遺伝学

遺伝学 · 7.2

ゲノミクスの手法

Methods in genomics

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W10Lecture / 講義
検査値
エクソーム・ゲノムシークエンシング

🧠 この講義は「→連鎖・→/研究→3世代のシーケンシング技術→」という、のを探る実際のツールキットを俯瞰する構成で読む。 各技術には固有の強み・弱みがあり、「何を検出したいか」によって適切な世代のシーケンシング・適切なを選び分ける判断力が問われる。

遺伝マーカー

=染色体上の既知の位置をもち、上の異なる対立遺伝子を高い確率で識別できる。

型 特徴
/STR() 2〜6ヌクレオチド単位の反復(例:(TA)ₙ、(CGG)ₙ、(GATA)ₙ)。高度にに富み、主に(フィンガープリンティング)に利用(04-5-autosomal-dominant-inheritance-ad-ii参照)
SNP() 通常はで、STRより桁違いに多い。SNPアレイでは数百万規模のバリアントを扱え、における疾患の解明に利用される(06-1-population-genetics参照)1

組換え頻度と遺伝的距離

F2世代(孫世代): の結果、祖父母4人分のゲノムが孫の染色体上でに混在する(3人分の色が見えても4人目の祖父母分は検出されないこともある)。

2つの遺伝子座間の組換え頻度は、一般に物理的距離とともに増える: 1%の組換え確率=1センチモルガン(cM)である。ただし1 cM≈1 Mbはヒトゲノム全体での粗い平均的目安にすぎず、局所領域・性別・集団・個人によって組換え率は大きく変動する。2

ハプロタイプと連鎖不平衡

: 隣接する複数の対立遺伝子が異なる個体間で頻繁に同時に受け継がれる(それらの間で交差組換えがきわめて稀)場合、それらは同一上にあるという。祖先は、その後の減数分裂での交差により変化していく——鎌状赤血球症の原因変異は少なくとも7,300年前に生じたと推定され、その周辺の少数のマーカー(T・Cアレル等)だけが確実な指標として残っている。

⭐ は「2つの遺伝子座が独立に遺伝していない」ことを示す指標。 染色体上で近接する2つの遺伝子座が独立に遺伝しない状態——集団内での分布が無作為ではない。標準化LD係数D′・相関係数r²で定量化され、いずれも0=平衡(2つの対立遺伝子が異なる染色体上にある等)、1=完全なLD(2つの対立遺伝子が常に隣接)を意味する(06-1-population-geneticsのGWAS解釈も参照)。

疾患の遺伝的背景を探る研究手法

分類 内容
手法(“wet” laboratory methods) 古典的手法、測定、実験
データベース評価、バイオインフォマティクスソフトウェア——ウェブ上のデータの(再)解析、新規遺伝子の発見(例:APOA5、05-3-complex-inheritance-ii参照)、(複数の先行研究の)
アプローチ 手法
(多くは遺伝学的手法) (GWAS等)、()、(・シーケンシング)、・、細胞・組織培養
(多くは的手法) 全ゲノム規模の網羅的探索

(手法): の選定基準は、①既知の代謝経路に関わるタンパクの遺伝子、②ゲノムスクリーニングにより選定された遺伝子——変異が疾患の発症・症状に影響するかを、・で検証する(05-2-complex-inheritance-i参照)。一方、現在の複合形質研究ではGWASなどの全ゲノム規模の探索も広く用いられる。1

GWAS(の代表): 10万個超の遺伝的バリアントを一度に検査する、・形質のを調べる最も一般的な手法(06-1-population-genetics参照)。

シーケンシング技術の3世代

第1世代:サンガー法

断片のヌクレオチド配列を決定する。()が広く普及——とキャピラリー電気泳動による自動化により、1反応で1配列(約800塩基)を決定できる。1塩基差の断片も識別可能なをもつ。

第2世代:次世代シーケンシング

数百万本の短い(100〜500bp)断片を並列にシーケンシングする(合成による配列決定、sequencing by synthesis)——高精度。

応用 内容
WES によるの解明(04-6-autosomal-recessive-inheritance-ar-i参照)
WGS
-seq 遺伝子発現+・の検出
メチル化パターンの検出(03-2-epigenetics参照)
病原体検出 ウイルス変異・の検出
100〜1,000種の細菌を同時にシーケンシング・検出(解析)
ChIP-seq(chromatin immunoprecipitation sequencing) -タンパク質相互作用の検出(例:プロモーター上の転写因子結合)

PheWAS vs GWAS:

手法 問い
GWAS(genome-wide association study) どのバリアントが1つの表現型に影響するか
PheWAS(phenome-wide association study) 1つの遺伝的バリアントが多数の表現型とどう関連するか

