呼吸器学

呼吸器学 · 36

非侵襲的換気療法

NIV therapy

前提:正常
肺気量・死腔・肺胞換気
検査値
高CO2血症

ポッドキャスト

🧠 全体像:はをせず、密着したインターフェースから陽圧を加える。CPAPは主に酸素化と気道開存を、PAPは吸気圧と呼気圧の差で換気量も補助する。適応を選び、開始後早期に成功・失敗を判定して挿管を遅らせないことが重要である。

1. 換気と陽圧換気

は概ね「呼吸数×」で決まる。はを減らし、生命を脅かすを是正する。

では、が中枢気道から肺胞へを作って吸気を送り、呼気は主に肺・胸郭ので受動的に起こる。・による侵襲的換気と、マスク・によるNIVがある。

陽圧の生理学的影響

変化 利益 危険
気道内圧上昇 肺胞開存、酸素化改善、吸気補助 、容量損傷、気胸などの
上昇 左室を下げを改善しうる 静脈還流・右室前負荷低下、上昇、低血圧、低下

2. NIVの作用

多くのNIVは自発呼吸に同期して吸気圧を追加し、を増やして肺胞換気とCO₂排出を改善する。呼気終末陽圧は・肺胞の虚脱を防ぐ。患者の呼吸数を直接「固定」するのではないが、S/Tなどではバックアップ呼吸数を設定できる。

3. 装置と回路

ICU用人工呼吸器とNIV専用機

用 NIV専用機
ガス源 中央配管(空気・酸素) 電動タービン
最大流量 約160 L/min 約260 L/min
漏れの補償 効きにくい 良好
設置場所 ・一般病棟・在宅
その他 侵襲的換気が主目的だがNIVも可能 小型・可搬で稼働する機種があり、一部は侵襲的換気も可能

⭐ NIVは「漏れることを前提にした換気」である。 マスクの周囲からは必ず空気が漏れるため、機械が漏れた分を流量で埋め合わせられるかどうかが、設定圧を実際に届けられるかを決める。NIV専用機がタービンで高い流量を出せるのはこのためで、同じ設定でも機種によって実際の換気が変わりうる。

回路の2方式

方式 構造 呼気の経路
アクティブ呼気弁(閉鎖回路) 吸気ラインと呼気ラインが分かれ、機械側に呼気弁がある 呼気弁を通って機械へ戻る
パッシブ呼気ポート(開放回路) 単一の。マスクまたは回路末端に常時開いた排気孔(whisper)がある 排気孔から持続的に外へ流出する

⚠️ 開放回路では、この排気孔が唯一のCO₂排出路である。 塞いだり、排気孔のないマスクを開放回路につないだりするとが起こる。回路構成は本体、フレキシブル、マスク、ヘッドストラップ、そして必要に応じた器からなる。

4. インターフェース

種類 短所・注意
閉所感・が少なく、会話・咳・摂食がしやすい 口漏れがあるとでは不十分
口呼吸を含め急性期に密閉しやすい 会話・摂食制限、誤嚥、、皮膚圧迫
顔面の局所圧を分散し、高い圧でも漏れを抑えやすい 大きい、閉所感
顔面へ接触せず、・皮膚条件に左右されにくい。・・胃膨満が少なくが高い。酸素化の改善に向く 内部容積()が大きいためPaCO₂を下げる力に乏しく、トリガーの効率も落ちる。が大きい

NIVマスクは透明フレーム、柔らかいクッション、固定ストラップ、呼気ポート、安全弁からなる。呼気ポートを塞がず、回路異常時にを吸える安全機構を確認する。

5. 換気モード

持続陽圧呼吸

二相性陽圧呼吸

  • 吸気気道陽圧と呼気気道陽圧を別々に設定する。
  • 圧支持 = IPAP − EPAPで、差が大きいほど一般にVT・が増える。EPAPは気道・肺胞開存と酸素化へ働く。
モード 作動
S(spontaneous) 患者の吸気・呼気を検知して圧を切り替える
T(timed) 設定した呼吸数で切り替える
S/T(spontaneous/timed) 自発同期を基本とし、自発呼吸数が設定回数を下回る場合はを行う1
PC(pressure-controlled) 吸気圧と吸気時間を設定し、患者努力に同期した強制換気を行う
容量保証圧支持(AVAPS・iVAPS など) 目標または目標を決め、機械が吸気圧を自動で上下させて達成する。圧規定の快適さと、換気量の安定を両立させる狙い
量規定換気 そのものを設定する。漏れがあると設定量が届かないため、NIVでは圧規定モードが主流である

