内科学

内科学 · L-49

急性肝不全

Acute Liver Failure

前提:病態
肝不全
前提:正常
アンモニアの排泄
疾患
急性肝不全
スコア
MELDスコア

🧠 全体像:は既知の肝硬変がない患者のにINR ≥1.5と肝性脳症を伴う状態で、移植施設への早期搬送が生存を左右する。原因検索、N-、脳浮腫・低血糖・AKI管理と移植評価を同時に進める。

定義と原因

黄疸発症から脳症まで通常26週以内で、、急性、亜急性に分ける。脳症を伴わない、のとは区別する。欧州のガイドラインも同じ線を引いており、「」は一般の総称ではなく、のない個人に生じた急性の肝機能検査異常に、肝由来のと肝性脳症によるの変化が加わった、まれで特異的な症候群を指すと定義している1。

原因 手掛かり・初期検査
服薬時刻・量が不明でも血中濃度、/著増、代謝性アシドーシス;単回急性摂取ではで適応を判定2
他の薬物・ 抗菌薬、、健康食品、Amanitaなど全曝露歴
ウイルス性 IgM、HBsAg・HBc IgM、、状況により//
自己免疫 IgG、、;陰性でも除外不能
血管性・虚血性 ショック、心不全、Budd–Chiari;
若年、Coombs陰性溶血、低/高ビリルビン、・尿/血清Cu
妊娠関連 、
悪性浸潤・不明 画像検査、必要時

/の低下は回復を意味せず、肝細胞量の枯渇でも低下する。、ビリルビン、乳酸、pH、ブドウ糖、リン酸、アンモニア、クレアチニンと意識の推移を重視する。

HBV血清学的検査の読み方

血清学的検査は関連の原因判定に用い、anti-HBcは総anti-HBcとIgM anti-HBcを区別して解釈する。

HBsAg anti-HBs 総anti-HBc/IgM 解釈
− − − 未感染・非免疫
− + − ワクチン接種による免疫
− + 総anti-HBc+、IgM− ・回復
+ − 総anti-HBc+、IgM+ 急性(にはHBsAgが消えることもある)
+ − 総anti-HBc+、IgM− 慢性
− − 総anti-HBc+、IgMを確認 IgM陽性なら、陰性なら・偽陽性・(occult infection)を鑑別;免疫抑制前は を考慮

最初の数時間

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute liver injury'>急性肝障害</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='international normalized ratio'>INR</span>≥1.5+脳症"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intensive care unit'>ICU</span>管理・移植施設へ直ちに相談/搬送"]
    B --> C["原因検査と毒物・薬剤歴"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='N-acetylcysteine, NAC'>N-アセチルシステイン</span>を早期開始"]
    B --> E["気道・循環・血糖・Na・脳症モニター"]
    C --> F["原因特異的治療"]
    D --> G["連続予後評価"]
    E --> G
    F --> G
    G --> H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='spontaneous recovery'>自然回復</span>が見込めるか"}
    H -->|"不良"| I["緊急<span class='jp-term jp-term-diagram' title='liver transplantation'>肝移植</span>登録"]
    H -->|"改善"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intensive care'>集中治療</span>を継続"]
  • の確証を待たず、疑いまたは原因不明ALFでは(NAC)を早期開始する。
  • ⚠️ 非性ALFへのNACは、証拠の質でが割れている論点である。 観察研究を含めたでは・移植なし生存を改善する方向だった3が、だけに絞ったでは有意差が出ない4。「効かないと証明された」のではなく「RCTでは示せていない」段階なので、施設方針とリスク・費用で判断する。性ALFでのNACの位置づけは揺らいでいない。
  • が除外できない妊娠・免疫不全・原因不明重症例では結果までアシクロビル静注を考慮する。急性重症、自己免疫性、Budd–Chiari、妊娠関連など原因特異的治療を専門科と開始する。
  • 胆汁うっ滞や凝固異常があっても侵襲的検査を遅らせず、必要な生検は経頸静脈的経路を検討する。