両者ともで結果を可視化する(06-1-population-genetics参照)。

第3世代:ロングリードシーケンシング

数万塩基以上に及ぶ長い配列を決定できる。では鎖を膜上の微小孔()に直接通し、電流変化から塩基配列を読む。PacBioシーケンシングでは環状化した同一分子を反復して読む方式により高精度化できる。精度とリード長は装置・ライブラリ調製・解析法の進歩で変化するため、固定した単一の数値では表さない。3

⭐ 第3世代シーケンシングの最大の強みは「単一分子の長い範囲を読めること」と「に強いこと」。 増幅を省ける方式では増幅を避けやすく、短いリードからの組み立てが難しいや構造変異を直接またいで解読できる——領域・端部染色体のは2021年まで解読困難だったが(T2Tコンソーシアム、07-1-introduction-to-genomics参照)、ロングリード技術が解決に大きく寄与した。の決定は短いリードでも統計的・家系情報を用いて可能だが、ロングリードでは同一分子上の離れたバリアントを直接位相決定しやすい——と1型糖尿病リスクのにも応用できる。4

3世代の使い分け: ロングリード法にはコスト・データ解析・を保つ試料調製などの課題があるが、検体だけに限定されるわけではない。①単一遺伝子の標的シーケンシングには第1世代、②大量・網羅的シーケンシングには第2世代、③・・構造変異には第3世代、と用途に応じて使い分ける。43

エピジェネティクスの検出

調節異常: ・の(例:大腸がんの40%でp16遺伝子がメチル化)、がん遺伝子の(03-2-epigenetics参照)。:バイサルファイト変換でシトシンをに変換する一方、5-メチルシトシンは変換されないまま残る——変換前後の配列を比較し、シトシンのまま残った部位がメチル化部位と判定される。

全ゲノム: (例:44kチップで44,000種のmRNA発現量を同時測定)。

動物モデル

利点 欠点
自由な交配が可能 類似疾患でも病態機序が異なりうる
マウスのはわずか2か月 ゲノムレベルでの相違が大きい(特にジャンク領域)
厳密に管理された環境で飼育可能 相同遺伝子でも機能が異なりうる
はマウスと大部分共通(マウスとの違いはわずか300遺伝子、07-1-introduction-to-genomics参照) —
組織採取が容易 —
の作製が可能 —
多様なヒト疾患モデルが存在 —

: (遺伝子不活化による疾患モデル作製、遺伝子機能研究)、(疾患モデル、遺伝子機能研究)、遺伝子改変(CRISPR/Cas9、12-1-gene-therapy参照)。

💡 ENU変異誘発は「まず変異を大量に作ってから、表現型で選別する」という逆方向のアプローチ。 ENU(エチルニトロソ尿素)は雄マウスに変異を誘導し、野生型雌と交配——G1世代を優性変異についてスクリーニングできるが、の場合はG1雄由来のG3世代でホモ接合個体を回収する必要がある。

まとめ

  • は(STR、高度に多型)とSNP(多数・向け)に大別され、組換え頻度と・(LD)の概念が遺伝子マッピングの基盤になる。1 cM≈1 Mbは局所差をした粗い目安である。
  • 疾患の研究は()と(GWAS)に大別され、手法と(データベース解析・)を組み合わせる。
  • シーケンシングは第1世代(、高精度・低スループット)→第2世代(NGS、WES/WGS/-seq//ChIP-seq等、高スループット)→第3世代(ロングリード、不要・とに強い)と進化し、それぞれ異なる用途に使い分けられる。PheWASはGWASの「逆方向」の問いを立てる手法。
  • WGBSはメチル化検出の標準手法、は網羅的に用いられる。はマウスを中心に多くの利点をもつが病態機序・ゲノムレベルの相違という限界があり、/トランスジェニック技術・ENU変異誘発がその作製法。

出典

  1. 1.Making sense of GWAS: using epigenomics and genome engineering to understand the functional relevance of SNPs in non-coding regions of the human genome(Epigenetics & Chromatin・2015)SNPアレイは数百万規模のバリアントを扱い、GWASでは全ゲノム規模で遺伝子型と表現型の関連を探索する閲覧 2026-08-24
  2. 2.Fine-scale recombination rate differences between sexes, populations and individuals(Nature・2010)遺伝的距離と物理的距離の換算は局所領域・性別・集団・個人により変動し、一律ではない閲覧 2026-08-24
  3. 3.Nanopore sequencing technology, bioinformatics and applications(Nature Biotechnology・2021)ナノポアシーケンシングの精度・リード長・スループットは技術と情報解析の進歩に伴って更新され続けている閲覧 2026-08-24
  4. 4.The Third Revolution in Sequencing Technology(Trends in Genetics・2018)第3世代シーケンシングは単一分子の長い配列を読み、反復配列・構造変異・ハプロタイプ解析を改善する閲覧 2026-08-24