疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 生殖・産婦人科 · 病態

腸瘤

Enterocele

別名
小腸瘤
臓器系
生殖・産婦人科消化器
科目
Gynecology
トピック
婦人科 29:腟・子宮の正常位置と異常位置(性器脱)および治療
上位概念
骨盤臓器脱
鑑別疾患
直腸瘤
症状
便秘直腸脱
画像所見
排便造影

🧠 全体像は、)を通って小腸がへ下降する、区画にあたる病態である。同じ後方の膨隆でもとは中身が違う——が直腸壁そのものの疝出であるのに対し、は腹膜嚢を伴う小腸の真のヘルニアであり、この一点が診断法も術式も変える。⚠️ 子宮摘出後に多く、だけを行っての合併を見落とすと、術後早期に再発として現れる。

病態

flowchart TD
    A["子宮摘出、加齢、経腟分娩による支持破綻"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cul-de-sac'>ダグラス窩</span>を吊り上げる<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardinal ligament'>基靱帯</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uterosacral ligament complex'>仙骨子宮靱帯複合体</span>の破綻<br>(DeLancey レベルIの破綻)"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cul-de-sac'>ダグラス窩</span>の腹膜嚢が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rectovaginal septum'>直腸腟中隔</span>へ下降"]
    C --> D["腹膜嚢の中に小腸(まれに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='greater omentum'>大網</span>・S状結腸)が入り込む"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterocele'>腸瘤</span>:真のヘルニアとして<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rectovaginal septum'>直腸腟中隔</span>を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mass effect'>圧排</span>"]

の支持は、が担う(DeLancey レベルI)。この吊り上げ機構が破綻すると、の腹膜がそのまま袋状に下垂し、その中に小腸が入り込む。そのもののによる直腸壁の疝出であるのに対し、の真のヘルニアであり、内容物として小腸(腹膜嚢を伴う)を含む点が本質的に異なる1。この違いは、修復で「壁を補強すればよい」と「を閉鎖しを吊り上げ直す必要がある」という術式選択の違いに直結する。

⚠️ 子宮摘出後に多い。 子宮を支えていたが腟断端の支持に転用されず、あるいは手術時にの閉鎖が不十分だと、術後にが下垂しやすくなる。)はそのものへは対処しないため、の合併を見落としてだけを修復すると、症状が残る、あるいは早期に「再発」として現れる。術前に区画の評価を怠らないことが重要である。

診断

・腟診だけではや腟断端下垂と区別しにくく、またはでしか確実に捉えられない

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='apex'>頂部</span>・後方の膨隆感、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rectocele'>直腸瘤</span>修復後の残存症状"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='defecography'>排便造影</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='MR defecography'>MR排便造影</span>"]
    B --> C{"安静時に評価"}
    C --> D["異常が写らないことが多い"]
    B --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='straining (at defecation)'>怒責</span>時の最大<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bearing down'>努責</span>相で評価"}
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='rectovaginal septum'>直腸腟中隔</span>へ下降する腹膜嚢+小腸ループを確認"]
    F --> G["腹膜嚢の内容物(小腸/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='greater omentum'>大網</span>/S状結腸)を報告に含める"]

安静時には見えず、時の最大相で初めて出現するのがの画像診断における最重要点である。の一部の所見は排出の最中にしか現れないため、排出相の動的評価を省略するとを見逃す1。所見を得たら、内容物が小腸かか(あるいは合併するS状結か)を報告に含めることが術式選択に影響する1

下の座位によるは生理的な排便姿勢に近く、同一集団の比較でもの検出数がより多い2は多くが仰臥位でしか撮影できず、生理的な排便姿勢ではないため排出そのものが起こりにくい2。一方で器全体を同時に評価でき、子宮摘出後のの術前計画で補助的に用いられる。

直腸重積・直腸脱・S状結腸瘤との異同

同じ「時に何かが下がる・出る」という訴えでも、下降するものの正体で対応が変わる。

病態 下降するもの 肛門を越えるか 代表的な評価法
の腹膜嚢+小腸(まれに 越えない(にとどまる)
直腸壁自身がへ引き込まれる 越えない
直腸壁の全層 越える(肛門外に脱出) のひだ)、
S状結 S状結腸がへ下垂 越えない と合併しやすく鑑別を要する)

はいずれも肛門の外までは脱出しない点でと区別できるが、だけでは判別できず、いずれもによる動的評価を要する。区画の下垂、は直腸壁自体の内翻という点で機序が異なり、合併することもある。

治療

はヘルニアであるため、のような壁の補強だけでは治療にならない。となったを閉鎖し、の支持を再建することが治療の核心になる。

  • 経腟的アプローチ固定など、腟を自己組織で吊り上げる術式に、を組み合わせる。
  • アプローチ:腹腔鏡または開腹によるで腟へ固定し、腹側からを閉鎖する。区画のとして広く用いられる。

いずれのアプローチでも、など他区画の脱出を合併している場合は同時に修復する。⚠️ の支持を再建せずに後方区画()だけを修復すると、が見逃されたまま症状が残存し、早期の「再発」として現れる。

まとめ

  • を通って小腸がへ下降する病態で、区画にあたる。
  • との違いは、腹膜嚢を伴う小腸の真のヘルニアである点であり、これが診断法・術式の違いを生む。
  • 安静時には見えず時の最大で初めて出現するため、の排出相評価が診断に不可欠である。
  • ・S状結とは、下降するものの正体と肛門を越えるかどうかで区別する。
  • 子宮摘出後に多く、の手術でを見落とすと再発の原因になる。治療は経腟的な吊り上げ術+閉鎖、またはである。

出典

  1. 1.Magnetic Resonance Imaging of Pelvic Floor Dysfunction - Joint Recommendations of the ESUR and ESGAR Pelvic Floor Working Group(European Society of Urogenital Radiology (ESUR) / European Society of Gastrointestinal and Abdominal Radiology (ESGAR); European Radiology・2017)Resultsで、腸瘤の所見では腹膜嚢の内容物(小腸か大網か等)を報告に含めるべきとされること、直腸壁の軽度の重積は排便中の健常者の約80%にみられる正常所見とされていること、排出相(evacuation phase)の動的評価が必須とされる理由は骨盤臓器脱の一部の異常や全容が排出中にしか見えないためであることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.X-ray Video Defaecography Is Superior to Magnetic Resonance Defaecography in the Imaging of Defaecation Disorders(Colorectal Disease・2022)透視下排便造影は座位で行うため生理的な排便姿勢に近く機能的な検査と位置づけられる一方、多くのMR排便造影装置は仰臥位でしか撮影できず生理的な排便姿勢ではないこと、同一集団の比較で会陰ヘルニア・直腸重積・直腸瘤のいずれも透視下排便造影のほうがMR排便造影より検出数が多かったことを確認した閲覧 2026-08-11