💡 の管理指針は2023年に更新された。 米国・カナダの4学会によるは、改訂版のを作成し、従来の「」という語を「」に置き換えて上の専用の線で示すことにした。急性摂取の定義も過量開始から4〜24時間後の受診と整理され、の用量・有害事象・投与終了基準、の併用、による除去と移植評価の考慮までが一つの枠組みにまとめられている2。

合併症管理

肝性脳症・脳浮腫

刺激を減らし、頻回を行う。グレードIII–IV脳症ではのため挿管し、低Na、発熱、高CO2を避ける。急な瞳孔変化・姿勢異常はを疑い、またはを専門的に用いる。ルーチンの深い鎮静で変化を隠さない。

多臓器管理

  • 低血糖を頻回測定しブドウ糖で補正する。K、リン酸、Mg、酸塩基を追う。
  • AKIと高アンモニアではを早期に検討し、循環・頭蓋内変動の大きい間欠透析を避ける。
  • は出血リスクを正確に表さない。出血またはがなければでルーチン補正せず、予後マーカーを消さない。
  • 感染を積極的に監視し、培養を採る。ルーチンではなく、感染疑い・臨床悪化で速やかに治療する。
  • 不必要なを避け、適切な栄養を早期に確保する。

King’s College criteria、MELD、乳酸、脳症グレード、原因と推移は移植判断を補助するが、単一スコアを待って紹介を遅らせない。ALFなどがほぼ見込めない病型は最優先で移植評価する。

⚠️ King’s College criteriaは「病因ごとに別々の基準」であり、感度は高くない。 原著は起因例310例から導いた群の基準(pH<7.30、またはPT>100秒+クレアチニン>300 μmol/L+III〜IV度脳症の3項目同時)と、別集団から導いた非群の基準(PT>100秒単独、または年齢・病因・黄疸出現から脳症までの期間・・ビリルビンのうち3項目)という、完全に別の2セットからなる5。満たせば予後不良だが、満たさないことは安全を意味しない——死亡予測の感度はで約58%にとどまる6。単一施設報告でも感度68〜69%・特異度82〜92%で、AASLDは「いかなる基準にも全面的に依拠すべきではない」と明言している7。基準を満たすのを待って紹介を遅らせるのが最悪の使い方である。

💡 MELDはに更新された(米国の臓器配分では2023年7月13日から)8。 は(ビリルビン・・クレアチニン・Na)に女性であることとをとして加え、ビリルビンとNa、アルブミンとクレアチニンの作用項を置き、**クレアチニンの上限を3.0 mg/dL**とした。90日生存のはc統計量0.869対0.862でを上回り、死亡した患者の正味8.8%をより高いMELD層へ再分類する——とくに女性が体格由来の低クレアチニンで不当に低いスコアになる不利を是正したのが眼目である9。ただしMELDはの順位づけのために作られたであり、の予後判定に単独で用いるではない6。

まとめ

  • ALFは既知の肝硬変なしに ≥1.5と肝性脳症を伴うである。
  • 診断時点で移植施設に連絡し、原因検査・NAC・・移植評価を並行する。
  • /低下だけを改善と判断せず、意識、、乳酸、ブドウ糖、腎機能の推移を追う。
  • 予後スコアは補助であり、King’s College criteriaの感度は約58%にすぎない。基準を満たすのを待たずに移植施設へつなぐ67。

