産科学

産科学 · 14

胎児発育不全(IUGR、現在はFGR)

Intrauterine growth retardation (IUGR)

前提:正常
胎児期と胎盤:胎児の発育胎児期と胎盤:胎盤と胎膜
疾患
胎児発育不全

🧠 全体像:は、胎児が本来の発育能を十分に発揮できていない病的状態である。単に小さい在胎週数不相当(small for gestational age:SGA)と同義ではなく、・、発育経過、ドプラ、胎児健常性を組み合わせて診断・分娩時期を決める。

用語と定義

原題のは旧来の表現で、現在は(FGR)を用いる。

用語 意味
SGA または出生体重が在胎週数の基準より小さい統計的分類。に小さい正常児を含む
FGR 胎盤機能不全、胎児疾患などにより発育能を発揮できない病的状態
超音波EFWまたはが10未満
重症FGR EFWが3未満。異常ドプラも高リスクを示す

💡 「10未満」は入口であり、FGRか体質性SGAかは発育速度、ドプラ、羊水、母体疾患を含めて判断する。現在国際的に広く用いられるDelphiコンセンサス基準(2016年)は、10未満に加えて3未満やドプラ異常の合併を組み合わせ、・FGRの定義についての合意を得たものである1。

原因

分類 代表例 特徴
母体 高血圧、、腎疾患、、、喫煙、薬物、 胎盤を介することが多い
胎盤・臍帯 胎盤梗塞・血栓、胎盤形成不全、臍帯付着異常 抵抗上昇を来し得る
胎児 染色体異常、、、先天感染 早期発症や対称性を示すことがある
胎盤共有、胎児間輸血など 一児のみ、または両児に発症し得る

対称性と非対称性

  • 対称性は、、が全体に小さく、早期の遺伝・感染要因を示唆することがある。
  • 非対称性は低下が目立ち、頭部が相対的に保たれる頭部温存を示すことがある。
  • このは病態を理解する補助であり、原因や予後を確定しない。

胎盤機能不全型でみられる外観

  • 頭部が体幹に比べ相対的に大きく、腹部は陥凹して見える。
  • 大腿が細くが少ない、皮膚が乾燥する、爪が長いなど所見を示す。
  • 長期間の発育不全では縫合・泉門が広く見えることがある。

これらは出生後の観察所見であり、FGRのは超音波と胎児・胎盤機能評価で行う。

スクリーニングと診断

  • が週数より約3 cm以上小さい、または増加が停滞した場合は超音波を行う。ただし肥満、筋腫、、で精度が落ちる。
  • 超音波では、、からEFWを算出し、羊水、胎盤、形態を評価する。ACは胎盤機能不全の影響を捉えやすい。
  • 単回値だけでなく、適切な間隔での連続から発育速度をみる。
  • 32週未満の早期FGRでは詳細形態評価を行い、奇形、、原因不明の孤立性FGRではを含むを検討する。
  • リスクがなければTORCH一式を機械的に検査しない。を行う原因不明FGRでは状況に応じ を検討する。

臍動脈ドプラと監視

flowchart TD
    A["EFWまたはACが10<span class='jp-term jp-term-diagram' title='percentile'>パーセンタイル</span>未満"] --> B["形態・羊水・母体疾患・発育経過を評価"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='umbilical arteries'>臍動脈</span>Doppler"]
    C --> D{"拡張期血流"}
    D -->|"正常"| E["週1回程度のCTG<br>Dopplerを1〜2週ごと"]
    D -->|"低下"| F["Dopplerを少なくとも毎週<br>分娩時期を前倒し"]
    D -->|"途絶 AEDV"| G["週2〜3回Doppler<br>厳密な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antenatal fetal surveillance'>胎児監視</span>"]
    D -->|"逆流 REDV"| H["入院、ステロイド<br>CTGを1日1〜2回以上"]

やは胎盤抵抗の高度上昇を示す。やを組み合わせる。ハイリスク妊娠におけるドプラ監視はCochraneレビューで周産期死亡の減少と関連すると報告されている2。

管理と分娩時期

状況 分娩時期の目安
EFW 3〜10、ドプラ正常 38〜39週
EFW 3未満、または拡張期血流低下だがAEDV/REDVなし 37週
AEDV 33〜34週
REDV 30〜32週
CTG異常、BPP悪化、重症など 週数にかかわらず母児状況から早期分娩を検討
  • FGRの分娩時期を決める指標として、欧州の無作為化試験(TRUFFLE試験)はの遅い変化を用いる方法とCTG短時間変動(STV)を用いる方法を比較し、を指標にした群でのが良好だったと報告している3。
  • 早産が見込まれればを投与し、32週未満で分娩が迫ればMgSO4による胎児を行う。
  • FGRだけで帝王切開が必須とはならない。、、ドプラ、胎児心拍、への反応で経腟分娩か帝王切開かを選ぶ。
  • AEDV/REDVではのリスクが高く、全体像から帝王切開を考慮する。
  • 栄養不良と喫煙には介入するが、FGR治療としての安静、、FGR再発予防だけを目的とする低分子ヘパリンは推奨されない。

新生児の注意点

まとめ

  • FGRは病的な発育不全であり、統計的に小さいSGAと同義ではない。
  • EFWまたはAC 10未満を起点に、発育経過とドプラでする。
  • AEDV・REDVほど監視を強め、分娩時期を早める。
  • FGRは経腟分娩のではなく、母児状態から分娩方法を個別化する。

出典

  1. 1.Consensus definition of fetal growth restriction: a Delphi procedure(Ultrasound in Obstetrics & Gynecology・2016)国際的な専門家パネル(45名がDelphi全4ラウンドを完了)による合意手続きで、早発型FGR(32週未満)と遅発型FGR(32週以降)それぞれについて、単純な10パーセンタイル未満だけでなく、より厳格な単独基準(早発型ではAC/EFW3パーセンタイル未満または臍動脈拡張期血流途絶、遅発型ではAC/EFW3パーセンタイル未満または脳胎盤比5パーセンタイル未満)を組み合わせたコンセンサス定義が2016年に合意された。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Fetal and umbilical Doppler ultrasound in high-risk pregnancies(Cochrane Database of Systematic Reviews・2017)19試験10,667人を含むCochraneレビューで、ハイリスク妊娠における臍動脈ドプラ超音波の使用は、ドプラを使わない場合と比べて周産期死亡を減らし(相対危険度0.71、95%信頼区間0.52-0.98、1000人あたり治療必要数203)、分娩誘発・帝王切開もわずかに減らしたと報告している。閲覧 2026-08-26
  3. 3.2 year neurodevelopmental and intermediate perinatal outcomes in infants with very preterm fetal growth restriction (TRUFFLE): a randomised trial(The Lancet・2015)欧州多施設無作為化試験(TRUFFLE試験、26-32週の早発型FGR503例)で、静脈管ドプラの遅い変化(a波平坦化・消失・逆流)を分娩適応とした群は、CTG短時間変動(STV)低下を分娩適応とした群より、生存児のうち神経障害を伴わない割合が高かった(95% 対 85%、p=0.005)。ただし2歳時点の神経障害なし生存という主要評価項目自体には統計学的有意差はなかった。閲覧 2026-08-26