公衆衛生学

公衆衛生学 · 02

罹患・死亡の測定指標:罹患率・有病率・死亡率・致命率

Measures of Morbidity/Mortality: incidence, prevalence, mortality, lethality

🧠 全体像:は「新規発生」、は「ある時点での存在量」、死亡率は「死亡という結果の発生頻度」、(lethality/case-fatality rate)は「罹患した中でどれだけ死亡するか」を測る指標であり、分子・分母・観察期間の定義の違いを区別して覚えることが重要である。

罹患率

  • 研究期間中に、研究で新たに発生した疾患・外傷・死亡の頻度。
  • とも呼ばれる。
incidence=数(# of new cases)(# of people at risk)(単位時間あたり)\text{incidence} = \frac{\text{数(\# of new cases)}}{\text{(\# of people at risk)}} \quad(単位時間あたり)
種類 定義
ある期間にわたって報告された流行性疾患の総症例数
(incidence density/incidence rate) (person-time:人月・人年)あたりの新規イベント数。感冒・中耳炎・心筋梗塞など、同一人物に複数回起こりうるイベントの評価に有用

有病率

  • ある一時点で、定義された集団の中で特定の疾患・状態を有している人の数(:prevalent cases)。
=既存症例数(# of existing cases)集団の総(Total # of people in a population)(単位時間あたり)\text{} = \frac{\text{既存症例数(\# of existing cases)}}{\text{集団の総(Total \# of people in a population)}} \quad(単位時間あたり)
種類 定義
ある特定の時点での
特定の期間中にその疾患を有していた人の数。期間開始時点の+期間中のの和

💡 は「新規発生」を、は「その時点で疾患を持つ人の総数(新規+既存)」を捉える点が本質的な違いである。

⚠️ =×という関係は、常に成り立つわけではない。 これは集団が定常状態(steady state:・・人口の出入りがほぼ一定)にあるときに限って成り立つ近似であり、やが時間とともに変化している集団、あるいは転入出の大きい集団では崩れる1。

死亡率

  • 定義された集団において、特定の期間内に死亡が発生する頻度を測る指標。
  • 罹患・死亡の指標は数学的にはしばしば同じ形をとり、測定対象が「疾病」か「死亡」かの違いにすぎない。
mortality=ある期間内の死亡数その死亡が発生した集団の人口×10n\text{mortality} = \frac{\text{ある期間内の死亡数}}{\text{その死亡が発生した集団の人口}} \times 10^n
  • 死亡統計(死亡診断書の集計)に基づく死亡率では、分母には通常期間中央時点のを用いる。

よく使われる死亡関連指標

指標 分子 分母 10ⁿ
ある期間の総死亡数 1,000または100,000
特定の原因による死亡数 100,000
特定の原因による死亡数 同期間に報告された同疾患の数 100
生後28日未満の小児の死亡数 同期間の 1,000
生後28〜364日の小児の死亡数 同期間の 1,000

⚠️ だけで年齢構成の異なる集団・時点を比較すると、が逆転することがある。 米国2002年のデータでは、アラスカ州の(人口10万対472.2)はフロリダ州(同1,005.7)よりはるかに低かったが、これはアラスカの人口構成が若いためであり、13の年齢群のうち7つではむしろアラスカの年齢別死亡率の方が高かった。年齢調整()死亡率で見るとアラスカ(794.1)がフロリダ(787.8)をわずかに上回り、とは順位が逆転する2。年齢調整(・)をしないままだけで集団間・年次間を比較してはならない。

💡 (SMR)はで計算されるため、異なる集団どうしのSMRを直接比較できない。 SMRはその集団固有の年齢構成を重みに使って「期待される死亡数」を計算するので、各SMRは本来それぞれの基準集団としか正しく比較できず、施設・集団をまたいで大小を競うと誤った順位づけになる。集団間の比較をしたいときは、共通の基準人口を用いるのを使う必要がある3。

致命率

  • 特定の疾患を有する人(症例)のうち、その疾患で死亡する人の割合。
  • 疾患の重症度の指標となる。
case-fatality rate=原因特異的死亡数(罹患者のうち)総罹患者数(数)×10n\text{case-fatality rate} = \frac{\text{原因特異的死亡数(罹患者のうち)}}{\text{総罹患者数(数)}} \times 10^n

⚠️ はであるため、分子は分母に含まれる集団内での死亡に限定される(分母に含まれない人の死亡は数えない)。

まとめ

  • は「新規発生」、は「ある時点での既存症例」を測定し、=×の関係で結びつく。
  • 死亡率は死亡という結果に着目したの一種であり、・・・などに細分化される。
  • は疾患の重症度を表す指標であり、罹患者集団内での死亡割合として定義される。

出典

  1. 1.Prevalence, incidence and duration(American Journal of Epidemiology(著者 Jonathan Freeman, George B. Hutchison)・1980)有病率・罹患率・罹病期間の3者は、集団が定常状態(steady state)にあるときに限り、うち2つから残り1つを求められる関係にあること。定常状態でない集団ではこの関係は崩れうること閲覧 2026-08-27
  2. 2.Principles of Epidemiology in Public Health Practice, Third Edition: Lesson 3 — Measures of Risk (Section 3: Adjusted Rates)(Centers for Disease Control and Prevention・2012)米国2002年のデータで、アラスカ州の粗死亡率(人口10万対472.2)はフロリダ州(同1,005.7)より低かったが、これは人口構成が若いためであり、13の年齢群のうち7つでは年齢別死亡率はアラスカの方が高かったこと。年齢調整死亡率で見るとアラスカ(794.1)がフロリダ(787.8)をわずかに上回り、粗死亡率とは順位が逆転すること閲覧 2026-08-27
  3. 3.Indirect vs. direct standardization methods for reporting healthcare-associated infections: An analysis of central line-associated bloodstream infections in Maryland(Infection Control & Hospital Epidemiology(著者 Lyndsay M. O'Hara, Max Masnick, Surbhi Leekha ら)・2017)間接法で計算される標準化比(SIR/SMRに相当)は、施設・集団ごとに異なる重みづけ(各施設固有の観察人時間など)を使って期待値を出すため、他の施設・集団の値と直接比較すべきでなく、各々の基準値とだけ比較できること。集団間の比較には共通の基準集団を用いる直接法が理論上適するが、症例数が少ないと不安定になること閲覧 2026-08-27