💡 NIVで圧規定が主流なのは、漏れがあるからである。 量規定では「送った量」と「肺へ入った量」が漏れの分だけずれるが、圧規定なら漏れても目標圧まで流量を足して届けられる。ただし圧一定では患者の状態が変われば換気量が変動するため、その弱点を補うのが容量保証圧支持である。

IPAP 8〜16、EPAP 4〜6 cmH₂O、バックアップ呼吸数、・ランプ時間などは開始設定例であり、安全上限ではない。病態、漏れ、VT、ABG、快適性に応じ個別調整する。

⚠️ バックアップ呼吸数に「正解の数字」はない。 今回の2つの授業資料でも12回/分と16〜24回/分と食い違っている。バックアップは患者の自発呼吸が途切れたときの保険であり、その患者の自発呼吸数を下回る値に置いて同期を妨げないのが原則である。数字を暗記するのではなく、設定した値と患者の実測呼吸数の関係を見る。

1呼吸の中で何が起きているか

波形を読めると、設定のどこを触るべきかが見える。

段階 内容
吸気トリガー 患者の吸気努力(流量・圧の変化)を機械が検知し、IPAPへ切り替える
ランプ(時間) EPAPからIPAPへ到達するまでの時間。短いほど吸気初期の流量が増える
吸気保持(Ti) IPAPを維持する時間
呼気トリガー() 吸気流量がの25〜50%程度まで低下した時点でEPAPへ戻る
呼気(Te) EPAP(=PEEP)を保つ

Ti + Te = 60秒 ÷ 呼吸数である。Sモードではは患者次第で変動し、S/TやTでは最数が固定される——これが両モードの実質的な違いである。

どのつまみが何を動かすか

操作 直接動くもの 主な狙い
IPAPを上げる(=IPAP − EPAPの差を広げる) が増える PaCO₂を下げる
EPAPを上げる が増え、気道・肺胞が開く 酸素化を改善する。では内因性PEEPをしてトリガーを助ける
Tiを延ばす/ランプを短くする が増える 量を稼ぐ
呼吸数を上げる が増える PaCO₂を下げる

授業では、8〜10 mL/kg、10〜12 L/min、SpO₂ 90%超を目安に漸増し、IPAPは15〜20 cmH₂Oまで上げると示されている。

⚠️ 8〜10 mL/kgを、どの病態にも当てはめない。 これは神経筋疾患や胸郭疾患のように「肺は正常だがポンプが弱い」病態を念頭に置いた目安である。肺炎やARDSのように肺実質が傷んでいる病態では、この換気量は過大になりやすく、強い吸気努力とあいまって(P-SILI)を招きうる。肺保護が必要な病態ではあたり4〜8 mL/kgが目安であり、目標換気量そのものが変わる。

6. 急性期の主な適応

病態 位置づけ
COPD 標準治療後もpH ≤7.35、PaCO₂ >45 mmHg、呼吸数 >20〜24回/分を示す急性高CO₂血症性呼吸不全でNIVを強く推奨する2
CPAPまたはNIVで酸素化・を改善する。ただしやを要する群は根拠となった試験の対象外である2
免疫不全、、術後 選択された協力可能な患者で検討
肺炎・ARDSなど新規の性呼吸不全 HFNCは標準より強く推奨され、NIVまたはCPAPも条件付き選択肢となる。いずれも厳密に監視し、挿管遅延を避ける3
慢性低換気 、神経筋・胸郭疾患などで在宅NIVを検討

急性高CO₂血症性呼吸不全でのNIVの位置づけは、より新しい指針でも変わっていない——死亡と侵襲的換気の必要性を減らすものとして強く推奨されている。同じ指針は(HFNC)を条件付きでしか置かず、しかも「高CO₂血症がより軽く、も軽度(例:pH >7.25)の患者に限り、厳重な監視と速やかなNIVへの移行が可能である場合」という限定を付けている3。⚠️ 高CO₂血症性呼吸不全でHFNCをNIVの代わりに据えない。