出典

  1. 1.EASL Clinical Practical Guidelines on the management of acute (fulminant) liver failure(Journal of Hepatology(European Association for the Study of the Liver)・2017)急性肝不全という語は肝機能障害一般に濫用されるが、肝臓病学では慢性肝疾患のない個人に生じた急性の肝機能検査異常であって、肝由来の凝固障害と肝性脳症による意識レベルの変化を伴う、まれで特異的な症候群を指すこと。受診時点で直ちに必要な処置がいくつかあることを定めた欧州のガイドラインである閲覧 2026-08-25
  2. 2.Management of Acetaminophen Poisoning in the US and Canada: A Consensus Statement(JAMA Network Open(America's Poison Centers/American Academy of Clinical Toxicology/American College of Medical Toxicology/Canadian Association of Poison Control Centres)・2023)米国・カナダ4学会による初の全国統一的なアセトアミノフェン中毒管理コンセンサス。改訂版Rumack-Matthewノモグラムを新たに作成し、従来の「大量摂取(massive ingestion)」という語を「高リスク摂取(high-risk ingestion)」に置き換えてノモグラム上の専用の線で示すこととした。急性摂取を過量開始から4〜24時間後の受診と定義し直したこと、アセチルシステインの用量・有害事象・投与終了基準、フォメピゾール投与、体外循環による除去と移植評価の考慮についても定めた閲覧 2026-08-25
  3. 3.Role of N-acetylcysteine in non-acetaminophen-related acute liver failure: an updated meta-analysis and systematic review(Annals of Gastroenterology・2021)観察研究を含むメタ解析で、非アセトアミノフェン急性肝不全へのNACは全生存と移植なし生存を改善する方向だったこと閲覧 2026-08-25
  4. 4.No Significant Beneficial Effects of Intravenous N-Acetylcysteine on Patient Outcome in Non-Paracetamol Acute Liver Failure: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials(Biomedicines・2024)RCTのみに限定したメタ解析では、非アセトアミノフェン急性肝不全に対する静注NACが全生存・移植なし生存のいずれも有意には改善しなかったこと閲覧 2026-08-25
  5. 5.Early indicators of prognosis in fulminant hepatic failure(Gastroenterology・1989)King's College criteriaが、アセトアミノフェン起因例310例から導出したアセトアミノフェン群の基準(pH 7.30未満、またはPT 100秒超+クレアチニン300 μmol/L超+III〜IV度脳症の3項目同時)と、別集団の非アセトアミノフェン起因例から導出した非アセトアミノフェン群の基準(PT 100秒超単独、または年齢・病因・黄疸出現から脳症までの期間・PT・ビリルビンのうち3項目)という、病因ごとに完全に別の基準からなることを確認した。閲覧 2026-08-25
  6. 6.Ability of King's College Criteria and Model for End-Stage Liver Disease Scores to Predict Mortality of Patients With Acute Liver Failure: A Meta-analysis(Clinical Gastroenterology and Hepatology・2016)急性肝不全の死亡予測でKing's College criteriaの感度がメタ解析で約58%にとどまり、基準を満たさない例でも死亡し得るため単独では移植紹介の可否を決めきれないことを確認した。閲覧 2026-08-25
  7. 7.Introduction to the revised American Association for the Study of Liver Diseases Position Paper on Acute Liver Failure 2011(Hepatology(Lee WM, et al.)・2012)単一施設コホートでのKing's College criteriaの感度68〜69%・特異度82〜92%という報告値と、「いかなる基準にも全面的に依拠すべきではない」という位置づけを確認した。閲覧 2026-08-25
  8. 8.Updates to Medical Urgency Scoring of Liver Transplant Candidates in Effect(Organ Procurement and Transplantation Network(Health Resources and Services Administration)・2023)OPTNのお知らせ(2023年9月11日付、Wayback保存版2026-06-12)で、米国の肝移植待機患者の医学的緊急度スコアの改訂が2023年7月13日に発効し、12歳以上に用いるMELDの計算式が更新され、成人女性の補正と血清アルブミンの変数が加わったことを確認した閲覧 2026-09-24
  9. 9.MELD 3.0: The Model for End-Stage Liver Disease Updated for the Modern Era(Gastroenterology・2021)MELD 3.0はMELD-Naに女性であること・血清アルブミンを変数として加え、ビリルビンとNa、アルブミンとクレアチニンの交互作用項を置き、クレアチニンの上限を3.0 mg/dLとした。90日生存の判別能はc統計量0.869対0.862でMELD-Naを上回り(p<0.01)、死亡した候補者の正味8.8%をより高いMELD層へ再分類して、とくに女性の移植機会の不利を是正した閲覧 2026-08-25