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Drug Atlas · B1 Hemostatics / 止血薬 · 必修

カルバゾクロム

carbazochrome

分類
Hemostatics / 止血薬
商品名(日本)
アドナ
科目
Pharmacology
トピック
B1: Drugs influencing blood coagulation I: Antiplatelet agents. Fibrinolytic drugs. Drugs inhibiting bleeding
副作用
食欲不振発疹そう痒

🧠 全体像:カルバゾクロム(日本での商品名アドナ)は、同じ「を安定化する」という機序枠に属しながら、まったく別の化合物である。両者はしばしば混同されるが、は欧米で承認されている一方、日本で広く承認・処方されているのはカルバゾクロムの方——術前後の出血予防やERCP・(ESD)の周術期など、日常診療で極めて頻用される薬である。ただし「頻用されている」ことと「有効性が確立している」ことは別問題で、個々のにおける予防的止血効果を裏付ける質の高いエビデンスは乏しい。この落差——処方頻度の高さと、それを支えるエビデンスの薄さのギャップ——がこの薬を理解するうえでの核心になる。

薬効群の中での位置づけ

局所・毛細血管性の出血に使うの中で、カルバゾクロムは凝固因子にも系にも作用しない「血管壁そのもの」に働くグループに属する。

薬剤 機序 位置づけ
カルバゾクロム(アドナ) の抑制・血管抵抗性の増強 日本で頻用されるの予防・治療薬。検査には影響しない
の安定化+改善 機序枠は同じだが別の化合物。欧米で承認、日本では未承認
のフィブリン結合部位を阻害(抗線溶) を伴う出血に有効。カルバゾクロムとの併用でを期待する場面がある
ビタミンK の産生を補う そのものを補充する点でカルバゾクロムと機序が異なる

「カルバゾクロム=への作用、とは」という整理が、他のとの使い分けの軸になる。 そのためPT・APTTなど凝固を変化させず、術前の出血リスク評価の指標としては使えない。

機序

flowchart TD
    A["カルバゾクロムを投与"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary endothelium'>毛細血管内皮</span>細胞に作用"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='vascular permeability'>血管透過性</span>の亢進を抑制"]
    B --> D["血管の抵抗性(脆弱性への耐性)を増強"]
    C --> E["血漿成分の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='extravasation'>血管外漏出</span>が減少"]
    D --> E
    E --> F["毛細血管性のにじむような出血が軽減"]
    G["凝固因子・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasminogen'>プラスミノーゲン</span>系"] -.->|"作用しない"| F

💡 にも系にも触れないという「作用しないこと」が、この薬の適応の輪郭を決める。 血小板減少やが主体の出血には効果が期待できず、あくまでそのものが脆弱・透過性亢進を来している病態(紫斑病、術中術後のにじみ出るような出血など)が対象になる1

適応

添付文書上の効能・効果は、毛細血管抵抗性の減弱・透過性亢進によると考えられる(紫斑病など)、皮膚・粘膜・内膜からの出血、、腎出血、子宮出血、および手術中・術後の異常出血である1。この効能を根拠に、日本の実地診療では消化器内視鏡(ESD等)や外傷、周術期など幅広い場面で予防的・経験的に投与されている。

⚠️ ただし個々のにおける予防効果を裏付けるエビデンスは乏しい。 胃ESD周術期の出血予防では多くの施設で慣習的に投与されているにもかかわらず、その予防効果を検証した報告自体がこれまで存在しなかった。実際に後ろ向き(304例)で検証したところ、投与群5.2%・非投与群3.8%と率に有意差はなく、高リスク患者に限っても同様だった(p=0.783)2。外傷患者でのへのについても、有効性を検討した先行研究自体がこれまでなく、後ろ向き検討では赤血球輸血量の減少とは関連したものの率の低下には寄与しなかった3。大腸でも止血効果は示されていない2

