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Disease Atlas · 皮膚 · 疾患

妊娠性膿疱性乾癬

Impetigo herpetiformis

別名
疱疹状膿痂疹
臓器系
皮膚生殖・産婦人科
科目
Dermatology
トピック
皮膚科 3-20:乾癬
上位概念
乾癬
鑑別疾患
妊娠性痒疹性蕁麻疹様丘疹・プラーク
症状
膿疱発熱倦怠感テタニー
検査値
カルシウム

🧠 全体像:は、が妊娠を契機に発症・増悪した病態である。同じ「妊娠性」でもPEPやが母児ともに予後良好であるのに対し、IHだけは胎盤機能不全を介して胎児に直接の危険が及びうる——ここが学習の核心であり、鑑別で最初に除外すべき理由でもある。全身性ステロイドが第一選択で、の補正を並行して行う。

疫学・病因

好発は()で、分娩後に軽快するが次回以降の妊娠で再発しうる1。極めてまれな疾患であり、症例報告が学習の中心となる(1995年の文献レビュー当時で報告例300数十例、体系的な治療報告はごく少数にとどまるとされる)2。

  • の報告があり遺伝的要因が示唆される。乾癬の既往が無いの多くはIL36RN(IL-36受容体拮抗薬をコードする)の同型または変異を有し、IHでも同様の変異が報告されている1。
  • 経口避妊薬(+プロゲステロン)の内服が誘因となった再発例が報告されている1。

💡 なぜ「妊娠性」と呼ばれるのに乾癬の一種なのか——IHは独立した疾患ではなく、IL36RN変異を背景とするが、妊娠というホルモン・免疫環境の変化を引き金に発症するとみられている。病名の「妊娠性」は誘因を表しているにすぎない。

臨床像

屈曲部(腋窩・など)から始まり、辺縁に無菌性の小膿疱がするが遠心性に拡大する。融合して大きな局面を作り、鱗屑や色素沈着を残す1。

全身症状として悪心・嘔吐・発熱・悪寒・下痢・・痙攣・倦怠感を伴うことがある1。頻度は高くないが、爪の変化や舌・口腔・食道の粘膜病変、に似た病変を呈することもある1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='third trimester'>妊娠後期</span>に屈曲部から<br>辺縁性膿疱を伴う<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythematous plaque'>紅斑局面</span>"] --> B["全身症状(発熱・倦怠感)を評価"]
    B --> C["白血球・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythrocyte sedimentation rate'>ESR</span>・カルシウム・<br>アルブミンを測定"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypocalcemia'>低カルシウム血症</span>は補正"]
    D --> E["全身性ステロイド開始<br>(軽症〜中等症 1日15〜30mg)"]
    E --> F{"反応が乏しい"}
    F -->|"Yes"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclosporin'>シクロスポリン</span>追加<br>(2〜7.5mg/kg/日)"]
    F -->|"No"| H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tapering'>漸減</span>しつつ経過観察"]
    G --> I["抗菌薬・NB-<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ultraviolet B'>UVB</span>・<br>生物学的製剤を検討"]

検査所見

が最も注目される随伴病態で、副甲状腺機能低下・・ビタミンD低値・吸収不良などが背景として報告されている1。、上昇、、を伴うこともある1。ある症例では白血球24,800/mm³の増多、上昇、 80mm/hourを認め、皮膚生検でに一致する・・延長・減少がみられた(1症例の所見)2。

⚠️ は単なる検査異常ではない。 補正が遅れれば母体の痙攣・に至りうるため、診断時にカルシウム・アルブミンを必ず測定し、速やかに補正する1。

母児のリスク:他の妊娠性皮膚症との決定的な違い

疾患 母児のリスク
胎盤機能不全を介した・・のリスク増加。母体は敗血症のリスクを負う12
PEP 胎児への悪影響は報告されていない
胎児予後は良好

⭐ 鑑別で最初に押さえるべき事実は、IHだけが母児のリスクを負うという非対称性である。 皮疹の分布が主体でも、全身症状・膿疱形成・を伴えばIHを疑い、と全身治療を急ぐ1。

鑑別

疾患 区別の決め手
PEP 腹部内から始まり臍周囲を避ける・。水疱・膿疱を形成せず、胎児リスクも無い
臍周囲から始まる。でにIgG・C3の
の既往・家族歴があり妊娠前半に発症しやすい。膿疱を作らない

