Medical Microbiology

Medical Microbiology · 3/22

コロナウイルスとフィロウイルス

Corona- and Filoviruses

応用トピック
ウイルス性肺炎
微生物
Bundibugyo virusEbola virusHCoV-229EHCoV-HKU1HCoV-NL63HCoV-OC43Marburg virusMERS-CoVSARS-CoV-1SARS-CoV-2Sudan virus
疾患
新型コロナウイルス感染症

🧠 この2科は「同じ呼吸器/ウイルスでも、局所で終わるか全身に暴走するかは1つので決まる」という対比で読む。 コロナウイルスは通常、上気道粘膜(33〜35℃という低い)に感染が局在し、ただの風邪で終わる——しかしSARS-CoV-2のようにACE2受容体を介して下気道の肺胞細胞まで感染範囲を広げる株が現れると、によるARDS()にまで暴走する。はそもそもそのものを標的にするため、最初から全身のに直結する——同じ「エンベロープを持つ+/−鎖RNAウイルスの」でも、どの細胞に感染するかで運命が分かれる好例である。

コロナウイルス

構造・分類

項目 内容
ゲノム ssRNA、エンベロープあり、らせん型RNAウイルスで唯一をとる)
エンベロープ蛋白 (S)蛋白、膜(M)蛋白、エンベロープ(E)蛋白
外観の由来 S蛋白(様構造)が下で太陽・王冠(“corona”)のように見えることが名前の由来
リザーバー コウモリを含む小型

伝播・病原性

  • 感染(咳・くしゃみ)が主——他に直接接触、まれに感染
  • 多くのコロナウイルスは上気道粘膜(に感染が限局する——33〜35℃と体温よりやや低いため、感染が上気道に留まりやすい
  • 感染は主に小児・乳児にみられる(として)
  • SARS株は下気道など他組織でも増殖可能で、ウイルス血症を介して播種し、より重篤な症状を来す

臨床像

疾患 特徴
に次ぐ第2位の原因より潜伏期が長い(3日)。流行は冬〜春とは逆)
SARS-CoV-1 からに進展。(発熱・・呼吸困難・進行性低酸素血症)。胸部X線で斑状のびまん性間質浸潤影致死率は最大10%
M-CoV 通称“Camel flu”。SARSの版(中東・ラクダが関与)

⚠️ 同じ属でも「風邪」と「ARDSに至る」が共存する。 感染細胞の違い(上気道限局か、下気道までウイルス血症を介して波及するか)が臨床像を決める最大のである。

SARS-CoV-2(COVID-19の原因ウイルス)

  • SARS-CoV-1と遺伝的に近縁だが病原性はより高い
  • 受容体は(Angiotensin-Converting Enzyme 2, ACE2)——に発現
flowchart TD
  A["S蛋白がACE2に結合"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conformational change'>構造変化</span>→細胞内へ侵入"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='uncoating'>脱殻</span>・細胞質内で複製"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='positive-sense (strand)'>正鎖</span>ゲノムRNAから2本の<br>長鎖ポリタンパク質を翻訳"]
  D --> E["自己<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Proteolytic enzyme'>タンパク質分解酵素</span>で切断<br>→複製・転写関連蛋白遊離"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='RNA-dependent RNA polymerase'>RNA依存性RNAポリメラーゼ</span>が<br>全長<span class='jp-term jp-term-diagram' title='negative-sense (strand)'>負鎖</span>RNAを合成"]
  F --> G["新たな<span class='jp-term jp-term-diagram' title='positive-sense (strand)'>正鎖</span>ゲノムRNA<br>→S・M・E・N蛋白を合成"]
  G --> H["S・M・E蛋白は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Golgi apparatus'>ゴルジ体</span>へ、<br>N蛋白は細胞質で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleocapsid'>ヌクレオカプシド</span>形成"]
  H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Golgi apparatus'>ゴルジ体</span>から出芽→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exocytosis'>エキソサイトーシス</span>で放出"]
  • 臨床像: 無症状例も多い。咳嗽・発熱・上(嗅覚・を伴うことがある)。一部でにより生命を脅かす肺炎・呼吸困難に進展し、を要するARDSに至る
  • 診断:
    • でウイルスのを検出。最も一般的なNAATはRT-PCR
    • 血清学的検査:既感染を示す血清中抗体を検出
  • 予防:ワクチンが中心
代表例
mRNA(核酸)ワクチン Pfizer-BioNTech、Moderna
ワクチン Oxford-AstraZeneca、Janssen、Sputnik
不活化全粒子ワクチン Sinopharm、Sinovac、Covaxin、Covivac、Covlran
EpiVacCorona

診断(コロナウイルス全般)

  • 血清学
  • PCR:確定診断
  • ・画像(胸部X線)・への渡航歴

治療

  • 特異的治療なし:対症療法のみ

フィロウイルス

構造・分類

項目 内容
ゲノム 、エンベロープあり、
形態 紐/投げ縄状
代表種 Ebola virusMarburg virus(症状は類似)
リザーバー フルーツコウモリおよび霊長類(サル・類人猿・ヒト)と考えられている

伝播・病原性

  • サル→ヒトの感染に続きヒト→ヒト感染が成立する
  • 体液(血液・分泌物)の直接接触が主要経路——医療従事者は特にリスクが高い
  • 感染死亡者の遺体の取り扱いには特別な注意が必要(葬儀慣習を介した伝播が容易に起こる)

Ebola virusは糖蛋白を介してNiemann-Pick C1(NPC1)膜蛋白に結合し細胞へ侵入する。

flowchart TD
  A["ウイルス糖蛋白がNPC1に結合"] --> B["エンドサイトーシス"]
  B --> C["エンベロープと<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endosome'>エンドソーム</span>膜が融合"]
  C --> D["ウイルス内容物が細胞質へ放出"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='negative-sense single-stranded RNA'>負鎖ssRNA</span>を鋳型に<br>宿主リボソーム・tRNAでmRNA合成"]
  E --> F["ウイルス蛋白の産生・プロセシング"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='virion'>ビリオン</span>の組み立て・放出"]

臨床像

  • の重症型を呈する
    • 発熱
    • 出血熱(致死的になりうる)
  • 減少性(出血性)ショックまたはにより死に至る

⚠️ (Biosafety Level 4, BSL-4)を要する最高度の危険病原体。 Ebola/Marburgウイルスの取り扱い・診断検体の処理は専用の陰圧・完全防護環境でのみ許可される。致死率が高く医療従事者への伝播リスクも大きいため、ではを超えた厳重なと隔離が必須になる。

診断(フィロウイルス)

  • ELISA、PCR
  • での検体取り扱いが必須

治療・予防(フィロウイルス)

  • 治療:対症療法のみ
  • 予防:——感染拡大を防ぐための強制隔離

まとめ

  • コロナウイルスはssRNA・らせん型を持つ唯一のRNAウイルスで、通常は上気道限局性のを起こすが、SARS-CoV-1M-CoVSARS-CoV-2は下気道への播種によりARDSに至りうる。
  • SARS-CoV-2はACE2受容体を介してに感染し、細胞質内で全ライフサイクルを完結する。診断はRT-PCRを中心とするNAATと血清学、予防はmRNA・・不活化・サブユニットの4系統のワクチンが実用化されている。
  • Ebola virusMarburg virus)はを介してし、血管内皮を標的に全身性のに至る最重症の出血熱を起こす。
  • は体液の直接接触(特に遺体・医療現場)で伝播し、BSL-4での検体取り扱いを要する最高度の危険病原体である。
  • いずれの科も特異的治療薬はなく対症療法が中心——コロナウイルスはワクチンで、で流行を制御する。