用法・用量

通常成人にはカルバゾクロムナトリウム物として1日30〜90mgを3回に分割してする1。静注用製剤もあり、周術期など急を要する場面で用いられる。実際の用量・は病態・施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 禁忌に相当する記載:本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者1
  • )欄は無い——日本の添付文書にに相当するセクションは存在しない1
  • ⚠️ (Dicynone)と混同しないこと。 両者は「を安定化する」という同じ機序枠に属し、名称も類似した文脈で語られやすいが、別の化合物である。は欧米で承認され日本では未承認、カルバゾクロムは日本で承認・頻用されるが海外での位置づけは限定的という、地域ごとの立ち位置の違いにも注意する
  • など他の機序による出血には効果が期待できない
  • 予防投与としての有効性は各適応で十分に確立していないため、投与すれば出血を防げるという前提で他の確立した対策(手技、の適切な使用など)を疎かにしない

副作用

頻度 内容
高頻度 、胃部不快感などの消化器症状
注意 発疹そう痒などの過敏症状
重篤・まれ アナフィラキシー様症状(過敏症の既往がある患者)

は概して高く、重大な副作用の報告は多くない。

まとめ

  • カルバゾクロム(アドナ)はの透過性亢進を抑制し血管抵抗性を増強するで、凝固因子・系には作用しないため凝固に影響しない。
  • と同じ機序枠に属するが別の化合物が欧米、カルバゾクロムが日本という、地域で承認・使用状況が分かれる薬である。
  • 添付文書上の適応は毛細血管性の・出血全般だが、日本の実地診療ではESD周術期・外傷など幅広い場面で経験的に使われている。
  • ⚠️ 頻用されている割に、個々の適応における予防的止血効果を裏付ける質の高いエビデンスは乏しい。 胃ESD周術期の出血予防では後ろ向き研究で有意差が示されず、外傷患者へのでも死亡率の改善は確認されていない。ただし「効かないことが証明された」わけではなく、そもそも質の高い前向き試験が行われていないという意味でのエビデンス不足である点は区別する。
  • は高く、重大な副作用は多くないが、有効性の限界を踏まえたうえで他の確立した止血対策を補完する位置づけで用いる。

出典

  1. 1.アドナ(アドナ錠10mg 他)添付文書(ニプロ株式会社 / KEGG MEDICUS(日本医薬情報センター添付文書データ)・2025)効能・効果(毛細血管抵抗性の減弱及び透過性亢進による出血傾向・紫斑病、皮膚/粘膜/内膜からの出血、網膜出血、腎出血、子宮出血、手術中・術後の異常出血)、用法・用量(通常成人1日30〜90mgを3回に分割経口投与)、禁忌に相当する記載が本剤成分への過敏症の既往のみであること、警告に相当するセクションが存在しないこと、薬効薬理として血管透過性亢進の抑制・血管抵抗値の増強により凝固線溶系に影響を与えず出血時間を短縮することを確認した閲覧 2026-08-10
  2. 2.Carbazochrome sodium sulfonate is not effective for prevention of post-gastric endoscopic submucosal dissection bleeding: a retrospective study(Surgical Endoscopy(Takahashi K, et al.)・2022)胃ESD周術期にカルバゾクロムスルホン酸ナトリウムが多くの施設で慣習的に投与されているが、その予防効果を検証した報告がこれまでなかったこと、後ろ向きコホート研究(2014年11月〜2021年4月、304例)で投与群5.2%・非投与群3.8%と術後出血率に有意差がなかったこと(p=0.783、高リスク患者に限っても同様)、大腸憩室出血でも止血効果が示されていないことを確認した閲覧 2026-08-10
  3. 3.Effect of Carbazochrome Sodium Sulfonate in Addition to Tranexamic Acid in Bleeding Trauma Patients(Cureus(Okazaki Y, et al.)・2022)外傷患者においてトラネキサム酸に上乗せしたカルバゾクロムの止血効果を検討した先行研究がこれまで存在しなかったこと、単施設後ろ向きコホート研究でカルバゾクロム併用群は赤血球輸血量の減少と関連したが院内死亡率の低下には寄与しなかったことを確認した閲覧 2026-08-10