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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

トリコベゾアール

Trichobezoar

別名
毛髪胃石
臓器系
消化器精神
科目
Dermatology
トピック
皮膚科 3-26:脱毛症の臨床型と治療
症状
腹痛悪心嘔吐体重減少早期満腹感
元疾患
抜毛症

🧠 全体像:は、嚥下された毛髪が胃内でほどけずに絡まり合い、塊を形成したものである。毛髪は表面が滑らかでにも抵抗性のでできているため、で他の内容物のように運ばれず、胃の中に留まって次第に大きくなる——この「消化されない・排出されない」という物性そのものが病態の起点である。⚠️ 背景にはほぼ必ずとがあり、この精神科的な土台に介入しない限り、外科的に摘出しても再発する。尾部が幽門を越えて小腸・結腸にまで伸びるは、この病態が極まった型として位置づけられる。

病態:なぜ胃の中で育ち続けるのか

嚥下された毛髪は、胃酸にもにも分解されず、滑らかな表面のためにでも先へ送られにくい1。に毛髪を嚥下し続けると、これが胃内で少しずつ絡まり合って塊となり、粘液・を巻き込みながら次第に胃の形に沿って増大していく。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trichotillomania'>抜毛症</span>による反復した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plucked hair'>抜毛</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trichophagia'>食毛症</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trichophagia'>トリコファジー</span>)で毛髪を嚥下"]
    B --> C["毛髪が消化されず胃内に蓄積"]
    C --> D["塊がほどけずに増大し胃の形状に沿う"]
    D --> E{"尾部が幽門を越えるか"}
    E -->|"越えない"| F["胃内に限局した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trichobezoar'>トリコベゾアール</span>"]
    E -->|"越えて小腸・結腸へ伸びる"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Rapunzel syndrome'>Rapunzel症候群</span>"]
    D --> H["粘膜への圧迫・びらん・潰瘍"]
    H --> I["穿孔・出血・腸閉塞・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intussusception'>腸重積</span>"]

背景:抜毛症と食毛症という精神科的土台

⚠️ は単独の消化器疾患ではなく、とという精神科的な行動異常の身体的帰結である。 のは16〜69歳で約1.7%とされ、そのうち約30%がを伴うと報告されている1。は主に30歳未満の女性に生じ、摂食障害を合併する思春期女児に多いという報告もある12。毛髪源は頭髪だけでなく眉毛・睫毛のこともある2。

💡 この背景を踏まえると、「を摘出すれば治療は終わり」ではないことが分かる。・という原因行動が残ったままでは、毛髪の嚥下が再び始まり、塊は再形成される。

Rapunzel症候群

の尾部が幽門を越えて十二指腸・回腸、時に結腸にまで達し、長い尾のような突出を形成した状態をと呼ぶ2。極めてまれで、1968年以降の報告は100例に満たない2。胃内に限局した通常のと異なり、尾部が腸管の複数箇所を巻き込むため、閉塞・・穿孔のリスクがより広い範囲に及ぶ。

臨床像

  • 腹痛・悪心・嘔吐が典型的だが、⚠️ これらがそろうのは33〜37%にとどまり、年単位で無症状のこともある2。症状の乏しさが診断を遅らせる。
  • に境界明瞭で可動性のある腫瘤を触知することが多く、報告では約85%の患者にこの所見がみられる。約20%はを呈し、穿孔・腹膜炎を示唆する2。
  • 、部分的な脱毛(頭髪・眉毛・睫毛のまだら状の欠如)が随伴所見として手がかりになる2。
  • な経過では貧血・を伴う。

合併症

⚠️ 無治療のまま経過すると、死亡率は最大30%に達しうる2。放置してよい良性腫瘤ではない。

塊による粘膜への持続的な圧迫はびらん・潰瘍を来し、(径約3cmに達した報告もある)、消化管出血の原因になる1。塊の増大・尾部の進展により腸閉塞、、胃・腸管の穿孔と腹膜炎、を来すこともある12。

診断

では、を含む境界明瞭な不均一濃度の腫瘤として胃内に描出され、腸閉塞の所見を伴うことがある。超音波ではで後方にを伴う構造として捉えられる1。

⭐ 内視鏡が最も確実な診断法で、に毛髪塊を確認し組織採取も行える1。ただし後述のとおり、内視鏡は診断には有用でもな摘出には限界がある。

治療:内視鏡的摘出は困難で、外科的摘出が主体になる

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trichobezoar'>トリコベゾアール</span>と診断"] --> B{"サイズ・尾部の進展"}
    B -->|"小さい(目安:55g未満・2〜3cm未満)"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endoscopic removal'>内視鏡的摘出</span>を試みる(成功率は低い)"]
    B -->|"大きい・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Rapunzel syndrome'>Rapunzel症候群</span>"| D["外科的摘出が主体"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laparotomy'>開腹術</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastrotomy'>胃切開</span>による摘出)"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laparoscopic surgery'>腹腔鏡下手術</span>"]
    A --> G["摘出後、精神科的介入(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='psychotherapy'>心理療法</span>)を必ず併設"]
    G -.->|"介入なし"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trichophagia'>食毛症</span>が持続し再発"]

