生じる。
  • 2曲線の交点が実際のCO=静脈還流の作動点を与える。

⚠️ この2曲線モデル(Guytonモデル)自体に批判があることも押さえておく。 「静脈還流を規定する(平均循環など)が、実際に機能しているヒトの循環系で測定されたことが無い」「Guytonの実験系は心臓をポンプで置換した人工的な準備だった」という点が主な批判で、モデルの単純さがヒトの複雑な循環を再現できるかが長く疑問視されてきた。ただし近年ヒトで報告された測定はGuytonの理論・の結果を支持する方向にある1——モデルとしての有用性は保ちつつ、実測による検証が後追いだった歴史を知っておく。

変力性の影響

心↑()→が上/左シフト→CO↑・↓(心房内に血液が残りにくくなる)・静脈還流↑。ではすべて逆。

TPRの影響

TPR↑(交感神経・α1を介した)→動脈圧↑→↑→CO↓(が下方シフト)→心臓へ戻る血液量減少→静脈還流↓。

TPR↑()→静脈還流↓TPR↓(細動脈拡張)→静脈還流↑TPR\uparrow(\text{}) \to \text{静脈還流}\downarrow \qquad TPR\downarrow(\text{細動脈拡張}) \to \text{静脈還流}\uparrow

血液量・静脈収縮の影響

循環血液量の増加(または静脈収縮による「貯蔵」からの血液動員 mobilization)→が右シフト→CO・静脈還流・すべて増加。

⭐ 3つのシフトパターンを区別する。 の変化はを動かしを逆方向に変える。TPRの変化もを動かすが、経由でCOを下げる方向にのみ働く。血液量/静脈トーンの変化はを動かし、CO・静脈還流・を同方向に変える。

静脈還流に影響する因子

因子 機序
立位では下肢に血液が貯留し動脈・静脈とも拡張するが、静脈のコンプライアンスがはるかに大きいため静脈側でより顕著に拡張する。臥位では動静脈が等しく影響を受けは変わらない
() 骨格筋の収縮・弛緩が周囲の静脈を圧迫/解放し静脈還流を促進。が血液の逆流(下肢方向)を防ぐ
呼吸活動 吸気:↓→血管拡張→血流↑。呼気:↑→血管圧迫→血流↓

💡 は太い静脈だけのものではない。 「直径2 mm未満の静脈には弁が無い」と長く信じられてきたが、微小はヒトの他部位や多くの動物の組織・臓器で確認されており、小静脈での逆流防止に加えからへの逆流を制限すると考えられている——弁の「鎖」は太い静脈で終わらずのレベルまで続く2。

リンパ流

機能: と蛋白質を血管系(血漿)へ戻す。は血管毛細血管の近傍に位置し、集合したリンパはまたはを経て静脈系に合流する。

リンパ流を促す機構

機構 内容
弁 リンパの一方向流を保証
骨格筋の収縮、動脈拍動、マッサージ
平滑筋の運動(と同様の周期的収縮)
呼吸活動 間欠的な圧迫・弛緩

浮腫

量の増加で、量がリンパ系の回収能力を超えたときに生じる。

原因 機序
長時間の立位、リンパの閉塞
濾過量の増加 細動脈拡張、静脈収縮、ECF量増加、静脈圧上昇
炎症 ヒスタミン放出、熱傷

⚠️ 浮腫の4大機序(濾過↑・アルブミン↓・リンパ閉塞・炎症)は臨床推論の骨格になる。 どのStarlingの力(2-07-functional-organization-of-microcirculation-and-its-control-control-of参照)が破綻しているかを考えると原因を絞り込める——例えばはπ_c低下(吸収力低下)、はP_c上昇(濾過力増大)という具合に対応づけられる。

まとめ

  • 静脈はとして全血液量の約65%を保持し、その貯蔵機能が静脈還流・COを左右する。
  • (↑→CO↑)と(↑→静脈還流↓)の交点が実際の作動点。とTPRはを、血液量・静脈トーンはを動かす。
  • 静脈還流は・・呼吸活動の影響を受ける。
  • リンパ系は濾過超過分(約2mL/分)を回収し、その能力を超えると浮腫が生じる。

出典

  1. 1.Clinical review: Guyton--the role of mean circulatory filling pressure and right atrial pressure in controlling cardiac output(Critical Care・2010)総説で、Guytonの静脈還流モデル(平均循環充満圧・右房圧がCOを規定するという枠組み)に対しては、静脈還流を規定するパラメータが実際に機能しているヒトの循環系で測定されたことが無いこと、Guytonが用いた実験系(体外循環ポンプで置換した心臓)が人工的すぎることが主な批判点として挙げられてきたが、近年ヒトで報告された測定はGuytonの理論・動物実験の結果を支持することを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.Valves in small veins and venules(European Journal of Vascular and Endovascular Surgery・2006)直径2 mm未満の静脈には弁が無いと長く信じられてきたが、微小静脈弁はヒトの他部位や多くの動物の組織・臓器で確認されており、その位置と配列は小静脈での逆流防止と後毛細血管細静脈から毛細血管網への逆流の制限を示唆する。静脈弁の「鎖」は太い静脈にとどまらず細静脈のレベルまで続いていることを確認した閲覧 2026-08-26