これら3疾患はいずれも2で鑑別対象として挙げられている。

治療

確立したガイドラインは無く、エビデンスの強さは限定的である1。

治療 位置づけ
全身性ステロイド 第一選択。軽症〜中等症は1日15〜30mg、必要に応じ40〜60mg、重症では80mgまで増量1
ステロイド無効例の代替。2〜7.5mg/kg/日1
抗菌薬(など) 膿疱は無菌性だが、軽症例や併用薬として用いられることがある1
NB- 妊娠中でも比較的安全とされ、ステロイドへの追加療法1
生物学的製剤(・) 難治例での報告あり。使用の是非は学会間で見解が分かれる1
・メトトレキサート 催奇形性のため妊娠中は禁忌。分娩後にのみ使用1

⚠️ 全身性ステロイドにも妊娠中特有の注意点がある。 早期の全身投与はの頻度増加が懸念されるが、IHはに生じることが多いため比較的安全な選択とされる。一方、強力なは胎児発育遅延のリスクを伴いうるため、外用は中等度までにとどめるのが妥当とされる1。

経過

分娩後に軽快することが多いが、次回以降の妊娠での再発が報告されている1。

まとめ

  • IHは妊娠を契機に発症・増悪するで、屈曲部から遠心性に広がる辺縁性膿疱を伴うと全身症状を呈する。
  • 他の妊娠性と違い胎盤機能不全を介して胎児発育遅延・のリスクを伴うことが鑑別上の核心。
  • を伴いうるため、診断時にカルシウム・アルブミンを測定し速やかに補正する。
  • 治療は全身性ステロイドが第一選択で、無効例にを追加する。・メトトレキサートは妊娠中禁忌。
  • 分娩後に軽快するが、次回妊娠での再発がありうる。

出典

  1. 1.Impetigo Herpetiformis: Review of Pathogenesis, Complication, and Treatment(Dermatology Research and Practice・2018)妊娠性膿疱性乾癬(IH)が従来の「別疾患」説より優勢に汎発性膿疱性乾癬の一型として位置づけられていること、家族例の存在から遺伝的要因が示唆され乾癬既往の無い汎発性膿疱性乾癬の多くがIL-36受容体拮抗薬をコードするIL36RNの同型/複合ヘテロ変異を有すること、低カルシウム血症が最も注目される随伴病態で副甲状腺機能低下・低アルブミン血症・ビタミンD低値・吸収不良によるイオン化カルシウム低下が背景として報告されていること、典型病変が屈曲部から遠心性に広がる紅斑上の辺縁性膿疱集簇であり悪心・嘔吐・発熱・悪寒・下痢・循環血液量減少性ショック・痙攣・倦怠感などの全身症状や白血球増多・ESR上昇・低カルシウム血症・低アルブミン血症・鉄欠乏性貧血を伴いうること、胎盤機能不全に関連した子宮内発育遅延・前期破水・死産のリスクが増加すること、確立したガイドラインが無く全身性ステロイドが第一選択で軽症〜中等症は1日15〜30mg、必要に応じ40〜60mg、時に80mgまで増量すること、ステロイド無効例にシクロスポリン2〜7.5mg/kg/日が代替となり14例の報告があること、抗菌薬(セファロスポリン系など)・生物学的製剤(インフリキシマブ・ウステキヌマブ)・NB-UVB療法が難治例で試みられる一方、生物学的製剤の使用については米国乾癬財団と欧州皮膚性病学会アカデミーで見解が分かれること、レチノイドとメトトレキサートは催奇形性のため妊娠中は用いられず分娩後にのみ使われること、産褥期に再発しうること(経口避妊薬が誘因となった報告を含む)を確認した。閲覧 2026-09-07
  2. 2.Impetigo Herpetiformis Complicating Pregnancy: A Case Report on a Rare Gestational Dermatosis With Constitutional Symptoms(Cureus・2023)1995年の文献レビュー時点で「less than 350 cases were documented in the literature」・体系的治療例は「only 10 cases」と記載されていたこと、妊娠後期に体表面積50%を超える環状紅斑局面と辺縁膿疱を呈した1例で白血球24,800/mm³の好中球優位増多・LDH上昇・CRP上昇(正常上限の約2倍)・ESR80mm/hourを認め、皮膚生検で錯角化・過角化・表皮突起延長・顆粒層減少など膿疱性乾癬様の組織像を示したこと、胎盤機能不全による胎児発育遅延と両側子宮動脈の血流抵抗上昇を認めたこと、母体側リスクとして敗血症が知られた合併症であること、この症例ではプレドニゾロン0.5mg/kg(1日30mg)から開始し漸減したこと、鑑別として妊娠性類天疱瘡・PEP・アトピー性妊娠疹が挙げられることを確認した(症例数以外の検査値・画像所見は当該1症例のものである)。閲覧 2026-09-07