組織学

組織学 · 7.4

免疫・リンパ系:脾臓

Lymphoid & immune system — Spleen

応用トピック
小児の肝腫大・脾腫
疾患
無脾症・脾機能低下症脾摘後重症感染症
検査値
Howell-Jolly小体赤血球膜の小窩
画像所見
99mTc標識加熱処理赤血球シンチグラフィ

🧠 脾臓は「血液のリンパ節」と覚える——リンパ節がをろ過するのに対し、脾臓は血液そのものをろ過する唯一のリンパ性器官。 はリンパ球が働く「免疫の島」、は老化・異常な血球を処理する「血液のリサイクル」——この2つの機能領域(=免疫、=血液処理)を分けて覚えるのが最短ルート。

白脾髄と赤脾髄

脾臓は被膜に覆われた(07-1-cells-general)で、肉眼的に白っぽく見えると赤っぽく見えるからなる。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splenic artery'>脾動脈</span>が実質に入り分枝"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central arteriole'>中心動脈</span>の周囲にリンパ球が密集=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='white pulp'>白脾髄</span>"]
  B --> C["血液が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='red pulp'>赤脾髄</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splenic cords'>脾索</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='splenic sinusoids'>脾洞</span>)へ流出"]
  C --> D["マクロファージが老化・異常な血球を貪食・除去"]
  D --> E["静脈系へ回収"]
主な構成 リンパ球がを取り囲むリンパ性鞘+ +
主な機能 血液中の抗原に対する免疫応答(リンパ節の皮質・に相当) 老化した赤血球・異常な血球の破壊、血液の貯蔵、血液のろ過

⭐ がを取り囲むリンパ性鞘とをもつという構造は、脾臓に特有かつ最頻出のポイント——リンパ節のがからの抗原に応答するのに対し、脾臓の濾胞は血流に乗って運ばれてきた抗原に応答するという違いが機能の本質。

⚠️ 「」はマウス・の構造であって、ヒト脾臓には無い。 教科書の脾臓の図はほとんどがに基づいており、との境界に境界明瞭なB細胞区画としての辺縁帯(と、それを縁取る)が描かれる。しかしヒトの脾臓にはこの区画は存在しない1。ヒトの二次濾胞は・・表在帯(superficial zone)の3層からなり、では細動脈と鞘動脈(sheathed capillary、他の多くの脊椎動物の脾ellipsoidに相当。・マウスにはこの血管が無い)の周囲をB細胞主体のリンパ球が取り囲む。「」という免疫学の用語をヒトの組織像にそのまま重ねない。

💡 周囲のリンパ性鞘(PALS)も、ヒトでは「鞘」として連続していない。 ヒト脾臓の150枚を CD3・CD20 でに染めて元すると、同じ1本の細動脈がある高さではT細胞に囲まれ、別の高さでは濾胞を貫いてT細胞をまったく伴わず、再びT細胞領域に入る2。断面(二次元)で「鞘」に見えるものが、立体では連続した筒ではない——組織学の切片からをするときの一般的な落とし穴の実例として押さえておくとよい。

脾洞と赤脾髄でのろ過

のは(06-3-capillaries-sinusoids)の一種で、壁は特殊な桿状の内皮細胞が長軸方向に並び、間に隙間の多い構造をもつ。血液(特に赤血球)はこの隙間を通り抜けてへ出て、再びに戻る過程で、の低下した・異常な赤血球がふるいにかけられて排除される。

💡 ヒトでは「開放循環か閉鎖循環か」の論争に決着がついていて、答えは「完全に開放」。 動脈系内皮を CD34、静脈洞内皮を CD141 で染め分けたからの微小血管を元し、3例で142本の微小血管の末端を追跡したところ、へ直接つながる末端は1本も無かった3。つまり血液は必ずいったんの(内皮に覆われていない空間)へ放り出され、そこからの隙間を自力で通り抜けて戻る。脾臓はヒトで唯一、血液が内皮などの障壁に覆われていない空間を通過する臓器であり、これが上記のふるい分けが成立する前提になっている。

💡 「なぜ後に異常な形態の赤血球(をもつ赤血球など)が末梢血に出現するのか」という臨床像は、このでのろ過機能が失われることで説明できる——通常なら脾臓で除去されるはずの異常赤血球が、は末梢血中にそのまま残存するようになる。

まとめ

  • 脾臓は血液をろ過する唯一のリンパ性器官で、(免疫応答)と(血液処理)からなる。
  • はを取り囲むリンパ球の鞘とで構成され、血流中の抗原に応答する。
  • の・は老化・異常な血球を貪食・除去し、血液のろ過と貯蔵を担う。ヒトのの微小循環は完全な開放循環で、血液は必ずを経由してからに戻る。
  • にある辺縁帯(marginal zone)はヒト脾臓には存在せず、ヒトの二次濾胞は・・表在帯の3層、にはに無い鞘動脈がある。
  • は異常赤血球の除去機能が失われ、末梢血に異常形態の赤血球が出現しうる。

出典

  1. 1.Human spleen microanatomy: why mice do not suffice(Immunology・2015)マウス・ラットの脾臓は白脾髄と赤脾髄の間に境界明瞭なB細胞区画である辺縁帯(marginal zone)をもつが、この領域はヒト脾臓には存在しない。ヒトの二次濾胞は胚中心・マントル帯・表在帯(superficial zone)の3層からなり、赤脾髄では細動脈と鞘動脈(sheathed capillary)の周囲をB細胞主体のリンパ球が取り囲む。鞘動脈は他の多くの脊椎動物の脾ellipsoidに相当し、ラット・マウスには欠けている閲覧 2026-08-24
  2. 2.The three-dimensional structure of human splenic white pulp compartments(Journal of Histochemistry and Cytochemistry・2003)ヒト脾臓の連続切片150枚をCD3とCD20で交互に染めて三次元再構築したところ、白脾髄細動脈の周囲に連続した動脈周囲リンパ鞘(PALS)は存在しなかった。同一の細動脈がある高さではT細胞に囲まれ、別の高さでは濾胞を貫いてT細胞をまったく伴わず、再びT細胞領域に入る閲覧 2026-08-24
  3. 3.The open microcirculation in human spleens: a three-dimensional approach(Journal of Histochemistry and Cytochemistry・2011)CD34とCD141で動脈系内皮と静脈洞内皮を染め分けた連続切片の三次元再構築で、3例142本の赤脾髄動脈性微小血管の末端を追跡したところ、洞に直接つながるものは1本もなかった。ヒト脾赤脾髄の微小循環は完全な開放循環であり、脾臓は血液が内皮などの障壁で覆われていない空間を通過する唯一のヒト臓器である閲覧 2026-08-24