急性期目標は症状・を減らし、ガス交換を安定させ、快適性を保ちつつ挿管を回避すること。慢性期は睡眠・・生存の改善を目指す。

⚠️ 授業資料との差:授業資料は呼吸不全の適応として「、肺炎、、外傷」を横並びに挙げている。と、それ以外の呼吸不全は分けて考えるのが現行の立場である。ではCPAP・NIVの利益が確立しているが2、肺炎・・外傷では標準よりHFNCが強く推奨され、NIVとCPAPは条件付きの選択肢にとどまる3。この群でNIVを続けると、強い吸気努力による肺傷害と挿管の遅れが問題になる。「挿管を避ける」ことが第一目標なのではなく、避けられる患者では避け、避けられない患者では遅らせないことが目標である。

7. 禁忌・不適条件

  • 、直ちに挿管を要する低酸素血症・循環不安定
  • 気道防御不能、嘔吐・高い誤嚥危険、重度意識障害・非協力
  • 大量分泌物を排出できない
  • マスク装着不能な顔面外傷・熱傷・解剖学的異常
  • 未処置の気胸

相対的な不適条件

な禁忌ではないが、成功率を下げたり監視の強化を要したりする条件がある。

  • 、最近(2週以内)の心筋梗塞
  • 多量の喀痰(気管支鏡による除去で対応できることもある)
  • どうしても止まらない漏れ
  • 、豊かな髭 — マスクの密着が得られず漏れの原因になる。を装着したままにする、専用のクッションや別形状のマスクを試すなど、機械の設定より先にインターフェースを見直す

「極端な肥満」自体は禁忌ではなく、むしろOHSでNIV適応となりうる。患者ごとに気道、誤嚥、インターフェース適合性を評価する。

⚠️ 授業資料との差:授業資料は「意識障害」を(な不適条件)に並べる一方、授業資料の別の箇所では同じ昏睡・を相対的禁忌として扱っており、資料内で扱いが割れている。実務上重要なのは、意識障害の原因が高CO₂血症そのものである場合、NIVでCO₂が下がれば意識も戻りうるという点である。したがって「意識障害があるから一律にNIVを行わない」ではなく、気道を保護できるか、嘔吐・誤嚥の危険がないか、直ちに挿管へ移れるがあるかで判断する。判断がつかないときは挿管を優先する。

8. 導入・再評価

flowchart TD
  A["適応確認・挿管準備"] --> B["マスク選択・低圧から開始"]
  B --> C["漏れ・同期・快適性を調整"]
  C --> D["30〜120分でABG・意識・呼吸数を再評価"]
  D --> E["pH・PaCO₂・呼吸困難が改善"]
  E --> F["継続し段階的に離脱"]
  D --> G["悪化・不変または不耐"]
  G --> H["挿管・侵襲的換気"]

導入時は、監視できる場所で30°以上のをとり、マスクを選んで顔に当て、低い圧(IPAP 8〜12、EPAP 3〜5 cmH₂O)から始める。ストラップを締めすぎない。最初はがマスクを手で保持し、声をかけながら患者に慣れてもらう——協力が得られるかどうかが成否を大きく左右するため、この時間を惜しまない。SpO₂ 90%超を保つ酸素を加え、漏れを確認しながら圧を上げ、を30分後、1時間後、2時間後と繰り返し測る。

高CO₂血症があってもがなければ、増悪にNIVを一律には用いない。/指針は、代謝性の原因によらないpH 7.25〜7.35の患者を「通常なら挿管と侵襲的換気を要するとは判断されない群」と位置づけ、この群でNIVの根拠が最も強いと述べている2。

⚠️ pHに下限は引かれていない。 同指針は「NIVの試行が不適切になるpHの下限は存在しない」と明記し、ただし低いpHほど失敗リスクが高いので、厳重な監視と、改善しなければ直ちに・侵襲的換気へ移れるが要ると続けている2。「pHが低すぎるからNIVは禁忌」という読み方はしない。

授業で示されたpH別の考え方は、この「強さの勾配」を掴むのに役立つ。標準治療とを行ったうえで血液ガスを再検し、pHで層別する。区間の端が重ならないよう、以下のように読む。

pH 方針 背景
7.35超 NIVの適応ではない がない
7.30以上7.35以下 NIVを検討する 8割は通常治療で改善し、挿管回避のためにNIVを要するのは1割程度。ただしNIVで呼吸困難がより速く軽快する
7.20以上7.30未満 NIVを強く勧める 半数で挿管を回避できる
7.20未満 患者の全体像を踏まえて判断する 失敗率が高い。挿管へ直ちに移れるが前提

