検査値ノート一覧へ

Lab values · Published

Kleihauer-Betke試験

Kleihauer-Betke test

別名
Kleihauer-Betke法KB試験酸溶出試験
臓器系
生殖・産婦人科血液
科目
ObstetricsPediatrics
トピック
産科学 28:常位胎盤早期剥離産科学 34:子宮内胎児死亡と過期妊娠小児科 3-52:新生児適応期の血液疾患(多血症・胎児新生児溶血性疾患)
関連疾患
子宮内胎児死亡・過期妊娠常位胎盤早期剥離

🧠 全体像は、母体血中に混じったの割合を酸溶出法で数える検査である。何かの疾患を診断する検査ではなく、すでに疑っているの量を推定するための検査であり、出血の有無そのものを検出する感度は高くない。主目的はにおける追加投与量を決めることで、のような病態そのものの診断には使えない。

何を測っているか

母体末梢血のを酸性緩衝液(pH 3.3)で処理すると、は赤血球から酸に溶出し、その赤血球は染色されない「」として残る。一方、(HbF)はのため溶出されず、は淡い赤色に染色されて残る1

flowchart TD
    A["母体血塗抹を作成"] --> B["酸性緩衝液(pH 3.3)で処理"]
    B --> C["成人赤血球(HbA)は酸に溶出"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fetal red blood cell'>胎児赤血球</span>(HbF)は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acid resistance'>酸抵抗性</span>"]
    C --> E["無染色の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ghost cell'>ゴースト細胞</span>として残る"]
    D --> F["淡赤色に染色されて残る"]
    E --> G["顕微鏡で染色赤血球の割合を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='counting'>計数</span>"]
    F --> G
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fetomaternal hemorrhage'>胎児母体間出血</span>量を推定"]

染色された赤血球の割合(%)が、に入ったの目安になる。ただしこの割合は染色濃度や観察者の判定に左右され、後述のように偽陽性・偽陰性の双方がありうる。

基準値と単位

結果は「正常・異常」の二分ではなく、全赤血球に占める胎児細胞の割合(%)として報告される1。この割合を母体推定血液量へ換算した出血量(mL)が、の投与量を決める実務上の単位になる。割合が低い、あるいは検出されない場合でも、それ自体でを否定する検査ではない点は「⚠️ 測定上の注意」を参照する。

使う場面

胎児死亡、のスクリーニング、妊娠中の外傷、早候の評価、後などが適応として挙げられる1。実務上は次のような場面で検討される。

場面 目的
の分娩後 の追加投与量を決める
の原因検索 が死因かどうかを評価する
原因不明の が原因でないかを確認する
流産、、腹部外傷、など感作の契機となりうるイベント後 出血量に応じての必要量を見直す

後はの高リスク処置として本試験の適応に挙げられてきたが、合併症のない後に重大な出血(30 mL超)を来す例は稀とする報告があり、全例への系統的な検査の要否は議論がある2

高値の意味(抗D免疫グロブリンの追加投与量)

への標準投与量(300 µg)は、約30 mLの胎児全血(15 mLの)に相当するをカバーする。染色赤血球の割合からこれを超える出血が推定される場合は、追加投与量を計算する1

ステップ 内容
① 出血量の推定 染色赤血球の割合(%) × 母体推定血液量から出血量(mL)を換算する
② 必要バイアル数 出血量(mL)を標準1バイアルがカバーする30 mLで割る
端数を四捨五入したうえで、さらに1バイアルを追加して投与する