⚠️ 内視鏡でのは難しく、成功率は約5%にとどまる。 が現実的なのは55g未満・径2〜3cm程度までの小さなに限られ、多くのはこの範囲を超える2。

このため、開腹による摘出術()が標準治療として広く行われ、摘出成功率はほぼ100%に達する(内容物の漏出・感染による合併症は12〜14%)2。も選択肢になるが、成功率は約75%にとどまり、のリスクが開腹より高いとされる12。のように尾部が広範囲に及ぶ例では、複数箇所のを要することもある。

⭐ 摘出後のによる精神科的が再発予防の核心である。 ・という原因行動に介入しないまま外科的摘出だけで終えると、毛髪の嚥下が再開し塊が再形成される。実際、術後の精神科的の欠如が再発の主な要因として報告されている1。

まとめ

  • は、消化されず滑らかな毛髪が胃内で絡まり合って増大した塊で、背景にほぼ必ずと()がある。
  • 尾部が幽門を越えて小腸・結腸へ伸びるまれな型をと呼ぶ。
  • の可動性腫瘤、腹痛・・体重減少が典型像で、・が手がかりになる。
  • 無治療での死亡率は最大30%に達しうる。穿孔・腸閉塞・出血・を合併しうる。
  • の成功率は約5%と低く、による摘出がほぼ100%の成功率を持つ標準治療になる。
  • 外科的摘出だけで終えず、・への的介入を併設しなければ再発する。

出典

  1. 1.Trichopsychodermatology: trichotillomania and trichophagia leading to Rapunzel syndrome(Postępy Dermatologii i Alergologii(Balawender K, Pliszka A, Możdżeń K, Kłos M, Ogorzałek A, Boroń D, Grabarek BO)・2022)抜毛症の生涯有病率が16〜69歳で1.7%とされ、そのうち約30%に食毛症(トリコファジー)を伴うこと、大半が摂食障害を合併する思春期女児に生じること、毛髪はその滑らかな表面と消化されないケラチン組成のため蠕動運動で通常のように分解・排出されないこと、Rapunzel症候群がトリコベゾアールの尾部が幽門を越えて小腸、時に結腸にまで達し長い尾状の突出を形成した状態であること、合併症として消化管閉塞・胃潰瘍(1例で直径約3cm)・体重減少と悪液質・貧血と栄養失調・胃穿孔と腹膜炎が報告されていること、CTでは気泡を伴う円形腫瘤として消化管閉塞とともに描出され超音波では非圧縮性で音響陰影を伴う構造として描出されること、内視鏡が最も確実な診断法で組織採取も可能であること、摘出成功率が開腹術100%・腹腔鏡下手術75%・内視鏡的摘出5%と術式間で大きく異なること、術後の精神科的フォローアップの欠如が再発の主因であり心理療法による再発予防が推奨治療であることを確認した閲覧 2026-09-02
  2. 2.Acute Presentation of Rapunzel Syndrome and a Review of Bezoars(Cureus(Chin X, Ng JY)・2021)消化管内に生じる消化されない塊であるベゾアールが毛髪由来のトリコベゾアール・植物由来のフィトベゾアール・薬剤由来のファーマコベゾアール・乳幼児の乳汁由来のラクトベゾアール・食物塊の5型に分類されること、トリコベゾアールが主に30歳未満の女性に生じ頭髪・眉毛・睫毛が毛髪源となること、ベゾアール全体の頻度が0.4%でフィトベゾアールが最多であること、無治療のトリコベゾアールの死亡率が最大30%に達しうること、腹痛・悪心・嘔吐・体重減少が典型症状で心窩部に境界明瞭で可動性のある腫瘤を触知する例が85%、腹膜刺激徴候を呈する例が20%であること、口臭・部分脱毛が随伴所見となりうること、腸閉塞・穿孔・腸重積・栄養失調・閉塞性黄疸が合併症として挙げられること、Rapunzel症候群がトリコベゾアールの尾部が幽門を越えて十二指腸・回腸・結腸にまで達する極めてまれな型で1968年以降100例未満の報告にとどまること、CTでは胃内に不均一な濃度を示す境界明瞭な病変として描出されること、内視鏡的摘出は55g未満・2〜3cm未満の小さなベゾアールに限られ成功率5%にとどまるため大きなトリコベゾアールには不向きであること、開腹術がほぼ100%の成功率を持つ標準治療である一方12〜14%に内容物漏出・感染による合併症を伴うこと、腹腔鏡下手術は成功率75%だが腹膜汚染のリスクが高いことを確認した閲覧 2026-09-02