⚠️ 「根拠が最も強い層」の区間は、授業資料と/指針で一致しない。 授業の表は7.20〜7.30を、指針は7.25〜7.35を挙げる2。重なるのは7.25〜7.30だけである。どちらも「中間の層でNIVのが最も大きい」という形は同じなので、区間の数字を暗記するのではなく形で覚え、根拠として引くときは指針の区間を使う。

⭐ pHが高いほど「NIVをやってもやらなくても大半は良くなる」、低いほど「やらないと助からないが、やっても失敗しやすい」。 効果が最も大きいのは中間の層である。数値そのものより、この形を覚える。

9. 中止・挿管移行と合併症

NIVを中止し挿管を考える所見

  • 呼吸・循環停止、不能、分泌物貯留
  • ガス交換・呼吸困難・意識が改善しない、または悪化
  • ・不整脈を含む
  • マスク不耐

合併症と対処

合併症 対処
不快感、紅斑、潰瘍 サイズ・ストラップ・接触点を調整し保護材を使用
説明、段階導入、別インターフェース
鼻閉、口鼻乾燥、副鼻腔・ 、生食、必要に応じ局所治療、圧調整
漏れとマスク位置を調整
胃膨満 吸気圧を必要最小限にし、誤嚥リスクを再評価
低血圧、気胸 圧を下げ原因治療。気胸は緊急対応
患者選択、・嘔吐リスク評価

で成功すれば、NIVは死亡、挿管率、滞在、を減らし、ガス交換を改善する。

まとめ

  • CPAPは一定圧、BPAPはIPAPとEPAPの差で換気も補助する。
  • 急性高CO₂血症性増悪とは代表的適応である。
  • IPAPとEPAPの差が換気量を、EPAPが酸素化と内因性PEEPのを担う。どのつまみが何を動かすかで設定を組み立てる。
  • 増悪では中間のpH帯で効果が最も大きい(/指針は7.25〜7.35、授業の表は7.20〜7.30を挙げる)。高すぎても低すぎても、NIVの相対的な価値は下がる。ただしpHに下限は引かれていない。
  • 開始後早期にABG(30分・1時間・2時間)・意識・呼吸数を再評価し、失敗時は挿管を遅らせない。

出典

  1. 1.Setting up home noninvasive ventilation(Chronic Respiratory Disease・2019)圧支持換気で設定バックアップ呼吸数を用いるS/Tモードの作動閲覧 2026-08-09
  2. 2.Official ERS/ATS clinical practice guidelines: noninvasive ventilation for acute respiratory failure(European Respiratory Society / American Thoracic Society・2017)ハーバード大学リポジトリ(DASH)の掲載版PDFで全文を確認した。COPD増悪による急性または急性増悪性の呼吸性アシドーシスに二相性NIVを強く推奨(高い確実性)すること、運用上の留意点として標準治療後もpHが7.35以下・PaCO₂が45 mmHg超・呼吸数が20〜24回毎分超のときにNIVを考慮すると述べていること、NIVの試行が不適切になるpHの下限は存在しないがpHが低いほど失敗リスクが高く厳重な監視と直ちに挿管へ移れる体制を要すると述べていること、代謝性の原因によらないpH 7.25〜7.35の群で根拠が最も強いとしていること、心原性肺水腫の推奨は心原性ショックの患者をほぼ一律に除外した試験に基づき緊急血行再建を要する患者も多くの試験で除外されていることを確認した閲覧 2026-08-03
  3. 3.Noninvasive Respiratory Support for Adult Patients with Acute Respiratory Failure: An Official American Thoracic Society Clinical Practice Guideline(American Thoracic Society・2026)抄録で確認した。急性低酸素血症性呼吸不全ではHFNCを強く推奨しNIVまたはCPAPを条件付きで推奨すること、急性高CO₂血症性呼吸不全ではNIVを死亡と侵襲的換気の必要性を減らすものとして強く推奨し、HFNCは高CO₂血症がより軽くアシデミアも軽度(例としてpH 7.25超)で厳重な監視と速やかなNIVへの移行が可能な患者に限って条件付きで推奨すること。全文は出版社・PMCとも取得できず、確認範囲は抄録にとどまる閲覧 2026-08-03