この計算はあくまで概算であり、施設のプロトコルと薬剤部・輸血部門での確認を経て投与量を確定する。

⚠️ 測定上の注意

  • の確定診断・除外には使えない。 本試験は既知の出血の量を推定する検査であり、出血の存在自体を検出するための検査ではない。特異度は高いが感度は低く、陽性となる閾値は約5 mLのとされる1は臨床診断であり、陰性の本試験だけで否定しない。
  • 偽陽性。 のHbF高値をきたす病態——遺伝性胎児Hb持続症、鎌状赤血球症など——があると、がなくても染色赤血球が増え、出血量を過大評価する1妊娠自体も母体を非妊娠時の約5倍まで生理的に増やし、妊娠18〜22週前後でピークを迎える。 この生理的増加だけでも出血量を過大評価しうるため、母体高値が疑われる結果は基準検査機関でのなどによる確認が望ましい3。糖尿病、手術、貧血などのストレスも、これらの疾患がない妊婦での母体HbF一過性上昇の一因になる4
  • 用手法の観察者間差。 淡く染色された境界不明瞭な赤血球を胎児由来か成人由来か判定するのは難しく、観察者間のは約20%に達しうる4(抗HbF抗体などを用いる)はより精密な基準法だが、コストと時間を要するため、用手法の結果が疑わしい症例や大量出血が疑われる症例に限って追加する運用が現実的である1 4
  • 採血のタイミング。 の追加投与量を決める判断に間に合うよう、分娩後または疑わしいイベントの後はなるべく早く採血する。判断が遅れるほど、投与のタイミングそのものが遅れるリスクが上がる。

経時変化とモニタリング

  • 出血が持続している、または初回検査で大量出血が疑われる場合は、時間を空けて再検査し、投与量の見直しが必要かを確認する。
  • 投与後は、投与された抗D抗体そのものがを一時的に陽性化させうる。この受動的な陽性を新たなと混同しない。
  • 本試験の結果は投与量を決める一時点の情報であり、その後の妊娠・分娩管理はと臨床経過で継続して追う。

まとめ

  • は、酸溶出法で母体血中のの割合を数え、量を推定する検査である。
  • 主目的はにおけるの追加投与量の算出であり、標準投与量300 µgは胎児全血30 mL(15 mL)をカバーする。
  • 出血の存在を検出する感度は低く、の確定診断・除外には使えない。
  • 母体HbF高値をきたす病態やストレス性の一過性上昇で偽陽性になりうるほか、用手法は観察者間差が大きく、疑わしい症例ではを追加する。
  • 大量出血が疑われる場合や投与量の判断に迷う場合は、時間を空けた再検査を検討する。

出典

  1. 1.Kleihauer-Betke Test(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)酸溶出法の原理(pH 3.3の酸性緩衝液でHbAは溶出しHbFは抵抗性を示す)、結果が胎児細胞の割合(%)として報告されること、標準投与量300 µgがカバーする胎児全血30 mL・胎児赤血球15 mLと追加投与量の計算式(出血量を30 mLで割り、端数を四捨五入したうえで1バイアルを追加する)、母体HbF高値(鎌状赤血球症・サラセミア・遺伝性胎児Hb持続症など)による偽陽性、本検査は出血の存在検出ではなく既知出血量の推定を目的とし特異度は高いが感度は低い(陽性閾値は約5 mL)こと、適応として胎児死亡・胎児貧血のスクリーニング・妊娠中の外傷・早産徴候の評価・外回転術が挙げられることを確認した閲覧 2026-08-04
  2. 2.Development of a new staining protocol for the Kleihauer–Betke test to facilitate the reading of difficult cases(BMC Pregnancy and Childbirth・2024)用手法の判定は境界不明瞭な赤血球の分類が難しく観察者間変動係数が約20%に達すること、フローサイトメトリーは基準法だが高コスト・時間がかかるため疑わしい症例に限定されること、糖尿病・手術・貧血などのストレスが母体HbF上昇による偽陽性の一因となることを確認した閲覧 2026-08-04
  3. 3.Systematic Kleihauer–Betke Test after External Cephalic Version for Breech Presentation: Is It Useful?(Journal of Clinical Medicine・2020)外回転術はRhD陰性妊婦における胎児母体間出血の高リスク処置として位置づけられてきたが、合併症のない外回転後の重大な胎児母体間出血(30 mL超)は稀であり、全例への系統的な検査の有用性には疑問が呈されていることを確認した閲覧 2026-08-04
  4. 4.The prevalence of maternal F cells in a pregnant population and potential overestimation of foeto-maternal haemorrhage as a consequence(Blood Transfusion・2013)妊娠自体が母体F細胞数を非妊娠時の約5倍に生理的に増加させ、妊娠18〜22週前後でピークを迎えること、これが酸溶出法による胎児母体間出血量の過大評価につながりうること、母体F細胞高値が疑われる場合は基準検査機関での確認(フローサイトメトリーなど)が推奨されることを確認した閲覧 2026-08-04